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第八話 リアル・エンカウント

( ̄(エ) ̄)<連続投稿②スタートクマー!


(=ↀωↀ=)<色々肉付けしてたら遅くなってすみませんー

 □椋鳥玲二


 <月世の会>の扶桑月夜に拉致された翌日。

 一時はどうなることかと思ったがフィガロさんのお陰でログアウトでき、俺は無事に大学に通っていた。

 入学一日目の今日は入学式でも授業でもなく、大学についてのガイダンスを受けている。

 高校までとはシステムも違うので、渡された資料に目を通しながら説明を受け、来週から始まる授業の準備をしている形だ。

 今後のスケジュールについても説明を受けているが、特に変わったことはない。

 入学直後に親睦を深めるためのオリエンテーション合宿などがあるかと思ったが、今はもうやっていないそうだ。「その分、デンドロに入る時間が確保できて助かった」と真っ先に考えたのは、大学生としては少々間違っているかもしれない。

 しかし合宿はなくともオリエンテーションはあり、時間内で自己紹介やアピールをしながら、今後学部が分かれるまでの二年間を過ごす学友と交流する。

 何分、地方から出てきたので知り合いは誰もいなかったが、オリエンテーションの時間内に七割方の顔と名前を一致させることができた。

 また、自己紹介の際に四名が「<Infinite Dendrogram>が趣味です」と言っており、俺も同様のことを発言した。

 休み時間にはその面子で話もした。

 やはり同年代だけあって「受験があってプレイ時間はさほど取れなかった」、あるいは「受験後に始めた」という話題は共通だった。

 ……プレイヤーが五人は少ないと思ったけど、俺達の世代は受験直撃世代だから少なくて当然なのかもしれない。

 で、新しい学友達とも一緒にクエストでも受けたいと思ったのだが、なんと俺以外の四人は全員が天地を所属国家にしていた。

 「そんな偶然あんの!?」とも思ったが、彼らも驚いていたので本当なのだろう。

 流石に大陸の反対側だと一緒にクエストを受けるのも難しい。

 RPGで定番のテレポートの類は、デンドロには神造ダンジョンからの脱出と一部の<エンブリオ>の固有スキル、あるいは事故のようなものしかないらしいし。

 いずれ機会があれば、と約束して一先ず級友とのクエストはお預けになった。


 余談だが、彼らも同じ天地に所属はしていても仕える武将が違ったらしく、協力関係と言うよりはライバル関係になったとのこと。

 戦国時代に喩えると織田と武田と長宗我部と島津あたりに分かれた感じらしい。

 ……俺だったら上杉がいいです。


 ◇


 さて、ガイダンスやオリエンテーションが終わった俺達新入生を待ち受けていたのは、大学の敷地内に設置された無数のテント……大学内のサークルに勧誘するためのゾーンであった。

