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第二十八話 一対一の物量戦

追記:終盤で一部誤字を修正しました


(=ↀωↀ=)<修正前に読んだ方は何も見なかったことにしてください


(=ↀωↀ=)<あと、できれば修正前のあれに関する感想は消していただけると助かります……

□■<遺跡>内部


 カルチェラタンの市街地においてレイが【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトと交戦していたころ、<遺跡>においても激しい戦闘が繰り広げられていた。

 それは三つ巴の戦い。

 工場を停止させようとする王国の<マスター>。

 工場を守ろうとする<遺跡>の煌玉兵。

 そして、工場内の決戦兵器奪取に動く皇国――【エデルバルサ】の人形。

 その戦闘において、もっとも不利なのは王国の<マスター>であった。

 単騎戦力ならば三陣営の中で最も高いが、位置が悪すぎる。

 <遺跡>の奥からは途切れることなく煌玉兵が溢れ、入り口からは木製の人形が次々と攻め寄せてくる。

 煌玉兵は砲火やレーザーを浴びせ、人形もドライフの主力武器である【アサルトライフル】の集中砲火で<マスター>を狙う。

 防御魔法のスキルや<エンブリオ>で生成したバリケードでしのいではいるが、ジリ貧だった。


「クソッ! 援軍はまだ来ないのか……!」


 防戦一方の状況に<マスター>の一人が焦燥感と共に言葉を吐く。

 そこに、一時的にログアウトしていた<マスター>が帰還した。

 彼は青い顔で、リアルで見てきたものを仲間に告げる。


「……最悪だ。掲示板読んだが、カルチェラタンがあの【魔将軍】に襲われてる」

「な……! <超級>じゃねえか!」


 通信が途絶してから地上の様子が分からなかった彼らは、その一報に驚愕する。


「……どうする? 一度戻るか?」

「戻れるならな……。人形は妙に連携が取れていて突破は困難、おまけにあの煌玉兵に背中を見せることになるぞ」

「だったら、一撃型の必殺スキル持ち全員で……待て。何だ、この煙は?」


 次の動きについて議論していた彼らは、入り口の方から有色の煙が押し寄せてくることに気づいた。

 バリケードに隠れて姿勢を低くしていたため、それを吸ってしまう者が何人かいた。

 すると、煙を吸い込んだものは意識を失った。同じパーティに属するものが簡易ステータスを確認すると、【強制睡眠】と表示されている。


「催眠ガスか……!」


 密閉空間にガスを充満させることは戦術として有効である。

 且つ、生物にのみ効果があるガスを生物ではないもの――人形が使えばより効果的だ。

 <遺跡>の入り口では、ドラム缶ほどのガスボンベにホースを繋ぎ、数体の人形がその中身を内部に流し込んでいた。

 これも【振動ナイフ】や【アサルトライフル】と同様、<遺跡>の制圧を見越して元帥が持ち込んだ兵器の一つ。

