前話 開かれた<遺跡>
(=ↀωↀ=)<連続投稿の二話目です
( ̄(エ) ̄)<前の話を読んでない人はそちらからクマー
追記
(=ↀωↀ=)<後の話に合わせて一部のみ修正(皇王に関する部分)
□彼女の夢
彼女は、夢を見ていた。
「お父様! 本当にこのまま、戦いに赴かれるつもりなのですか?」
それは、過去の出来事を思い起こす夢。
まだ一年も経っていない、記憶にも新しすぎる……その光景。
彼女が多くを失う運命の日の、三日前。
「どうして、皇国のように多額の褒賞を提示して<マスター>を雇わないのですか!」
彼女――アルター王国第一王女、アルティミア・A・アルターは必死に訴えていた。
訴える相手は、父であり、国王であるエルドル・ゼオ・アルターだ。
優しげな風貌で年齢よりも若く見えるエルドルは、必死な顔の娘にこう言った。
「それはね、アルティミア。今が時代の変革期だからだ」
優しく諭すように、エルドルは言葉を続ける。
「かつてはごく少数しかいなかったはずの<マスター>が、数年前から急速に増え始めた。既に国内でも万を超える<マスター>がいるだろう」
「ですから、<マスター>を戦力にすれば……!」
<マスター>は<エンブリオ>という超常の力を持つ、不死身の存在。
戦争には<戦の契約>によって一部の者達しか参加できないが、それでも戦争において彼ら以上に優れた者はいない。
大多数のティアンよりもはるかに強く、命も喪われないのだから。
だが、<マスター>を戦力にするべきという彼女の言葉をエルドルはゆっくりと首を振ることで否定した。
「アルティミア。それでは彼らが……<マスター>が増えたのは、戦うためだったと決めつけてしまうようなものだ」
「え?」
「<マスター>は増えた。これからも増えるだろう。これから世界は彼らによって変わっていくはずだ。彼らは世界が遣わした時代の変革者であり、彼らの特別な力もそのための力だと私は考えている。けれど、彼らを戦争に用いることは、決して世界の未来にとって良いことではない。彼らがティアンから戦いの道具としか見られず、彼らもまた己を戦いの道具だと規定してしまうような世界はあまりにも……荒涼としている」
エルドルは己の語った未来を憂いながら窓の外を……その向こうにある世界そのものを見るように呟いた。
「だから、ドライフのように多額の褒賞で彼らの意思を歪ませ、戦いに誘う真似をする訳にはいかない」
そう強く断言してから、エルドルは微笑した。
「……けれど、歪まぬ意思でこの国を守るために立ち上がってくれる<マスター>がいてくれたことは……感謝の言葉もない」
この日、エルドルは皇国からの防衛戦に参加する<マスター>を募った。
前述の理由から褒賞を出すわけには行かなかったが、それでも国を守るために立ってくれた者達もいたのだ。
「ですが……!」
しかしその数や戦力の質は……皇国側に立った<マスター>と比べて大きく劣っていた。
それがアルティミアには分かってしまう。
そしてエルドル自身でも分かっていることだ。
「このままでは王国は敗北します……! 勝ち目がないのならば、講和を……」
「それはできない」
<マスター>を戦力に加えるために褒賞を出すという意見を否定した時よりも、ずっと強い口調でエルドルは否定した。
「アルティミア。今の皇王……ラインハルトは危険だ。ここで留めなければ、世界すら危うい」
「お父様……?」
アルティミアはかつて、王国と皇国の関係が友好的であった頃に皇国に留学もしている。
その際に現在の皇王であるラインハルトなる人物とは、とある縁もあって少しだけ話をしたことがある。
しかしその時は、それほどの危険人物だとは思わなかった。
だが、エルドルの顔は非常に厳しいものだった。
そのただならぬ様子に、王国と皇国の関係が急速に戦争状態まで悪化したのは彼に理由があるように思われた。