 そのテントの数、参加人数共に膨大であり、しかも「新入生を一人でも多く確保するのだ」という熱気が凄まじい。

 新入生の中にはノリノリの人も多いが、逆に引いている人もいる。俺もどちらかと言えば引いている方だった。

 サークル勧誘の波を何とか潜り抜けながら、俺は一息つける食堂へと移動した。


「大学生活……思った以上にカルチャーギャップがあるなぁ」


 デンドロの中で触れる異国文化とは別ベクトルのカルチャーギャップだった。

 心身ともにちょっと疲れた俺は、茶を啜りながら食堂内の掲示物をぼんやりと眺めている。そこにもやはりサークルの勧誘のビラが貼ってあった。


「サークルか……」


 やはり大学生たるもの、サークルに加入して先輩や同級生と交流するのが青春というイメージはある。

 が、それをやると漏れなくデンドロのログイン時間が減る。

 大学生活でのコミュニケーションより、ログイン時間を気にするのもどうかとは思うが……これ以上ログイン時間を減らしたくはないのも本心である。


「いっそデンドロのサークルでもあればいいんだけどな……」


 それなら交流しつつ、デンドロのログイン時間も減らさなくて済む。

 しかし、ゲーム全般ならまだしも特定のゲームに限定したサークルなんていくらなんでも大学には……。


「……あるのか」


 食堂の掲示物の一角。

 そこには<Club of Infinite Dendrogram>と書かれたビラが貼ってあった。

 日本語に訳せば「インフィニット・デンドログラム研究会」、あるいは「インフィニット・デンドログラム同好会」であろうか。

 それなら普通にその名前にすれば……ああ、略して「インケン」や「インドウ」になると語感が悪いし、「デンケン」や「デンドウ」だと別のサークルと間違われそうだからか。

 何にしろ、本当にデンドロのサークルがあるのなら願ってもない。

 大学生活で交流しつつ、デンドロ内での知り合いも増やせる。一石二鳥だ。

 まぁ、ひょっとすると戦争間近のドライフのプレイヤーの可能性もあるが、それはそれでいいだろう。

 俺はビラに書いてある地図を頼りに<Club of Infinite Dendrogram>……<CID>の部室へと向かった。


 ◇


 初めての場所なので道に迷いながらではあったが、ビラに示された部屋に辿りついた。

 ドアには<Club of Infinite Dendrogram>と若干おしゃれな意匠の木彫りプレートがぶら下がっていたので、ここで間違いはないだろう。

 少しの緊張とともに俺はドアをノックする。


「入ってええよー」


 室内から了承の声があり、俺は「失礼します」と一声掛けてからドアを開ける。

 そのときだろうか。

 俺の頭のどこかで「待った」の声がかかったのは。

 しかしそのときには俺の手はドアを開けており、

 開かれたドアの向こうにいたのは――、


「新入生? ようきたねー。<Club of Infinite Dendrogram>へようこ……」


 俺は開けたばかりのドアを閉めた。

 なぜか。

 それは、部室内に俺の見知った顔(・・・・・)があったからだ。

 そう、つい昨日デンドロの中で見たばかりの……扶桑月夜の顔(・・・・・・)があったからだ。

 見間違いかもしれない。

 しかし再度開けて確かめる気にもならない。

 それにあの女化生なら兄と同じく素顔で、しかも隠さずにプレイしていてもおかしくはない。

 宗教団体のトップであり、その辺りの兼ね合いから顔を変えていなかった可能性は高いのだから。

 しかし、今重要なのはそんな相手の理由ではない。


「チィッ! 油断した!」


 まさかあの女化生が俺と同じ大学だったとは!

 サークルに紛れた宗教勧誘は大学ではよくあると聞いていたのに、脱出した虎口に自分からまた飛び込んでしまった!

 このままでは始まったばかりの大学生活が暗礁に乗り上げてしまう!

 俺は踵を返して部室の前から走り去ろうとするが、


「――なして逃げるん?」


 内側から開いた扉の、その隙間から伸びた細い手に襟首を掴まれてしまった。

 俺はそれでも足を動かして逃げようとするが、体はわずかも先に進まない。

 力学的におかしいのではないかとも思ったが、少し振り返るとあの女怪は俺の襟首を右手で掴むと同時に、左手でドアの枠をホールドしていた。

 ああ、それでちっとも動かないんですね……ってなるかぁ!?

 どんな筋力だこの妖怪!!

 うちの姉じゃあるまいし!!


「なんや知らへんけど怖がってはるなぁ。まぁ、そんな怯えんといて。ゆっくりお茶でもご馳走するえ?」


 今の俺の心境を理解しているのかいないのか、女化生は俺をそのままズルズルと部室の中に引き込んでいった。

 ……蛇に丸のみにされるハムスターになった気分だった。


 ◇


 女性とは思えない力で俺を室内に引きずり込んだ女化生は、そのまま室内のベッド――恐らくはデンドロをプレイするときに使用するのだろう――の上に俺を押し倒した。


「君、サークルに入りに来た新入生やろ? なして逃げるん?」


 逃げるわ。

 テケテケの夢見た後に現実でもテケテケに遭ったようなものなんだからそれは逃げるわ。


「なんやひどい顔やなぁ。なしてそんなに……えーっと、お名前は」

「!?」


 化生はいつの間にか、俺の懐から学生証の入ったパスケースを抜き取っていた。

 手癖悪いなこの化生!?


「ふーん、椋鳥玲二くんって言うやねぇ。……あれ?」


 俺の名前を確かめた化生が、何かを不思議に思ったように首をかしげる。

 ――やばい。


「その目つき、声、それに……椋鳥玲二? …………レイ・スターリング?」


 クッ!? 苗字の鳥を英訳しただけだから速攻でバレた!?

 畜生! もうちょっと捻っておけばよかった!!