 【睡眠】への耐性を付与する装備を身につけていた者や、咄嗟に【快癒万能霊薬】を飲んだ者以外は全員眠り込む。

 無事だった者も、【強制睡眠】に落ちた者の介抱と前後からの攻撃への対処を強いられた。


「ちっ! ただでさえこっちは数がいないってのに!」

「待て、他にも何か妙な匂いが……!」


 催眠ガスで動きが鈍ったころ、別種のガスが入り口から注ぎ込まれる。

 繰り返すが、密閉空間にガスを充満させることは戦術として有効である。


 それが――可燃性(・・・)ならば尚良い。


 そう、二種類目のガスは可燃性。

 入り口から奥へと向かって流れ込んでいったその気体は……【風信子之閃光】が放ったレーザーにより引火し、大爆発を引き起こした。

 密閉空間において、爆発により生じた力は逃げ場がない。

 狭い空間の中で凝縮され、それがトンネル状であれば、前後の空間への猛烈な爆圧となって解放された。

 流し込んだガスによる爆発は、まだ息のあった<マスター>を一掃し、さらには防衛に出ていた煌玉兵をも粉砕する。

 人形の被害は、内部の者を逃さない“蓋”として配置していた捨て駒の人形くらいのものだった。


 ◆


『確認完了。フェイズ3に移行』


 人形の視界で確認した情報を脳内で処理し、元帥はそう呟く。

 王国の<マスター>が全滅した<遺跡>の内部に、新たな人形部隊を突入させる。

 ガス爆発によって無人となった通路を、数個小隊相当の人形が駆ける。

 それらの多くは統一されたデザインと装備の木製人形であったが、先頭の一体だけは異なる装いだった。

 人形は緋色の神話級金属、天地産の【ヒヒイロカネ】で作られていた。

 神話級金属の名の通り、武器にすれば装備スキルを除けば神話級武具と同等の物が作成できるとされる【ヒヒイロカネ】。

 しかし加工が極めて難しく、武器に加工できる鍛冶師など鍛冶大国である天地にも五人といない。加えて、一キロあたり一千万リルは下らない超希少素材でもある。

 そんな超強度かつ超高価な【ヒヒイロカネ】を人間大ほども使って、その人形は作られていた。

 無論、それを成したのは元帥の神話級武具【無命軍眸 エデルバルサ】だ。

 装備スキルの一つ、《マリオネット・ソルジャー・クリエイション》で少しずつ【ヒヒイロカネ】を人形に加工したのである。

 【エデルバルサ】の人形の強度は元となった素材に依存するが、【ヒヒイロカネ】で作られたこの人形はその点において最強の逸品だった。

 この人形は銘を【ファルドリード】という。かつて【衝神】ロナウド・バルバロスと共に赤子のエミリオを救った【聖焔騎】の家名を、最強の人形につけたもの。

 他の小隊規模で作成して使い捨てることが基本の人形と違い、元帥が常に持ち歩く最も信頼する人形である。

 人形の侵攻を阻むために煌玉兵が道を阻むが、どれほどの砲火やレーザーを浴びても【ファルドリード】は歪みすらせず、右腕と一体化した超強度のブレードを振るって煌玉兵を駆逐した。