「お父様……」
「……大丈夫だ、アルティミア。私だって、これでも昔は【聖騎士】としてラングレイと共に戦っていたんだ。それに先生……【大賢者】もおられる。<マスター>の数はあちらが多いが、何としても停戦にまでは持ち込んでみせるさ」
「お父様……それならば」
父に対し、アルティミアは何かを提案しようとした。
しかし、そこから続けようとした娘の言葉を、エルドルは言葉で制した。
「それにね、アルティミア。<マスター>のこともそうだが、私は……戦う力があるというだけで戦いを望むような真似は、決してしたくないんだ」
「それは……」
「だからね、アルティミア……」
◇
父が何事かを言いかけたところで、アルティミアは夢から覚めた。
今の夢は、彼女と父の最後の会話の夢。
もう、父を亡くした日から何度見たかも知れない夢だ。
「アルティミア殿下! フィンドル侯爵が危急の知らせを持って参りました! 至急、執務室へお越しください」
扉の外では、彼女が夢から覚めた原因である近習の声が聞こえた。
「……今、行きます」
眠っている間に眦からこぼれていた涙を拭い、彼女は略服に着替えて執務室へと向かった。
◇
「それは確かな情報ですか?」
アルティミアは自身の執務室で家臣に対してそう聞き返していた。
その家臣の名はフィンドル侯爵。王国の諜報部を取りまとめる立場にある者だ。
そして今宵、彼が指揮する諜報機関はある情報を入手していた。
「誠にございます。この王都より北方……皇国との国境線を有するカルチェラタン領にて、<遺跡>が見つかりました」
「……そう」
それを聞いて、彼女は何事かを思案するように深く俯く。
その<遺跡>に関する事は、それだけ重要だからだ。
<遺跡>。
その存在をティアンや<マスター>にとって簡潔に述べれば、先々期文明の残したダンジョンである。
今よりも優れた魔法科学文明を誇っていた先々期文明、今は滅び去った時代の、数々の遺物を収めた地。
元が砦や研究施設、城などであったことを考えれば、自然発生ダンジョンの一種と言っていいだろう。
これまで見つかった<遺跡>は、ドライフの礎である<地下都市グランベル>やグランバロアが海底で発見した第一から第七の<海底掘削城>、そしてカルディナの名も分からぬ無数の<遺跡>等である。
<遺跡>は、今では作れないような技術産物が多数発見される。
ドライフが誇る魔法機械も、グランバロアの造船技術も多くはそれらの遺跡で発見された技術を解析してフィードバックされたものだ。
そのようにメリットを齎すと同時に……時には暴走した技術によって災厄をばらまく箱となる。危険な<UBM>が生息していることも珍しくはない。
禍福のどちらになるかは不明だが、いずれにせよ<遺跡>の存在は国力を大きく変化させる。
重要なのは、王国の領土内で新たな<遺跡>が見つかったこと。
問題なのは、それがドライフと領土が接しているカルチェラタン領であることだ。
前回の戦争ではドライフが別の領地から侵攻してきたため戦場にはならなかったが、次もそうであるとは限らない。最前線となる可能性の高い地域だ。
今も両軍が近郊の砦に多くの兵を駐留させているそんな地で……国の未来を左右するような<遺跡>が出現してしまったのだ。
「この情報……皇国は?」
「知らぬと祈りたいですが……何分あちらは諜報にも<マスター>が噛んでおります」
<エンブリオ>ならば、固有スキル次第で盗聴や千里眼などお手の物だ。
十中八九、ドライフも<遺跡>の情報を掴んだと判断すべきだった。
その事実に、アルティミアは苦い顔をする。
その<遺跡>にある技術如何によっては、戦争再開を早める引き金になりかねないのだから。
「殿下……」
「……いえ、大丈夫です。それより今は皇国の動きです。軍の動きは掴めていますか?」
