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五狂目 『ヤオキチ、教室に立つ!』

 前回までのあらすじ…。


 普通の女子高生、山中やまなか 南美なみは、還暦型決戦兵器ヤオキチ号のパイロットだった!




 まった! まだパイロットって認めてなーい!!


「アンタじゃ! アンタがパイロートじゃ!!」

「な、なんで、私! 私、なんにも…」

「何を言っておる! ワシの床屋に来たじゃーん!」

 

 良い笑顔で、両手でクイクイッと私を指さす…いや、素でムカツクんですけど。その動作!


 え? …あ。あれやっぱり夢じゃなくて…え?

 ということは、どういうこと?


「ワシの床屋で"改造手術"うけたじゃーん♪」

「はぁー!? 改造…え? 私、改造…って!!?」


 パニックになる私。

 このクソジジイ…いったい何を言ってんの?


 私、髪を切ってもらいにいって…記憶がなくなって…え、改造!?

 そ、そんなことされた覚えが…。


「山中! 大丈夫か。しっかりしろ」


 後ろからセイカ様が支えて下さる。

 ああ、その大きな胸の中で抱かれたまま寝てしまいたい…うん。これも夢だ。寝よう。

 ああ。柔らかい。マシュマロみたーい。

 グー、ZZZ……


「おい! 起きろ! 起きないと死ぬぞ!」

 

 アハハ。死ぬって…。

 またまたセイカ様、大げさなw


 ズガンッ!!

 

 私の鼻先を何かがかすめた。

 驚いて眼を明けると、目の前にゴンザレスの100kg竹刀が!


「ブワハハハ! この姿を見られたからには、スカートカットした上で皆殺しじゃーい!!」


 ゴンザレスが臭い息をまきながらそう宣言する!


 ってか、皆殺しって…クラスの皆を殺すってこと!? 

 教師が!? いくらセクハラ教師でも…サイボーグだったとしても、そんなこと!!


「…ゴクリ。もはやヤツを止めるには、ヤオキチ号を使うしかないのじゃ」


 いきなりシリアスな顔で、クソジジイが私に言う。


「たいして知りもしない少女にこのようなことを頼むのは酷かも知れん。しかし、いま、この場をなんとかできるのはアンタだけじゃ。頼む。乗ってくれい!!」

「…山中。私からも頼む。クラスを…皆を護ってくれ」


 え? クソジジイの戯言たわごとはともかく、セイカ様に言われると…ちょっと。


 いや、何考えてんの、私!

 あれって…あれに乗るって…ありえない。


 バッキバッキに殴られている、コスプレのメタボオヤジ。

 これって、間違いなく、存在自体がセクハラ。歩く犯罪だ。


 あれに乗るって…どういうプレイなわけ? ありえない。

 大金を積まれたって絶対に断る。それが普通の人だ。

 私は普通だ! 至ってノーマルだ!!


「ブワハハハ!」

「キャアア!!」


 ヤオキチ号を圧倒したゴンザレスが、今度は他のクラスメイトにもちょっかい出し始めた。


「山中!」


 セイカ様が私に向かって叫ぶ!

 うう、うう。そんな怖い顔しないで…セイカ様にはいつも笑ってほしいのにぃ。

 

 いいよ。解りましたよ。乗ればいいんでしょ! 乗れば!!


「…わかった。乗る。でも、今回だけで…」

「OK! ヤオキチよ! こっちゃこい!!」


 私の話を最後まで聞かず、クソジジイはリモコンを押す。

 すると、ヤオキチ号は ゴウ! と、脚裏からジェット噴射してこっちに飛んでくる!!


「ふぉーめしょん、『援助合体エンコー』じゃ!」

「YES! マイマスター!!」


 ヤオキチ号がそう返事をすると、両足を肩幅に開く!

 ウィーンと、ふくらはぎの部分がせりだしてきて…ステップになる!

 さらに肩の装甲がバカンと外側に外れ、そこからバイクのハンドルのようなものが出た!!


「これでええ! さ、乗れ!」

「え? ええと、乗るって…どうやって?」

「アホか! おんぶと同じ要領じゃーい!」


 そう言って、クソジジイは私を押して、無理やりにヤオキチ号の背中に乗せた。

 

 …あのー。一ついいすか?

 加齢臭半端ないんすけど。首んとこ、酸っぱいニオイただよってるんですけど。

 なんか、ハンドルも脂ぎってベトベトしてるし…。

 それにこの体勢、かなり恥ずかしいんですけど……。

 なんか、やけに前傾姿勢だから、前のめりすぎてスカートが見えないようにとか気をつかうんですけど。


「さあ、ヤオキチ! 行け! お前の本当の力を見せてやるんじゃあ!!」

「YES!」


 私を乗せたヤオキチ号は…なんか、赤くなって湯気を漂わせてる。

 なにこれ? スモーク?


 ボウンッ!


「きゃあ!」


 ヤオキチ号がいきなりスタートした!!

 もの凄い勢いで、ゴンザレスに向かって突っ込んでいく!!


