番外編 百の呪文を備えし者
( ̄(エ) ̄)<今回は初出設定&あまりスポットライト当たってないキャラ回クマ
(=ↀωↀ=)<(タイトルを見て)……シリアスかな?
□決闘都市ギデオン第六闘技場 【聖騎士】レイ・スターリング
その刃は速く、そして恐ろしいほどに強靭だった。
咄嗟に展開した《カウンターアブソープション》を、その腕の速度と自在性から避けるのではなく……真正面からぶつかった上で断ち割ってしまう。
直後に、駆け抜けた刃――【応龍牙】は俺の右腕を肩の付け根から切断し……ネメシスを握ったまま俺の右手は彼方へと弾かれていった。
「《真火真灯――爆龍覇》」
瞬間、視界の全てを――いや、俺の体そのものを焼き尽くすほどの業火が巻き起こり、俺の全身を舐める。
懐の【救命のブローチ】が砕け散りながらも、この魔法による炎から俺の命を護る。
だが、周囲の酸素全てが失われてもまだ消えない炎。
ダメージこそ受けないが、俺の肺は酸素を求めて苦痛を訴える。
だが、それはもはや意味がない。
唐突に、肺からの苦痛の訴えは消え去った。
なぜなら肺そのものが俺の身中から失われ、敵手の――迅羽の手の中にあったからだ。
俺は自分の肺腑が引き千切られる感覚を味わい――そのまま息絶えた。
◇
……というのは、もちろん模擬戦での出来事なわけだが。
「感想ハ?」
「……オーバーキル」
口裂け女みたいに笑う身長四メートルの童女――迅羽の質問に、それ以外の何と言えば良いのか。
最近はランカー勢とオマケ(俺とルーク)で行うことが定番となった闘技場での模擬戦。
今日は偶々迅羽と俺だけ都合が空いており、「じゃあ今日はなしで」と言おうとした俺を「じゃあ今日はフルコースだナ」と言って物理的に闘技場まで引きずってきたのがこの童女である。
そして宣言どおり、【応龍牙】、《真火真灯爆龍覇》、《彼方伸びし手・踏みし足》と、<超級激突>で使った決め技のフルコースで俺はオーバーキルされたわけだ。ご丁寧に最後は心臓でなく肺をもいでいる。
ていうか、一つだけでもお釣りがくるだろこれ。
ネメシスなど「また割られた……」と闘技場の隅で「の」の字を書いている。
最近、兄とかフィガロさんとか、あとはマリーの貫通特化必殺スキルによく壁を割られているからな。
迅羽は普段は壁を回避する軌道で攻撃してくるけど、今日は超級武具を持ち出していたからか正面から叩き割っていた。
「二十万、ってとこだナ」
「何が?」
「あのバリアのダメージ許容量だヨ。それよりダメージ多いと割れるって奴ナ。マ、貫通系の技にはもっと弱いみたいだけド」
「そもそも二十万ダメージって……」
俺のHPはレベルアップとネメシスの補正で一万近くまでいっている。
が、どうやら戦闘タイプの<超級>は一撃で俺を二十人蒸発させられるらしい。
「そんな大したダメージでもないゾ? オレ、魔法職だけど耐久型だからHPも五十万はあるし」
<超級>&超級職の基準で考えないでもらえるか。
「お前のアニキのパンチが二、三回直撃したら死ぬしナ」
……そしてうちの兄はそれに輪をかけておかしかった。
しかしそうか、普段はあの手足が目立ちすぎて忘れそうになるけど、迅羽の【尸解仙】は魔法職なんだよな。
「あ、魔法と言えば……」
先日から一つ気になっていることがあった。
「魔法がどうしタ?」
折角だから魔法職の超級職である迅羽に聞くのが一番良いか。
そう思い、俺は次の質問を迅羽に投げかけた。
「魔法スキルって、呪文詠唱はあった方がいいのか?」
◇◇◇
あれはデンドロ時間で三日前……鎧を【BRアーマー】に新調した翌日のこと。
俺とルークとマリーのパーティと霞達三人のパーティ合同で<墓標迷宮>に潜ることとなった。
なぜそうなったかと言えば、霞達三人がクエストの報酬であの忌まわしき【探索許可証】を入手したことが切っ掛けだ。
