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急 犯人の壊し方

追記:


(=ↀωↀ=)<バビの使用スキルにミスがあったので修正しました

 □【亡八】ルーク・ホームズ


 あれから数時間。僕は人気のレストランで、一人夕食をとっていた。

 お客さんは多いけれど、傍らには誰もいない。

 霞さんとはあの後に別れたし、用事をお願いしたバビもいない。

 マリリンとオードリーはジュエルの中に入ったままだから、一緒にいるのは衣服に擬態したリズだけだ。

 そのリズも、一ヶ月前より暖かくなってきたのでコートからジャケットに擬態している。

 段々と暖かくはなっているけれど、夜はまだ冷えるから上着を着ていてもいい季節だ。


 アパルトメントを出てからはずっと、人の多い場所に居続けた。

 あんな有様でもガーベラ本人は隠蔽に気を使っているつもりだ。

 だから、どんな<マスター>がいるか分からない……もしかすると追尾能力に特化した<エンブリオ>がいるかも分からない状況では、僕を襲ってこないと踏んだ。

 襲ってくるタイミングは僕が本当に一人になったタイミングだろう。

 実際、今の今まで襲ってきてはいない。ガードナーで監視はしているかもしれないけど。

 けど良かった。ガーベラもこんな衆人環視の中で考えなしに襲ってくるほど迂闊じゃなかったみたい、で…………?


「……あれ?」


 一度、「そこまでガーベラが迂闊ではない」と頭で考えたとき、実際にガーベラと相対してからはこれまで生じなかった疑問が生じた。


 ――ガーベラはどこまで馬鹿なのだろうか、と。


 これは彼女への悪罵ではなく、疑問。

 どこまで(・・・・)という程度の話。

 あのとき、僕がアパルトメントで彼女に浴びせた言葉は「犯人はお前だ。もう分かっている」と言ったに等しい。

 けれど、彼女は激怒こそしたものの――アパルトメントを出て僕を追撃することはなかった。

 口封じのためにも、己の感情からでもあの場で僕を攻撃する。あるいは、既に指名手配の準備が整い、捕らえるか倒す準備をしているのではないかと疑ってかかるところだ。

 でもそれが一切ない。

 あの時点で攻撃しなかったのは、自分が真犯人であると隠すため。

 そう、彼女はまだバレていないと思っている。

 ああまで言われて、気づかないのは理屈に合わないけれど、そこまで度を越えて馬鹿な相手なのだろうとあの時は思っていた。

 けれど今、ここで仕掛けてこない程度には分別があることを知って、疑問が生まれる。

 

「あのときと今で、程度が違う?」


 彼女は、迂闊で馬鹿だ。

 彼女が僕の前で見せた数々の彼女自身が気づいていない醜態は、嘘でも演技でもない。

 それは自信をもって断言できる。

 だけど、あの時の突き抜けた現状認識の甘さはそれだけでは説明できない。

 他にも何かがある。

 それに彼女の<エンブリオ>のこともある。

 これに関しては、事件の内容からも隠蔽能力に特化したガードナーだと予想は出来ている。

 けれど、<エンブリオ>の能力は<マスター>のパーソナルに由来することが多い。

 彼女が単に迂闊すぎる馬鹿、といった人物であれば……そのパーソナルからそんな<エンブリオ>が生じるだろうか。

 もちろん、パーソナルと<エンブリオ>の関係性は絶対ではないけれど……それにしたって彼女の自己顕示欲の強さを鑑みれば、全く逆の<エンブリオ>になっても不思議じゃない。


「答えは同じでも……数式が違う。そんな印象だ」


 二÷二でも二×〇.五でも答えは一。

 けれどその意味合いはまるで違う。

 彼女の行動結果は迂闊で、愚かで、馬鹿としか言いようのないものだ。

 でも、結果に至る過程は僕の推理が間違っているかもしれない。


「……少し、考えてみようか」


 既に真相は明らかになっているし、事件を解くにあたってはもうこれ以上の推理は必要ない。

 これはただの蛇足。

 彼女という人間を知るためだけの推理。

 幸いにも、彼女が襲ってくるだろうタイミングまで時間はある。

 僕は思考に没頭し、これまで得た全ての情報からガーベラという<マスター>の本質を洗い直すことにした。


 ◆◆◆


 ■【兇手】ガーベラ


 日が落ちて数時間ほどが経ったころ、アルハザードを通した私の視線は路地の向こうから歩いてくる人物を見ていた。

 それはあの、顔は良いけど頭は悪いクソザコ。

 あちらは思いもよらなかっただろうけど、私は今日顔を合わせる前からあちらのことを知っていた。

 事件を起こす前、あの【破壊王】の身辺調査をしている時に見ていたから。

 だから、帰る宿だって知っているし――こうして待ち伏せも出来る。

 今も道の真ん中に立って、あちらを見据えている。

 けれど、向こうは気づきようがない。

 だって、私のアルハザードは最強の<エンブリオ>なのだから。

 相手の五感に一切捉えられず、《危険察知》や《殺気感知》のセンススキルさえも無効化する究極の隠蔽特化ガードナー。

 加えて、生物だけでなく機械式のセンサーや魔法の警戒網にも引っかからない。

 だからアルハザードは誰にも悟られない。

 どこにでも忍び込めるし、誰だって殺せる。

 これが最強でなくて、何が最強なの?