「ブホ!? なんじゃ、山中!! そんなクソオヤジと共謀し、神聖なる教師である俺様に楯突くか!!!」

「いやー! そんなつもりありませーーーん! どーいーてー!!」

 

 私は泣きながらそう叫ぶ!

 だって、今にもぶつかりそうなんだもん!

 

 私の叫びなんておかまいなしで、怒り狂うゴンザレスが竹刀を振り上げた!

 

 ブンッ!!! ズゴン!!


 この音は、こっちの攻撃音じゃ決してありません…。

 竹刀は…ヤオキチ号の頭にめり込んだわけですね。はい。


 私はとっさに頭を横にしてかわしたけれど…。もう少しで私も叩かれるとこだったじゃーん!!


 なにこれ、別に強くなってないじゃん! さっきと変わらないじゃん!


「なーにやっとるんじゃ!」


 クソジジイが私の後ろで怒ってる。

 けど、やりたくてやってるんじゃないし!!


「カーッ! みてらんない! ヤオキチよ! ふぉーめーしょん、『三人合体サンピー』じゃ!」

「YES!」


 クソジジイが、「よいしょ」って言いながら、廊下から何かを持ってくる…。

 あれは…えっと、確か、俗に言う、大八車だいはちぐるま…こと、リヤカーだよね?

 しかも、木製で…自転車の細いタイヤを使った、年季の入ったヤツ。

 

 ヤオキチ号は何の疑問も示さず、リヤカーの持ち手をガシッとつかむ。

 そして、クソジジイが…リヤカーに「どっこらしょ」と乗り込んだのだった。

 

 なにがフォーメーションだ!!

 ただヤオキチ号にリヤカー引かせてるだけじゃん!!


「最初だけの特別じゃ! ワシが側でアドバイスしちゃる!!」

「最初だけって…これが最初で最後です!!!」

 

 私が怒るけど、クソジジイは聞いていない。


「ええか。ヤオキチの顔をよう見てみるがいい」


 クソジジイに言われ、私はちょっとヤオキチ号の顔をのぞき見る。


 え。なにこれ…キモイ。なんか、嬉しそうな顔してるんですけど…。


「ええか。なんで女子高生がヤオキチ号の操縦者なのか! よく考えてみい! オヤジは"ピチピチの女子高生が大好き"! これは日本全国共通なんじゃ! で、そんな女子高生に乗ってもらうことで、還暦型決戦兵器は120%の力を発揮するんじゃーい!!」

「それはつまり…"興奮"してるってことか?」


 セイカ様が会話に入ってくる。

 …興奮って。いや! キモイ! ウソ!!!


「そうじゃ! ヤオキチは"興奮"すれば"興奮"するほど強くなる!」

「なるほど。では、"興奮"させるにはどうすれば?」

「フッ。簡単なことじゃ! 耳元で『オジサマ、頑張って♪』ってやればいいんじゃい!」

「イヤー! そんなことできない!!!」

 

 恥ずかしい以前にキモイ! キモすぎる!!


「やれ! やるんじゃ! やらんきゃ、アイツに殺されるぞ!!」


 血走った眼で言うクソジジイ。


 ああ、なんで、どうしてこんな眼に私が…。

 あんなわけのわからない床屋に行ったばかりに…。


「山中。頼む。お前しかいないんだ!」


 卑怯だ。卑怯ですよー。セイカ様。

 そんな潤んだ眼で私を見ないで! 溶けちゃう! 私、アイスみたいに溶けちゃう!!

 

 解りました。解りましたよぉー。やればいいんでしょ!

 やけくそになった気分で、私は意を決する。


「オジサマ。ガンバッテ…」


 うん。我ながら、棒読みにもほどがあった。

 私の顔は、いままで生きていたなかでも一番の無表情だったことだろう自信がある。


 けれど、なんか…ヤオキチ号がプルプル震えている。


「プッポッポー!!!!」


 鼻から湯気を噴き出し、ヤオキチ号が嬉しそうに走り出す!

 ジェット噴射の勢いがさっきの二倍近くに(体感的に)!!


 ドン!! もの凄い勢いで、リヤカーごと突き進む!!!


「きゃあー!」

 

 あ、あれ。思ったより衝撃が…。

 あー。なんだろこれ。ちょっとスゴイかも。

 風圧が襲いかかってくるけれど、私の前には何やら見えない風防のようなものがあるらしい。

 周りにスゴイ風切り音が唸っているけれど、私にはダメージはないようだ。


 でも、私の後ろでニワトリが絞められたような悲鳴が聞こえた…。


「きゅぇー!」


 後ろのクソジジイは…もろに風圧を浴びて気絶している。

 白目をむいて、ヨダレを垂らして、なんか嬉しそうに気絶している………キモイ。キモすぎる。


「ホォ!?」

「GO!!」


 いきなり飛んできたヤオキチ号に、ゴンザレスがビクッとする!

 ヤオキチ号は、あの愛と勇気しか友達がいないヒーローのように右腕をグルグルと回す!!


 えっと、いつも思うんだけど、このグルグル回転ってあんま意味ないような…。

 普通に殴ったほうが早くない? そんなことを考えてしまう私はすれているんでしょうか?


