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第十九話 一休み

( ̄(エ) ̄)<分割投稿③クマー


(=ↀωↀ=)<終盤部分は若干のデッドヒート執筆中ですー!

 □<トルネ村>【聖騎士】レイ・スターリング


 風車で彩られた道を通り、俺達はトルネ村へと辿りついた。

 村の規模は王都やギデオンよりずっと小さい。広い土地に四百軒前後の家がまばらに建っており、農業用の大きな風車小屋が幾つか建っているためか、どことなく十五、六世紀のオランダの風景画を思い出す。

 明日から始まるという風星祭のためか、村の周辺はとても賑わっている様子だった。

 宿が取れなかったのか、村の敷地にテントを張っているものもいる。

 「あ、これは俺達も宿は取れないかな」と思ったが、先輩曰く「この馬車に泊まれますよ。内部が空間拡張されて、ちょっとしたキャンピングカーですので」とのこと。

 なら、リューイを母親の元に送り届け、今日はもうゆっくり休むことにした。

 ……したのだが。


 ◇


「この子は、もう、本当に無茶をして……!」

「ひっく、ひっく……」


 現在、リューイは彼の母であるファリカさんに涙交じりに叱られていた。

 子供一人で飛び出し、馬車に相乗りとはいえモンスターがうようよいる<山道>を通って王都にまで向かったのだ。

 叱られるのも当然……と言うより叱られねばならない話だ。


「何かあったら私もお父さん達も、どれだけ悲しむと……」


 お父さん達、というのは行方不明の義父シジマ氏と、既に鬼籍に入っているリューイの実父のことだろう。

 ファリカさんは父親の分もリューイを育てている。今回の一件での心労がいかばかりか、俺には推し量ることも出来ない。

 ただ、ファリカさんも無茶はしている。リューイが王都に向かったことを知ってから、俺達がリューイを連れてくるまで家の前で待っていたらしい。

 知り合いの商人や、王都に向かう人にリューイのことを伝えるなど手も尽くしてから、臨月の身重な身体で、家の前に椅子を置き、ずっと待っていたとのこと。

 いくらジョブやステータスがある環境で人々の身体がリアルより強くできているとはいっても、負担はあるだろう。

 リューイが心配だったのだろうけど、妊婦さんなのだしご自愛はして欲しい。


「だってッ、だって、義父さんを、探してほしくて……!」

「あの人のことなら、心配は要らないと何度も言ったでしょう……」

「でも! 捜さないと! 義父さん、その子が生まれるって聞いたとき、嬉しくて泣いてたじゃないか!」

「リューイ……」

「義父さんも、その子も、会いたいはずだよっ!」


 涙ながらに強い意志でそう言うリューイ。

 ファリカさんは何かを言いたげにその頬の涙を優しく拭い、それからそっと抱きしめた。


「…………」


 親子の会話であり、俺達はあまりにも部外者ではないだろうか。

 空気を読んで退散した方がいいのかもしれないが、前述の通りファリカさんが家の前で待っていたので退散するタイミングがなかった。

 ……まぁ、そもそもファリカさんに聞かねばならないこともあるわけだが。


「それで、リューイ……その人達はどなた?」

「義父さんを探してくれる<マスター>の人だよ! レイ兄ちゃんと、ビー姉ちゃん、それにネメシス!」

「……おい、私だけ呼び捨てなのはなぜだ?」


 見た目が年上に見えないからだろ、間違いなく。


「そちらのネメシスさんは……メイデンですか?」

「うむ、その通りだの」

「そう、ユノーと同じ…………」


 ファリカさんは少し思案している様子だった。

 いなくなったシジマ・イチロウ氏もメイデンの<マスター>だったようであるし、その辺りで何か思うことがあるのかもしれない。


「それで、義父さんを捜すために母さんから義父さんの話を聞きたいんだって」

「あの人を捜して……けど……。……いえ、わかりました」

「失礼。少しよろしいでしょうか」


 と、ここで沈黙していた先輩が発言する。


「なんでしょう?」

「私達はリア……“向こう”でシジマ・イチロウ氏を捜索する際の情報を収集したいと考えています。そのためにファリカさんからの聞き込みや彼の残した物品などを調査したいと考えていたのですが……」