 それが分からないうちのクランのメンバーも見る目がない。

 ……思い出したら腹が立ってきたけれど、いいわ。

 連中を見返す算段は立てている。

 次に打つ手は、あの【破壊王】が牢から出たタイミングでまた事件を起こすこと。

 そうしてあいつに罪を被せて評判を落とし続け、あいつが憤り、形振り構わず真犯人を捜そうとした時、街の中で戦いを挑む。

 怒り狂ったあいつはそれでも構わず戦いを挑んでくるはず。

 そう、奴の火力を発揮できない街中という環境で。

 私のアルハザードに唯一欠点があるとすれば、どこにいるか分からない状態でも構わないとばかりにランダム広範囲攻撃を仕掛けられること。

 そう、奇しくもあの【破壊王】の得意とする分野。

 だから私のアルハザードが奴を倒すには、奴の火力を封じる必要があった。

 街中では奴の大火力は使用できないし、もしも使えばその時点で指名手配。

 それで【破壊王】を指名手配に追い込んでもいい。

 策によって火力を封じ込められ、ただの馬鹿力しか使えなくなったデクの棒の【破壊王】をアルハザードで倒してもいい。

 どちらにしても、【破壊王】は私の策とアルハザードの力の前に敗れる。

 クランのメンバーも絶対に私を見返すはずだ。


「そのためにもまずは、邪魔なクソザコを潰す」


 何者にも知覚されないアルハザードは、ゆっくりとクソザコに向けて歩き始める。

 このまま近づいて、少しずつ四肢を切断する。

 そうして訳が分からず泣き喚いた顔を刻んであげる。

 間近に迫ったその瞬間に心躍らせながら、私はアルハザードを進ませる。

 そうして、クソザコとの距離が五十メートルほどにまで縮まった直後、


 ――クソザコはアルハザードと真逆の方向に跳んだ。


 【破壊王】との特訓でも使っていた上着の金属系スライムから触手が伸びて、それが地面を蹴ってクソザコをアルハザードから遠ざける。

 まるで知覚不可能のアルハザードの接近を察し、逃げるかのように。


「……偶然ね!」


 知覚できないのに逃げられるわけがない。

 追跡して、今度は全く違う角度から攻撃を仕掛ける。

 リソースが隠蔽能力に特化したアルハザードの速度は亜音速に留まっているけれど、それでもクソザコに追いつくには十分。

 すぐに追いついて攻撃を……


「また!?」


 仕掛ける直前で、また真逆の方向に跳ばれた。

 偶然じゃない。

 相手は知覚不可能のアルハザードを知覚している。

 でも、どうやって……?

 それにどうにかして対策を打てたとしても、そもそも何で見えない敵が来ることを想定して……、ッ!?


「ヅッ!?」


 瞬間、私の視界はクソザコを追っていたアルハザードのものから、私のアバターの視界に戻っていた。

 戻った視界の中では部屋中が燃えていた。

 窓も砕けており、窓の傍には赤い髪の悪魔――あのクソザコの<エンブリオ>が立っている。


「《リトルフレア》、《石化ブレス》、《グランダッシャー》」


 <エンブリオ>は容赦ないスキルによる連続攻撃を放ってくる。

 それは完全に私を敵と見做したもの。


 ――まさか、私が真犯人だとバレているの!?


 ありえない。

 昼の会話だけで、私が犯人と気づくだなんて……。

 質問への受け答えも、話題の振り方も完璧だったはずなのに!

 あのクソザコは……天才か何かだとでも言うの!?


