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番外編 姉妹の会話

(=ↀωↀ=)<時系列的には三章と四章の間ですー


( ̄(エ) ̄)<久しぶりの日常回クマ

 □【聖騎士】レイ・スターリング


 フランクリンの事件の後からギデオンに居座っている俺達だが、それなりに長く過ごすと日課のようなものも出来てくる。

 俺の場合は決闘ランカーの人達に胸を借りた模擬戦や、いつものパーティメンバー(時には霞達も加えて)での探索やクエストが主なものだ。

 しかし、時々はこの二つ以外の用事も入る。

 それは兄が販売を画策しているポップコーンの試食であったり、フィガロさんと兄が激戦を繰り広げた騎乗レースなど変則決闘競技の観戦であったり、あるいは近衛騎士団に混ざっての剣術稽古などである。

 今日の用事はこの三つ目に当たる。


 さて、もはや確認するまでも無いことだが俺のジョブは【聖騎士】である。

 そして【聖騎士】しかない。

 <Infinite Dendrogram>では上級二つ、下級六つのジョブを取得可能であるが、俺はまだその一つ目だ。

 縁あって【聖騎士】からスタートし、まずはそれをカンストした方がステータスの伸びや後のジョブのレベルアップのしやすさからも都合がいいらしいので、他のジョブはまだ取っていない。

 ゆえに当然、【騎士】も取得していない。

 だから剣術稽古をしても騎士剣技スキルの会得や、何らかのスキルレベルが上がることも無いので意味がないように思える。

 しかしリリアーナ曰く、「スキルが取得できない、あるいはスキルレベルが上昇しない状態でも予め鍛錬して下地を作っておくことで、いずれスキルを取得できる状態になった時にスムーズに覚えられる」のだという。

 下級職でスキルレベルが下級職のレベルキャップに到達した後も鍛錬を続けていた人は、上級職になった時にサクサクとスキルレベルが上がる、といった具合だ。

 「だから稽古は無駄になりませんよ」と言われ、なるほどと思って一緒に鍛錬している。

 剣術など子供の頃に近所の剣道場に少し通った程度。武器形態のネメシスの扱いもほぼ我流、……というか俺だけはネメシスのウェイトを感じないのをいいことに我武者羅に振り回しているに近い。

 ゆえに、騎士団に混ざっての剣術稽古はそういう意味でも無駄ではなく、学ぶべきことがたしかにある。

 もっとも、“大剣や斧槍に変形しながら戦う武器”を使う【聖騎士】など他に誰もいないので、学べないことも多いのだが。


「……?」


 一緒に鍛錬していて気づいたことがある。

 それはリリアーナの剣捌き。

 多くの近衛騎士が使っている剣の型と、明らかに剣の質が異なるのだ。

 ほとんどの近衛騎士は利き手に剣を、逆の手に盾を持ち、防御主体の剣技を駆使している。

 一方、リリアーナの剣は攻撃に特化していた。

 盾は持たず、細身なれども刃渡りの長いトゥーハンドソードを使い、連続して相手を切り伏せるスタイル。

 何と言うか、【騎士】というより【剣士】みたいな戦い方だ。


「レイさん、どうなさいました?」


 俺が観察していることに気づいたのか、リリアーナがそう問いかけてきた。


「リリアーナさんの剣が、他の人達と感じが違ったので気になって」


 俺がそう言うと、リリアーナは「ああ」と納得した様子だった。


「私の剣は【騎士】になる前に父から教わったものですから。【聖騎士】になった今もスタイルを変えていないんです」

「なるほど、お父さんに……あれ? でもお父さんってたしか……」


 リリアーナの父は【天騎士】ラングレイ・グランドリアである。

 すでに鬼籍に入った人物ではあるが、この騎士の国において騎士の中の騎士とも呼ばれた人物である。

 そんな人物から教わった剣が、騎士とは異なるベクトルの剣とはどういうことなのだろう?


「父は元々グランバロアの出身ですからね。軽装で攻撃特化の【海賊剣士パイレーツ・ソードマン】だったそうです」


 ……うん?

 あれ? 騎士の中の、騎士?