 「考えていた」、と過去形で言ってから、先輩は眼鏡を押し上げて一言申す。


「それは明日以降にしたいと思います。見れば、ファリカさんはかなり疲れているご様子です。お腹の赤ちゃんのためにもご自愛ください」


 たしかに。どの道、今日はもう時間も遅いのだし、ファリカさんの体調と都合の良いときに聞いた方がいいだろう。


「ありがとうございます。それは、助かりま……ふぅ」


 先輩の提案に応じようとしたファリカさんは……そこでふらっと体勢を崩してしまった。

 俺達は慌てて倒れそうになるファリカさんを支えたのだった。


 ◇


 やはり、リューイを待つ間、身体に負担がかかっていたようだ。

 ファリカさんの疲労は相当のものであったらしく、貧血気味のようでもあった。

 俺達は、と言うか先輩がリューイに先導されながらファリカさんを自室のベッドへと寝かせた。これは女性の部屋に俺が入るのもまずかろうという判断だ。

 で、俺はその間に表に出されていた椅子を片付け、何か体調回復に役立ちそうなアイテムをアイテムボックスの鞄から見繕っていた。

 状態異常に罹ることが多く、最近は懐も潤っていたので状態異常回復アイテムの備えは万全だ。一本十万リルの【快癒万能霊薬】も一ダースある。

 まぁ、そのうち半分はガチャから出てきたわけだが。

 ……【許可証】よりはマシだろ?


「だが、戦闘用のアイテムを妊婦が飲んでも大丈夫なのかの?」

「……あ、どうだろう」


 この世界の薬品アイテム……薬効はともかく注意事項が書いていないからな。アイテムの説明文にも「○歳以上のみお使いください」とか「妊婦の方の服用は避けてください」なんて書いてない。


「じゃあ普通に滋養をつけてもらった方がいいか。ちょっと台所借りていいか聞いてみる」


 食材は手持ちが幾つかあるし。

 まぁ、そのうち幾つかはガチャから出てきたわけだが。

 …………価値が投入金額より目減りしてたけど、使えるものだから、いいじゃん。


 確認を取るとファリカさんは遠慮していたが、リューイが了承したので実行することにする。

 この家の台所はオーブンやコンロなど、それなりに高価なマジックアイテムの調理器具が設置されていた。恐らくはシジマ氏が用意したと思われる。

 とりあえずこれなら料理を作るのに支障はない。

 ファリカさんが食べやすいようにミネストローネスープでも作ろう。

 ついでに俺達やリューイの分の夕飯も作ってしまうか。


「私も手伝いますよ」


 と、先輩もエプロンを着けて台所に立った。

 ……先輩、エプロン似合うな。

 料理にも慣れている様子だし、意外と家庭的な人なのかもしれない。


「ぬ!? なぜかまた危機感を覚えたのだが……。そうだ! レイ、私も料理を……」

「お前、味見で半分くらい食うだろ。前にライザーさんやビシュマルさんとクッキー焼いたとき、焼く前(・・・)の生地が半分になってたよな?」

「ぬおぉ……、食に関して私の信用がなさすぎるのぅ」


 前科がありすぎるんだよ。


「レイ君……私はむしろ、どういう経緯でその面々でお菓子作りをすることになったのかが非常に気になるのですが」

「まぁ、ちょっと人付き合いで」


 ちなみに件の一幕は闘技場のチャリティーイベントのお手伝いである。

 付け加えれば、炎使いであるためかビシュマルさんはクッキーの焼き加減がベストだった。失礼ながら炭になると思っていたので意外だった。


「んー、パンは買っておいたのがあるし……俺はミネストローネスープとグリーンサラダでも作るか」

「では、私はチーズハンバーグを作りましょう。得意なので」


 ◇


 そんなこんなで調理は進み、一時間後にはお手本のような洋食のセットが並んでいた。

 俺も先輩もジョブは採ってないが、料理はセンススキルだ。リアルで料理できるのなら問題なかった。


「リューイを送り届けていただいたばかりか、食事まで用意していただいて……」

「お気になさらないでください。こちらが好きでしたことですから」

「おいしそー!」


 ファリカさんは恐縮している様子だったが、リューイは驚きながらも喜んでいるようだ

 そうそう、少し気になったので薬の件も尋ねてみたが、何でも妊婦さんが副作用を気にしなくていい魔法の薬というものがあるようだ。便利なものである。


「二人とも<マスター>なのに料理できるんだね!」


 ……<マスター>なのに?