 ◇◇◇


 □数分前 【亡八】ルーク・ホームズ


 日が落ちてから数時間、日光で暖められた空気と地熱も去った頃。

 ガーベラに関するある考察もまとまった僕は、宿への帰路についていた。

 人気はなく、僕は本当に一人きりで夜道を歩いている。


「…………」


 ガーベラが僕を襲うなら、僕が一人になったときと考えていた。

 つまりは、今。


「リズ」


 声に出さないまま、口の中でだけ呟くと、袖の内側でリズが僕の腕を一度叩く。

 反応なし、だね。

 ……できれば、襲うなら宿に帰る前にしてほしい。

 宿を壊すのは、宿屋の人達に迷惑だから。

 そんな風に思っていると、


 ――リズが二回、僕の腕を叩いた。


 それは事前に決めていた符丁――“見えない接近者アリ”。

 直後に、接近者と反対の方角に向けてリズが跳ねた。

 あの晩のギデオンでユーゴーと戦ったときと同様に、ジャケットから伸びたリズの触手が地面を蹴って高速で移動する。

 けれど、リズの体から伸びるものはそれだけじゃない。


 細くキラキラとした糸が、無数に伸びている。


 現在、リズの体は僕のジャケットになっている分以外は、別の用途に使われている。

 【ミスリルアームズスライム】の流体金属の体を武器化する特性で、糸状になってこの通りの各所に張り巡らされている。

 そこまで細く長く引き伸ばしてしまうと攻撃能力も消えて、容易く切られるただの糸になってしまうのだけれどそれでいい。

 これは、切られることで効果を発揮する探知機なのだから


 僕は相手の<エンブリオ>が隠蔽に特化したガードナーだと推測した。

 (お粗末な部分を抜かした)事件の手際からすれば不可視、無音、無臭くらいは備えているはずだとアタリをつけた。

 それに<超級エンブリオ>の規格外さを思えば、“触っても気づかない”くらいは十二分にありえた。

 だからこそ、リズの一部を細く弱く切れやすい糸にして張り巡らせた。

 たとえ見えなくても、たとえ触れても気づかなくても……体が切断されれば(・・・・・・・・)リズは気づく。

 これはリズがスライムだから出来た芸当。体を変形させる機能からも、痛みを感じない情緒からも、リズにしか出来ない。


「けれど、僕が対策を打てたことは問題じゃない」


 そもそもこんな対抗策を考案できた時点で……ガーベラが大幅にミスを犯しているのだから。

 見えない<エンブリオ>は恐ろしい。

 触られても気づかれない<エンブリオ>など防ぎようがない。


 でも、それは……その存在自体を知らなければ(・・・・・・)の話。


 ガーベラが事件を起こして、普通の手段では不可能な……極めて高い隠蔽・隠密能力が前提の犯行内容を示してしまったがために、僕はガーベラの<エンブリオ>の能力を推察できた。

