第二十一話 【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト
(=ↀωↀ=)<不意討ちの連続更新!
(=ↀωↀ=)<まだの方は前話からー
( ̄(エ) ̄)<前話短いし、「二日連続大軍出てきてどうしよう!?」で終わるのもあれだったクマ
■超級職について
超級職の名には、ある程度の法則性があると言われている。
例えば【破壊王】や【女教皇】、【伏姫】などに代表される【王】は、ジョブごとに該当する特化ステータスと、数は少ないが強力スキルを備えている。
次いで、【抜刀神】や【地神】といった【神】はスキルが豊富であり、さらにスキル自体をカスタマイズ、あるいは新たに作ることが出来る。
【超闘士】や【大教授】といった上級職の名前を格上げした名称の超級職は、直前の上級職を満遍なく引き上げ、ある意味で癖のないバランス型のジョブになっている。
他に【絶影】や【傾国】などもあるが、それらは系統立てることが難しい。
それでは、【魔将軍】に代表される【将軍】のジョブ特性とは何か。
それは……《軍団》である。
《軍団》は「パーティが己と配下のみ」という条件で発動可能な、【将軍】限定のスキル。
効果は“パーティ枠の大幅拡張”。
その数――最低でも一〇〇〇。
スキルレベルに応じて増加し、最大で一万にも達する(各スキルの中でも極めてスキルレベルが上昇しにくいスキルであるため、そうそう最大までは達しないが)
最低一〇〇〇体のパーティと、パーティ内ステータス上昇スキルを駆使した数の力で戦う超級職。
それが【将軍】である。
無論、配下は自分で集める必要がある。
これを仮にモンスターで行おうとすれば、【ジュエル】の持ち運びや《喚起》だけで非常に手間がかかるし、コストも必要だろう。
だが、【魔将軍】は……正確に言えば【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトは例外だった。
◆◆◆
■カルチェラタン・山中
<遺跡>のある山と、カルチェラタンの街を挟んで正反対の方向にある山の中。
そこに、一人の男の姿があった。
年の頃は二十前後。
青と白に彩られたまるで勇者のような鎧をまとい、赤い長髪を背中に流している。
その男の顔は端正なものだが、見る者が見れば、髪や鎧も含めて二年前にヒットしたRPGの主人公に似ている、と思ったことだろう。
男の名はローガン・ゴッドハルト。
ドライフ皇国の<超級>の一人であり、【魔将軍】のジョブにある者だ。
「時間だ。始めるとしよう」
彼の前には彼が所有する地竜種の亜竜が一体腹這いになっていた。
このカルチェラタンに来る前、バルバロス領で彼が仕入れていたものだ。
その亜竜に手を翳しながら、ローガンは朗々と詠唱し始める。
「“我、ここに所有せし一つの生命を捧げる”」
その宣言がなされた瞬間、亜竜が断末魔の叫びと共に光の塵となる。
同時に、ローガンの視界に映るジョブスキルのウィンドウに、『1250』という表示が灯る。
これは生贄により得られた“ポイント”であり、ジョブスキルを使うために必要な対価だ。
ローガンは《軍団》と並ぶ【魔将軍】の特性である悪魔召喚を、まるで買い物のようだと考えていた。
アイテムでも生物でも、贄を捧げることによりポイントが手に入り、ポイントを消費することでスキルが発動する。
スキルごとに召喚できる悪魔も異なる。また、スキルの中には召喚する悪魔のステータスや簡単な特性が書いてあるものも多い。
呼び出す悪魔にはいずれも時間制限があるものの、ある意味では万能と言える。
中でも、ローガンは《コール・デヴィル・レジメンツ》のスキルを愛用している。
『《コール・デヴィル・レジメンツ》:消費ポイント『6000』
【ソルジャー・デビル】(平均ステータスは別途参照)を一〇〇体召喚し、三〇分間使役する』
【ソルジャー・デビル】は下級悪魔であり、そのステータスはHPとLUC以外の全ステータスが一〇〇で固定という脆弱なものだ。(HPは三〇〇でLUCは一〇である)
使用に際して亜竜五匹分程度の生贄が必要である割に、得られる戦力は数が多いだけで弱すぎる。
非常にコストパフォーマンスの悪いスキルだ。
――それを為すのがローガン・ゴッドハルトでなければ。