「シジマ氏は料理を?」

「全然できなかったよ。「“向こう”でもしたことがなかった」、って言ってた」

「……ふむ」


 それも、手がかりの一つになるだろうか?

 まぁ、それも含めて情報収集は明日に回そう。

 俺達は「いただきます」と言って食事を始めた。

 シジマ氏が持ち込んだ習慣なのか、この家でも「いただきます」で食事をする。

 さらに言えば、使っている食器には箸もある。シジマ氏は日本人と見て間違いなさそうだ。

 さて、肝心の料理の味であるが、俺の作ったサラダ……は置いといてミネストローネはまあまあの味だった。

 兄ならばこれより遥かに美味く作るだろうが、俺のこれも及第点は普通に取れているだろう。

 また、先輩の作ったチーズハンバーグはとても美味しかった。

 これならあと二回り美味くすれば兄の作ったものと並ぶ。

 ……しかしあの兄、本当に絵画以外は万能だな。


「ん?」


 ふと、俺はあることに気づく。

 俺の隣に座るネメシスだが……あまり食べていない。今日はそこまで量を用意していないから遠慮しているのだろうか?


「ネメシス、箸が進んでないみたいだけどどうした?」


 さて、俺の問いかけに対してネメシスは少しうなだれて答える。


「食欲がない」


 ――瞬間、俺は匙を落とした。


「バカな……」


 ネメシスの、ネメシスの食欲がないだと!?

 そんなことが起こりえるというのか!?

 なんだ、天変地異の前触れか!?


「……マリーやビースリーの正体よりよっぽど驚いているのが腹立つのぅ」

「だって、なぁ」


 ネメシスなんだぜ?


「訳が分からぬ。と言うかの、食欲がないだけではないのだ。どうにも先ほどから身体が重く、眠気も強い……」

「風邪か? 熱はあるか?」


 額をネメシスの額に押し当ててみるが、特に熱は伝わってこない。

 んー、平熱。むしろ低いか?


「…………あ。れ、レイ」


 あ、ちょっと熱い。

 やっぱり風邪かね?


「……<エンブリオ>が風邪などひかぬわぁ! だが、顔が熱いからもう寝る! 私の分の食事は……責任を持ってレイが食すがいい!」


 ネメシスはそう言って、そのまま紋章の中に戻ってしまった。

 風邪は引かない、か。

 でも<流行病>はガードナーの<エンブリオ>にも罹るらしいから……妊婦さんもいるし気をつけないとな。


「…………」


 はて、先輩がなにやら俺を注視している。

 どうかしたのだろうか?


「レイ君、“天然たらし”ってたまに言われませんか?」

「ありませんよ? “みたらし”とは高校時代に言われましたけど」


 そういえば、なぜみたらしだったのだろう?