 「完全な隠蔽能力を持った相手がいて、それと敵対している」って情報をこちらが持った時点で、対抗策を打つことが可能になる。

 完全隠蔽能力は、「いる」と知られてしまった時点でその価値を半減させる。

 恐らくはそれが証拠をばら撒き続けたこと以上の、ガーベラが犯した最大級のミス。

 彼女は自身の<エンブリオ>の“正体不明”を過信して、“正体不明”になりえる存在がいると分からせてしまった。

 無色の存在の周囲を色付けしてしまったら、自然とその像は浮かび上がる。

 きっと何の事件も起きていない状態で誰かを暗殺しようとすれば、彼女の<エンブリオ>はそれを確実に成し遂げていただろう。

 それこそ僕が想定したように、王族でも簡単に殺せたはずだ。

 そう考えると、犠牲になった二人には悪いけれど、彼女が考えなしに事件を起こして良かった。


「今頃は……バビがガーベラを襲撃している頃だね」


 今回、事前にバビに二つのお願いをしていた。

 そのうちの一つは、ガーベラを監視すること。

 バビが《ドレインラーニング》でモンスターから得た《光学迷彩》のスキルを用いれば、監視することは容易い。

 だから、あのアパルトメントを監視し、もしもガーベラが家を出ればそれを尾行するように頼んだ。


 そして、相手のガードナーが僕を襲撃したタイミングで……バビがガーベラを狙う。


 <超級エンブリオ>であってもガードナーである以上、避けられない弱点がある。

 それは<マスター>自身。

 ガードナーがいかに強靭、強力であろうとも……傍に居なければ主は守れない。

 だから僕とガーベラの条件は五分。

 けれど、僕は襲撃があると予想して手を打っていた。

 対して、ガーベラは想定もしていなかったはずだ。


「あとは、どちらが先に<マスター>を仕留めるか」


 もちろん、総合力では圧倒的に向こうが勝る。

 しかし案の定、隠蔽能力に特化しているために速度やパワーはさほど高くない。

 このまま逃げに徹すれば、もうしばらくは時間を稼げる。

 問題があるとすれば、


「この間にバビがガーベラを仕留めきれるか」


 バビもまた、あまりパワーのあるガードナーじゃない。

 魅了とドレイン、ラーニング、そして融合能力にリソースを割いている分、素のステータスは第四形態のガードナーの平均を下回る。

 潜伏のために【大工】ないし【設計士】、加えて【詐欺師】なども取得している可能性の高い彼女だが、それでも<超級>なのだからレベルカンストくらいはしているはずだ。

 バビ一人で倒しきれるかは賭け……というよりも出来ないと考えた方がいい。

 だからバビによる襲撃は策のメインじゃない。


「……!」


 リズが接触によって「相手が追ってこない」と告げた。

 どうやら<マスター>の危険を察知して舞い戻ったらしい。

 当然と言えば当然の判断だし、そのパターンも想定していた。

 なら、メインに移るためにも、こっちもガーベラのアパルトメントに向かおう。


 ◇


 アパルトメントに到着すると、そこには傷だらけのガーベラの姿があった。

 その足元には壊れた【ブローチ】が落ちている。

 どうやら、そこまでは追い込めていたらしい。


「むー!」


 バビは攻撃を続けているものの、それらは全てガーベラの手前で見えない何かに撃ち落とされている。

 どうやら、見えないガードナーはあそこに陣取って<マスター>を守ることに注力しているらしい。

 ……そこも、使い方を間違えている気はする。

 防御ではなく、即座にバビを倒せばいいのに。


「来たわね……ルーク、だったかしら?」


 見えないガードナー越しに、ガーベラはこちらを見ている。


「どうやってかは分からないけれど、私が真犯人だと導き出したようね」

「…………ええ、あなたがギデオンで起きた連続強盗殺人事件の犯人です」


 まだ気づかれていないと思っていないだけマシだけれど、本当に何でバレたかは分かっていない。

 いや、違うね。

 分かっていないフリ(・・)をしている。

 ……頭では(・・・)本当に分かっていないのだろうけど。


「ええ、その通りよ。私が一連の事件の真犯人、“正体不明”よ」


 ……自分で名乗る二つ名でもないでしょうに。

 けど、犯人の自供を得た。

探偵としては、これで役目を終えた。


「それにしても、<超級エンブリオ>であるアルハザードの能力まで見破られているのかしら?」


 見えない<エンブリオ>の名前はアルハザード、か。

 ……こっちも予想はしていたけど、自分で<超級>だと明かしたね。


「ええ、恐らく五感……いえ、六感に認識されない、といったところでしょうね」

「ふふふふふ」


 ガーベラはなぜか笑い始めた。

 その笑みは……ひどく気持ち悪かった。


「ここまで私の策謀を見破るなんて……あなたはきっと天才ね」


 それは僕への賞賛……じゃない。

 全く、正反対のことだ。


「僕を持ち上げても、あなたがルーキーの僕に土をつけられた事実は変わりませんよ」

「…………」


 僕を天才にでも持ち上げなければ、自分が劣ってしまう(・・・・・・・・・)からだ。

 僕がそう言うと、彼女は気持ち悪い笑みを硬直させた。

 ああ、そうだろうね。

 あなたの心理を考えれば。

 あなたの迂闊な思考と……その奥にある心の本質(・・)を思えば。


「この事件と関係なく、あなた自身について考えてみました」


 レストランで疑問に思ってから、彼女についての分析を続けていた。

 そうして思考を続けて、彼女の本質に辿りつく。


「僕は昼にここを訪れた時、「真犯人は馬鹿です」と言いました。ですが……」


 それは誤りじゃない。

 けれど完全な正解でもなかった。


「あなたは、ただ迂闊な馬鹿ではないんです」


 僕が辿りついたのは、一つの答え。

 それは彼女の行動の中でも特に迂闊だった言動の理由。

 お兄さんの人物像の読み込みが甘かったこと。

 あまりにも暗号やそれに関する発言が迂闊だったこと。

 正体に気付いたと言っているに等しい僕の発言にさえ気付かなかったこと。

 これらは、ある同一の問題に根差している。

 それは……。


「あなたは世界を、己の思うようにしか(・・・・・・・・・)視ていません(・・・・・・)


