第六話 正気度喪失
( ̄(エ) ̄)つ「日間一位」
(=ↀωↀ=)つ「ブクマ3000件突破」
……嬉しすぎて血を吐きそうです。
皆様本当にありがとうございます!
これからも<Infinite Dendrogram>をよろしくお願いいたします!
□<墓標迷宮> 【聖騎士】レイ・スターリング
俺が兄から<墓標迷宮>の話を聞いたのは現実時間で昨日、<Infinite Dendrogram>で三日前。
装備品を揃える買い物の小休止のときだった。
『この国で最大のダンジョンは王都の中にあるクマー』
兄は王都周辺の初心者狩場の適正レベルなどを教えてくれてから、付け加えるように話しはじめた。
「王都の中に? どういうことさ?」
『この王都の地下には<墓標迷宮>と呼ばれるアルター王国最大、いやこの大陸最大のダンジョンが眠っているクマー。……ちなみに下層には【デミドラグワーム】が比較にならないモンスターがうようよしているクマ』
その言葉に俺とネメシスは足元を凝視した。
「ドライフとの戦争以前に滅びるのではないかのぅ、この国……」
『<墓標迷宮>は神造ダンジョンクマ。内部のモンスターがダンジョンから出てくることはないクマ』
「神造ダンジョン?」
初めて聞く言葉に鸚鵡返しで尋ねると、兄はすぐ解説を始める。
……解説するの好きだな兄。
『<Infinite Dendrogram>のダンジョンは二種類あるクマ。一つは自然ダンジョン。これは『本来ダンジョンでないものが様々な事情でダンジョン化してしまったもの』クマ。あの【デミドラグワーム】と戦った<旧果樹園>が典型的な例だクマ』
他には知能の高い魔物が作った巣穴や、魔物に攻め落とされた砦なども自然ダンジョンに含まれる、と兄は言う。
『もう一つは神造ダンジョン。『初めからこの世界にダンジョンとして作られたもの』クマ。つまりは運営に作られたダンジョンクマ』
「ほう?」
『自然ダンジョンとの違いは大きく分けて三つあるクマ。一つ、モンスターのダンジョン外への流出がない』
そうじゃなかったら危なくてこの王都に住んでいられないよな。
『二つ、モンスターが生態系や要因に関係なく自動でリポップする』
リポップか。
この世界は人間の人格や生活だけでなく、モンスターの生態系もリアルだ。雌雄があり繁殖するタイプのモンスターは、理由なく湧いて出ることがない。
死亡したティアンが蘇らないように、モンスターも狩られすぎて絶滅することがあるらしい。
しかし神造ダンジョンのモンスターは例外で、無尽蔵に湧いて出るらしい。
死体がないのにアンデッドが湧いてくることも当たり前だそうだ。
『三つ、一定フロアごとにボスモンスターが配置され、ドロップのほかに追加で報酬が支払われる』
モンスターが尽きないのと同様に、宝物も無限に湧く。
それも階層が深くなればなるほど宝物のグレードも上がり、深部では一つ百万リルは下らない品も当たり前のようにドロップされる。
正に無限の富といったところか。
『神造ダンジョンは他にもあるが、これだけ進入が容易なのは<墓標迷宮>くらいクマ。ゲームとして見たとき、アルター王国に属する最大のメリットはこれだと言っていいクマ。入る条件が【許可証】ってアイテムとアルター王国に属する<マスター>であることだけだからな』
そこで兄は一度言葉を切って、こう言った。
『それこそ、肥沃な土地と同様にドライフがアルター王国を狙っている理由の一つでもある。何せドライフはこの国を攻め落としでもしない限り、<墓標迷宮>に入れないからな』
ドライフから見れば、アルター王国は無限の財貨が入った宝物庫を抱えているようなもの、か。
「兄貴が容姿を隠せる着ぐるみを手に入れてからも好みの国に移住せず、アルター王国に所属し続けていたのも<墓標迷宮>を探索するためか?」
『俺はあそこにはほとんど入ったことがないクマ』
意外な返答だった。
「どうして?」
『……第五形態以降のバルドルだとデカすぎてダンジョン内で使えないんだよ』
「…………」
『過ぎたるは及ばざるが如し』というわけではないのだろうけど、何事にも利点と欠点があるのだと思わされる話だった。
あと戦車よりでかいってどんな<エンブリオ>だよクマ兄。
◇
そして今現在、俺とネメシスは件の<墓標迷宮>の探索をしている。
地下の迷宮ということもあって真っ暗闇かとも思ったが、意外にもうっすらと灯りがついている。
どうやらこの迷宮の壁や天井に発光する鉱石を埋め込んであるらしい。
暗闇で光り続けているのだから蛍石ではないはずだが……ファンタジー世界だし不思議鉱石がいくらでもあるんだろう。
下へ向かう階段を三分ほど下ると、平坦な石畳の通路に辿り着いた。
幅は結構広く、十人程度は横に並んで歩けそうだ。
対して、天井はそこまで高くない。兄の言うようにサイズが大きいと引っかかって動けなくなってしまうだろう。
石の壁や天井ならば壊して進めるのではと考えたが、斬ってみても傷一つつかない。
どうやらこのダンジョンは破壊不能のようだ。
『<墓標迷宮>などとおどろおどろしい名が付いておるから不安だったが、入ってみれば小奇麗なダンジョンだの』