 別にみたらし団子を頻繁に食べていた記憶はないんだが。


「“みんなたらし”の略でしょうか、それとも“みさかいなくたらし”?」


 先輩はボソボソと呟きながら何かよくわからないことを思案しているようだった。

 さて、俺は寝てしまったネメシスの分も夕飯片付けないと。


 ◇


 食事を済ませた後、食器を洗って俺達は御暇した。

 ファリカさんは「お泊りになりますか?」と言ってくれたが、そこまで気を使わせたくなかったので先輩の言っていたように馬車での車中泊を選択した。

 ただ、場所だけは家の敷地を使わせてもらった。

 この家、家屋に対して庭……というか付随する土地が妙に広かった。

 なぜかと聞いてみると、シジマ氏の騎獣である【アリエス・レオ】グリンガムのために土地が広く必要だったシジマ氏が用意したらしい。

 リューイの話していた内容からすると象ほどの大きさのライオンらしいので、それはこのくらいの土地も必要だろう。

 何にしろ、馬車を置いても全く問題なく、家人であるファリカさんの許諾もいただけたので今夜はここで寝ることにした。

 ログアウトして仮眠を取る手法もあるのだが、そちらだと寝過ごす可能性もある。

 それに、何となくこちらで眠った方が長く眠っている気分になれるのだ。リアルでは三時間でもこちらでは九時間だからな。

 ……まぁ、こっちで寝てからログアウトすると睡眠時間が足りない感覚があり、気のせいだと気づくのだけど。ログインしたままだとそんな感覚もないから不思議なものだ。


 さて、車中泊であるが、なんとこの馬車……シャワールームまでついている。

 「いや、そこどう考えても厚みないでしょ? 壁でしょ?」って場所に取っ手があり、開くとあら不思議、シャワールームのご登場である。

 空間拡張ってすごい……壊れたらどうなるんだろ。

 で、順番にシャワーを浴びてそのまま就寝することにした。

 まぁ、シャワーについてはログアウトすれば汚れはだいたい消える(というか俺達がいなくなって文字通り汚れが“落ちる”)わけだが、やはり就寝前にお湯で身体を流す方が気分的に良いと、この一ヶ月で気づいた。ちなみにリアルの入浴は先輩との待ち合わせ前に済ませている。

 就寝だが座席を倒す……というかひっくり返すとベッドが出現した。

 もうこの馬車には驚かないぞ。

 そもそも外見はちょっと豪華な馬車くらいなのに、中身の容積がキャンピングカーより広いからな。そこもまた謎の空間拡張だ。


「ちなみにこの馬車、お幾らでした?」

「さぁ?」


 ……さぁ?


「PKの際にランダムドロップされたものでして。どうやらレジェンダリアの妖精工房で創られた新型魔法馬車の試作品らしいのですが。どういう経緯で私のクランにPKされた方が持っていたのかは私にも分かりません」

「…………」

「気になって調べてみたのですけど、これより一世代前の魔法馬車の市場価格がおよそ一億リルでしたね」

「……………………」


 一世代前で俺の貯金吹っ飛びます。

 あれか、ベンツのロードスター的な馬車なのか、これ。あるいはアラブの石油マネーが買う純金ランボルギーニとかそっちの類?

 いや、それらより高いな。


「クランのメンバーは戦車みたいな値段と言っていましたね」

「あー……」


 確かに値段設定はそっち寄りか。

 何にしろ、滅茶苦茶高級な馬車だ。

 傷とかつけないように気をつけよう……昼間危なかったな。


「それでは、そろそろ消灯します。お休みなさい、レイ君」

「はい、先輩。おやすみ」


 そうして俺達は馬車の中で眠りについた。

 俺自身も疲れていたのか夢も見ないほどぐっすり眠った。


 ◇


 翌朝。

 目を開けると、ベッドの横でネメシスがジーッとこちらを見つめていた。


「おはよう、ネメシス」

「うむ、おはよう。それでだ、レイ」


 ネメシスは右手と左手で指を一本ずつ立てて、こう問いかけてきた。


「吉報と凶報……とまでは言わずともちょっと面倒な情報がある。どちらから先に聞く?」

「……いきなりだな」


 しかし吉報と凶報ね。

 まぁ、凶報とやらには対処しなきゃならないのだろうが、朝一でバッドニュースというのも気が沈む。


「吉報優先で」

「うむ、わかった」


 そう言ってネメシスは右手の指を一本から、三本に変える。

 そして、こう告げる。


第三形態に進化したぞ(・・・・・・・・・・)

「……ぇ?」


 To be continued


( ̄(エ) ̄)<実は分割投稿②でここまでやろうと考えていたが


( ̄(エ) ̄)<後から「ここで切ると読者が悶々しすぎる」と思い、③に回したクマ

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