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三十二狂目 『BOINで集うヒロインズ』

 超渋谷駅の“ウルトラ・ハチ公”前に、私たちは集結する。


「なんだバカヤロー! こんな朝っぱらからよ!」

「早くないわよ! お昼過ぎの15時じゃない!」

「お出かけ楽しいのぅ!」

「別に楽しくないわよ!」


 あー、もう。この二人を相手にしてると本当に疲れるわ。

 改札前で耐えて待っていると、こっちに向かってくる二人の姿が人混みの間から見えた。


「すまない。待たせたな、山中」

「お待たせしました! ナミさん!」


 ビックリした。ちょうど同じタイミング。セイカ様もユウキちゃんも互いに少し驚いた顔をしている。

 あ。そうか。二人は初対面だったわ。私の中ではもうフレンドだったんだけど…。


「確か…新しい仲間の…」

「はい。緋桐学院一年生の雲上 裕希です! よろしくお願いします!」

「ああ。こちらこそ。越宮 聖華だ。山中と同じ蒼蘭学園二年だ」

「…あ。先輩だったんですね」


 そうだ。ビューティ鷹田のとこじゃ学年を言わなかったかも……。


「すみません。ナミさん。たぶん、ボク、馴れ馴れしくしてしまったかも…」

「ううん! ユウキちゃん、全然いいから! 馴れ馴れしくしてくれて! 敬語だってくすぐったいからやめてもいいぐらいだし!」

「でも…」

「私も構わない。これから共に戦うのに遠慮なんてしないでくれ」


 私とセイカ様が言うのに、ユウキちゃんは少し安心したようだった。


「しかし、すまなかったな。二人が戦いに巻き込まれていたというのに私は…」

「いえ、セイカ様は悪くないです。むしろ…」


 ヤオキチと一緒に売店のスポーツ新聞を物色しているジジイ。そうよ。きっとコイツが裏で工作して、私とユウキちゃんが戦うように差し向けたんだろうから。


「こうして悪と戦う仲間たちがようやく集結したわけじゃな! ワシ、感激!」


 そうね! アンタの思惑通りにね!


「そういえば、ゴンザレスとジョジーは?」


 二人の後ろに、あの例の不快なサイボーグたちの姿がない。


「ん? 後ろについてきているはずだが…」

「ええ。ボクもさっきまで一緒に…」


 セイカ様もユウキちゃんも辺りを見回す。


「どこに目をつけとるちゅーちょろうがーい!」

「ハッハー☆ 眼は顔についてるって相場は決まってるゼ!」

「だぁれもそんなことは聞いとらぁーん!」


 いた。いたわ。

 ってか、なんで出会い頭に早々にケンカしてんのよ。


「何をやっている!」

「ジョジーさん!」

「見て解らんかぁ!?」


 解らないから聞いてんのよ、ゴンザレス…。


「このふざけた肩パッドが! 偉大な性教師である俺様に、この邪魔くさい“黒光りする棒”をぶつけてきたのよ!」


 “黒光りする棒”って…それリーゼントじゃん。ってか、なんでかゴンザレスが言うと卑猥な方にしか聞き取れないわ。


「す、スミマセン!」

「謝る必要はないゼ☆ ユウキ・ボーイ! そのチンピラはオメェのスカートの中を盗撮しようとしてオイラに当たったんだからな!」

「え、えぇ!?」


 ユウキちゃんはスカートを抑えて真っ赤な顔をする。


「クソォ! バラしおってからに!」

「ゴンザレス! 勝手な真似をするなと言っただろう!」


 ゴンザレス。アンタ、なんで一眼レフなんてモン持って盗撮なんか試みてんのよ。セイカ様にカメラを奪い取られ、フィルムを引き抜かれて絶叫してるし。


「まあ、ボーイのクセにスカートなんてはいてるから本人にも責任はあるがな☆」

「でも、制服はスカートしか……」


 ジョジーは相変わらず、ユウキちゃんを女の子として認めたがらないみたいだし。なんなんだか。


「す、すまない。雲上」

「いえ、大丈夫です。スカートの中、短パンはいてますし」

「な、なぁにぃ!? 短パン!? そんな邪道が認められるか! キッサマー!」

「ヒッ!」

「ゴンザレス! 静まれ!」


 あーあ。やっぱりこのオッサンどもがいると騒がしいわ…。


「ジジイ。オッサンたちを“従順モード”にしてよ」

「ズルズル…ほえ?」


 その今食ってる焼きそばどこで買ってきたなんてツッコまないからね!


「ほら、リモコンで大人しくさせられるでしょ」

「はぁ。ナミよ…」

「な、なに呆れた顔してんのよ!」

「いくらサイボーグとはいえ、元は人間じゃぞ。個人の尊厳を守らん行為、ワシどうかと思う!」

「どの口が言ってんのよ! 尊厳なんて無視して勝手にサイボーグにしたり、勝手に人をパイロットにしてんのアンタでしょーがぁッ!」


 自分のこと棚にあげて頭に来る!


