挿話⑥『白木ジジイやめるってよ』
それはいつもと変わらぬ日常。
朝ギリギリに起きて、朝飯も食べず制服に着替え、電車に乗り、学校に着き、つまらない授業を受け、自宅に帰り、これまた面白くもないネット動画を見て、風呂に入って寝る…
高校に入れば少しは変わると思っていた。
けれど一年何も起きず、残りの人生もこれと似たような毎日が訪れるのだと漠然と理解していた。
こうして当たり前の毎日を送り、無難な大学に入って、何の刺激もない会社に就職することになるんだろう。
息が詰まりそうになるけれど、それから脱する勇気もなく、ただ漫然とありふれた社会のレールに乗って進んで俺は生きて行くんだ…。
周囲を見れば、くたびれきった大人たち、過去の栄光を自慢気に話す老人…これが俺たちの将来だ。懸命に努力して勉強した結果がこれでしかない。
背筋を伸ばして、若者らしい夢を抱けなんて、どの口が言うんだ?
輝かしい未来が存在していないのはアンタらを見ていれば解るさ。あいにくと俺たちはそこまで馬鹿じゃない。
目を伏せスマフォを叩くだけの俺たち世代。今じゃ勉強も遊びもこの手の平サイズの小さな機械があれば充分だ。スマフォを見てさえいれば何でもできる。他人と眼を合わせる必要もない…。
…でも、そう。時にだ。無性に“外”が見たくなる時がある。
意識的に顔を上げて、電車の窓から流れる風景を見やった。
改めて見ると、スマフォの小さい画面以外にもこんなに大きな世界が拡がっているのだと気付かされる。
「…あ。あんなところに空き地が」
前に見た時は廃墟ビルが建っていたハズだ。いつ取り壊したんだろう? 拓けた土壌の上に草が茂っていることから、それは昨日や今日のことではないだろう。毎日通学していたのにそんなことすら解らない。
もっとよく見たいと思っていると、ちょうど駅についた電車が止まった。真正面というわけじゃないが、閉まった扉窓から顔を寄せるとギリギリで見える。
「あれ? 人…?」
誰かが歩いているのが見えた。
あんな草ぼうぼうのところだ。もしかしたら不動産屋や建築関係の人が土地を見に来たのかも知れない。
でも、遠目にも着ているのが作業着や背広ではないのが解る。
「……女の子?」
それはたぶんセーラ服。風でスカートの端が拡がっているから間違いない。
でもそうなると、ますますあんなところにいるのが不思議だった。学生なら通学する時間だ。平日の朝方からいるところじゃない。
その女の子から目が離せないでいると、ふと彼女がこちらを見た気がした。
もちろんこの距離だ。いくつもの車両の中にあって、たった一つの窓にしがみついている俺に気づいたわけではないだろう。
そうだ。きっと、ただ駅に停まる電車に気づいて、何となく目をやっただけに過ぎない。
けれども、そんな冷静な思考の導き出したメッセージとは裏腹に、俺の心臓はバクバクと高鳴っていた。
小学生の頃、田舎のおばあちゃんの家の裏庭で、茂みに隠れた小道を見つけた時の興奮と似ていた。それは好奇心だ。俺が失って久しいものだ。
発車のチャイムが聞こえた瞬間、俺は理性が「遅刻する!」なんて叫ぶのを無視してプラットフォームに飛び降りていたのだった……。
人生で一度も、そしてこれからも降りる必要がなかったであろう都市と都市をまたぐ間の駅。
特に目新しい物もなく、薄汚れてほとんど見えなくなった看板がかかっている商店街が営業していたのはきっと俺が生まれるよりもっと前のことなんだろう。
雨で流れたサビがひっかきキズのような跡をつけている。それだけで長い年月放置されていたことが解り、何ともさびしい感じがしてならなかった。
俺は真っ直ぐにさっきの空き地を目指す。駅のホームは2階だったので、下から見ると印象がだいぶ違っていたが方角だけはきちんと把握していた。