「国境付近に駐留している軍に動きはありません。<遺跡>の発見を機に再侵攻……ということはないでしょう」
「なら、可能性があるのは……少数による奇襲と、<遺跡>の技術産物の強奪」
「はい。ギデオンの事件のように、皇国の手の<マスター>が動くものと考えられます」
ギデオンの事件。
それは先月、王国屈指の都市ギデオンでドライフの<超級>の一角であるフランクリンが引き起こした大規模テロ事件。
第二王女の誘拐や街の破壊、最後にはあの戦争に投入された数を上回るモンスターによるギデオンの殲滅までも計画されていた。
不幸中の幸いとして、王国の<超級>である【破壊王】をはじめとする<マスター>によってその企みは阻止され、無数のモンスターもそれを作り出したフランクリン自身も倒された。
「…………」
<流行病>の病床で聞いたあの事件を思い出し、彼女は再び表情を沈ませる。
ドライフの戦力として動いた<マスター>によって大規模テロが起き、それを防いだのが<マスター>の力だという結果を、第一王女は許せない。
その思いが誰に向けられたものであるのかは、アルティミアしか知らない。
彼女は「なぜあのとき」、と考えかけて……首を振って思考を切り替える。
「……こちらも手を打ちましょう。人員を送り込んで<遺跡>内部の調査を行い、同時に進入する皇国の手勢へのカウンターとします」
「承知しました。では、ギルドを通じて、有力な<マスター>を指名してクエストを」
「それはなりません」
「は?」
<マスター>への依頼という、困難な事案への現在最も適切な対処をアルティミアは否定する。
「私が選んだ人物を送り込みます。また、<マスター>や冒険者ギルドへの伝達は不要とします。冒険者ギルドや各ジョブのギルドで、<遺跡>に関連したクエストは差し止めを」
「ですが、ドライフが<マスター>を送り込んできた場合、<マスター>以外では対抗が……」
「国王代行としての決定です」
「……御意」
フィンドル侯爵はそう言って、了承の姿勢をとった。
「下がりなさい。それとこれより数日、私もこの事態に対処するため応答ができなくなるかもしれません。このことは他の部署にも伝えておきます」
「御意」
フィンドル侯爵は礼をして、執務室を辞した。
◇
侯爵が退室した後、アルティミアは椅子から立ち上がり姿見の前に立つ。
「<マスター>に対してティアンでは対抗できない……分かっているわ」
アルティミアは姿見に自身の姿を映しながら、独り言を呟く。
鏡の自分と瞳を合わせ、ドライフの<マスター>に敗れて死んでいった者達を思い出す。
その中には自分にとって大切な人達も、何人もいた。
父であるエルドルも<マスター>に敗れ、<マスター>の連れたモンスターに食われて死んだ。
「けれど、戦争の趨勢に関わるこの事態……、<マスター>に頼ってはいけない。<マスター>という存在を戦争の道具としてはいけない」
第一王女は、姿見に触れながら……囁くように言葉を繋いだ。
それは父との会話で、夢の中で何度も繰り返された言葉の反芻。
<マスター>は時代の変革者。
“人間”の戦いに用いてはいけない。
彼女は、父の言葉をそう理解していた。
それは、父の遺志とは僅かに変わった形かもしれない。
だが、彼女は心を決めていた。
そしてもう一つ、彼女には思うことがある。
あの戦争の折、皇国には褒賞目当てに多くの<マスター>がついた。
対して、王国の<マスター>は褒賞を出さなかった父に反発し、参戦した者は皇国よりも遥かに少なかった。
父が言っていたように、それでも王国についた<マスター>には感謝の念がある。
けれど、どうしても思ってしまうことがあった。
皇国に参加した多くの<マスター>への憎しみ。
王国に参戦しなかった多くの<マスター>への恨み。
叶えられるはずもない対価を要求してくる王国の<超級>への怒り。