「公衆の面前で騒ぐんじゃねえバカヤロー!」

「俺様は恥ずかしいぞ! 貴様みたいな生徒をもってな!」

「はっちゃけてもルールは守ろうゼ☆ ヤオキチ・ガール!」

「は? なんで私がアンタら三体に説教かまされてんのよ!?」


 コイツら本当にウゼー! 私を責める時ばっか一致団結してんじゃないわよ!


「…それで山中。今回、電車の中に敵がいるとBOINボインで言っていたが」

「はい! そうなんです!」


 私を囲んでるオッサンたちを押し退け、私はセイカ様に近づく。

 BOINってのは、大人気スマフォアプリのことだ。無料でメッセージのやり取りができる。電話より便利で、セイカ様とユウキちゃんに連絡をとったのもBOINを使ってのことだ。

 セイカ様のIDは前から教わってたけど、なかなか送っていいものか迷ってて、今回ユウキちゃんと交換した際、サイボーグ関係なら伝えるべきだと思いきって送ってみたんだよね! もちろん、個別送信じゃなくて一括送信だけど…。だって、セイカ様にこっちから個別送信だなんて恥ずかしいもの!


「名前は『エレガント武田』ですよね?」

「うん。情報は送った通り。写メでもあればよかったんだけどね」

「内容を見る限り、どういう能力を有しているか不明だな。対策の立てようが……」


 私たちはスマフォを取り出して、解ってる範囲の情報を改めて共有し合う。

 私のスマフォは普通の白だけど、ユウキちゃんはスポーツ仕様のブルー、セイカ様はビジネス仕様のワインレッド……なんかスマフォだけ見ても見事にその人の性格を現してる気がするわ。


「かぁー! なぁにそんな小っこいのポチポチしとるんじゃあ!」


 ジジイが怒り狂う。科学者なんだからスマフォぐらい使えるでしょうに。

 そういえばヤオキチたちも携帯電話すら持ってないわね。


「私から連絡することはないだろうけど、なんかあった時はどうやって…」


 そこまで言って、そういえばジジイが私の脳内に直接交信する手段を持っていたことを思い出す。


「そうよ! ジジイ! 年寄り向けでも何でもいいから携帯電話もちなさいよ! そうすれば脳内会話なんてしなくてもいーじゃん!」

「あーん!? このワシが電話を持ってないと思っちょるのか! バカにするな! 電話ぐらいもっとるわーい!」


 ジジイはそう言うと、ヤオキチの胸ハッチを空ける。


「バカヤロー! 何しやがる、このクソジジイ!」

「ここにワシの携帯がはいっとるんじゃーい!」

「ふざけんな! 勝手にんなもん付けんじゃねぇ!」


 揉めながら取り出したのは、何時の時代のだと聞きたい黒電話だった。使ったことないけど、見たことはある。指ひっかけてジーコジーコと回すアナログのやつだ。


「それのどこが携帯…」

「こうやって持ち歩いとるんじゃから立派な携帯電話じゃぁい!」


 もーいい。話になんないわ。


「アンタたちもガラケーぐらいは…」


 ヤオキチとジョジーが顔をそらす。

 最新型のサイボーグのくせに機械に疎いってどういうことなのよ。


「フッ。山中よ。この俺を舐めておるな!」


 ゴンザレスがジャラジャラと、数台のスマフォとかタブレットを取り出す。

 なんかジャラジャラしてるのは、全部が鎖で括りつけられているからだ。ってか、干物じゃあるまいし、なんで一括りにしてんのよ。


「…全部使えるの?」

「ふざけおってからに! これを見よ!」


 ゴンザレスがタッチパネルに高速で打ち込む! 早い! しかも両手打ちだ。並みの女子高生より打ち込み早いかもしんない!

 

「さ、さすが腐っても一応は教師なだけあるわね…。でも、なんでこんなに」

「最近のはスマフォ一台、一台に個人認証が必要でな。出会い系に複数登録するのにこれだけいるのよ!」


 あー。なるほど。納得したわ。なんか一生懸命打ち込んでると思ったら、偽造のプロフィールだし。

 なぁにが、『24歳独身、身長185センチの細マッチョ系、趣味が高じたトレーダーをやってます。年収1500万にちょっと欠けるぐらい。自分では意識したことないけど周りからは超イケメンって言われます。困っちゃいますよね。ハハ。こんな僕でよければメール待ってます』よ。大嘘どころかこれって詐欺じゃん!


「…話を元に戻すが、そのエレガント武田が乗っている車両は解るのか?」

「ええ。ヤオキチが受け取った名刺に車両の番号と時間帯が…」

「この前に倒した美容室のおじさんのお母さんなんですよね?」

「ええ。たぶん。ジジイの記憶が確かならね」


 またどこで買ってきたか解らないタコ焼きを頬張りながらご機嫌なクソジジイ。アンタが造ったんだからもっと深刻そうな顔をしろっつーの。


「白木博士」

「ほえ?」

「もし、さしつかえなければ、そのエレガント武田。どのような武装をし、どんな戦闘パターンを持っているか……いえ、むしろどんな些細なことでも構いません。情報を頂くわけにはいかないでしょうか?」


 恭しく頭を下げるセイカ様。ああ、そんな青のり歯につけまくったクソジジイ相手にもったいない!