似たような場所が点在していたので、もしかしたら辿り着かないかも…という不安は少しあったが、それはまったくもって必要のない心配であった。
ほどなくして廃墟ビルとビルの間に、フェンスバリケードが置かれ、そこに仰々しいまでにデカデカと『関係者以外立入禁止』と書かれた場所に出た。
俺にはこれが何よりも、さっき見た女の子がここにいると教えてくれているような気がしてならなかった。
一瞬、社会のルールに縛られて生きてきた俺は、そのルールを破ることに小さな罪悪感を覚えたが、もうさっき電車を降りた時に遅刻は確定しているんだ。いまさら何を取り繕うこともないだろうと意を決する。
品行方正だなんて言葉とは縁を切ったんだとばかりに、俺はそのまま立入禁止のバリケードを乗り越えた。
乗り越えた瞬間、俺の中に一種の達成感のような、俺を縛り付けていた常識が砕け散るような爽快さを覚えた。
我ながらこんな小さなことに感動しているのが恥ずかしい気もしたが、それでも今まで踏み出せなかった一歩を踏み出せたことは誇らしくもあった。
二棟のビルの間に生える草やぶの中を歩いていくと、ポッカリと拓けた場所に出る。その先は線路までなだらかな土手となっていて、そのさらに先には河川が見えた。
他に建物はなく、空には電線は一本もない。そんな見慣れない非日常的な空間に心奪われる。
「……ダレ?」
無機質な何の感情も伴わないような声によって現実に引き戻される。
振り返ると、放り捨てられたであろうH鋼の上に座っている少女が目に入った。
制服を着ていることからしても、学校は違うけれど俺と同い年くらいの高校生だと解る。
染めているのか、薄青をした肩に届くぐらいのセミボブ。周囲の荒れた黄土や、赤褐色をした鋼材とは不釣り合いなほどの白い肌。スカートからスラリと伸びた細い脚は芸術品を思わせる。
この場所にやってきたさっきの感動すら吹き飛ばすほどの衝撃を俺は受けた。
そして何かが始まりそうな予感に胸が激しく高鳴る。
「……超日本人?」
それにもかかわらず、俺の口から出た言葉はそんな平凡なものだった。
平均的な超日本人の黒や茶の瞳から外れる、彼女の青い瞳を見れば外国人であることはすぐに解る。であるのにそう聞いたのは、目の前の彼女があまりにも美少女で何をどう言うべきか悩んだ上での苦し紛れの言葉だったからだ。
「ずっと、待っていた。アナタを…」
「え? ええええ!?」
へ? だって、いま、『ダレ?』って聞いてたじゃーん! とは思ったけれども、ラノベ主人公がヒロインから声をかけられる時に聞きたいナンバーワン(マイランキング)の台詞に俺のテンションは上がりマックスだった。
「あなたは選ばれた人。私の運命の人。私はあなたのモノ」
ズキキューン!
な、なんてこった! 俺のつまらない人生を覆すために一番言われたい台詞ベスト3が出揃ってしまった!
「き、急にそんなこと言われても…う、うへへ」
いかん! シリアスにいきたいのにニヤニヤが止まらない!
そりゃそうだ! こんな美少女に言い寄られて悪い気がする男がいるわけがない! いたとしたらよっぽどの女嫌いか、二次元しか愛せないキモヲタだけだ!
「えっと、き、キミは?」
「私? 私はシラキ・タク…」
「シ、シラキ・タク…??」
途中でピタリと止まってしまった彼女だが、しばらくして首を横に振る。
「…シラキ・タマミ」
うーん。なんだろう。このとってつけた感と、なんか昭和くさい臭いが漂っているような語呂は。
いや、でも、見た目は昭和や平成や令和や超和(今の元号)を飛び越えて次の次の元号まで行ってるかもしれない【作者注…このお話は近未来だしね♪】。
ま、なんでもいいか! 見た目が可愛ければ許される! 可愛いは正義なのだ!