 とか考えていると、いや、回転…どんどん早くなって、なんか扇風機の強よりも早いし!!


「ヤオキチ・アイアーン・パーンチ!!!」


 ちょっとアッパーカット気味に、パンチを繰り出す!

 それは見事、ゴンザレスの顎にヒットして、バギンッとパーツが割れた音がした!!


「うんもッ! や、やりおる! だが、この鬼瓦!! これしきのことで倒れはせん! 倒れはせんぞ!!」

「カーッ。しぶといヤツじゃ! 耐久力はヤオキチ並じゃな!」


 いつのまにか復活しているクソジジイがそう言う。


「こうなれば必殺技しかないのぉ!!」

「なに、必殺技、だとぉ!?」


 ゴンザレスがピクリと眉を動かす。

 クソジジイは嬉しそうだ。


「左様。ヤオキチの頭に付いているものは飾りではない! 撃て!! 破壊せよ!! 欲望と怒りの化身、ヤオキチよ!!!」

「ウオォオオオオオオ!!」


 ヤオキチ号が咆吼をあげる。

 すると、後頭部の大砲の後ろがピコンと開いて赤いボタンが出現する。


「それを押せーい!」


 もうどうでもいいや。

 はいはい。わかりましたよー。

 言われるがまま、私はそのボタンをポチッと押す…。



 チュボボボボーーーンッ!!


「プピィ!!」

「きゃあ、なにこれ!!」


 頭頂の大砲が火を噴いた!

 それと同時に、恍惚の笑みを浮かべたヤオキチ号が…ヨダレたらしてる。本当にありえないほどキモイ!

 

 至近距離で砲撃を受けたゴンザレスは、胴体にポッカリと穴があいていた。


「そ、そんな…バナナ…じゃーい!!」


 それが辞世の句でいいのか…そんな私の疑問をよそに、ゴンザレスはその場に崩れ落ちた。

 

 ジジジッと火花が全身に散っていて、ショートしているようだ。


「フッフッフ。素晴らしい。さすがはワシじゃ! 最強兵器、ヤオキチ…お気に召してもらえたかな!?」

「気にいるわけないじゃん!!」


 私はさっさとヤオキチ号から下りる。

 心なしか、寂しそうな顔をしていたみたいだけれど…知らない。本当に知らない!


「…すさまじい戦いだった。しかし、鬼瓦先生がまさかサイボーグだったとは」


 セイカ様が、倒れているゴンザレスをしげしげと見やる。


「そうじゃな。ダブル竹刀…まったくもって恐ろしい武器じゃ。誰がこの鬼瓦をサイボーグにしたのか。そんなヤツは絶対に悪の科学者に違いない! こんな凶悪なサイボーグを作るなんて人間じゃないわい! そんなヤツ、ワシは絶対にゆるせん!!!」


 涙ながらにクソジジイは言う。

 いや、ヤオキチ号もかなり凶悪なんですけど…。ってか、両方とも最悪なんですけど。


「…おや。太股になにか書いてある。これは識別コードか?」


 ゴンザレスの破けたズボン……見たくないけれど、生足がでていて、そこに何やらアルファベットと数字が見える。


「…『S-002』」


 セイカ様はそう読み上げてから、ヤオキチ号を見やった。

 

 ヤオキチ号の太股にも…『S-001』との文字。


 しばらくの沈黙………


「……あれ☆  そうじゃ。これもワシが作ったんじゃった! すっかーり、忘れておったわーい♪」


 舌を出して笑うことで誤魔化そうとするクソジジイ。

 「おい。ふざけるな」と、クラス中の皆が思ったのは言うまでもないだろう………。




 こうして、私とヤオキチ号…そして、白木というクソジジイの妙な物語が幕を明けたのでした!



 明けたって…これからも続くってことじゃない!!

 絶対そんなのイヤー!!!!!!!!!

☆還暦型決戦兵器カタログその(2)


・品番:『S-002』


・正式名称:『近接戦特化兵器ゴンザレス号』


・生体名:鬼瓦おにがわら 溜蔵ためぞう 59歳


・生体情報:身長161㎝ 体重78kg


・主兵装:ダブル竹刀(特注超鋼鉄製100kg×2本)

・副兵装:悪臭口臭


・移動方式:竹刀コプター補助、肛門単発ジェット式


・攻撃力:580オヤジー(ダブル竹刀使用時)


・防御力:280オヤジー


・機動力:80オヤジー


 白木卓郎博士が造りだした還暦型決戦兵器の一つ。

 超鋼鉄製の二本の竹刀を用いた近接戦において無類の戦闘能力を発揮する。

 ただし武器を装備していない本体の能力値は、守備値以外さほど高くはない。

 ジェットは敵に急襲するときのことを考えた形状であり不完全と言える。単発式であることもあり、長距離の移動には不向き。

 長距離の移動は、竹刀をプロペラ方式にしてバランスを取る必要性がある。ただしバランスの良い機体ではあり、適合者であるパイロートの幅も広いのが、本機体のなによりものアドバンテージになってる。

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