「まだ十代半ばの頃に実家と国を飛び出して王国にやってきたそうです。それに、貴族令嬢だった母とお互いに一目惚れしたらしく……。母との結婚を認めてもらうために【騎士】になり、【聖騎士】になり、実績を積んだそうです。その内に認められ、才もあったのか【天騎士】に就くこともできました」


 人に歴史ありとは言うが、リリアーナの父にも色々あったらしい。

 ……うちの兄もあれで紆余曲折経た人生送っているしな、どこの家もそうかもしれない。


『子役俳優で、歌手で、格闘家で、学生で、ニートで、トドメに【破壊王】とか紆余曲折が意味不明にも程があるのぅ』


 ほんとだよ……。


「ただ、騎士になってからもグランバロア流の剣術は抜け切らなかったみたいで、海賊剣術と騎士剣術を組み合わせた独特な剣になったそうです。だから父に習った私の剣もこうなっているんですよ」

「……なるほど」


 他の騎士の剣術と毛色が違う理由はよく分かった。

 それと、最初の頃に国名のグランバロアとリリアーナの苗字のグランドリアを聞き、「ちょっと似てるな」とは思っていた。グランドリアが父方の苗字であるなら、何か関係があるのかもしれない。

 と、そうだ。リリアーナの家庭のことを聞いていて思い出したが、今彼女の妹であるミリアーヌはどうしているのだろう。


「そういえば、ミリアーヌは今どうしているんですか?」


 たしかリリアーナ達は父だけでなく母も既に亡くしていたはずだ。

 リリアーナがギデオンに長く駐留している今、ミリアーヌはどう過ごしているのだろう。


「母方の伯父夫婦にお預けしています。伯父も王城の文官で王都住まいなので。……ふぅ」

「なるほど、……?」


 ミリアーヌのことを振ったら、何だかリリアーナの顔が暗く沈んでいる。


「あの、何か悪いことを言ってしまいましたか?」

「いえ、そうではないんです。ただ……もうすぐあの子の誕生日なので」

「ああ、それはめでた…………あぁ」


 そう聞いて、俺はなぜリリアーナが暗く沈んだ顔になったのか思い至った。

 フランクリンの事件からずっと、近衛騎士団は第二王女であるエリザベートの護衛でこのギデオンに滞在している。

 エリザベートが馬車や竜車でも一日二日あれば移動できる王都に戻るでもなく、このギデオンに置かれ続けている理由は俺にはわからない。

 が、理由は分からなくともその影響でリリアーナが「長期出張で娘の誕生日に帰れないお父さん」状態になっている。

 正確には妹とお姉さんであるが。


「あの子は私の誕生日を祝ってくれたのに、私は帰ってあげることすら出来なくて……」

「…………」


 リリアーナの誕生日、というのは初めてログインした日のことだから俺もよく覚えている。

 そういえば、ネメシスはあの日に孵化したのだから、あの日が誕生日ということになる。

 来年……というかデンドロ時間で一年経ったらお祝いするか。


『それならあの日と同じように美味しいものをたらふく食べたいのぅ』


 ああ、兄が俺の歓迎パーティ開いてくれたしな。

 ……そういえば兄はあのパーティ開くのに幾らかかったのだろうか。

 一戦闘で何十億と吹っ飛ばす兄のこと……とんでもないことになっていそうだ。

 まぁ、この話は置いておこう。

 今考えるべきはリリアーナとミリアーヌのことだ。


「誕生日だけでも王都に戻っては?」


 必要ならシルバーを貸してもいい。飛びながら走れば日帰りでも余裕を持って移動出来るだろう。

 そう思ったのだが、リリアーナは首を振った。


「いつ再びフランクリンのような輩が殿下に手を出すか分かりませんから、近衛騎士団を纏める私がこの地を離れるわけには参りません」


 ……フランクリンはこの姉妹の誕生日ぶっ壊しすぎだろう。


「じゃあプレゼントやメッセージカードだけでも送ってあげては」

「そうですね。それがいいかもしれません。でも、あの子は何をあげれば一番喜んでくれるのかしら……」

「…………」


 単身赴任で娘のリクエストが分からないお父さんみたいになってる。姉だけど。


「同じ年代の子供が何を欲しがっているかを調べてみるといいかもしれませんね」


 リアルならネット通販の子供向け玩具カテゴリーの売り上げランキングとかで調べられるけど、こっちだとちょっと手間が掛かる。

 ……<DIN>にでも聞けば何とかなるか?


『オレは神話級武具が一つ二つ欲しいナ』

「わらわは《いんぺい》や《けはいそうさ》スキルがアップするそうびがほしいのじゃ。できればくつがいい」

「なるほど。神話級武具に《隠蔽》や《気配操作》…………あの、殿下と迅羽さんはなぜここに?」


 横から掛けられた声にメモを取っていたリリアーナが、はたと気づいたように声の主を見る。

 そこにいたのは彼女の主であるエリザベートと、なぜかエリザベートをその長い手で抱えている迅羽だった。

 ……その手、物凄く鋭いけど間違ってもエリザベート斬るなよ?