「内気なのをシャイだとか勘違いした、十把一絡げにもならない存在にもかかわらず、自分だけは特別だと思いこんでいる…これが中二病」
「へ? な、なんかディスられてる?」
「ううん。そんなことはない。誉めてるの。あなたは特別」
「そ、そう?」
「たまに毒を吐く。これこそツンデレ」
「い、いや、ツンデレは自分でツンデレとは言わないんじゃ…」
? そういえば何か本を持ってるけど、タイトルが…『あなたも今日からシナリオライター! 正しいヒットするアニメヒロイン像』…??? まさか創作系マニュアル本???
あ。なんか、後ろに隠したし……
「いいから。行こう」
「ど、どこに?」
「あの土手の下」
「…は?」
いきなり手を握られ、困った顔をしながらも俺の心臓は高鳴る! ああ、女の子の手を握るなんて幼稚園以来だ! ここ最近で異性に触れたのは、ばあちゃんに小遣いの万札を握らされて以来だ!
そんな感動に浸る間もなく、シラキちゃんは俺を引っ張って連れて行く。
「こんな何もないところに…」
想像していたよりも何も変哲がない場所だ。辺りには短い雑草が転々と茂ってるくらいだ。
シラキちゃんはキョロキョロと辺りを見回すと、しゃがみ込む。
あ! 位置によってはパンティが見えるのでは!? しかし、紳士な俺はここで覗き見るかどうかを悩む!
「……チラリズムは王道」
ギクギックーン!
ま、まさか俺の心を読み透かしただと!?
そんな俺を尻目に、彼女は何かを掴んで引きずる。それは薄いベニヤ板で、どうやら上に土を盛って隠していたようだった。
板を動かした下には、石造りの地下へ続くであろう階段が見える。
「こ、これは…」
「秘密基地」
ズッキキューン! SD心をくすぐるには三本指に入る言葉だ!
もちろん残りは言うまでもなく、ウ○コとチ○コだ!
「…な、なんでこんなに的確に」
「来て。早く」
そうだ。陰キャにとって、強引系不思議女子は展開上必須じゃないか!
俺は引きずられるようにして、階段をドドドと降りる。トトトじゃない。ドドドだ。つまりかなりの急勾配だったってことでだ。あ、危うく転けるところだった…。
下はあの殺風景な土手があった場所とは思えない。明るい照明、清潔感あふれる近未来的な廊下。
そして廊下の横に飛び出た短い棒……棒??
あ。そうだ! なんかこれ見たことある。えーと、レバーアームだ!
よくSFマンガに出てくる、無重力空間を移動するやつじゃないか!
確かこれに掴まっていないと、フワフワして上手く区画間を移動できないじゃなかったっけ?
「はい」
彼女はそのレバーアームに掴まるよう促す。
「で、でも、ここ重力あるよね?」
「いいから」
とりあえず掴まれってこと? 何か意味が…
ガッコン! シュル!
「え? なに? この手に巻き付いたバンドは…」
キシャーーーー!!!
「キュェッ!」
俺はまるで鳥が絞められたような声を上げ、大きく仰け反ったまま超高速移動する!
なんだ…これ?! 息ができな…!
手を離せばいいと思うだろうけど、指にバンドがグルグル巻きにされてて離れない!
ガッガッゴーン!
「うんももッ!」
急停止し、俺は大きくバウンドする!
「お、おげええええッ!」
ヤバイ! 胃から何か酸っぱいものがこみ上げてぶち撒けた!
ミルク粥みたいな白とも茶とも解らない半流動物…朝食ったトーストと牛乳だ。なんか温めたバターと納豆の混ざった香りがする。
「……着いた」
「…へ?」
そこは巨大な倉庫の中だった。
シラキちゃんが、いかにもなレバースイッチを押し上げると天井の傘付き照明が幾つも点灯した。しかも今時なぜか白熱電球だ。
そして、なぜこの倉庫がこんなにも巨大だったのかを理解した。
目の前に直立不動の巨人。メタリックなボディを白と赤に染め上げめており、スノーゴーグルをつけたような顔が電灯の光を反射させている。
「ろ、ロボット…」
それは間違いなく巨大な人型ロボットだ。
戦隊ヒーローが乗ったり、小学校が変形したり、親にも殴られたことのない主人公が乗ったり、そこらへんに乗り捨てられたり、公衆電話で呼び出されたり、うっかり宇宙を消し去る訳のわからない力を持ってたり、よくケーブルが切れて暴走するアレだ!