三人は潜って地下五階のボスを倒すところまで行くつもりだったが、下級職三人で行けるだろうかと不安にも思っていたらしい。フルメンバーの半数であるので無理もない。
で、悩んだ三人は俺達に一緒に潜ってくれないかと言ってきた。
これは俺が【許可証】が不要でアンデッドにも強い【聖騎士】だったことと、丁度三人だったことが理由であるらしい。確かに合計するとフルメンバーだ。
俺達はと言えば、【聖騎士】の俺は(持ってるけど)【許可証】が不要で、ルークは俺が渡した【許可証】があり、マリーも所持していたので問題なかった。
なお、<墓標迷宮>の探索は【許可証】の所持と王国所属であることが必須条件だが、マリーは最近になって正式に王国に所属を移したらしい。以前は各国を転々として依頼PK業に励んでいたが、思うところあって王国に腰を据えることにしたようだ。
普通はそうポンポンと所属国は変えられない。移籍先の国の役所で厳重な審査と手続きを受けるか、その国の有力な貴族から推薦を貰うか、ドライフがやったような兵士募集に乗るか……だ。
いずれにしろ、それらの亡命イベントをこなさなければ所属国は変更できない。フィガロさんも元々はレジェンダリア所属だったので審査と手続きをこなして王国に籍を移している。
そういえば、フィガロさんの知り合いで、PKや器物破損を繰り返していたために「絶対に審査は通らないし、推薦ももらえないし、国が兵士の募集していないから籍移せないよね」って人がいたらしい。
だが、そういう人でもなぜか所属国が変わっていることがあるので、国によっては上記以外にも何らかの裏ルートはあるようだ。
さて、殺し屋だから審査通りそうもないマリーがどうしたかといえば……裏ルートではなく推薦を貰っての所属国変更である。
推薦人はギデオン伯爵だ。
最近、伯爵絡みの仕事を色々やっていた結果だという。
あのフランクリンの事件で手元に残っていた「<マスター>しか攻撃しない」モンスターのジュエルを、ティアンの騎士団の訓練&レベルアップ用として伯爵に売った。
さらには諜報機関を作りたかった伯爵に忍者集団を紹介したらしい。
その縁もあって伯爵は推薦人となることを許諾した。推薦して国に所属させたものが犯罪を起こすと推薦人の責任問題にもなるが、伯爵はマリーなら問題ないと判断したのだろう。
そんな訳で俺達三人は<墓標迷宮>を探索可能であり、特にすることもなかったので探索に付き合うことにした。マリーはバランスなど諸々を考えて【記者】としての参加である。
ちなみに王都までの移動手段は空の旅だ。俺はシルバーで、他のメンバーはオードリーと、オードリーと紐で結んだ霞の召喚モンスターである【バルーンゴーレム】のバルルンに乗って王都を目指した。
で、<墓標迷宮>の探索は物凄く順調だった。
何故かと言えば俺の《聖別の銀光》があり、サポートと壁役が十二分だったからだ。
アンデッドに対してはダメージ倍率がおかしい《聖別の銀光》によって、低層のアンデッドは掠っただけで死ぬ状態。以前苦労した【スピリット】もあっさり蒸発していた。
加えて、霞の壁サモン、ふじのんの地属性束縛魔法、ルークのリズ――最近知ったがコートに擬態したスライムだったらしい――によってアンデッドの動きはほぼ完封される。
ちなみにアタッカーは俺一人だ。
霞のパーティのアタッカーであるイオは……<エンブリオ>のゴリンがでかすぎて<墓標迷宮>の通路では振り回せなかったのである。
「モード爆砕なら! モード爆砕ならここでも使えるからさ! 撃っていいでしょ!」と言っていたが、「狭い地下通路で爆発物使う阿呆がどこにいますか?」とふじのんに止められていた。
兄なら地下でも使いそうだな。
『御主も以前地下で火炎放射していたような……』
……人の事言えなかった。
話を戻そう。俺達は順調に<墓標迷宮>の攻略を進め、地下五階……最初のボスが配置されている階層に到着した。
