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歌姫と薔薇 その二

 □【高位操縦士】ユーゴー・レセップス


 私と師匠の出会いは、今から三週間ほど前のことだった。


 ◇


 三週間前、私は天地へと渡るためカルディナの大砂漠を越えようと試みていた。

 海路が使えれば最良だったが、ドライフは海軍を創設して海洋進出しようと考え始めてからグランバロアとの折り合いが悪い。煽りを受けてグランバロア商業船団の客船もストップしていたので、これは断念。

 王国経由で船に乗るというプランもあったものの……、さすがにギデオンであんな騒動を起こしておいて「通りますよ」と言えるほど私の面の皮は厚くない。

 そうなると、自然と大陸中央の砂漠を通るしかなくなる。

 北の厳冬山脈ルートもありますが、あれは人の通れる道ではありません。直近であそこを通過したのが黄河の<超級>の浮遊要塞だった辺り、「そこまでしないと通れないのか」という感想を抱くしかありません。

 だから砂漠越えなのだけど……砂漠を越える長い旅であるため、途中でログアウトすることを考えると行商の竜車に同乗することも出来ない。

 あの“応龍”の迅羽などは黄河から王国に来る際、黄河で作られるマジックアイテムの最高峰、移動式セーブポイント機能を持った竜車でティアンと共にやってきたらしいけれど……生憎とそんな超高級品は持っていない。

 だから私は、<マジンギア>を使った単独行で砂漠を渡ることにした。


 そして、旅は早々に続行不可能に陥った。

 こればかりは私の見通しが甘かったと言うしかない。

 <マジンギア>を動かすにはMPを使い、戦闘機動でなくともジリジリと消耗していく。砂漠という悪環境では動作一つとってもロスが大きく、余計な消費を強いられる。

 姉さんが用意してくれた機体でもそれは変わらない。

 むしろ、出力を優先したオーダーメイドの特別機であるため、燃費は他の機体より悪かった。重装型なのも拍車をかけている。

 仕方がないので一時的に<マジンギア>を格納し、大砂漠をキューコと二人で歩き……死にかけた。

 私のジョブは【高位操縦士】。加えてサブに【操縦士】と【整備士】。

 ……うん、ステータスからして砂漠を渡れるほど体が強くなかった。END低いし。

 そんな折、私達を獲物と判断したモンスター……砂漠に多く棲むワームの類が襲ってきた。

 私は<マジンギア>に乗り込んで戦うものの、機体はともかく中身の私が砂漠行軍のために絶不調であり、窮地に陥った。

 あまり共食いをしない種類のワームなのか、《地獄門》の効果がなかったことも悪条件。

 「このままではまずい」と思ったそのとき、空から歌声(・・)のようなものが聞こえてきた。

 私が何事かと機体のカメラを上方へと向けると、


 空から一機の<マジンギア>が飛んできた(・・・・・)


 <マジンギア>が天空を翔ける様を、私は初めて見た。

 飛翔する<マジンギア>は歌声のような音を轟かせながら、砂中から飛び出してくる全てのワームの脳天に砲弾を叩き込み、瞬時に絶命させていた。

 それこそ、まるでどこから飛び出してくるのが分かっていたかのように、一発の無駄もなくワームを次々に駆逐していく。

 その鮮やかな戦いぶりで、二分も経たないうちに全てのワームが殲滅されていた。

 そうして、戦闘とも呼べない一方的な戦いを終えた<マジンギア>は、私の前に降り立つ。

 パイロットは機体を降りて、左右で異なる赤と白の眼差しを向けながら私にこう言った。


「それフーちゃんの機体だよね。おー、ここじゃ人型の<マジンギア>もあまり見ないけど、フーちゃんのフルオーダーメイドなんて私の【オペラ】くらいだと思ってたよ。……あれ? でも社交性はあっても人格に難があるあのフーちゃんがそこまで入れ込むってすごい珍しいね!」


 パイロットの言葉が途切れなく、私に浴びせかけられる。

 その声には、私の気のせいではなく好奇心と疑問と……懐かしさが混ざっていた。

 明らかにこれを作った人物――姉さんを知っている風だった。

 だから私は聞いたのだ。


「姉さんの、知り合いですか?」


 言ってから、「しまった」と思った。

 姉さんは<Infinite Dendrogram>ではMr.フランクリンという男性なのだから。「姉さん」で伝わるわけもなく、あるいは逆に姉さんが本当は女性だとバラすことになりかねない。