「…名前は“鉄腕戦士ウルトラ・フール”」
ダサい! デザインは何か古臭いけど…だが、そこがまたカッコいい!
戦わせるのに派手なカラーリングや、わざわざ二足歩行にさせる必要がないというツッコミもあるが、玩具として子供心をつかむにはこういった遊び心が必要なんだ!
「…気に入った?」
「も、もちろん! 動くの!?」
「当たりマエ○のクラッ……モチロン」
? なんか奇妙なこと言いかけたけど、シラキちゃんは親指を立てる。
「あなたが選ばれたのは運命。この還暦型……いえ、巨人型兵器に乗って世界の平和を守るの。もちろん、周囲には秘密で」
「で、でもそんなこと急に言われても…」
「チッ!」
え? いま、もしかして舌打ちした?
「世界の危機なのよ。危機が世界なのよ。見てご覧なさい」
シラキちゃんがテクテクと歩いて行くと、モニターの前でガチャガチャと何か回し始めた。
えーと? あれってまさかブラウン管テレビ? しかも俺が生まれる前にあったという、レバーを回転させてチャンネルを変えるやつ?
「…映らない。こういう時は45度で叩く」
え? ええー、なんかテレビにチョップしだしたんですけど? ナニコレ? ナンナノコレ?
パチン!
「……」
「……」
「もういいわ」
シラキちゃんはプイッとそっぽを向くと、壁の端から最新式の薄型モニターを引っ張ってきた。
「そんなのがあるなら最初から…」
「いいから観て」
強引! でも不思議ちゃんにはテンプレートだ!
モニターを観ていると、そこには黒い布で覆われた部屋が映りだされる。中央には黒いドクロの旗が掲げられていた。中央には黒い仮面を被ったフード姿のいかにもな人物が座っていて、手の中で銀色のクルミみたいなのを回している。
『フォフォフォ。はじめましてかな。雨草 士朗君。私は悪の組織秘密結社“チョチョリーナ”総帥である悪路 仕泰造である』
「うさんくさ! ってか、なんで俺の名を!?」
「敵はヒーローを知っているは王道」
「た、確かに…」
『唐突だが、私は世界征服することにした。ということで超新宿に怪獣ステテゴンを派遣した! 止めたくば止めてみるがいい! 雨草 士朗! フォフォフォ!』
いや、なんで秘密結社の組織がこんなに懇切丁寧に説明してくれるんや! なんでこないに親切やねん!
関西風にツッコミたいところだが、これが本当ならば大変だ!
『…なお、このテープは終わり次第自動的に消滅します』
「へ?」
チュボボボーン!
「ぎゃああ!」
モニターが爆発した!
確かにベタと言えばベタだけれども!
「さあどうするの? 世界を救うために戦うの? 戦うために世界を救うの?」
「えっと…」
「悩んでいる暇はないぜ!」
「へ?」
え? なんか後ろからいっぱい出てきたんですけども!
「相棒! いっちょかましてやろうぜ!」
二話目にいきなり登場して、「俺はお前を認めねぇ!」なんて突っかかってきて、その間に一人では決して倒せない強敵の登場に、主人公と協力するようになったのを機に打ち解け、主人公の片腕役ともライバルとも言える立場の、青づくめの服をまとったス○夫ヘアーの男がウインクする。
「そうよ。リーダー。戦いましょう!」
一話目からヒロインの友人として出て、表向きは仲良くしているけれども、主人公の恋人、ヒロインの座を巡って女同で揉めた挙げ句に「いいわ。あなたの勝ちね。主人公の横にはあなたが相応しいわ」とか言って後ろを振り向いて流した涙を見せないピンク色づくめの準ヒロインが言う。
「オイドンたちもサポートするでごわす!」
好物はカレー! 普段は食いしん坊かつノンビリ屋だけれども、窮地に陥ると持ち前の馬鹿力を発揮して、最終話から三話前くらいに仲間たちの活路を開いて殉教する、黄色づくめの巨漢が腹を鳴らして笑う。
「…さあ。シロウ。どうするの?」
「お、俺は……」
☆☆☆
第一話 怪獣ステテゴン襲来!