 彼女は再び無言となって、僕を見る。

 ただ、その目に先ほどとは違う色を帯びていた。


「自分が失敗しないと思っているから、自分が失敗した理由が分からない。

 他者が自分より優れていると思いたくないから、他者を自分よりも低く見積もる。

 自分の策謀が嵌ると思うから、的外れであることを確認しない」


 自分の心の中(世界)で自分を高く見積もるために、現実を直視しない。

 実際に愚かな点もあるけれど、それ以上に自分の不合理を一切直視しようとしないその性質が彼女の行動を破綻させる。

 ゆえに、他者からは底知れない馬鹿に見え、計画は杜撰になり、言動全てが迂闊になる。

 それはきっと……他の人の言葉も歪めて頭に入れていたはずだ。

 例えば、正鵠を射た忠告であっても的外れとしか受け取れないように。


「だけど、あなたは僕に関しては正しく見ていた。僕は正しくあなたの格下だったし、雑魚だったでしょう」


 僕に関しては、現実を歪めていなかった。

 本当に格下だった。

 だから、あのときの僕の罵倒……彼女の真実の多くを捉えた言葉は効いただろう。

 歪めないまま自分の脳に取り込んでしまった言葉は、彼女には毒だった。

 だから、大急ぎで自分を取り繕った。

 僕の言葉が的外れだと必死に思い込んで、結果として「まだバレていない」という思考に歪めた。


「今も、目の逸らしようがないほどの格下に土までつけられたから……相手を格下でないと思い込もうとした」


 自分の見ている世界が自分の思う理想から逸れないため。

 「ああ、これなら仕方ない。私は失敗していないけれど相手が悪すぎたんだ。私は何も間違いを(・・・・・・・・)犯していない(・・・・・・)」と思い込むため。

 一から十まで、彼女はそれなんだ。


「だからあなたの<エンブリオ>はあなたにしか見えないんだ」


 それは、彼女のパーソナルに起因するアルハザードにも顕れている。


「世界をあなたの思うようにしか見ようとしていないから、世界であなたにしか見えない<エンブリオ>になった」


 ただ独りの視界に生きる、まるでイマジナリーフレンドのような存在。

 それでいて、彼女の思いに沿って世界そのものに干渉する――空想の怪物。

 それが彼女の<エンブリオ>の正体。

 それを生み出す精神こそが……。


「それが、あなたとあなたの<エンブリオ>の正体です」


 そんな彼女に対して、僕は断言する。


「あなたは“正体不明”なんかじゃない。

 自分の正体も、感覚も、心の本質すらも誤魔化し続けた、ただの…………大馬鹿です」


 言葉が人を傷つけるというのなら、きっとこれは諸刃の刃だった。

 同時に、僕自身も傷つけた。

 自分の正体や行く道を誤魔化しているのは僕も同じだったから。

 ……それでも、僕は彼女にこの言葉をぶつけた。


「…………え、ちが…………違う、わ…………」


 ガーベラは、反論を言葉に出来ずにいた。

 何か言葉を発しようとしても、すぐにそれを飲み込んでいる。

 今までのように都合の悪いものを見ずに誤魔化そうとしても、僕の言葉自体が楔になってその逃避も出来ない。

 僕が述べた彼女の心の正体は、彼女自身が今まで無意識に繰り返していた「自分の失敗から目を逸らす」行為そのものに待ったをかけたに等しい。

 一度刻まれた言葉は、無意識に逃避しようとした瞬間に思い出され、彼女を現実に直面させる。

 心が逸らし続けた現実を、僕の言葉を聞いてしまった頭脳が修正してしまう。

 あるいは今このときだけでなく、彼女がこれまでの人生で目を逸らし続けた失敗すら、記憶から思い起こしているのかもしれない。

 お兄さんなら、「黒歴史を抉る」とでも言うのだろうか。


「ああ、ああ、ああああ……!!」


 ガーベラは両目を手のひらで強く押さえて慟哭する。

 見たくないと言うように、彼女は両目を押さえる。

 けれど、心はもう現実を視てしまった。

 現実が、視えてしまった。

 もう「自分が最高だ」と、「一つも失敗していない」と思い込めていた(・・・・・・・)頃には戻れない。


「………………………………アァ」


 不意に両手がどかされ、彼女はその両目で僕を見る。

 そこには、僕に読み取れるほど分かりやすい感情は何もなかった。

 ただ、数多の感情がないまぜになり、一つのベクトルに収束していた。


 ――消さなきゃ、と。


 ただ、眼前の僕に向けた強い排除の意思だけがそこにあった。


「――Who am I(わたしはだあれ)?」


 口が意味のある言葉を――否、意味はあるがもはや人に向けた言葉ではない文字列を発声する。


「……あなたはガーベラ、でしょう?」

No(いいえ)


 僕の言葉に首を振り、


「――I am Unknown」


 その言葉を発した直後――彼女の体が欠けはじめた。

 まるで空間そのものに蝕まれていくように、ガーベラの身体が出血もないままに欠けていく。いや……視えなくなっていく。

 まるで、アルハザードのモチーフであろう魔術師の死の瞬間の如く、見えない怪物に食われるように消えていく。



「――――《皆既肉蝕(アルハザード)》」



 そうして為されたのは、必殺スキルの宣言。

 それが完了した直後、ガーベラの体は完全に消失した。


「……!」


 これはまさか、バビの《ユニオン・ジャック》と同じ……ガードナーと<マスター>が融合した?

 唯一の欠点であった彼女ごと、知覚されなくなるスキル?