 私が慌てて「間違えました」と訂正しようとすると、

 

「フーちゃんの性別を知ってて、それに姉さん……ああ、そっか! 君がフーちゃんの言ってた妹のユーちゃんだね!」

「え……?」


 私は本当に驚いた。

 姉さんが自分のリアルについて、目の前の人物に話していたということに。

 そんな人は、<叡智の三角>でもサブオーナーくらいしかいなかったのに。


「あれ? でもユーちゃんって妹、この子は男。……男の娘?」

「い、いえ、アバターは男性だけどリアルは女性です」

「そっか! そこもフーちゃんと同じなんだね! さっすが姉妹!」


 そう言って、何が嬉しかったのかサムズアップする。

 私は姉さんとも異なる独特のテンションに気圧されながら、それでも何とか尋ねた。


「あの、貴女は誰ですか?」


 その質問を待ってましたとばかりに手を打って、答えた。


「アタシは【撃墜王】のAR・I・CA! 昔は<叡智の三角>で今は<セフィロト>! そしてフーちゃんの親友だよ!」


 その返答に、私は息を呑んだ。

 【撃墜王】の話は姉さんからも聞いている。

 元々は<叡智の三角>に初期から所属していたテストパイロットで、脱退した後にカルディナで<超級>となった人物だ、と。

 “蒼穹歌姫”の異名を持ち、カルディナの最強クラン<セフィロト>でも戦闘に特化した人物とも聞いている。

 そんな人が目の前にいることに驚いて、私が何と言葉を発するべきか悩んでいると……。


「ところで、そのふるめかしいアカとシロのツートーンカラーは、ごじぶんのセンス? ハデでいたいたしいよ?」


 キューコが思いっきり見た目に毒舌を浴びせていた。

 空気が凍ったかと思った。《地獄門》も使ってなかったのに。

 「レイやネメシスのときといい、なぜキューコは初対面の相手にまず毒舌を浴びせるのだろう」、「たしかにあの髪から服まで赤と白の二色構成はどうかと思うけど」と私が懊悩していると、


「イエス! 赤と白は最高にクールな伝説のパイロットのカラーだからね! 派手なのもいいでしょ?」


 【撃墜王】は物凄い笑顔でまたサムズアップしていた。

 そこには怒った様子はまるでない。

 あるいは、毒舌だと気づいていないのかもしれなかった。


「ユーゴー、だめだこのひと。どくぜつがつうじない」

「そもそも毒舌浴びせないでくれるかな、キューコ……」


 変な緊張がありました。

 いきなり人のファッションにケチつけるのはやめようよキューコ。

 ……でも、姉さんは見るからにマッドサイエンティストで、あの【破壊王】は半裸のクマで、フィガロや迅羽も色々あれだったから……<超級>ってファッションセンスが奇抜じゃないといけないルールでもあるのかな?


「それより、見た感じだと砂漠で遭難しかけてたみたいだけど、大丈夫?」

「ええ、なんとか……あ。助けていただいてありがとうございます」


 まだお礼を言っていなかったことに気づき、慌てて頭を下げる。


「いいっていいって。それより、砂漠に慣れなくて苦労してるんじゃない?」

「それは……はい」


 実際、今のワームも相当危なかったし、これ以上の行軍も厳しいだろう。

 やはり単独ではなく、商隊か何かに同行した方が……でもログアウトのタイミングも考えると……。


「よし、わかった。お姉さんにまっかせなさーい」

「え?」

「この【撃墜王】AR・I・CAがユーちゃんの師匠になってあげよう」

「……えぇ?」

「砂漠の渡り方から<マジンギア>のイロハまで、地獄の修行でアタシが教え込んでやるぜー! これからは師匠って呼んでね!」


 かくして、いまだかつて味わったことのない強引さで私に師匠が出来た。


 ◇


 そのような流れで【撃墜王】AR・I・CAさんが半ば強引に私の師匠となり、「師匠」と呼ぶように強制しました。

 何だかとても大きな問題に思えますが……これはまだ問題とは言えません。その強引さに思うところはあるものの、許容範囲です。

 大きな問題はそれとは別に二つありました。


 一つ目は、師匠の修業が本当に地獄じみたものであったことです。

 手始めに、出会った時と同じようなワームの巣窟に放り込まれて、レベル上げという名の機体全損リスク多発行為を強要されたこと。

 師匠から模擬戦という名の一方的な蹂躙を受けて。(このとき、師匠は初見で《地獄門》を避けるという訳の分からない芸当をしでかしていました)