「…フム」

「ぼ、ボクからもお願いします!」


 あー、もう。ユウキちゃんも頭を下げることないって!


「こうお願いされちゃあのぅ…。どうしよっかなぁ~?」


 な、なんで私を見るのよ。ジジイ…。


「……山中」

「……ナミさん」


 ゲ。セイカ様、ユウキちゃんまで……。

 なにコレ。なんでなんか私が悪いみたいになってんのよ。


「バカヤロー! オメェが謝ればすむ話だ!」

「生徒の本分は謝罪だ! 常に教師が正しいのだ!」

「ハッハー☆ イヤなことはさっさと終わらせるもんだゼ☆」


 コ、コイツら……やっぱり私を貶める時だけは一致団結しやがるわ。


「ス・ミ・マ・セ・ン・デ・シ・タ! …これでいいんでしょ!?」

「……ふぅーん。なんか心がこもっておらんようじゃのぅ」


 クソジジイが! 腹立つ!!

 解りましたよ! 心から謝ればいいんでしょ! ちゃんと心から謝れば!! 


「すみま…」

「まあ、ええわい」


 オオイ! 何よそれ!

 決して謝りたかったわけじゃないけど、なんかスッキリしないんですけどぉ!!


「ふぅむ。弱点じゃったな。弱点は……」

「もったいぶってないで早く言いなさいよ!」

「弱点は……ない!」


 は?


「え?」

「ない!」

「どういうことなのよ! じゃあ、なんで私は謝って…」

「うるさーい! ないものはないんじゃ!」


 クソジジイが!!  


「弱点がないとは…」

「ウム。あったとしても忘れた!」


 またか!! ジジイ!!


「そうなると手の打ちようがないですよね」

「そうだな。武装の方も…」

「忘れた! すべてすっぱり忘れちまったわーい!」


 絶対ウソだ。けど、セイカ様とユウキちゃんは信じちゃったみたい…。


「しかたない。白木博士には安全な後方で待機してもらってアドバイスをもらおう。戦っている最中に何かを思いだすかも知れない」

「あ。ワシ、これから用事あるからムリじゃ」

「え?」

「よ、用事って何よ?」

「これから還暦型決戦兵器の手術の予約が入っとるんじゃーい!」

「……は?」


 いまこれから一体倒しに行こうってるのに、何を言ってるのこのジジイは……


「じゃから、エレガント武田はお前さんたちだけで倒してちょーだい」


 ジジイがリモコン操作すると、無人の自転車が物凄い勢いで走ってくる! それも道行く何人かを吹っ飛ばしながら……。


「待って! アンタ、私たちがいったいなんで苦労してるか…」

「ナミ、セイカ、ユウキよ! ワシはお前さんらが必ずやってくれると信じておる! 戦いの成果は、ヤオキチに搭載したビデオカメラで録画しとるから、後でゆっくり観させててもらうわーい!」

「はぁ!? なぁに勝手なこと言ってんのよ!」

「んじゃ、バイビーじゃーい!」


 クソォ! なんで人の話をいつもいつも聞かないのよ!

 ってか、なんか機械の力で高速で走らせてた自転車じゃないの?! なんでアンタが乗り込んでイチイチ漕がなきゃなんないのよ!

 ハァハァ…。ツッコミが間に合わないわ……。


「い、いつもこんな感じなんですか?」

「…そうだな」

「……なんかすみません」

「まったくだ!」

「謝って済む問題か!」

「ハッハー☆」


 コイツら……


「しかし、白木博士ばかりに頼っていられないのも事実だ。私たちでやれると信じてるからこそ、任せてくれたのだと信じるべきだろう」

「うーん。そんなことだとはとても思えないんですけど……」

「でも、そもそもなんですけど。そのエレガント武田さん……どうして倒さなきゃいけないんですか?」


 うッ。ユウキちゃん案外鋭いツッコミを……

 でも、私が狙われているからだなんて……


「このバカ女がやらかしたからだぁ! バカヤロー!」

「な、なんで私だけなのよ!」


 そもそも私は悪くないし! ビューティ鷹田を怒らせたのヤオキチとジジイじゃない!


「山中が狙われているのは確かなのだろう?」

「ええ。ま、まあ……」


 なんで私がターゲットにされたのか納得はできないんですけどね。


「ナミさんが狙われてるなら仕方ないですね。ジョジーさん?」

「まったくだゼ☆ ハッハー☆」

「ジョジーは絶対に人な話を半分も理解してないでしょ!」

「電車に乗るならばさっさと行くぞ! 俺様は釜飯弁当だっちゅちょろうがーい!」

「ゴンサレス! 新幹線じゃないんだから釜飯弁当なんてでないわよ!」


 あー、もう、コイツら本当に疲れる!


「山中。行くとしよう」

「ええ。そうですね」


 あーもう。はやくイヤなことはさっさと終わらせて、なんか美味しいものでも食べよう!!

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