「まずは、二〇〇〇だ」
ローガンは『1250』と書かれたジョブスキルのウィンドウ内の表示を、指でなぞる。
――直後、数値が『“12500”』に書き換わった。
さらにローガンは、スキル説明画面の《コール・デヴィル・レジメンツ》の文面をなぞる。
『《コール・デヴィル・レジメンツ》:消費ポイント『6000』
【ソルジャー・デビル】(別途参照)を“一〇〇〇”体召喚し、“三〇〇”分間使役する』
ついで別ウィンドウの【ソルジャー・デビル】の説明もなぞり、その参考ステータスをLUC以外全て十倍化させた。
「“地獄の蓋を開き、這い出よ軍勢”――《コール・デヴィル・レジメンツ》」
同時に、地面から闇が泡のように浮かび上がり、破裂する泡の中から悪魔が現れる。
その数……一〇〇〇体。
ローガンは更にもう一度スキルを唱え、合計で二〇〇〇体の悪魔がそこに現れる。
それらは本来生まれるべき弱小悪魔ではなく、亜竜クラスにも匹敵するステータスを誇っている。
亜竜一匹を対価に、同程度の悪魔を二〇〇〇体呼び出した計算だ。
あまりにも、術式の前後の多寡が狂っている
それこそが、彼が“矛盾数式”の二つ名を持つ理由であり、彼の<超級エンブリオ>――【技巧改竄 ルンペルシュティルツヒェン】の力。
あるいは……常時発動型必殺スキル《我は偽証より黄金を紡ぐ》の力と言うべきか。
「予め受け取っている予算ならこの十倍は楽に出せるが、……その必要もなかろう」
彼は傅く二〇〇〇の悪魔を見ながら笑みを浮かべる。
悪魔はいずれも彼に忠誠を誓っているように見える。
もっとも実際にはそうではないし、そもそも召喚される悪魔にそこまでの知能はない。
この<Infinite Dendrogram>において、召喚される悪魔は厳密には生物ではない。
一時的にスキルによって悪魔の肉体を作り、使役しているだけ。【召喚師】の用いる召喚モンスターに似ているが、媒体がないこともあり常に使い捨ての存在だ。
召喚者に従う行動も、保持したステータスもスキルも、術者がスキルで作成した肉体に予め持たされたもの。言わばインスタントの悪魔である。
それゆえ高スペックの悪魔を大量に用意することは難しいが、前述のとおりローガン・ゴッドハルトは例外だ。
彼の<超級エンブリオ>の能力特性、“ジョブスキル改竄”は【魔将軍】のジョブスキルを元とは比較に成らないほどの強スキルに……否、狂スキルにしていた。
「では――決行だ」
皇国の<超級>は、二〇〇〇の悪魔と共に飛び立った。
◆
二〇〇〇の悪魔の飛来は、カルチェラタンの街を恐怖に陥れた。
早朝の街に警報が鳴り響き、人々が慌てふためきながら逃げ出している。
そんな眼下の光景を、別途召喚した大型の悪魔の背に乗ったローガンは、蟻でも見るかのように見下ろしていた。
「街を攻める。たしかフランクリンの奴も一月前にそれをやって失敗していたな」
彼が今回引き受けたクエストは『カルチェラタン防衛戦力の撹乱』である。ギフテッド・バルバロスからもそう指示されている。
それをローガン自身は――街攻めと理解した。
それは間違いではない。
街を攻めれば、防衛戦力はそちらに割かれざるを得ないのだから。
ただし、
「なら、俺は成功させてみせよう。フランクリンを倒した“不屈”を討伐するついでだ」
ローガン自身には、街攻めを防衛戦力の誘引程度で済ますつもりが毛頭なかった。
「木が多くて実に燃えやすそうな街だ。火攻めだな」
そうして、二〇〇〇の悪魔が順に火の礫を吐き始める。
礫は住居に当たって住居を燃やし、樹木に当たって樹木を燃やし、――住人に当たって住人を燃やす。
「戦争の時に分かったが、NPCを倒すのは経験値効率がいいからな。今なら皇国の作戦中で皇国内の指名手配もない。存分に稼がせてもらおう」
炎を浴びた住人が燃え上がる。
それは凄惨な光景だったが、ローガンには「経験値を稼いだ」以外に思うことはない。
焼ける匂いはローガンまで届かないし、……燃える様もローガンにはCGのキャラクターが燃えているようにしか見えないのだから。
ローガンにとって、これは単にクエストに従って動き、NPCを倒して経験値を稼いでいるだけの行為。
何も思うところはない。
彼が生死について気にかけることがあるとすれば、クエストの成否にも関わる重要NPC、ギフテッド・バルバロスの安否程度だ。