 機体の壊れた部分――幸いにしてオーダーメイドではなく既製品のパーツ部分だった――を修理するために一〇〇〇万リルほど徴収されたりもして。

 カラーは紅白だけど、師匠としてはブラックというシャレにならない人でした。

 ただ、文句をつけづらい点があるとすれば本当に私の実力が増してしまったことです。

 レベルはもちろん、操縦技術もセンススキルのレベルを超えて巧みにうごかせるようになっています。

 このように第一の問題は実益を伴っているので、仕方がないと納得できます。


 しかし真の問題は二つ目です。

 腕前は恐らく全ての<マジンギア>乗りの中で最高峰であり、機械の取り扱いやこのカルディナに関する知識も豊富な師匠。

 それだけならば尊敬に値します。

 ですが、人格面において私からすると引いてしまう性癖が師匠にはありました。


 ◇


「師匠、こんなところでも物色(・・)ですか?」

「そだよ?」


 賭博都市ヘルマイネのカジノのルーレットで大金をせしめ、換金前に店内の飲食スペースでノンアルコールのカクテルを嗜みながら、師匠は店内を見回しています。

 その視線の先にいるのは物ではなく、人。

 店内で働く見目麗しい給仕や、賭博を楽しみに来た資産家のご令嬢などです。


「ちなみにおめあては」

「あそこの長い髪のチャイナ美少年、あるいはあっちのバストが90超えてそうなお姉さん、そしてちょっと火遊びしたそうなご令嬢かな!」

「あいかわらず、みさかいないね、しねばいいのに」

「相変わらずキューちゃんはツンツンしてるなぁ。かわいー♪」

「みのきけんを、かんじるから、だきつくなー」


 ……これが師匠の人格の問題点、というか困った点。

 この師匠、相手が見目麗しければナンパするのです。

 しかも師匠は女性ですが、ナンパする相手は男性と女性の見境がありません。

 むしろ女性の方が多いかもしれません。

 相手によってお茶だけで済ますのか、その先(・・・)まで行くのかはまちまちですが……いずれにしろ十五歳のわたしには、理解に苦しむ話です。


「人肌恋しいのなら恋人を作ればよろしいのでは? 例えば、クランの中に好みの方はおられないんですか?」

「いないよ? オーナーは誘ったけど困り顔で振られたし、カルルは中身がどんなかアタシも知らないし、アルベルトは筋金入りの鉄面皮ターミネーターだし、顔が良いファトゥムはこっちで既婚だし、爺様と婆様はご年配だしねぇ……。クラン内恋愛は相手がいないんだよ」

「<セフィロト>にはあと三人おられるのでは?」

「論ずるに値しない」


 師匠の声と表情は「あいつらとラブとか考えるだけでも嫌だよ?」と言外に語っていました。

 ……どうやら、世界最強クランも内部では色々あるようです。


「それにね、決まった恋人を作るのもいいけど、一期一会の愛の語りも素晴らしいんだよ。一目惚れ、惹かれあい、刹那の逢瀬と、甘い思い出を残した別れ。アタシの国(イタリア)の映画ではよくある話さ。だからアタシもナンパ主義」