 で、ミスマッチ――年齢は同じくらいだけど――な二人がなぜ一緒にいるのかといえば……。


『「まちをさんぽしていたらバッタリ」』


 とのこと。

 …………まーた、脱走してるよ。

 建物の影に目をやれば、ギデオン伯爵に雇われている隠密集団らしき人達が何だか困った様子でこっちを見ていた。

 ……そうか、本職の忍者の監視からも脱走したのか。

 次は誘拐されても自力で脱出できそうだな、この子。


「はなしはきかせてもらったのじゃ。リリアーナやこのえきしだんが、おうとにかえれぬのもわらわのせきにん。ひとはだぬがせてもらうのじゃ」


 エリザベートはそう言って、胸を張ったのだった。

 何をする気なのだろうか?


 ◇◇◇


 □王都アルテア


 その日、誕生日を迎えたミリアーヌはと言えば、姉が想像しているよりも元気だった。

 というより、今日が自分の誕生日ということも忘れていた。

 姉の誕生日はしっかり覚えていてお祝いしたが、自分の誕生日がいつだったかの記憶は曖昧な娘であった。


 今日も午前中に家庭教師との勉強を終えてから、午後は気ままに王都を散策していた。

 ただし、これは散策と言うよりも冒険に近いかもしれない。

 なぜなら、彼女の散策範囲はこの王都の中央……王城にまで及んでいるのだから。

 元々貴族街に住んでいるので難易度は多少下がっているのだろうが、それにしても普通は入れるものではない。

 エリザベートが抜け出すことに比類なき才能を持っているとすれば、ミリアーヌは入り込む才能に秀でていると言えるだろう。

 幼い少女が何でそんな才を持っているのかという話にはなるが、そればかりはこの世界を管理する存在でも与り知らぬことである。

 実際、管理者である猫なら「聞かれても困るよー」と答えるであろう。

 ミリアーヌについて言えば、彼女の父であるラングレイ・グランドリアの家系に理由らしきものが無いでもない。

 グランドリア家はグランバロア四大船団の一角である海賊船団を取り仕切る家系であり、ラングレイは前頭首の次男だった。(現在の頭首はラングレイの兄である)