「バビ! リズ!」


 二人に指示し、彼女たちが先刻までいた場所に遠距離攻撃スキルを集中する。

 リズの糸は既にこの部屋に張り巡らされている。

 その糸の反応がないということは、まだそこにいるということ。

 攻撃を回避しようとしたなら、そちらに火力を集中する。

 回避は出来ない。


「……ッ!」


 だと言うのに、どの攻撃も当たった気配がない。

 それどころか……。


「これは、見えないだけじゃ……!?」


 いつの間にか――周囲の光景が一変していた。


【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】、【I am Unknown】。


 壁いっぱいに、「I am Unknown」の文字が刻まれている。

 幾つも、幾つも、僕に主張するように、自分に言い聞かせるように、「I am Unknown」の文字が刻まれている。

 けれど、それは本当にいつの間にか、だ。

 僕にはそれが刻まれる瞬間は見えなかったし、刻む音も聞こえなかった。

 そして、当たり前のようにリズの糸も全て切断されている。


「隠蔽能力が、格段に強化されている……!」


 元々の能力は、アルハザードだけを隠蔽するものだった。

 けれど今はアルハザードが影響を及ぼしたもの(・・・・・・・・・)まで作用している。

 変化の瞬間を感知できない。

 これが隠蔽能力の極地、一切の異常に気づかせない世界に対する隠蔽能力。


「……本当に」


 <エンブリオ>の性能は、僕がこれまで見てきた中でも最悪に近いものだ。

 ……けれど、これほどまでの力を発揮しながらも、彼女のままなのだと思わされる。

 だって、壁に文字を刻む必要はない。

 さっさと僕をデスペナルティにして離脱すればいいのに、そんな余計なことをする。

 そこまでして、以前の自分にしがみつき、取り戻そうとしている。

 自己を顕示しながら、理想の自分を再び無意識に刷り込みなおそうとしている。


 ……その様が僕にはひどく憐れに思えた。


「……っ!?」


 気がつくと、僕の左手に裂傷が走り、血がだらだらと流れていた。

 けれど、今この瞬間の傷でなく数秒前に切られたものに今気づけた、といった有り様だ。


「なにこれー!?」


 バビもまた、いつの間にか増える傷に苦しめられている。

 バビとリズが全周に対し無差別のランダム攻撃を仕掛けているが、命中しているのか、効いているかも定かじゃない。

 そもそも、向こうは隠蔽特化とはいえ<超級>のガードナー。融合したことでそのステータスは更に跳ね上がっているはずだ。

 対して元々こっちのパワーが弱い。火力を集中しなければ万に一つも勝ち目はないのに……それさえできない。

 一瞬、《ユニオン・ジャック――鋼魔人》の使用も考えたけれど……あれを使用しても状況は変わらない。そもそも、使用させてももらえないだろう。

 僕達に勝ち目はない。


「ここまで、かな」


 これ以上は今の僕には何も出来ない。

 気がつくと、首から【救命のブローチ】が砕けて落ちていた。

 どうやら嬲るのをやめて命をとりにきたようだ。

 だから、本当にここまで。

 だけど……一つだけ言える。


「やっぱり、迂闊ですよ」


 ガーベラはこうして僕を追い込んだ時点で既に……最悪手を打っている。

 融合してステータスも隠蔽能力も上がったなら、そのまますぐに殺して逃げればよかったのに。

 僕なんかに構っているから……間に合った(・・・・・)