そもそも、<マスター>がいなければ……今の混迷もないのではないかという思い。
「……<マスター>」
戦争であり、成したのは皇国の意思であると、彼女も理性では分かっている。
しかし、彼女は<マスター>によって……<超級>によって多くを失いすぎた。
ゆえに<マスター>への不信は、根強く存在する。
「…………けれど」
そんな彼女の不信を氷解する出来事も、なかったわけではない。
王都が封鎖された時は、<マスター>の自警団が組織された。
<流行病>の時には、利益を求めずに病人を介抱して回った<マスター>達がいた。
そして、ギデオンの……。
「でも、今は……」
今これから起こることは戦争に関わること。
彼女の気持ちが好悪のどちらにあるとしても、彼女は父の遺志によって<マスター>に頼らない。
ゆえに、他の手を用いる。
「……アズライトの出番ね」
◇
第一王女の部屋を辞したフィンドル侯爵だったが、第一王女の部屋を離れて少しすると、懐から何かを取り出した。
それは通信魔法のためのマジックアイテムであり、彼がそれを操作して繋いだ相手は自身の部下である諜報部のものだ。
「私だ。<DIN>に対し、カルチェラタン領の<遺跡>の情報を王国内で流すように依頼を。ああ、それだけでいい。各ギルドでの<遺跡>関連のクエストは王女のご命令どおりに凍結。あとは……彼らが自らの意思で動く」
それだけ言って、フィンドル侯爵は通信を切った。
「……殿下はあのようにお言いになられたが、やはり<マスター>の相手は<マスター>に任せるべきだ」
直接防衛を依頼せずとも、王国の<マスター>が調査をしているときにドライフの<マスター>が襲撃をかけてくれば、対応するだろう。
それに、王国の<マスター>が<遺跡>で何らかの技術産物を手に入れて金に換えようとするならば、それは王国の市場の可能性が高い。
貴重なものであれば直接国から交渉し、対価を渡して譲り受ければいい。
<マスター>という人種は命のリスクは然程考えず、未知への好奇心やリターンで動く。ならばこの形で扱うのがベストだと、フィンドル侯爵は考えた。
「だが……。いや、これは考えても仕方がない」
そう言って、侯爵は自身の執務室に向かった。
先刻の指示以外にもこの一件ではしなければならないことが多々あったからだ。
◇
アルティミアの父の遺志から強く抱いた思い。
フィンドル侯爵の現状を鑑みた対処。
<マスター>を戦力としないこと。
<マスター>を戦力と考えること。
どちらにも信じた正しさがあり、誤りであるとは言い切れない。
しかし、どちらも誤りでなかったとしても、どちらがより正しかったとしても……意味はない。
<遺跡>の探索に向かう<マスター>より、ドライフの送る<マスター>が遥かに強ければ何の意味もないのだから。
◆◆◆
■ドライフ皇国皇王宮【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】
ドライフ皇国皇都ヴァンデルヘイムは二つの側面を持つ。
比較的近代的な都市の側面。
そして、機械仕掛けの超科学の側面。
後者の代表的施設は二つある。
一つは皇都郊外にある<叡智の三角>の本拠地などの大型研究施設。
もう一つが……この皇王宮だ。
皇都の中心に位置する皇王宮は、その外観のほとんどは近代都市に似た街並みの延長線である。
だが、中心の中心……最奥部は違う。
それは一言で言えば……機械仕掛けの巨大要塞。
常にどこかの部品が動き続ける、歯車の城。
その城こそが【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】。
遥か昔から残り続けるドライフの中心にして最強兵器。
そして、<イレギュラー>と呼ばれるものである。
◆
兵器であると同時に皇王の居城でもある【エンペルスタンド】には、重臣の執務室も存在する。
