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第三話 不審者との遭遇

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 先輩から【VDA】を貰った後、店主さんが《窃盗》対策が施されたアイテムボックスを四種類持ってきた。

 鞄型や財布型、あるいは指輪型などもあったが、取り出しやすさや他の装備との兼ね合いから小型のサイドポーチ型にした。カードゲームアニメのキャラクターがつけているデッキケースのように見えなくもない。

 ちなみに、《窃盗》など中のアイテムを盗むスキルへの対策や、破壊への強度は十分だが、代わりに入れられるアイテムの種類が少ないという欠点がある。

 俺がこれまで使っていたアイテムボックスと容量は同程度だが、入れられるアイテムは十種類までであるらしい。

 不思議なものだが、《窃盗》への対策を組み込むために中身の種類を少なくする必要があるということらしい。

 なので、従来のアイテムボックスはこれからも使い続け、シルバーなど盗まれたら困る貴重なアイテムだけこちらに仕舞うことにしよう。

 ちなみにお値段は一千万リルだった。

 ……高いけど、買えてしまえるあたり「この一ヶ月で色々あったなぁ」と思わざるをえない。

 なお、ネメシスの服は丁度良いものもなかったのでまた日を改めて買うことにした。


 そんな形で買い物タイムは終わり、実家に帰省する必要がある先輩のログアウトを見送ってから、俺は目的地へと出発する。

 行きがけの駄賃に該当モンスターの討伐など【聖騎士】のジョブクエストを受けてから行こうとも考えたが、カルチェラタン領の<遺跡>に関連したジョブクエストは一件も掲示されていなかった。

 仕方がないので今回はジョブクエストをお預けにしてカルチェラタン領へと向かった。


 ◇


 ポカポカの陽気の中、ネメシスと共にシルバーに乗ってカルチェラタン領に続く道を走る。

 全速ではないものの、馬車を引いている時の倍近い速さだ。この分なら夕方までには目的地であるカルチェラタン領の中心都市、カルチェラタンに到着するだろう。

 シルバーは賢いので手綱さえ握っていればオートで目的地に向かってくれるし、障害物や他の通行人も避けてくれる。徐行も問題なしだ。

 ……こうして再確認すると、やはり高性能だな。

 今までは特に疑問に思ってもいなかったが、先輩の話を聞いた後はシルバーについても色々気になっている。

 何にしろ、これから向かう遺跡は煌玉獣に関連したジョブが得られる遺跡。となれば、煌玉獣そのものに関する何かしらの情報も得られる公算は高い。

 そのあたりも楽しみだ。


「それはそうと、レイ。折角シルバーがオートで走ってくれているのだから、今のうちにあれも確認しておいたらどうだ?」

「あれ?」

「《シャイニング・ディスペアー》のチャージ量(・・・・・)だ」


 ああ、それか。


「あいよ」


 俺は片手でメニューを操作して、装備の詳細画面を呼び出す。

 【黒纏套】の装備スキル、《シャイニング・ディスペアー》を選択して表示すると……。


 《シャイニング・ディスペアー》:

 《光吸収》によって蓄積された光を解き放ち、絶望の光熱によって万物を融解する。

 アクティブスキル。

 チャージ量:三%


 俺は《シャイニング・ディスペアー》の表示を読んで、溜め息をついた。


「……四時間前と比較しても一%しか増えてないな」


 この《シャイニング・ディスペアー》は、あの【モノクローム】が使用した最大の熱線に他ならない。

 あの威力は身をもって知っている。二枚の《カウンターアブソープション》を通してもなお、余波で死に掛けたほどなのだから。

 それが使用できるとなれば、心強いことは間違いない。

 だが、ここに“チャージ量”という問題がある。

 これは《シャイニング・ディスペアー》を使用するのに必要な光をどれだけ溜めたか、という表示だ。

 そして、昨日獲得してから今まで日光に当て続けてもなお三%止まりとなっている。


「……単純計算で最初の一発を撃つまでに一ヶ月は掛かるな」


 大学でログアウトすることも考えればもっと掛かるだろう。

 これではおちおち試射もできない。


「中途半端なチャージでも撃てればよいのだがのぅ。マックスチャージまで発射できぬとは融通の利かぬスキルだ」


 ……マックスでしか撃てないとなると、撃ったときも怖い。

 流石に【モノクローム】が撃ったときよりもスケールダウンしているとは思うが……元がトルネ村を消し飛ばしかけた破壊力だ。装備スキル化した後でもどれだけの威力を発揮するか、考えるに恐ろしい。