「そうだな。何らかの力で掃除されているのかもな」
このダンジョンに関してはリアルな世界よりも、運営の手による管理が優先されているのかもしれない。
『地上の墓地ではどうなるかと思ったが、これならば何の問題もないわ。モンスター共を片っ端からぶった切ってくれる!』
「でもこの階層に出てくるモンスターってアンデッドばっかりらしいぞ」
『…………え?』
俺は通路の奥を指差した。
噂をすれば影。指し示した先にはボロボロの衣服を纏った人……の骨だけ残った化け物がいた。
モンスターであることを証明するように、骨の頭上には【シビル・スケルトン】という名前が表示されている。
武器は持っておらず、素手の両手を広げてカチャカチャと鳴らしながら近寄ってくる。
市民ということは元々兵士や騎士ではなく市民の死体なのだろう。
とは言っても、この神造ダンジョンのモンスターは自然にポップするのだから故人の死体ではないはず。
これはあくまで市民のアンデッドという設定のモンスターに過ぎない。
……まぁ、このダンジョンの外に出てくる【スケルトン】は本当に誰かの死体なのだろうけども。
しかし他のゲームや漫画で気にしたことは無かったが、明らかに関節が離れているのが気になる。
筋肉などの繋ぐものが何もなく、関節に隙間が空いたままなのに普通に連動して動いているのが謎だ。
加えて、現実と違わないクオリティを誇る<Infinite Dendrogram>内では骨で出来た【スケルトン】は怖すぎる。
白い骨に少しだけ体液が乾いた後の赤や黄色が微かについているのがリアル過ぎて嫌だ。
今だけは「視界選択はアニメにすればよかったかな」と思ってしまう。
『…………』
「ネメシス?」
『…………』
反応がない。
どうやら心を無にしているようだ。
これからあれ相手にネメシスで切った張ったの戦闘をするからなぁ……。
「んじゃ、やりますか」
俺は大剣のネメシスで【スケルトン】に切りかかった。
【スケルトン】は骨だけの細い指をこちらに伸ばすが、それを指の向こうの腕や肩ごと砕き切る。
次いで、大剣の腹を向けたまま【スケルトン】の頭部に向けてフルスイング。
あたかも鈍器の如く振るわれた大剣によって【スケルトン】の頭部は粉砕された。
その一撃で倒せたらしく、経験値が入ってくる。
経験値量は昨日の狼より少ない。手応えから言ってもそんなものだろう。
しかし情報通り、最初の階層のモンスターは初心者狩場と同程度の強さらしい。これならレベル上げもできる。
『……もう少し触らずに済むやりかたはないかのぅ』
「今の俺たちに切る叩く以外にどういう戦い方があるんだ?」
俺は攻撃魔法なんて習得してないし、ネメシスのスキルも防御の《カウンターアブソープション》と接触カウンターの《復讐するは我にあり》だけ。
多少は消費型マジックアイテムを買い込みはしたが、それも限られている。
敵を倒そうとすればやはり近接物理攻撃をするしかない。
『それはその通りなのだが……精神的にきついのぅ』
「ここの【スケルトン】ならまだいいだろ」
本当に誰かの遺骨がモンスター化したわけではないのだから。
ならば不気味であっても、実は意外と清潔かもしれない。乾いているし出来たてだし。
『むぅ……そう考えれば多少はマシかの』
「そうそう。あ、またモンスターが…………」
『……………………』
俺とネメシスは通路の角から現れたモンスターに言葉を失った。
そのモンスターもやはり【スケルトン】と同じアンデッドモンスターだ。
しかし、そのモンスターは【スケルトン】より“太かった”。
腐り、蛆の湧いた肉が骨にひっついていたからだ。
付随した肉もいたるところが欠けており、その断面からは黄色や赤黒い色をした体液が滴っている。
現実と寸分違わない五感を誇る<Infinite Dendrogram>は余計なことにそれの発する名状しがたい腐臭までも伝えてくる。
そして怪物の頭上には【ウーンド・ゾンビ】という名称が表示されている。
この世ならざる醜悪な怪物を見てしまった探索者は1/1D6のSANチェックを……。
「……ハッ! あまりのグロさに意識が別のゲームに飛んでいた!」
あんまりにもあんまりなものが現れたのでつい……。
そりゃあアンデッドの巣窟なら【スケルトン】以外に【ゾンビ】もいるよな。
物静かだった【スケルトン】と違い、【ゾンビ】は呻き声を上げて体液をビチャビチャと垂らしながらこちらに迫ってくる。
「っと、戦闘開始か」
『なっ!? ま、待たぬか! まさか私であれを斬る気ではなかろうな!?』
「…………あれは死人じゃなくてこのダンジョンで作られたモンスターだから」
『いやいやいやいや! いくら生まれたてでもあんな酷いもの斬りたくないわ!』
「ネメシス」
本気で嫌がっているネメシスに対して俺は……。
「帰ったら磨くから我慢してくれ」
『いやああああああ!?』
悲鳴を上げるネメシスを振るい上げて【ゾンビ】へと突撃した。
To be continued
( ̄(エ) ̄)<日間一位を記念して今日は22:00にもう一回更新するクマー