 ゆえにアウトローの技という括りにすれば、その血筋に理由を求めることも出来るだろう。

 だが、【海賊】は船上戦闘に特化しているため、ミリアーヌが持ち得るような侵入能力とは無縁であり、やはり根拠とするには薄い。


 ゆえに結論としては、二人の才能には何者の意思も血筋も介在せず、単なる偶然の賜物であった。


 さて、そんな本人も無自覚な才能を発揮してミリアーヌは王城に入り込む。

 普段は本のお爺さんのところでお菓子や絵本をもらったり、城の奥にいる小さな女の子やそのペットと遊んだりしているが、今日はどちらにも向かわない。

 新しいエリアを探索中である。

 ミリアーヌはもはや奇跡的なまでに巡回する衛兵の視線を掻い潜り、どういう訳か探知魔法のトラップにも引っかからないまま城の中を歩んでいく。

 いくつかのトラップについては、身長の問題で引っかからない。

 さらに、悪意感知のトラップも、当然のようにスルー。

 誰にも見つからないし、トラップも発動しない。

 あまりに何事も起きず、誰にも怒られないので、本人には忍び込んでいる自覚すらないのが最も恐ろしい点である。

 なお、こんな有り様だが王城の警戒はザルではない。

 ドライフの某白衣が忍び込ませようとした偵察モンスターなどはバッチリ弾いているのだから。

 単に、幼い少女の無自覚な潜入能力が偵察モンスターを上回ってしまっているだけである。


「あれー?」


 さて、そうして散策という名の潜入を続けていたミリアーヌであるが、進んだ道の突き当りにある施設を見つけた。

 内部から聞こえる水音に惹かれ、ミリアーヌはその施設の中に入り込んだ。


 ◇


 アルター王国の第一王女であるアルティミアは日課である自主鍛錬を終えて、公務に戻る前に一度湯を浴びて汗を流そうとしていた。

 王城の奥にある王族専用の浴場に入り、衣服を脱いで浴室に入る。

 過去の王族には自分で服も脱げないし体も洗えない人物がいたというが、彼女はそんなことはなかった。

 むしろ自分でできることは自分でやろうとする性質である。

 何より、入浴中まで家臣に気を使われるのを彼女は好かなかった、

 ゆえに今も供を連れずに一人で入浴している。

 体と髪を洗い、湯船につかって鍛錬で溜まった疲れを落とす。

 その時間は一人で静かに味わうものだと考えていたからだ。


「……あら?」


 そうして、気づく。

 湯気越しに、何やら小さな人影がある。

 彼女の下の妹と同じくらいだが、妹は病弱なので一人では湯船に入れない。

 ならば何者だろうと目を凝らし、見覚えのない少女であると気づいた。

 アルティミアは「よもや暗殺者では」とも考えたが、その割には殺気も邪念もない。

 そもそも、暗殺を仕掛けるなら髪を洗っている時がベストのタイミングであっただろう。

 その少女は、自分を見ているアルティミアに気付くと「こんにちは!」と元気に可愛らしくあいさつした。


「……こんにちは」


 アルティミアもついつい同じ言葉で返してしまう。

 言葉を返しながらも、アルティミアの頭の中は「この少女は何者なのだろう」と疑問でいっぱいになる。挨拶の後は肩まで浸かって数を数えているのも謎だ。

 顔立ち自体は見覚えがあるというか、よく知る人物に似ているような気がするものの状況の異常さのせいで上手くイメージが繋がらない。

 そもそも状況と言えば、幼い少女がどうすれば一国の王城の浴室に忍び込めるのかという話になる。

 論理的に考えて不可能である。


「……もしや」


 そこで、彼女は伝え聞いたある話を思い出した。

 それは遥か東方にある天地に伝わる逸話。

 幼い童や童女の姿をして家屋に住まい、家の中で遊び、不思議な隣人として生活しながら、その家に幸福をもたらすというヨウカイの話。


「ヨウカイ、ホームワラシ……」


 なるほど、この少女がそうなのであろうとアルティミアは確信した。

 そうでもなければこんなところに少女がいるわけがないとも考えた。


「天地だけでなく、王国にもいたのね……」


 己の推測(的外れ)に真剣に頷きながら、アルティミアは納得した。

 斜めの方向に思い込んでしまうタイプである。


「きゅーじゅーきゅー、ひゃーく」


 ホームワラシ(違)は百まで数えて浴槽を出た。


「さようならー」

「……え、ええ。さようなら」


 別れの挨拶と共に浴場を出て行った少女を、アルティミアは見送る。


「……ホームワラシがいるということは、何かいいことがあるのかしら。それとも、今出て行ってしまったのかしら」


 ホームワラシ説を信じたまま、アルティミアは考えこむ。

 だが、最終的に幸運であろうとなかろうと、自分がすべき義務は手を抜かずに果たし続けなければならないと結論付けた。

 そのまま彼女は「頑張ろう」と心に誓いながら、入浴を終えて公務に戻ったのだった。


 後日、別の場所でミリアーヌと顔を合わせてとても驚くことになるのだが、それはまた別の話である。


 ◇


 なお、ミリアーヌの入浴は大きすぎるお風呂を公衆浴場の類と勘違いしたゆえの所業である。

 余談だが、現在の王都では先だっての<流行病>の件を受け、衛生向上のために公衆浴場が無料開放されている。

 公衆浴場にはミリアーヌも時々一人で入りに行っているので、その延長線で王城での入浴という万人の想定外を達成してしまったのであった。


 ◇


 今日の散策を終えて伯父の家に戻ると、食卓にご馳走が並んでいた。