少なくとも、ローガンの認識はそうである。
<超級>に至った<マスター>の一人ではあるが、ローガンにとってこの<Infinite Dendrogram>は遊戯でしかないのだから。
「ん? 防衛戦力か?」
ローガンの眼下に、二〇〇名近い騎士が現れる。
それは、このカルチェラタン領を守るティアンの騎士団。
街を焼き、人々の命を奪わんとする暴虐の悪魔達から人々を守るため、出陣した者達だった。
「ハッ」
だが、騎士団が悪魔軍団に立ち向かう姿を、彼らの懸命の抵抗をローガンは見下しながら笑う。
「随分と出来の悪い頭だ。数も性能も劣るのにそのままぶつかってくるとは愚かすぎる」
住人を襲う悪魔の暴威に立ち向かう勇気ある騎士も、彼にはそうとしか見えない。
ローガンは悪魔に指示を出し、一人の騎士に対して十体の悪魔をぶつけた。
ティアンの騎士に対抗できる戦力ではなく、彼らは悪魔に蹂躙されていく。
それは、前回の戦争の焼き直しのような光景だった。
「雑魚でも、戦闘職だけあって経験値は比較的美味い」
満足そうにしながら、騎士を片付けた悪魔を引き連れてローガンは移動する。
そうしているうちに、ローガンはある建物を見つける。
「あそこに随分と集まっているようだな。まとめて潰しやすくて実に助かる」
ローガンが目をつけたのは……孤児院だった。
悪魔を恐れ、屋内に多くの子どもや職員が隠れている。
それも、ローガンには『狙いやすい的』にしか見えなかった。
ローガンは数十体の悪魔に指示を出して、火の礫を建物に吐かせることにした。
建物ごと丸焼きにするのが効率的だったからだ。
「これからもこういう風に固まっていればやりやすいがな」
そんなことを呟いてから右手に持った大剣を振り上げる。
それはまるで軍配のように、振り下ろされた瞬間に孤児院を焼きつくす決定を下すもの。
それを行おうとするローガンに“大勢の子どもの命を奪う”という意識は欠片もない。
だって、これは“遊戯”なのだから。
RPGでアイテムの入った木箱を叩き壊すくらいの感覚で、ローガンはその決定を下す。
「撃……」
――だが、「撃て」という指示を彼が下すことはできなかった。
なぜならば、直前に砲撃体勢に入っていた数十体の悪魔全てが――死んだからだ。
粉々に砕かれた悪魔。
真っ二つに切断された悪魔。
体内から血を吐き出して死んでいる悪魔。
まるで何かに操られるように同士討ちする悪魔。
状態は様々だが、悪魔はいずれも何者かの攻撃によって死んでいた。
「……何だと?」
何が起きたのかと、周囲を見回すローガン。
亜竜クラスに匹敵する自分の悪魔をこうも一度に殲滅できるものが、こんな街のどこにいるのかと疑問を抱く。
そんな彼の耳に、
『――早朝の散歩中に、懐かしくも醜悪なものを見た』
男性の声……いいや、男性の声に似た演奏が届く。
『生憎と、ここの子供らには音楽を聞かせる約束がある。ギデオンで似たようなことをした私の言えた義理ではないが……手出しはさせん』
その音の主は、いつの間にか孤児院の前に立っていた。
それは老人だった。
彼は傍に機械……金属楽器の如きコボルド、ケンタウロス、ハーピー、そしてケットシーを連れている。
彼の名は――【奏楽王】ベルドルベル。
かつてドライフに属し、今は流浪のまま自身の<エンブリオ>と共に音楽を奏でる老人だった。
「貴様は……【奏楽王】!!」
ベルドルベルの名を、ローガンは知っていた。
なぜなら、彼が対抗心を燃やすフランクリンのクランメンバーの一人であり、その戦闘グループのトップを任されていた男なのだから。
「なぜ貴様がここにいる……! フランクリンの奴が俺の足を引くために送りつけてきたか!!」
『違うな。私はもう<叡智の三角>のメンバーではない』
ローガンの詰問に、ベルドルベルは静かな演奏で答える。
「そもそも、あやつはお前の足を引くほど気にかけてもいないだろうがな」という内心の言葉は、音にも乗せなかった。
「ならば、どうして貴様が俺の邪魔をする」
『言っただろう。この孤児院の子供はブレーメンの演奏の観客だ。悪魔なんぞにやらせるわけにはいかぬよ』
「何を……言っている?」
それはローガンには意味不明の言葉だった。
――孤児に音楽を聞かせる?