 瞬間――道路に面した壁を粉砕して、人間大の何かが室内に飛び込んでくる。


「――悪いな。最短距離で来たけど、思ったより時間かかった」


 それが何であるか……いや、誰であるかを、僕は知っている。

 僕が事前にバビにお願いしていたことは二つ。

 一つは、ガーベラの監視。

 そして、もう一つは……伝言。

 エリザベートちゃんを通した、官憲への伝言。

 「真犯人を明らかにするから、それが済んだらすぐにあの人を解放してほしい」、と。

 窓を……正確には窓があった壁の向こうを見る。

 そこには、蝙蝠の羽を生やした眼球が飛んでいる。

 それは【ブロードキャストアイ】。

 あのフランクリンによって作られ、現在はギデオンで運用されている通信用のモンスター。

 さっきまでのガーベラとのやり取りは、あれを通して詰所にも音声付で流れていたはずだ。

 だから、ガーベラが真犯人ということは官憲の捜査員にも知れている。

 既に王国での指名手配も成されただろう。

 何より、


「本命の、ご登場ですね」

「応。待たせたな」


 ――解放されたお兄さんがそこにいた。


 ガーベラが<超級>である可能性が出た時点で、僕はこの事件の解決をお兄さんに委ねることにした。

 そのためにはガーベラが真犯人であると証明してお兄さんを解放する必要があったから、僕が相手の自供を引き出した。

 僕のお膳立てはここまで。

 探偵の仕事は、真実を明らかにすること。

 犯人を逮捕するのは……いいえ、倒すのは僕の役割じゃない。


 お兄さんの……本物の“正体不明”の役割だ。


「話は通信でも、テレパシーカフスでも聞いてた。まだいるんだろう、自称“正体不明”」


 お兄さんは着ぐるみじゃない。

 あの日にフランクリンと戦った時と同じ、神衣。

 それは即ち、お兄さんが【破壊王】として、<超級>として、全力で戦うことの証明。

 即ち、これから始まる戦いもあの夜と同じもの――<超級激突>。


「ご存知の通り。元“正体不明”のシュウ・スターリングだ」


 お兄さんの言葉に、何の反応もない。

 何かをしているけど僕達に感知出来ないのか、それとも本当に何もしていないのか。

 それでも、この言葉を聞いていることは確実だ。

 お兄さんの登場と同時に逃げられるような人なら、こんな状態になっていないだろうから。


「言いたいことは山ほどあるが、どうも会話は出来そうにないからな。一言だけでいい」


 お兄さんは自分の首を親指で指しながら、


「逃げも隠れもしないしここで戦ってやるから、さっさとかかって来な」


 挑発ではなく、本心からそう言った。

 いずれにしろその言葉で確実に戦いは始まる。

 完全隠蔽能力を有するガーベラにとって、お兄さんの保有戦力で最も警戒すべきは大火力広範囲攻撃の戦艦だ。

 あれが使えない街中というシチュエーション、彼女にとっては待ちに待った展開だろうから。


 けれど、お兄さんの言葉から一分ほどが経ってもガーベラは仕掛けない。

 逃げた……いや、それはない。


「そうか、警戒しているんだ」


 ガーベラが警戒しているのは、お兄さんからのカウンター。

 仮に致命傷を与えても、お兄さんには【ブローチ】がある。

 それがある以上、お兄さんがSTR特化でも一度の攻撃では致命傷にならないし、逆に一発でも攻撃がまぐれ当たりすればガーベラは終わりだ。

 既に【ブローチ】を失くしたガーベラには、その一か八かの賭けが打てない。


「ああ、これが気になって仕掛けてこないのか」


 お兄さんも、ガーベラが仕掛けてこない理由に気づいた。

 すると、お兄さんは装備していた【ブローチ】を掴み、


「よっと」


 ――そのまま握り潰した。


「これで、俺の命は一つきりだ。遠慮なく俺の命と“正体不明”の名を奪いに来い」


 【ブローチ】は破損から二十四時間は付け替えられない。

 正真正銘、お兄さんとガーベラの条件が五分になった。

 お兄さんは熊の毛皮の下から見える口元で、不敵に笑った。


「――来いよ」


 果たしてその言葉が契機になったのか――状況は大きく動いた。


 けれど、僕の目から見えたのはお兄さんの動きだけ。


 広げられていたお兄さんの左手が霞み、


「――――」


 次の瞬間には首の横で握られていた。


「――そこか?」


 次の瞬間にお兄さんの全身が躍動し、特訓でも幾度か見たコダチと呼ばれる回し蹴りを放った。

 僕には何も掴んでいるようには見えなかったし、何かを蹴ったようにも見えなかった。


 ――直後に、周囲の光景は激変した。


 お兄さんの首筋から血飛沫が溢れ、

 壁の一面に大穴が空き、

 壁の向こうの彼方から誰かの――ガーベラの悲鳴が聞こえた。


 その後は……何もない。

 ガーベラの追撃はないし、どこかが壊れることもない。

 ただ、お兄さんが「いてて」と言いながら首筋を押さえただけ。


「…………」


 その状況から推察できることはあったけれど、現実として理解するのが難しかった。

 お兄さんの首筋の傷は、ガーベラの攻撃。

 壁に空いた大穴は、お兄さんに蹴り飛ばされたガーベラのもの。

 そして悲鳴は、必殺スキルによる融合が解除されるほどのダメージを受けたガーベラの断末魔。

 つまりお兄さんは首筋への攻撃を感知し、手で阻み、一撃でガーベラを倒したことになる。

 感知不可能なものを感知した手段、それについて……お兄さんの言葉が一つの答えを示唆していた。


「……痛覚を(・・・)オンにしたんですか(・・・・・・・・・)?」

「ああ、六感に感知されない能力だとは事前に聞いてたからな。加えて、自分が起こした影響まで誤認させてるのもなんとなく分かった。じゃあ痛覚もそうなのか試したら、ばっちり痛かったんでわかった」


 痛覚。

 <マスター>にとっては基本的にオフだし、任意でオンにしなければこの<Infinite Dendrogram>では味わうことのない感覚。

 僕も地獄の特訓で使うまであんな痛みは知らなかった。

 それをお兄さんは、実戦に用いた。

 痛覚までは隠蔽できなかったらしいアルハザードの攻撃タイミングを察知して……カウンターの一撃で葬った。

 理屈には、合っている。

 けれど、これは尋常な手段じゃない。

 知覚出来ない敵との戦いで痛覚をオンにすること。

 通常の感覚が通じない相手に、痛覚頼りで一か八かの賭けをすること。

 そして、それをあっさりと達成してしまうこと。

 ……この人、やっぱりレイさんのお兄さんなんだな。

 無茶のやり方が、似てる。


「でも、どうして痛覚はそのままだって分かったんですか?」


 一つ分からないのが、それ。

 時間を掛けたり、あるいは掠り傷を負ってから痛覚オンで確認すれば分かったかもしれない。

 けれど、お兄さんは来たばかりだったし、最後の一撃を受けるまで傷も負っていなかった。

 痛覚がないリズじゃ感知できないことだったから僕にも分からない。

 なのにどうして、お兄さんは分かったのかと問うと……。


「色々あるが……まとめると勘と経験則(・・・・・)になるな」


 そんな、具体的な内容がさっぱり分からない言葉で返された。

 答えになってないというか、理屈が分からない。

 けれど、お兄さんには通る理屈なのかもしれない。


「……ふふっ」


 なんだか、今回の件で考え続けた自分が滑稽になって、笑ってしまった。


『よーし、真犯人もぶっ飛ばしたし打ち上げに飯でも食いにいくクマー。久々の娑婆の飯クマー』


 神衣から着ぐるみに戻ったお兄さんが、そんなことを言った。


「ああ、でも僕はさっき食べて」

「ルークー……バビ、まだお夕飯食べてないんだけどー……。張り込み頑張ったんだけどー……ガブガブ」


 ……すごく恨みがましい目をしたバビが首に腕を絡めて締めつけて来た。

 うん、頭に齧りつかないでくれるかな。ネメシスさんみたいだよ。

 

