エリーゼの異世界転生と勇者召喚の結末
――何よ、これ。
足元には魔法陣のようなものがあって。
目の前には民族衣装のようなものを着た人々がいて。
「おお! 勇者様!」
――これってもしかして……。
勇者召喚ってやつですか?
私、エリーゼ・フィン・デジベルは前世の記憶というやつを持っている。前世は地球の日本人で、つまり異世界転生というものを体験してしまったのだ。
その私が、十六歳の誕生日に別の異世界に召喚されてしまった。どうやら神様は私にラノベ的人生を歩ませたいらしい。
……それにしても女の私が勇者って、どういう条件で召喚したのよ?
しかも「魔王を倒して国を救って下さい」って、テンプレとはいえ何で私にそんなこと押し付けるのよ!
――こうなったら隙をみて逃げるしかない。
私はとりあえず詳しい話を聞くことにした。この世界について色々と教えてもらわないと後で困るからね。
ところが。
「さあ早く出発してください。魔王軍はもう国境を越えて進軍しています」
えっ! ちょっと早過ぎ、余裕なさ過ぎでしょ! 普通は訓練とかして戦力上げてからでしょ!
「大丈夫です。勇者様なら魔王を倒せます」
そんなこと言われても、私にはそんな力なんて無い! 私の持ってる能力はただ一つ。それは――
ドガッシャーン!!
すごい音がして振り向くと、そこには血塗れの剣を持った大柄な男が一人立っていた。そして後ろの壁にはでっかい穴があいている。
……うわあ! すごい美形!!
長い黒髪の、肉食獣みたいな印象の男だ。綺麗に筋肉がついていて、黒豹みたいな感じ。
「まっ、魔王!!」
誰かが叫んだ。
――は!? 魔王って、展開早過ぎでしょ!
何でラスボスが登場してんのよ! 魔王軍は国境越えたところだって言ってたじゃない!!
「勇者様! 魔王を倒してくだされ!」
ちょっと、今そんなこと言ったら……ほら! 魔王がこっち見たじゃない!
「お前が勇者か」
わぁー敵認定されたぁ!!
◇◇◇
……私は今、魔国にいる。そして退位した魔王アストラと暮らしている。
どうしてそうなったかというと――
「エリー、何を考えている?」
元魔王が色気ただ漏れで訊いてくる。そして私の顔にキスの雨を降らせてくる。
私は「何でもない」と答えて、アストラの胸にもたれかかった。
残虐非道は元魔王は、私の前では猫のようにおとなしい。
あの時、勇者である私を殺そうとしたアストラに、私は色仕掛けで対抗した。
その結果、アストラは私に堕ちて人間の国への興味を失った。そしてすぐさま魔国に帰り、私の身体を貪った。
私が何より一番になったアストラは、魔王の位を弟に譲って離宮で怠惰に過ごしている。
新しい魔王は世界征服には興味がないようで、軍は引き上げて自国の統治に力を注いでいるらしい。
結果として、私は勇者の役目を果たしたことになるのだろうか?
「エリー、愛している」
アストラが私に囁く。人外美形の破壊力は半端ない。
――私が彼を篭絡できたのは、この世界にはいない淫魔の能力によるものだ。
それは本当の愛ではないのかもしれない。けれど、私はそれでも構わない。
アストラに初めて会ったあの時、私は彼に恋をしてしまったのだから……。
「アス……私も愛してる」
そう囁き返すと、アストラは蕩けるような笑みを浮かべた。
転生して召喚されて。そして私は幸せを掴み取った。
元の世界に帰りたいとは思わない。
私はここで、アストラと共に生きていく。