――何かのクエストの達成条件か?
彼の基準では、そうとしか理解できなかった。
ベルドルベルの言葉を決して理解できないであろうローガンに、ベルドルベルは告げる。
『そもそも、ここで何もしなかった人間に書ける英雄譚などあるまい。それは私にとって、何より重大なことさ』
英雄の生涯の歌劇を描くという、<Infinite Dendrogram>を始めた動機でもあるその目標。
攻めるにしろ、守るにしろ、ベルドルベルには何もしないという選択はない。
そしてどちらかを選ぶならば、古巣に従って攻めるより、自分達の観客でもある子供達を守る道を……<マスター>として選択したのだ。
「英雄譚? ならばこの私を書けばいいだろう」
ベルドルベルが述べた言葉に、ローガンはそう言った。
「?」
理解できないという風に首を傾げるベルドルベルの態度に苛立ち、「そんなことも分からないのか」と言いたげな顔でローガンはこう言った。
「私こそ、この<Infinite Dendrogram>における英雄そのものだ。英雄譚を描くなら私以外にはいない」
その言葉に対し、
「――ハッ」
鼻で笑うベルドルベルの態度は如何なる言葉よりも雄弁であり、【魔将軍】の発言に対する全否定であった。
「貴、様!!」
ローガンは、瞬時に激高した。
「支援職の、そのまた支援職の雑魚ビルドの分際で! この【魔将軍】に太刀打ちできると思っているのか!!」
『さてな。だがそれを言えば……制圧型の貴様が殲滅型の私に勝てるのか?』
「抜かせ!! 俺は【魔将軍】!! ドライフ最多にして最強の<超級>だ!!」
『一人称くらい安定させろ、餓鬼め。それに……最多も最強も貴様ではあるまい』
「黙れェ!!」
ローガンの怒りに応じ、彼の従えた悪魔たちが動く。
一〇〇近い悪魔が、老人の首を引き千切らんと殺到する。
凶暴さもそのままに飛び掛った悪魔の全ては、
『無策で通れるほど――パーカッションの演奏も甘くはないな』
――見えない振動波によって粉砕された。
「……!?」
《ハートビートパルパライゼーション》。
ブレーメンが一体、打楽器を担当するコボルドのパーカッションが奏でる音楽。
【奏楽王】のパッシブスキル《奏楽王の指揮》によって数倍に強化されたそれは、射程内の物質を破壊しつくす驚異の超振動結界である。
かつて、<超級殺し>と呼ばれるマリーをして、自身の死を偽装して不意を突かねば破れなかったドライフ屈指の攻性防御能力である。
「ッ!?」
『これ以上の問答は無意味だろう』
ベルドルベルは嘆息し、指揮者としての構えを取る。
そして、彼の従える最高の楽団と共に、眼前の<超級>と悪魔の軍団を見据え――言い放つ。
『――来るがいい。貴様の木っ端悪魔、我らが神奏をもって悉く粉砕してくれる』
「この【魔将軍】を愚弄するな……!! 第六止まりの老いぼれがァ!!」
皇国のトップクラン<叡智の三角>の元最強戦闘員、【奏楽王】ベルドルベル。
皇国の決闘王者にして<超級>、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。
両者の戦いが、ここに始まった。
To be continued