広い空洞で待ち受けていたのは、【スカルレス・セブンハンド・カットラス】という十メートルほどの巨大なスケルトンだった。
腕の代わりに左右三本ずつの鋭い刃状に加工された骨を生やしている。さらに頭蓋骨はなく、連結された長い骨を鞭のように振り回している。その先端にも刃があった。
ダークファンタジーゲームに出てきそうなグロテスクなボスモンスター。特殊なスキルを持たないだけ、かつて戦った<UBM>ほど脅威ではないがそれでも強敵ではあった。
武器を振り回せるようになったのでアタッカーにイオも加わったが、それでも攻めあぐねている。
特に鞭骨の攻撃が厄介だ。不規則且つ高速であるため、迂闊に近づけばこちらの首を飛ばされかねない。
一応【救命のブローチ】はあるが、使わないならそれに越したことはない。
そう思っていると、
「ならば私が動きを止めましょう」
そう言って、霞のバルルンの後ろでふじのんが己の<エンブリオ>である杖を構え――何事かを唱えだした。
「――我が声に応じ、その威を広げよ
――汝が腕は地上の何者をも包む
――来たれ、我が魔導」
それは呪文の詠唱だった。
俺がこれまで今まで一度も聞いたことのない……『魔法の詠唱』だった。
「――《グランド・ホールダー》」
直後、地面から長さ五メートルほどの巨大な腕が二本……いや、<エンブリオ>の固有スキルで複製されたものも含めて八本も出現し、【スカルレス・セブンハンド・カットラス】を羽交い絞めにしようとする。
その内の何本かは刃によって斬り砕かれるが、数で圧し、四本の腕が【スカルレス・セブンハンド・カットラス】の動きを抑えた。
「今です」
「ああ!」
「やっちゃうよ!!」
身動きが取れなくなった【スカルレス・セブンハンド・カットラス】に俺とイオが突撃し、そのHPを削りきって消滅させたのはその後すぐだった。
◇
無事にボスを倒すと、地下六階への階段とワープポイントらしきものも出現した。ワープポイントからは地上への脱出が出来るらしい。
また、ボスのドロップからは人数分の【エレベータージェム】なる使い捨てアイテムも出てきた。これは一回だけなら地下六階からスタートできるようだ。
……余談だが、フィガロさんは帰還のワープポイントも【エレベータージェム】も使わず、自分の足で行き来しているとのこと。
「おつかれさまでした!」
無事に地上に戻り、地下五階までの探索の成功の打ち上げをした。
今回のドロップ品は特に目ぼしい装備などはなかったので、全て換金して均等分配することにした。(ちなみに、骨で出来た鎧もあったが【BRアーマー】の性能が勝っていた)
で、打ち上げの食事中に先ほどの戦闘で一つ気になった点をふじのんに尋ねた。
そう、「魔法スキルって、呪文詠唱はあった方がいいのか?」、と。
【大死霊】やフランクリンの事件のときの【紅蓮術師】など、これまで戦ってきた魔法職は、いずれも詠唱などしたことがなかった。
【大死霊】はノータイムで、【紅蓮術師】も大魔法にチャージ時間はあったようだが無言だった。
俺自身も弱い回復魔法なら使えるが、スキル名の宣言だけで良い。
そう、俺の前で呪文詠唱をした魔法職はふじのんが初めてなのだ。
「やっぱり強い魔法って、呪文詠唱しないと効果を発揮しなかったりするのか?」
「…………」
だが、なぜだろう。
ふじのんはいつも通りクールな表情なのだが、顔色だけ少しずつ赤くなっていく。
「――我が声に応じ、その威を広げよ
――汝が腕は地上の何者をも包む
――来たれ、我が魔導」
「!?」
「……で、合ってたか? 昔見たアニメの魔法みたいで格好いいけど、これを何種類も覚えるのは大変そうだな」
「耳コピ一回で覚えてるレイさんも大概ですね!」
そう言うイオの表情は……なぜか面白がっている風だ。