 不思議に思っていたときに、伯父から自分の誕生日であると教えられて思い出した。

 同時に、姉がこの場にいないことを少しだけ「さびしいな」と思った。

けれど、そんな様子を伯父夫婦には見せず、一緒にご馳走とケーキを食べた。


 ご飯の後、伯父から「これはお姉さんから贈られてきた誕生日プレゼントだよ」という言葉と共に、包装されたプレゼントを手渡された。

 部屋に戻ったミリアーヌが包装を開けてみると、中身は手紙が貼り付けてある小さな宝石箱である。

 宝石箱の中に入っていたのは宝石――【ジュエル】だった。

 中には既にモンスターが入っているらしく、ミリアーヌはリリアーナからの手紙に書いてあるとおりに使ってみる。


「《こーる》、“ぶろーどきゃすとあい”」


 ミリアーヌがそう言うと、ジュエルの中から蝙蝠の羽をパタパタと羽ばたかせながら宙に浮かぶ、目玉のようなモンスターが出現した。

 ミリアーヌは驚いたが、その目玉はすぐに空中に何かを映し出す。

 ホログラムの像が結像し、そこに映っていたのは……。


『ミリア、見えている?』

「おねえちゃんだ!」


 彼女の姉である、リリアーナの姿だった。


 ◇


 ギデオンの事件で、フランクリンは計画のプランA、Bとしてギデオン内でのモンスター大量解放を目論んでいた。

 だが、ギデオン中に仕掛けられたモンスター解放装置は解放前にマリーが解放機構を破壊し、回収していた。

 そうしてマリーが入手したのは、中身が入った無数の【ジュエル】。

 それはギデオン伯爵によって引き取られ、利用法を模索されていた。

 これに関してはフランクリンが“逃がした状態”で運用したことも功を奏していた。所有権が既にフランクリンに無かったため、再利用が可能だったのだ。

 戦闘用のモンスターは「ティアンを攻撃しない」と「建築物や<マスター>を攻撃する」設定があったので戦闘には使えなかったが、騎士団のレベル上げのために用いられた。

 だが、一部の【ジュエル】には戦闘用ではなく【ブロードキャストアイ】……映像音声の受信・送信用のモンスターが格納されていた。ギデオンでの戦いを王都とギデオンに生中継していたモンスターの同種である。

 こちらは元々攻撃能力を持っていなかったため、特に設定が施されている様子もなかった。

 そこでギデオン伯爵領の【従魔師】で解析を行い、再利用できないかを研究していた。

 その解析は難航したものの、結果としては無事に使用できるようになった。

 かくして少数ではあるが【ブロードキャストアイ】が運用可能となり、リリアーナとミリアーヌの手元にいるのもその内の一組だった。

 遠く離れた二人が連絡を取り合う手段として、エリザベートがギデオン伯爵に頼んで融通してもらったものだ。


 王都とギデオンを繋ぐテレビ(【ブロードキャ)電話(ストアイ】)

 それがミリアーヌへの誕生日プレゼントだった。


 この世界において音声だけならば、通信魔法で既に連絡が取り合える。

 だが、それは送信する側にも受信する側にも通信魔法のスキルが必要となる。

 だから、遠く離れた姉妹が連絡を取れるのはこの手段だけ。

 何より、リリアーナが己の顔と言葉で妹に「誕生日おめでとう」と言えるのは、この【ブロードキャストアイ】があったからだ。

 フランクリンによって誕生日を台無しにされかけた姉妹であるが、そのフランクリンが作ったモンスターで言葉を交わせるようになった。


 このような話の運びを傍から見ていたレイは「塞翁が馬」という言葉を思い浮かべたのだった。


 ◇


 その日、数週間ぶりの姉との会話を、ミリアーヌは眠くなるまでずっと楽しんだ。

 そうして、その晩からミリアーヌの日課が一つ増えた。

 就寝前に、大好きな姉と会話するという日課が増えたのだった。


 End

余談:


グランバロア四大船団:

グランバロアの国体をなす四つの船団グループ。

冒険船団(開拓船団)、軍事船団、貿易船団、そして海賊船団で構成される。

統括するのはそれぞれグラフロント家、グランライト家、グランレフト家、そしてグランドリア家である。

また、グランバロアの国主はこの四家から選出され、国主になった時点で家名をグランバロアに変え、一代限りの長として国を治める。(※)


※グランバロアは長の子を次の長とする世襲制ではなく(※2)、四家が家中(婚姻によって家に入ったものも含む)から選んだ代表で競い合い、最も優秀な者を次代の長とするシステムである。

※前の長の子も、前の長の元々の家の代表として出馬することはある。



海賊船団:

私掠船の船団。

グランバロアに所属しておらず、交易の許可証も持っていない船を狩って積荷を収奪する。

海賊系統のジョブのものが多く属していることもありアウトローな雰囲気だが、不法密輸船の検挙が主な業務である。

あとはカジノや酒場の運営などにもちょっと噛んだりしている。


なお、属する者の多くは北欧のバイキングにも似た雰囲気であり、ラングレイ・グランドリアも幼少期はこの気風に沿った人物であった。

だが、王国に渡り【騎士】として長く活動を続ける間に真面目で落ち着いた人物になった模様。


余談の余談:

グランバロアの重鎮、それも海賊船団の船団長の息子であるラングレイの騎士団入りには色々問題もあったが、ラングレイの出奔前から友人だったエルドル国王(当時は王子)の助力で解決されている。

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