「しかし、チャージはどうすればよいかのぅ。このまま日に当てているだけでは効率が悪すぎるぞ」


 《光吸収》スキルから考えて、本来は光属性攻撃を吸収して蓄積する狙いなのだろう。

 しかし、早々都合よく光属性攻撃を撃ってくる相手ばかりでない。


「フィガロの《極竜光牙斬・終極》ならばどうだ? あれなら一回でチャージが完了しそうだぞ。ビームだけなら斬撃も受けぬし……あとは余熱を何とかすればいけるのでは?」

「……やめておく」


 一歩間違えると自殺にしかならない。

 それにフィガロさんは今頃<墓標迷宮>のソロアタック中のはずだ。


「駄目か……。光属性でなくても強い光を当て続ければ何とかならないかのぅ」

「強い光ねぇ。……あ」


 俺の手元にも一つだけあるな。

 俺は【黒纏套】に、《聖別の銀光》を使用する。

 本来なら武具に使用すると銀色に発光するはずだが、《光吸収》の効果によってか【黒纏套】は黒色のままだ。

 つまりは無事に《銀光》の光を吸収しているということ。《銀光》は聖属性付与なので《光吸収》の範囲外かと思ったが、日光を吸うのと同じく発生した光は吸収の範囲内らしい。

 これならば日光と《銀光》で二重に光をチャージできて、ある程度はチャージ速度も早まるはずだ。


「我ながら名案だな」

「だの」


 そうして俺は意気揚々とした気分で、スキルを使い続けながらシルバーを走らせた。


 ◇


 そして一時間後。


「しんどい……」


 俺は疲れて俯きながら、シルバーの背で揺られていた。


「なんだか夏バテみたいな絵面だのぅ」

「近いかもな……」


 日除けと日光吸収を兼ねて【黒纏套】をフードまで被っているから、余計に暑さでダレているように見えるかもしれない。


「【黒纏套】が光を吸うせいか、フードを被ると顔のあたりが暗くて見えづらいのぅ」

「そうなのか?」


 自分じゃわからないな。

 俺から見る分にはフードを被っていても特に視界は阻害されないし。


「うむ。顔の上半分が暗がりで隠れておる感じだ。イメージとしては死霊系のモンスターが近いし、御主と分かっていてもちと怖い」

「フード一つで“アンデッド”扱いされるのか……」

「いや、フード一つ(・・)のせいでもないと思うが……?」

「そうか?」


 まぁ、俺の見た目の話は別にいいとして。

 今の問題はこの夏バテに似た症状の原因だ。

 それは《聖別の銀光》を用いた光のチャージ。

 《銀光》の連続使用で【黒纏套】のチャージは随分良くなって、もう六%になっている。

 代わりに、MP消費が激しい。

 自前のMPは既に枯渇した。

 ……MPなら昨日の【モノクローム】の事件で【紫怨走甲】に蓄積された分もあるが、こちらは場合によっては《風蹄》に使わなければならないので温存中。

 そのためMP回復の【ポーション】を飲んで《銀光》を使い続けているが、夏バテに似た奇妙な倦怠感が出てきた。

 今はシルバーに乗っているだけだからいいが、戦闘を考えるとこの方法は負担になるかもしれないな……やめよう。

 しかし他に効率のいいチャージというと……。


「……あ、そうか。光属性攻撃魔法の【ジェム】を買い込んで、【黒纏套】に当てればいいのか」


 金銭の消費は大きいかもしれないが、当て方に注意すればダメージも入らないだろうしいいかもしれない。

 王都を出る前に気づけばよかった。

 カルチェラタンでは<遺跡>に行く前に【ジェム】を買い込むか、…………?