そして、ふじのんの表情の紅潮はさらに強まる。
はて、俺より年下の学生らしいし、アルコールは飲んでないはずなんだが。
「でもでも! ふじのんはさらに百種類は呪文詠唱を用意してますよ!」
「そんなにあるのか!」
「…………イオ」
なぜかふじのんが据わった目でイオを視ている。
だが、イオはニコニコとした顔のまま
「忘れないようにノートに書き溜めてたよね! すごいよねー!」
「……………………イオ」
おお、それはマメな。
しかし百種類の呪文詠唱か……下級職なのにそんなに魔法覚えられるんだな。
「あ、そうだ。出来たらふじのんのノートを見せてもらえないか?」
「…………何と?」
「うん、俺は魔法について詳しくないからさ。詠唱と魔法の内容が書かれたノートを見せてもらえると助かる。あ、今は宴席だからこの後に時間があればだけど」
呪文詠唱が分かれば、相手が使ってくる魔法が分かるかもしれないし。
「あ、あの、レイさん、実は……」
「…………スミマセン。私は、リアルでの急用を、おもいついたので、今日は、これで、失礼しまう」
なぜかおろおろとする霞と……なぜか片言になった上に言葉を噛んだふじのん。
ふじのんはそのまま席を立ち、店を出て行こうとする。
「あ、うん。お疲れさま、ふじのん。ノートはまた今度見せてくれ」
俺がそう言うと、なぜかふじのんは全力疾走で店から出て行ってしまった。
「そんなに急ぎの用事があったのだろうか」
「「「…………」」」
残った面々の顔は様々だった。
ルークは何かを察して悟った顔をし、
マリーは目線を逸らして口笛を吹き、
霞は困ったように俺とイオとふじのんが出て行ったドアを順に見て
イオは……「楽しみだね!」と言わんばかりの笑顔であった。
ちなみにネメシスとバビは食事に夢中であった。
そんなこんなで、疑問を残したままその日の<墓標迷宮>の探索は終了したのであった。
◇◇◇
「……ということがあったんだが」
「お前が悪イ。あとそのイオとかいう腹黒そうな奴」
詠唱の疑問と合わせて<墓標迷宮>探索の顛末を話すと、迅羽は溜め息をつきながらそう言った。
……童女に溜め息つかれるレベルの大ポカやったのか俺。
それに……イオって腹黒か?
「オレに聞いているって事ハ、本当に無自覚だったんだろうが……余計に残酷だナ」
「詠唱って何か聞いたらまずいことだったのか?」
「まァ、まずいと言えバ、まずイ。王国の四位あたりは喜んで乗りそうだガ、深く突っ込まないのがマナーではある話ダ」
王国の四位……ジュリエットなら喜びそうな話?
「……順を追って説明してやル」
札越しに見えた迅羽の顔は「やれやれだナ」と言いたげだった。
「まず、魔法スキルそのものには詠唱は必要なイ」
「え?」
「お前だって散々回復魔法使ってるだロ?」
「そうだけど、強力な魔法でも要らないのか?」
「要らン。チャージに時間が必要な奴はあるがナ」
ああ、【紅蓮術師】の使っていた《クリムゾンスフィア》とかか。
【大死霊】の《デッドリー・ミキサー》は……チャージはないけどアイテム使ってたしな。
「あれ? じゃあふじのんがやってた呪文詠唱は?」
魔法スキルに詠唱が必要ないなら、あれは一体なんだったのだろう?
そう疑問に思っていると、迅羽はゆっくりと首を振ってから、俺の疑問に答える。
「……魔法スキルに詠唱はないガ、《詠唱》というスキルはある」
詠唱はない……《詠唱》のスキルはある?
「上乗せだヨ。MPを込める呪文詠唱を追加でくっつけることで、威力や射程、範囲を拡大するんダ」
「ああ、なるほど」
つまり、あのときのふじのんは《詠唱》することで魔法を強化していたわけだ。
たしかに、下級職が使うには規模が大きい魔法だとは思っていた。
「あれ、でも……ふじのんはノートに百種類の呪文詠唱を書き溜めてるってイオが……」
魔法の拡大の仕方によって使う《詠唱》が違うってことか?