「ああ、なるほど。そういうことなんやねぇ」


 俺が誰であるかに気づいた化生が、ニタリと笑う。

 その笑顔こそ、俺にとってはホラーそのものだった。


「うん、こっちでは逃げられへんかな?」


 やばい、最大の窮地だ。

 このままでは強引な手口でカルト宗教に取り込まれてしまう。

 しかもこっちでは逃げる手段がない。

 どうすれば……!


「さぁて、まずは昨日のお礼から……」


 女化生がそう言ってゆっくりと手を動かしたとき、


「失礼します」


 部室のドアを開けて、第三の人物が室内に入ってきた。

 一瞬、【暗殺王】かと思ったが……違った。

 第三の人物は女性であり、長い髪を三つ編みにし、少し吊り目で眼鏡をかけた……一言で言えばとても“真面目そう”な人だった。


「月影副会長からテントでのサークル勧誘について、伝言と書類の受け渡しを頼まれたのですが……」


 彼女はそこまで言って、室内の状況――ベッドの上に恐怖の表情で押し倒された俺と、俺を抑え込みながら実に楽しそうに笑う化生の顔――を見て、ため息をつく。


「……会長。学内で男性を押し倒さないでください」


 そんな、ひどくまともなことを言った。

 俺の心に、わずかな希望が灯る。

 もしやこの人は……、


「何より、彼は明らかに嫌がっています。男性相手でも、痴漢は適用されますよ? すぐに解放すべきです」


 まともだ。

 妖怪でもなければおかしな秘書でもない、まともな人だ。 


「ええー、折角ゲットしたのにー」


 ゲットすんな。

 人間をゲットすんな。


「これからクラブに入れようおもたんよー、ついでにうちのところにもー」

「それは余りにも強引な勧誘では? 放してあげてください」

「いややー、この子をうちのにするんよー」


 こっちが嫌だよ!!


「会長。あまり聞き分けがないようでしたら、私がクラブを抜けますが」

「え?」

「あとは会長と副会長の二人だけになりますから、サークルを維持できないでしょう? それでも良いのですか?」

「それは、困るんやけど……」


 まともな人の言葉に、女化生がたじろいでいる。


「でしたら、その不当な痴漢行為と強引な勧誘をやめるべきです。その人を放してください」


 まともな人がちょっと神々しいくらい頼もしい。


「でも……」

「でも、何です?」

「……仕方あらへんなぁ」


 渋々といった様子で、女化生は俺から手を放した。

 ……自由の身だ!

 俺はベッドから跳ね起き、女化生から距離を取って壁際に寄る。


「……すごい怯えようですね。会長、痴漢行為以外に何をしたんです?」

「えー、なんもしてへんよー。ちょっとデンドロで誘か……勧誘しただけやー」

「…………」


 何もしてないと言うにはギルティが過ぎる。

 まともな人は再びため息をつき、


「会長。お話があります。正座してください」

「……あの、ここ床なんやけど」

「大丈夫です。会長の足なら床の上で正座しても痺れません」

「痺れる痺れないやなくて……」


 あの女化生が完全に圧されている。

 何者だ、このまともな人……。


「あなたも早くお逃げなさい。こんな人に捕まってはいけません」

「こんな人……」


 なんだか浦島太郎に助けてもらった亀のような気持ちになった。

 しかしその言葉はありがたかったので、まともな人に「ありがとうございます」と御礼を言ってすぐに魔窟から脱出する。


「会長。<Infinite Dendrogram>は自由かもしれませんが、それを現実にまで持ち込まないでください。あちらで誘拐した相手にこちらでも付きまとって痴漢行為を働くのは、さすがに公序良俗違反にも程があります。刑事事件になりますよ?」

「えー? ちゃうってー。今日は向こうから来たんやってー。それにビーちゃんだって中では……」

「私はリアルとはしっかり分けて考えています」


 俺が退出した後の室内からはそんなお説教が聞こえてきたのだった。

 ともあれ、まともな人の介入によって、俺は無事に女化生の毒牙から逃れられたのであった。


 聞きそびれたが、あのまともな人の名前は何というのだろう?


 To be continued

( ̄(エ) ̄)<また誘拐されるかと思ったら一話で片付いた問題


(=ↀωↀ=)<四章のメイン部分がまだスタートしてないからこんなところで尺取れない問題


(=`ω´=)<こんなところ……

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