「……なんだ?」


 不意に、何か嫌な気配を感じた。

 俺は先輩のように《殺気感知》スキルは持っていないのでこれはただの勘。

 しかしそれでも、何か不穏なものが近くにいる気配を感じる。


「ネメシス」

『応』


 ネメシスはすぐに大剣へと変化し、俺の右手に収まる。


「……向こうか!」


 拓けた道の横、広葉樹が密集して出来た森の中から幽かに物音がした。

 加えて、誰かの悲鳴も。


「ッ」


 森の木々の間の幅からシルバーをまともに走らせることが出来ないと察し、アイテムボックスに戻して自分の足で駆ける。

 そうして全速力で走って十数秒後、俺はそれを見つけた。


「あ、あ……」


 それは怯えて座り込んでいる少女と、


『脅威度――E。高適性。確保対象』


 彼女に接近する機械仕掛けの人型だった。

 人型はモンスターであるらしく、頭上には名前の表示があった。


 ――【ティールウルフ】、と。


「どこが!?」


 たしかに王都の北方だから生息域ではあるのだろう。

 だがしかし、眼前のそれは毛皮ではなく金属製の装甲を纏い、四足歩行ではなく二足歩行を行い、さらに爪牙ではなく腕と一体化した銃器らしき筒を武器としているようだ。

 以前戦った【ティールウルフ】とは共通点がまるで見当たらない。

 <マジンギア>の方が余程近い見た目をしている。


『――――脅威度判定』


 機械仕掛けの【ティールウルフ】(仮)は俺達に気づいたのか、そのヘルメットで覆われた頭部をこちらに向ける。

 聞こえてきたのはあまりにも露骨な機械音声だが、よく見ればヘルメットと機械のパーツの隙間から動物の毛がはみ出している。

 なら、あれはやはり表示どおり【ティールウルフ】なのか?