〜省略〜
☆☆☆
「どう? ウルトラ・フールは?」
「サイコーでしたッ!」
巨大ロボットを自身の手足の如くに動かす! これ以上の最高体験はない!
なぜか超押上に超スカイツリーがなく、超東京タワーにゴリラが美女を捕まえていたり、途中、崩壊するビルから一人も逃げ出しても来ないことから、“もしかしてこれジオラマジャね?”なんて思いも抱いたけれど、そんなことどーでもいいぐらいの興奮だった!
仲間と協力し合い、強敵を倒す! 30分(実質23分30秒ほどだが)という枠組みの中で展開されるドラマ!
真に手に汗握るこの感覚は、きっと画面越しにも伝わるに違いない!
「…また戦ってくれる?」
「もちろんですとも!」
「良かったわ。なら、これにサインを…」
シラキちゃんは何やら書類を取り出す。
「なにこれ? 誓約書?」
「…そう。ちゃんと氏名と住所と拇印も忘れないで」
「……でも、これ、誓約内容が見えないんだけど」
誓約書の下が黒いインキで消されてて読めなくなっている。
「怪しくはないわ」
「いや、どう考えたって怪しいでしょ!」
「…お願い(୨୧ ❛ᴗ❛)✧」
前屈みになって親指を噛んでの甘えポージング! 胸の谷間が! 谷間がぁ!
「書きます!」
こうして退屈な日常とはおさらばし、俺は今日から鉄腕戦士ウルトラ・フールのメインパイロットとなったのであった!
☆☆☆
俺は学校をサボってシラキちゃんを自分の家に案内する。
「でも、いきなり同棲だなんて」
いや、あるあるだよ。確かにあるあるだ。でも同じ屋根の下で過ごす男女に過ちが起きないわけなんてないじゃないか!
「豪邸なんでしょう?」
「そりゃ、それなりに大きな家だとは思うけど…」
金持ちのボンボン…そんな風に言われるのは嫌なんだけどね。
「超代官山の一等地、50LDKだけど、まあそこそこな金持ちってなだけで、でも別にそんなの世界を救うヒーローには関係ないってね!」
そうだ。確かにヒーローにボンボンはいないかもしれない! けれど例外がないのなら、俺がその例外になればいい!
「ここね?」
超巨大な我が家の前で、シラキちゃんは少し驚いた顔する。
「ちょっと待っててね。暗証番号入れちゃうから」
そう。玄関に入る際には指紋認証、虹彩認証、声門認証に加え、108桁に及ぶ暗証番号を入れやきゃならない。
そうじゃないと、警備会社どころかSAC(先制攻撃反撃応酬型自衛主張部隊の略)がやって来るからね!
「はー。これでOK。って何やってるの?」
「なんでもないわ」
いや、なんか俺の入れた暗証番号をメモってたんじゃ…。
「さっさと入りましょ」
えー。なんか超強引! でもそこも嫌いじゃない!
ん? でも、なんかシラキちゃんの頭から湯気みたいなのが…興奮!? 男子の家に初めて入ることで興奮してるのかぁ!?
「シラキちゃん。まずは俺の部屋に案内…え!?」
玄関に入ったシラキちゃんの様子が明らかにおかしい! なんか微振動している!
「ど、どうしたの?」
「な・な・ナ・ナン・でも・な・イ・ワー」
「いや! なんでもあるでしょ! それ!」
湯気が! 蒸気みたいに耳から鼻から吹き出してるんですけどぉ!!