「……でも、三日前に「すごい美女に一晩百万リルでお相手してもらった!」とか言ってましたよね?」

「言ったね」


 師匠はあっけらかんと答えます。


「……それ、ナンパではないのでは?」

「容姿、話術、あと金銭。使えるものは何でも使って口説くのさ! アタシは愛の【撃墜王】だからね!」

「…………え?」

「と言っても超級職とアタシの性癖は関係ないんだけどね!」

「ええ、安心しました。一瞬、「え? 【撃墜王】ってそういう条件だったの?」と思いかけましたから」

「あははははははは。恋の撃墜数でもいいならあと三ヶ月は早く【撃墜王】に成れてたはずさ」


 師匠は大笑していますが、師匠のこれまでの行動からすると笑い話になりません。


「さーて、物色したはいいものの……この後(・・・)のこと考えると店でナンパするのもなー……あ」


 師匠はなにかを思いついたように、私とキューコを見ます。


「ユーちゃんユーちゃん」

「……何でしょう?」

「後で深いコミュ(いい)ニケーション(こと)しようぜ♪」


 ……ついにこっちにも毒牙を向けてきましたか。


「私はアバターこそ男でも中身は女なのでお断りします。付け加えれば未成年です」

「えー? キューちゃんも一緒に三人で……」

「ごめんこうむる」

「ありゃー、残念」


 この師匠はナンパで無理強いはしない主義らしいので、誘われても断ればいいだけなのは助かりますね。

 あと恋人や結婚相手のいる人にも手を出さないそうです。

 ……弁えているように見えますが、それ以外は見境ないのでアウトです。


「駄目かー。フーちゃんにも振られたんだよなー。姉妹どちらにも袖にされるアタシ。とほほー」


 姉さんにも粉かけたんですか……。


「姉さんとは親友なんですよね?」

「うん、だから結婚を前提に本気で口説いたけど振られた。それでもフーちゃんは一番の親友だからね!」


 「だから結婚を前提に」って何ですか……。

 ……師匠の恋愛観わかんない。

 ……迷わず思考放棄したい。


「けっきょく、おとことおんなのどっちがすき?」

「どっちも好きに決まってんじゃなーい。タチ専門だけどね」

「ユーゴーみたいにこっちとむこうでせいべつちがう?」

「まさか、正真正銘女性だよ。どっちもね」


 あっけらかんとしている師に対し、「駄目だこの人」という思いを隠す気にもなれず、溜め息を吐く。


「……ドライフやカルディナではなく、レジェンダリアがお似合いだったのでは?」

「あははー、バカ言えー。――アタシの性癖程度であそこの<超級>の変態共に敵うわけないだろ?」


 師匠はそんなアホみたいな台詞を、今までで一番真面目な顔で言いました。

 冗談の気配は一切ない。

 その言葉に、私は「絶対にレジェンダリアには足を踏み入れない」と心に誓いました。


 ◇


 師匠の性癖についてのバカ話の後、私は声のボリュームを落として師匠と真面目な話を切り出します。


「先ほどのルーレットですけど……稼ぎすぎでは?」

「いいんだよ、ベット状況に応じて露骨にサマ(・・)やる台だったし。だから向こうが入れる穴を確定した段階で賭けて、あっちの思惑を捻じ伏せてやっただけさ」

「…………」


 入れる穴を確定した段階、ですか。

 それこそ普通は分からないものでしょうけど……師匠には分かるのでしょうね。


「あたしもサマやるところじゃなきゃ目は使わないさ。こっちだけサマしたんじゃフェアとは言えないからね」

「ですが、ここは黄河マフィアの店でしょう? あまり目立つ賭け方と勝ち方をすると……睨まれるのでは?」

「それも狙いさ。連中から喧嘩を吹っ掛けてくれるなら、それが一番助かる」

「え?」

「犯罪者じゃないティアンを相手にするなら、相手から襲ってこないと“監獄”行きになるからね」


 「この国じゃ求められた金をきちんと納めてる限りは、マフィアでも犯罪者と呼べないからね」と師匠は鼻で笑いながら付け加えます。

 どうやら、師匠は最初からこの店……バックにいる黄河マフィアと敵対するためここに来ていたようです。

 私は、聞いていない話に内心で思い切り動揺しながら尋ねます。


「この店に入る前、「ここにはいただくものがある」と言っていましたよね。私はてっきり賭博で路銀を稼ぐのかと……」