『脅威度――B+。回収デハナク撃破ヲ優先』


 俺の観察を意に介さないように、【ティールウルフ】(仮)の腕部の機構――銃器と思われる筒が回転し始める。

 その光景にデジャヴと悪寒を覚え、俺は咄嗟に横へと飛ぶ。


 直後、放たれた無数の弾丸が俺達のいた空間を貫き、弾道の先にあった樹木を蜂の巣にする。


「ガトリング砲……兄貴以外で使ってる奴は初めて見たな」


 ユーゴーの<マジンギア>だって銃器は単発式だったが、こいつは完全にガトリング砲だ。

 兄のバルドルほどの弾幕じゃないものの……敵に回すとおっかない代物だ。


『――――追撃』


 全身の機構をガシャガシャと鳴らしながら、機械仕掛けの怪物は俺に向けて様々な銃器を向ける。

 俺は射線から外れるように動き続け、何とか回避していく。

 直線的だしそこまで攻撃範囲が広い弾でもない。

 追尾してきたり無駄に貫通力が高かったり周囲を爆破するわけでもないし、漫画のキャラになって襲ってくるわけでもない。

 ……兄やマリーとの模擬戦に比べれば、随分優しい銃撃だ。


「っと。この匂い……火薬、か?」


 撃たれていて気づいたが、どうやら魔法ではなく何らかの薬品を爆発させて弾丸を飛ばしているようだ。

 なら、あれでいけるか。

 ちょうど俺への攻撃のためにあの少女とも距離が離れたからな。


「【ガルドランダ】」


 俺は昨日一ヶ月ぶりに復活した左手――火炎放射機構を備えた左の【瘴焔手甲 ガルドランダ】を構え、


「――《煉獄火炎》」


 対モンスター戦のメインウェポンであった火炎放射のスキルを発動させ、【ティールウルフ】(仮)の全身を炎で包む。

 直後に、【ティールウルフ】(仮)に劇的な変化が生じる。


 《煉獄火炎》に炙られた【ティールウルフ】(仮)は、銃器に用いた薬品が火炎に熱せられ……装甲の内側から膨れ上がって爆散した。


 ◇


「火気厳禁、と」


 俺はブスブスと黒煙を上げながら燃えている機械に目をやりながら、目論見が上手くいったことに安堵していた。

 火器を扱っていてもバルドルみたいに耐火能力がしっかりしている可能性もあったからな。

 まぁ、隙間から毛皮が見えているくらいだから、それはないと思ったけど。


「しかしこれ、何なんだ?」


 内側から爆散した【ティールウルフ】(仮)は、黒焦げになって仰向けに倒れている。

 近づいてみていると、内側から爆発しているために機械の中身が見えた。

 機械は内部にスペースがあるものの、そこには何も入っていない。隙間から見えていた毛皮の主もだ。

 爆発の直後に光の塵が見えたので、あれで倒しはしたということだろうか。

 だが、機械自体は、焼け焦げて歪んではいるもののそのまま残っている。

 ドロップアイテムという雰囲気でもなく、本当に壊れた状態そのまま(・・・・)だ。

 手に持ってメニューの説明文を読んでみても『謎の機械の残骸』としか表示されない。

 ただ、アイテムとして説明文が表示されたことと頭上ネームの表示もないことから、残骸になった今はモンスターではないらしい。


「何なんだろうな、これ?」


 機械とモンスター、というとドライフや……フランクリンが連想される。

 だが、今度ばかりはあいつの仕業とも思えない。

 あのクソ白衣なら……モンスターの方にもっと意地の悪い仕掛けを施すだろうから。

 それこそ燃やそうとしたら誘爆して盛大に大爆発、あるいは毒ガスを撒き散らすくらいはやるはずだ。


「まぁ、今は考えても仕方ない」


 疑問は尽きないが、一先ずアイテムボックスにしまっておこう。

 ……アイテムボックスに仕舞えたことからも、モンスターじゃない、か。


「さて」


 【ティールウルフ】(仮)に襲われていた少女はといえば、爆発音によるショックのためか気絶している。

 しかし見た感じは一つの傷もなさそうなので、ソレは一安心といったところだ。

 さて、あの奇妙な【ティールウルフ】(仮)は倒したとはいえ、森の中に気を失った少女を放置もしておけない。

 とりあえず介抱しようと、俺は少女に歩み寄る。



 ――瞬間、その動きを遮るように蒼い剣閃が奔った。



「ッ!」


 剣閃は、俺と倒れた少女を遮るように閃き――俺の首を薙ぐように動く。

 俺は、首と刃の間に挟むように左の【瘴焔手甲】を掲げ、刃を防ぐ。

 咄嗟の反応だったが、危うかった。

 幸いにも、手甲の表面に刃を僅かに食い込ませたところで止まっている。

 だが、一歩間違えばまた左手が……あるいは首がなくなっていたところだ。


「何だ、お前?」


 誰何しながら、今の一撃の軌道と脅威を把握する。

 初撃から明らかに致命傷を狙った一撃。

 先日遭遇した狼桜を連想するその攻撃に、俺の心臓が動揺で強く脈打つ。

 一体なぜ攻撃を受けたのか、疑問の念と共に攻撃してきた相手の顔を見て――俺は呆気にとられた。

 それは俺を攻撃した相手の容貌によるもの。


 相手は不思議な圧力を感じる蒼い剣を構え、

 金属による部分補強が行われた貴公子然とした衣服に身を包み、


 顔の上半分を仮面(・・)で隠した、長い藍色の髪の女剣士だった。


 そんな格好の相手に対し、俺は真っ先に連想した言葉を口にする。


「「不審者(・・・)……!」」


 ……その言葉は、なぜか相手と一字一句違わず被っていた。


 To be continued

( ̄(エ) ̄)<真っ黒なフード被った暗黒騎士(【聖騎士】)VS仮面の貴公子風女剣士


(=ↀωↀ=)<ああ、これは不審者ですね(どちらかと言えば前者が)

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