スコーン!
え? なんかシラキちゃんの顔が外れ…た?
「あ!」
「いっけね! やっちまったわーい!」
「え? えええッ!? 」
シラキちゃんの美少女フェイスの下から、シワだらけのクソジジイの顔が出てきたんですけども!!
声も可愛らしい高音じゃない! ダミ声だ!
「な、何が!?」
「バレちまったわーい!」
コツンと自分の頭を小突くジジイ!
顔以外は美少女の風体なので気持ち悪いことこの上ない!
「“せきりゅてぃ”が厳しいから、こうやって“美少女夢叶物”を着て侵入したはいいが、どうやらオーバーヒートしちまったようじゃな」
「スーツ? ま、まさか…なら、シラキちゃんは…シラキ・タマミちゃんは?!」
「ワシ! 正体はワシ! まごうことなきワシじゃ!」
ガガーン!
「だ…騙された。く、クソ! 出て行け!」
「そうはイカの三杯酢じゃーい! この家の権利はワシにあるんじゃい!」
「そ、それは…」
ジジイが出したのは、俺が書かされた誓約書!
──私こと雨草 士朗は、貴殿こと白木 卓郎に、我が自宅に自由に立ち入ることを無期限に許可します──
「あの隠されていた部分にこんな…卑劣な!」
「ウヒヒッ! というわけじゃーい! 家主が帰るまで大人しくせんかーい!」
「う、うあああああッ!!!」
☆☆☆
超千代田区、超永田町、超国会議事堂。
予算委員会にて、連日のように野党から闇部総理に向かって質疑が投げかけられる。
「カタヤキソバ問題からこれですよ! 総理! “サクラたんのパンツを見る会”で、総理自身が幼女のマンガパンツを購入したかと質問しているんです! これ、税金ですよ! 正確な答弁をお願いします!」
「闇部内閣総理大臣」
「えー、これはですね、私の事務所を通してですね。使用済みパンツをですね。合意の上で頂いたと、そう聞いているわけでしてね。税金を投じて購入した。そういった事実はないわけであります。これだけはハッキリ申し上げて置きたいと思います」
「乱房くん」
「えー、総理。ごまかさないで下さいよ。そんな答弁で逃げられると思っているんですか! 中高年男性にパンツを譲る、そんな幼女がどこにいるんですか? 忖度でしょう! 忖度したんでしょう!? エビデンスある発言を求めます!」
闇部総理は深く心の中で嘆息する。こんな不毛なやり取りをして何になるのか、と。この超日本でテロリストが蔓延る国家の一大事に、幼女のパンツを一枚や二枚、買ったところでなんだというのか、と。
「えー、これはですね。この問題は、一般的にですよ。成人男性が幼女のパンティを買ってもなんら法律に抵触するものではね、ない問題でありましてね」
「パンティじゃねぇだろ! パンツだろ!」
総理の答弁に、野党議員が罵声を浴びせる!
「いや、ね。皆さん! 聞いて下さいよ。私もね、ちゃんとこうやって説明をしてるんですよ。説明を聞いてもらわねばね、私としてもどうしようもないわけでしてね」
「総理! パンツを買ったことをお認めになるんですね?」
「いや、それはですね。私は一般論的に申した訳でしてね。今回のパンツを見る会では使用済みの…。いや、そもそもですね。パンツかパンティだったのかという話も錯綜しているわけでしてね」
「総理! そのパンツは『ロマキャてへ☆(ロリロリ、魔法少女キャミーだ・よーん…てへ☆』の略)のキャラであるサクラたんで間違いなかったことはお認めになるんですね! お答え下さい!」
「いえ、ですからね。先程から答弁させて頂いている通り、法律上はですね。仮に…これが仮にですよ。『ロマキャてへ☆』の主人公キャミーの友達であるサクラたんの柄であったとしてもですね。私はね、このアニメを知らないわけではありますが、それでも何ら事務所が頂く上に置いてはですね、問題はなかろうと、こう考えられるわけであります」
「総理! 全然答えになっていません! ちゃんと答えて下さい!」
「雨草財務大臣」
「ちょっと待って! 財務大臣関係ないから! 総理に聞いてるから! 委員長! ちょっと! 委員長!」
野党が騒ぎ立てる中、雨草は立ち上がり壇上まで向かう。
「ベツニイインジャナイデスカー」
雨草の発言に一瞬だけ静まり返る。しかし、次の瞬間、ブーイングの嵐が巻き起こった!!