その内の一室で、二人の人物がチェス盤――に似た遊戯盤を――挟んで会話していた。
「先日、王国のカルチェラタン領に<遺跡>が出現したことを、遠見の<マスター>からの情報で確認いたしました」
「…………」
「その<遺跡>に【魔将軍】を派遣していただけませぬか?」
「……なぜ、と聞いておこうか。ヴィゴマ宰相」
二人の内の一人は、この皇国の内政を司るノブローム・ヴィゴマ宰相。
そしてもう一人は……、
「簡単な話ですよ。それが一番確実だからです……バルバロス元帥」
「…………そうか」
この国の軍事を司る者にして、皇国最強のティアン。
【無将軍】ギフテッド・バルバロス元帥だ。
【将軍】であり、元帥。ジョブと役職の違いは公職のティアンにはよくあること。
そもそも超級職に【将軍】や【総司令官】はあれど【元帥】がないのだから、これは仕方のないことだ。
しかし、この国で最高位の階級を持ちながら、彼はまだ三十前後の若さであり……何より軍事最高責任者でありながら覇気がなかった。
有り体に言って、半ば目が死んでいる。
「彼は元帥派だ。あなたから口利きして……」
「……俺と彼は手段が同じだから道を同じくしているだけで、彼が派閥に属しているわけではないと。……だが、わかった。仲立ちをしよう」
そうした受け答えにもやはり気力がない。
元帥派、宰相派と呼ばれ、この国の勢力を三分しているとされるトップのうちの二人が行う会談でも、彼の心は何も感じていないようですらある。
ただ無感動に言葉を交わし、盤上の駒を動かしている。
しかし、ヴィゴマ宰相は彼のその様子に何の感想も持たない。
それはまだ幼い頃から彼を知っているから。
何より、彼が眠れる獅子……いや獅子とは比較できぬほど恐ろしいものであり、平時であれば起こさない方が良いと知っているからだ。
「それにしても、意外ですな。私が【魔将軍】に依頼することについて、もっと質問や拒否を受けるものと思っておりました」
「……<マスター>は自由だ。階級や派閥で縛れるものではない。彼らは彼らの心に従って動く。命も二の次だ」
「…………そうですな」
ヴィゴマ宰相はバルバロス元帥の言葉に同意すると同時に、「それはあなたもでしょう?」と考えたが表情に出すことはなかった。
「それに、大方の事情は察している。ローガンに依頼するのは、あなたがスポンサーを務めているフランクリンが現在使えない。いや、使うわけにはいかないからだ」
「ほう」
「フランクリンの強さは、多様性と蓄積の強さ。彼奴は先の事件で戦力を失い、今は次の戦争に向けて新型の開発や量産型の増産に追われている。この<遺跡>に関する案件は重要ではあるが、技術獲得を見越した長期的な目標。至近の戦争の趨勢そのものには寄与しない。ならば、戦争のために補充している戦力をここで放出するわけにはゆかず、今は蓄積に専念させなければならない。それに、先日皇国に加わった【車騎王】と【盗賊王】は、あなたの目から見ればまだ使うことに疑念が残る。後者については私も同感だ。雇用について綿密な契約は交わしたが、広域指名手配者だからな」
「…………」
「では残る古参二人の<超級>はどうか。【獣王】は単独で完成した強さ、何のコストも準備も要らない絶対戦力。しかし、逆に強すぎて<遺跡>までも損ないかねない。ローガンはコストこそ必要だが即時戦力を展開できるし、戦力の調整も容易い。コストをあなたで用意すれば、ローガンも乗るだろう。ゆえに、現在のドライフがこの任務を依頼できる<超級>ではローガンが最も適している。このように、想定した」
「…………いやはや」
死んだ目のまま、立て板に水とばかりに自身の推測……ほぼそのままヴィゴマ宰相が考えていたことを述べた。
彼がこの若さで元帥の地位に就いているのはその戦術眼とは無関係の事情からだ。