 単騎でもEND特化超級職と同等以上の性能を誇る【ファルドリード】に他の人形の火力支援が加わり、煌玉兵程度では侵攻を食い止めることは出来なかった。

 それも元帥の想定内だ。

 如何なる切り札を持つか分からない<マスター>相手に正面から戦いを挑んだ場合には、【ファルドリード】さえ破壊される恐れがある。

 しかし、性能が規格化されている煌玉兵ならばその戦力は把握済み。

 何千発の攻撃を受けようと【ファルドリード】が損なわれることはないと確信していた。


『ここまでは作戦通り、か』


 残る懸念は、三つ。

 一つ目は、決戦兵器【アクラ・ヴァスター】を守る最深部の防御システム。

 二つ目は、決戦兵器【アクラ・ヴァスター】そのもの。

 そして三つ目は……。


『……いたか』


 人形を通して元帥が視たのは、七人の男の姿。

 彼らはいずれも同じ顔をしており、手にした武器以外は体格にも違いは見られない。

 七人ともが……【猫神】トム・キャット。

 そう、道を阻むのは必殺スキルによって作られたトム・キャットの映し身である。

 王国の決闘王者であったトム・キャットの力は、元帥も把握している。

 そのため、先行したトム・キャットが後方から迫る元帥の人形に気づき、反転して攻勢を仕掛けてくる、あるいは映し身を残していることも予想していた。

 だが、予想外でもある。


『……ここに、七人?』


 王国側のトム・キャットの目的は、煌玉兵のプラントの停止と決戦兵器を確保すること。

 ゆえに、メインは<遺跡>最奥の制圧であり、そちらに戦力の重点を置くのが自然だ。

 人形の足止めに二人、制圧に六人。あるいは精々で同数というものだろう。

 だというのに、最奥に向かったのは一人だけで、後は全てここにいる。

 これではまるで……<遺跡>の制圧よりも、“誰にも後を追わせない”ことが主軸であるかのように思える。


『奇妙だが……今はその動きへの考察は二の次、だな』


 既に七人のトム・キャットは動き出している。

 あれらはいずれもAGI特化超級職と同等のステータス、数は人形が多くとも決して戦いやすい相手ではない。


『やるしかあるまいな』


 元帥は最も耐久に優れる【ファルドリード】を突貫させ、同時に百以上の人形による支援射撃で通路を埋め尽くした。

 対するトム・キャットの動きは非常にわかりやすいものだった。

 それは一列縦隊。

 七人のトム・キャットが縦一列に並んで火線の中を直進してくる。

 無論、先頭の一人は蜂の巣になる。申し訳程度に武器を構えていたが、それで防ぎきれる弾幕密度ではない。

 しかし、その一人目の体を盾にして残りの六人が突き進む。

 一人目が限界に達し、ネコに変わって「ぶにゃあ」と一鳴きして消えれば、今度は二人目が壁となる。

 先頭に立って突撃した【ファルドリード】と交錯する際には、三人目が縦隊から飛び出し、その身で【ファルドリード】の動きを一瞬だけ押さえる。

 三人目はすぐに銃弾による蜂の巣と【ファルドリード】による斬撃で真っ二つとなって消えていくが、その間に縦隊は【ファルドリード】を抜き去った。

 二人目の肉壁が消えたところで、残りの四人は火力支援をしていた人形の只中に突っ込んでいた。

 いや、四人ではない。気づけばすでに七人……元の数にまで回復している。


『……そういう手か』


 トム・キャットの動きの意味を、元帥は理解する。

 トム・キャットは七人のAGI型超級職として人形の軍団に挑んだのではない。

 自分自身をいくらでも替えの利く雑兵として、“物量任せ”に真正面から突撃したのだ。


『これだから、<マスター>は常識の埒外にいるというのだ』


 トム・キャットはその戦い方も異様だった。

 己の分身が砕けることに躊躇しない。

 だが、その上で必ず二体程度は安全圏に置いている。

 人形に倒されて数が減っても、そこからすぐに増殖して戦い続ける。

 そして人形の中で高いENDを誇る【ファルドリード】でトム・キャットを無視し、<遺跡>の奥へと突撃しようとすれば、……全力で止めに来て押し戻す。

 完全に足止めが目的で、全滅を避けた負けない戦い方を続けている。

 それは行かせないという意思を感じさせると共に、「【エデルバルサ】の能力を知っている」戦い方であった。

 元帥は人形を破壊されても、待機させている人形を次々と送り込んでいる。

 それだけでなく、【エデルバルサ】で新たな人形も作り続けている。

 MP回復との兼ね合いもあるが、元帥はこのペースなら山の木々が枯れない限り、永続的に戦力を送り込める。

 それが分かっているかのように、トム・キャットもひたすらに自分達の増殖ペースを守りながらの足止めしかしていない。


『……厄介な、手合いだ』


 元帥は苦々しく思う気持ちを思念に乗せ、増産した人形を<遺跡>に突入させる。

 かくして、元帥はトム・キャットとの一対一の物量戦に突入した。







 ◇◆


 増殖した八人のトム・キャット、その最後の一人は<遺跡>の最奥に到着していた。

 既に彼の前に立ちはだかる煌玉兵はなく、目的地である工場にもあと扉一枚という距離だ。

 この扉の向こうに残る煌玉兵が待ち構えていることを予測しながら、トム・キャットはなぜか苦笑した。


「ここで僕と【エデルバルサ】の人形が戦うって、何の因果なのだろうねー……」


 それは別の場所で発生した元帥の人形と七人のトム・キャットの戦いについての感想。

 元帥の人形がそうであるように、トム・キャットも他の七人の動きは把握している。

 そしてその戦いの様子を七人の視覚で観戦しながら、


「まったく……ここにはよくよく僕と縁があるものが集まったものだよ」


 そんなことを呟いた。

 彼以外には理解できない言葉だったが、今の彼の感想そのものだった。

 そうして己の心中を吐露しながら、トム・キャットは最奥へと続く扉に手を掛けた。


 To be continued

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