「……ご飯、食べましょうか」

『応! 奢るから俺の行きつけの店に行くクマー!』


 お兄さんは少し声を弾ませている。

 まぁ、丸一日以上も檻の中だったのだから、無理もないかな。

 何にしても、これでめでたしめでたしに…………あ。


「……お兄さん」

『ん? どしたクマ?』

「向こうに見える、穴が開いた無数の建物は何でしょう?」


 お兄さんが入ってくる時に粉砕した壁の向こうには、一様に穴が空いた建物が沢山見えた。

 まるで、人間大の物体が壁を砕きながら移動してきたような痕跡。

 ……これ、一番街にある詰所からずっと続いてそうだね。


『……急いでたから最短一直線(・・・・・)だったクマ』


 最短距離とは言っていましたね。普通は壁を壊すとその分だけ遅れそうですが、お兄さんほどになるとノータイムで突破できてしまうのでしょう。

 本当に一直線にやってきてくれたのが、外を見るとよくわかります。

 穴が空いた建物から避難する人々の姿もよく見えます。


「しゅ、シュウ・スターリング!!」


 と、そこのアパルトメントのドアを開けて官憲の捜査員の人達が雪崩れ込んできました。


「き、器物損壊の現行犯で逮捕します!」

『ギャー!? 緊急事態だったから勘弁してほしいクマー!!』


 ……どうやら、お兄さんはまた牢屋の中に戻るようだ。

 こっちの事件は……僕にもどうしようもないね。


 ◇


 後日談。

 その後、ギデオンの建物を幾つも破壊した一件は怪我人が出なかったことや、エリザベートちゃんのとりなし、事件解決のためという理由もあったため、被害に遭った建物の弁償という形で決着した。

 お兄さんは『儲けが吹っ飛ぶクマー!?』と言いながら、ポップコーンを売りさばいている。

 かくして、ギデオンを震撼させた連続強盗殺人事件の幕は引かれたのだった。


 To be continued

余談:

【唯我六尊 アルハザード】

【兇手】ガーベラの操る、「ガーベラしか感知できない」特性の<超級エンブリオ>。

TYPE:ワールドガーディアン(ガードナーとテリトリーのハイブリット&ハイエンド)

ガーベラ以外の五感に感知されず、魔法的・科学的な警戒網にも察知されず、直感に類するセンススキルさえも無効化する隠蔽特化の最高峰。(<マスター>がリアルから持っている天性の勘は保護機能により無効化されないので作用する。ただし、情報が一切感知できないアルハザードに普段通りの勘を発揮できる可能性は低い)

また、<マスター>の左手の甲にある<エンブリオ>の紋章さえも隠蔽でき、効果は外部からスキルを用いて調べてもガーベラがティアンと認識されるほど。

隠蔽能力にリソースのほとんどを使っているため、ステータスは純竜クラスに収まっている。

逆を言えば、純竜クラスが全く感知されずに奇襲を仕掛けてくる厄介極まりない存在である。


【皆既肉蝕】:

アルハザードの必殺スキル。

ガーベラと一体化し、全性能を底上げする。(バビロンの《ユニオン・ジャック》と同じ融合スキル)

ステータスの向上だけでなく隠蔽も強化されており、周辺空間でのアルハザードが原因の変化そのものを隠蔽する。

隠蔽された変化を他者が知覚するには一定時間(十数秒)の経過、あるいはガーベラ自身が「知覚させる」と考えなければならない。(作中においては傷を知覚したのが前者、壁一面の文字が後者である)

ゆえに、古来より使われてきた「空気の流れで察知する」、「糸で察知する」など透明な相手への対処法のほとんどが無力化される。

特に恐ろしいのは攻撃を受けても気づけない事であり、致命傷を受けたことにも気づけず回復魔法などの対処が遅れて死に至る者もいた。


しかし最強・無敵の隠蔽能力(ガーベラが自分で言っていることだが、実際そう言えるだけの性能は持っている)に二つの欠点がある。

一つは知覚の有無に依らない広範囲無差別攻撃。

もう一つは、隠蔽できない唯一の感覚による感知である。

上に述べたように、アルハザードはガーベラにのみ感知される存在である。

では、そもそも「ガーベラでもアルハザードから感知できない」感覚であっても隠蔽はされるのか。

答えは否であり、その感覚とは痛覚である。

元々痛覚をオフにしているガーベラは、アルハザードから痛みを感知できない(・・・・・・)

それゆえ「ガーベラしか感知できない」というアルハザードの特性の基本原則に含まれず、与える痛みは隠されない。

痛みに限れば、必殺スキル使用状態のアルハザードからでも感知できるのである。

もっとも「いつ攻撃してくるかもわからない見えない敵」の前で痛覚をオンにしようなどという輩はまずいないため、普通は対処不可能である。

なお、ガーベラが常時痛覚オンにすればこちらも隠蔽されるが、実行するのは難しい。


(=ↀωↀ=)<ガーベラのその後については次回のエピローグでー


( ̄(エ) ̄)<なあ、俺の外伝って言っていたわりには出番少なくなかったクマ?


( ̄(エ) ̄)<これ、俺っていうかルークとガーベラの外伝じゃないクマ?


(=ↀωↀ=)<……く、クライマックスで活躍したからいいじゃん(目逸らし)


( ̄(エ) ̄)<ガッデム!


余談②:

今回の外伝のコンセプト②。

「ルークが推理して、クマニーサンがワンパンで〆るミステリー(物理)」。

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ミステリー(物理)は草
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