だが、それでも彼は優れた軍人であり、このくらいの推測は簡単に立てられた。
「ふふ、そこまで解っておられるなら、これ以上の説明は不要ですな」
「……では、すぐにでもローガンとの会合の場を設ける」
「ええ、ありがとうございます。元帥」
そう言ってヴィゴマ宰相は握手を求めて手を差し出し、バルバロス元帥も半ば死んだ目のままそれに応えた。
「それにしても、今の推察もそうですが能力は十二分におありなのですから、軍の運営を参謀達に任せきりにせずとも良いのでは?」
「……俺はなぜ自分が元帥などやっているか今も理解しきれん、ただの一兵士だ。人を動かすのは向かない」
「ホッホッホ。私もなぜ宰相をやっているのか疑問に思うことはありますね」
ヴィゴマ宰相は笑ってから、ふぅと溜め息をついた。
「お互い、あの方に肩入れしていた数少ない軍人と文官の中で、最も位が高かっただけなのですしね……」
ヴィゴマ宰相の言葉にバルバロス元帥も、そこで初めて気持ちを込めたかのように重く溜め息をつく。
「皇位決定とその後の混乱で、死にすぎたな……」
「ええ。ですが、私はあなたとあなたの部下たちが残って本当に良かったと思っていますよ」
「俺も同感だ」
ヴィゴマ宰相とバルバロス元帥、それに現在の皇王を加えた三者で皇国の勢力は三分されていると人は言う。
それは事実である。
なぜなら最高権力者である皇王は政治に頓着せず機械弄りと鍛錬、そして懸想に没頭し、ヴィゴマ宰相とバルバロス元帥は皇国にとって最良と考える手法が違うのだから。
しかしそれはイコールで宰相と元帥が反目しているというわけではない。
考えは違う。だが、目的は同じなのだ
『皇国に最良の結果を齎す』、『皇王の意思を通す』。
その二つが彼らの共通の目的。
ゆえに、今回の一件のように協力すべきときは、わだかまりなどなく協力する。
一枚岩ではないが向いている方向は同じ、それが皇国の宰相と元帥である。
「宰相。一つ確認したい」
「何でしょうか?」
「<遺跡>があるのは、カルチェラタン領と言ったか?」
「……ええ」
「そうか。ならば特務兵を一人派遣しておこう」
「元帥、それはまさか……」
「……うってつけの人材だろう?」
そして彼らの柔軟さと連携は<超級>、そしてさらにもう一人の大戦力派遣という王国にとって最悪のケースを呼び込んだ。
◇◆◇
かくして、王国と皇国の意図が絡み合い、<遺跡>を賭けてカルチェラタン領を舞台とした新たな事件が始まろうとしていた。
だが、今このとき……ティアンの誰もが、そして<マスター>の誰もが想定も理解もしていない動きが起きようとしていた。
◇◆◇
□■――――
『先々期文明の<遺跡>が王国内のポイントA-05で発見された』
「本当ー?」
『地殻変動で地表に露出したものを、ティアンと<マスター>が見つけてしまった』
「王国では最近地震も多かったからねー。でも<遺跡>把握に漏れはなかったはずじゃないー?」
『どうやら、かなり後期の施設らしい。ゆえに高度な探査遮断の技術が使われていたようだ。レドキングの“監獄”に少し似ているな』
「そうなると何が納まっているかが問題だねー」
『煌玉獣の類なら問題はない。だが……最悪、煌玉竜や玉座を超える戦闘兵器が埋まっている恐れもある。今ここで王国と皇国の戦争にそれを使われると、バランスが崩れる恐れがある』
「バランス崩壊は<マスター>だけでしてほしいよねー……、これはジャバウォックにも言いたいことだけどさ。でも……。うん、わかった。調査に出向くよー。そういうのも含めて、雑用が僕のお仕事だしねー」
『頼む』
「それと、もしものために本体の使用申請もしておくね」
『私からも具申しよう』
「お願いねー」
『……気をつけろよ』
「うん。それじゃあ、いってきまーす」
Open Episode【遺された希望】
(=ↀωↀ=)ガサゴソ(身支度中)