「あっはっは、さすがに賭博で必要経費稼ぐほど落ちぶれちゃいないさ。アタシも<超級>の端くれで、資産は今日儲けた金と桁が違うからね」


 ……そうでした。

 姉さんもそうですが、<超級>というのは私から見てトンでもない金額をあっさり稼ぎ、それ以上に呆気なく費やす人々でした。


「連中からいただくものは、まぁ一言で言えば盗品さ」

「盗品?」

「ああ、アタシの馴染みの商会長……ていうかその人を通じたもっと上からの依頼でね。ある場所から盗まれた盗品を回収、あるいは中身をぶっ壊してくれって話でさ」


 盗品の回収。

 それはたしかに、黄河マフィアという犯罪組織の拠点に乗り込む理由としてはわかりやすいものだ。

 けれど、「あるいは破壊する」とはどういう意味なのか。


「盗まれたものを壊して、何の意味が?」

「ああ、ちょっと違うよ、ユーちゃん。盗まれたものじゃない、盗まれたものの中身をぶっ壊すんだ。出てきちまったらね」


 中身と強調するのは、盗品が何かの容器ということなのか。

 ならばやはりその容器の中身こそを“盗品”と言うべきなのでは……。


「その盗品というのは……」

「お隣の国の蔵の中で大切に死蔵されてたもんさ。だけど先日、蒼龍第三皇子の王国行きの際に持たせたほうがいいんじゃないかと議論されて、蔵から出して何を持たせるか選別している内にまんまと盗まれた……って品だね」

「それ、国宝じゃないですか!?」


 しかもカルディナでなく、東方の隣国である黄河のもの。

 そんな重要な物品が、ここカルディナで犯罪組織の手に渡っている。

 いや、黄河マフィアであることを考えれば、黄河の犯罪組織伝いに渡ってきたのか。

 どちらにしても、国際問題に発展するレベルの話です。


「そうそう。で、無事に返せれば黄河から色々引き出せるし、中身が出ちゃった場合は壊さないといけないけど……どうせ壊すならこっちの戦力が壊したほうがいいよねって話。で、アタシに白羽の矢が立ったわけだね。ほら、うちってコワレモノ注意で“丁寧な戦闘”ができる奴はあんまり多くないんだよね。それに婆様は対人専門だし、カルルは無敵だけど抜けてるところあるから。アタシは消去法かな」


 また、中身を壊すという話。

 他国の国宝なのに、半ば壊すことが前提となっています。


「……師匠」

「なんだい?」

「盗まれたものは、具体的に何なんです?」

「あぁ、それはね」


 師匠がその言葉の続きを発しようとしたとき、唐突に店内が大きくざわめいた。

 突如として、店内のスタッフ用の扉から何十人もの黒服の集団が姿を現す。

 そして、その内の半数は飲食スペースの一角――私達のテーブルの周りを取り囲んだ。

 …………これって。


「ハハハ。ほーらね、ユーちゃん。こんな大事な話を店内でベラベラ話してりゃ、絶対に連中が喧嘩を吹っ掛けてくる引き金になると思ったよ」

「……事前に言ってくださいよ」

「うん。観察力と洞察力の修行とでも思ってね!」


 観察力と洞察力と聞いて、大嫌いな銀髪の少年の顔を思い出しそうになりましたが……納得はしました。

 扉から現れた数十人の黒服の男達の内、私達を囲んでいない残る半数は他の客を店外に追いやっています。

 客は不満の声を上げていますが、有無を言わせません。


「おいおーい、あんまりな対応すると客足遠のくよ? と言っても……」


 師匠はそんな風に軽口を叩きます。

 ですが、


「明日以降、店が残ればの話だけどね」


 既に、彼らと事を構える準備はできているようです。

 師匠はフライトジャケットの左ポケットに手を入れて、何かをカチカチと動かしていました。

 ……私も準備しておきましょう。


「で、話は聞いてたと思うけどさ」


 師匠は椅子に座ったまま、取り囲む黒服を見上げてこう言いました。


「最奥宝物庫から持ち出された――宝物獣(<UBM>)の珠、出してくんない?」


 師匠がその言葉を発した瞬間に黒服達の空気が変わり、


「それをくれるなら代わりにアタシの三億六千万リルはチャラにしてあげても……」


 軽口を叩きながらそう言った師匠と、それから同じテーブルについていた私に向けて――数十の攻撃魔法が放たれた。


 To be continued

( ̄(エ) ̄)(=ↀωↀ=)<<やったか!?

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