「無責任すぎる!」
「闇部政権を絶対に許せない!」
「超日本は死んだー!」
罵詈雑言で紛糾する超国会。記者席では、与党の発した失言に垂涎しながらシャッターを切りまくるマスゴミ各社が嫌らしい笑顔を浮かべていた。
そんな只中にあって、闇部だけが雨草の背を驚愕の顔で見やる。
(ま、まさか…コイツ、すでに改造されている?!)
「ベツニイインジャナイデスカー」
閣僚の警備は万全に万全をきしたはずであった。しかし、同じ棒読みの台詞を繰り返す雨草に、闇部は自分の側にまで迫りつつある驚異に身を固くした。
(こうなったら、ついに私が“アンベノミクズ”を…いや、しかし、まだそれには早いッ)
「…至急、浦河くんに連絡を」
闇部は後ろに控える秘書感に耳打ちする。
「ソーリー! 答弁を! ソオオォリーィ!! ソォウリィイイー!!」
焦点の合ってない乱房が連呼する!
「うるさーーい!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた闇部が真っ赤な顔で立ち上がる。
「さっきから、つまんねぇ質問してんじゃねぇ!!!」
一瞬黙り込んだ野党たちだったが、みるみるうちに怒りの形相となる。
「超国会軽視だ!」
「不規則発言!!」
「懲罰動議!!」
「うるせぇ!! 悔しかったら対案だしてみろ! テメェらだって腹ん中どころが全部真っ黒だろーがッ!!」
椅子を蹴り飛ばし、闇部が啖呵を切る!
「謝ればいーんだろ! 謝れば! そうすりゃ気が済むのか! 幾らでも謝ってやんよ! どーもすみませぇ〜ん! ソーリーソーリーアイムソーリー! アイム・アンベ・ソーリー!」
心底小馬鹿にしたツラで、鼻の穴をほじくり返しながら闇部は自らの尻を叩く。
「ゆ、ゆ、ゆるせーーーん!!」
乱房の立襟がブーメランのような形状となる!
(やはり、野党議員もすでに還暦型決戦兵器の魔の手に!)
恐らく超国会議員の殆どがもはや敵だろう。ここは国の中枢だ。正常ならば、わけの解らない超国会予算委員会などやるわけがない。彼らは改造されてしまっていたのだ! だからこそわけが解らないことをやってしまったのだ!
揚げ足を取り、言葉尻を捉えて勝ち誇ったり、終始言い訳じみた答弁を繰り返して煙にまこうとしたり、幼稚で退廃的な議論を続け、超国会を空転させた挙げ句、年間2000万円以上の報酬をもらい、それが民衆のためだなどと宣う国会議員などどの世界にも存在しえないのだ!!
「そう! 私はクズとなってもこの国を護る! それが超日本国内閣総理大臣!!」
闇部は落涙し、上着を脱ぎ放つ。そこには増税によっる莫大な予算を投じて造り上げた肉体、シックスパックどころか43パック(支持率によって変動する)があった!
「超日本国の血税たちよ、この私に力をををををッ!!」
「ベツニイインジャナイデスカー」
こうして生中継で、総理と野党議員の熾烈な戦いが始まった!
……しかーし! 残念ながら、国民はテレビを誰一人として観てなかった!
「だって誰が総理になっても同じでしょ」
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
こんな超日本になったのは、政治に無関心な愚民のせいなのであーーーーーった!!!
・総論…『みんな悪い』