「それはナ…………《詠唱》スキルの文言は全部使用者のオリジナルなんだヨ」
……?
「それはどういう……」
「だかラ、MP込めながら唱えて最後にスキル名を宣言するなら《詠唱》の中身は何でもいいんダ。それこそ円周率でもいいし、アルファベットを順に言うだけでもいい……そして自分で考えた呪文でもナ」
「……あぁ」
つまり、あの詠唱はふじのんのオリジナルだったのである。
そして百の呪文詠唱というのも、元々百種類の詠唱があるわけでなく……ふじのんが百種類の詠唱を自分で考えてノートに書き溜めていたということだ。
「中には考えて使ってはいてモ、面と向かって内容を吟味されるのは恥ずかしいって奴もいるサ。そのふじのんとやらはそのタイプだろうけド、それをお前……「ノートを見せてもらえないか?」っテ……」
「……………………」
俺のあの言葉は……事情が分かってからだと別の内容に翻訳される。
即ち、『ノートに書き溜めたオリジナルの魔法詠唱を教えてくれよ!』である。
……ふじのんに悪いことをしてしまった。
「いや、待て、これ俺も悪いけど、話をそっちに誘導したイオは何を狙ってたんだ?」
「クールな友人が赤面して慌てる様でも見たかったのだろう。あの語尾エクスクラメーション娘は、迅羽が言うように腹黒いかもしれんの」
……黒いというか、小悪魔的愉快犯というか。
「しかし……オリジナルの詠唱か。本当に魔法が使えるから、考えたくなる気持ちは……まぁ、分かる」
「オレはわかんねーナ。【符】を使う道士系統選んだのも《詠唱》しないですむからだシ」
迅羽曰く、道士系統は魔法を拡大する詠唱やチャージの代わりとして事前に作った【符】を用いているそうだ。
しかし……。
「《詠唱》しないためにって……そっちはそっちでなぜそこまで?」
俺が尋ねると、迅羽は長い腕を組んで首を振る。
そして俺に対し、「当然だろう」と言わんばかりの表情でこう言った。
「自分で考えた魔法の呪文を唱えるなんてお子さまなマネ……できるわけねえだロ?」
「…………」
御年十歳。俺の知り合いの<マスター>の中でもぶっちぎりに最年少な彼女の言葉に、何と返せばいいのか俺にはわからなかった。
◇
今回の一件の余談。
後日、ふじのん達に再会したときのこと。
俺はまずノートの件を謝ろうと思ったのだが……。
「レイさん。私の呪文詠唱百種を記したノート、お見せしましょう」
「……え?」
一瞬、俺はふじのんが何を言っているかわからなかった。
「レイさん、実はですね……!」
耳打ちしてきたイオ曰く、数日徹夜して「人に見せても恥ずかしくない実用的な呪文詠唱」を百種類考えて、新しいノートに書き記してきたらしい。
そう、ノートを見たがっている俺に対し、全力で取り繕うために、だ。
……この子は真面目さと努力の方向性を間違えているのではないかと思ったが、俺が原因であるのでそこには突っ込まないことにした。
そしてこのように切り出されて、今さら「呪文詠唱は各使用者のオリジナルなんだってな。知ってる知ってる」と言うわけにもいかなかった。
それは彼女の恥を上塗り、数日の徹夜を完全に無為にする行為だからである。
こうして、俺は彼女手製の「魔法の拡大効果と帳尻合わせた百種類の呪文詠唱が記されたノート」をじっくりと読むことになったのであった。
それが本当に「人に見せても恥ずかしくない」ものであったかは……俺の胸に秘めさせていただこう。
End
(=ↀωↀ=)<(タイトルを見て)……コメディでした
( ̄(エ) ̄)<ちなみにどっかのアラビア風“魔法最強”の《詠唱》は「○○にMP何万」とか事務仕事みたいな内容クマ
(=ↀωↀ=)<……あれ呪文詠唱だったのか