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 挿話④『ワシの名は。』


 時はほんのちょびっとさかのぼる。

 ナミたちが男爵バロンと戦っている頃、白木博士はある恐るべきプロジェクトを着々と進めていたのであった……。




☆☆☆




 『ワールドネット・サギタ』と聞けば、誰でも一度は聞いたことがあると言うだろう。

 通信販売の世界で成功し、電化製品を売りに売りまくって成功した、いまや超有名大企業なのだからして…。


 あたしこと、詐欺田さぎた 騙之助だまのすけは、今日もTVの前のお客様カモに向かって甲高い声を張り上げる!


「はぁ~い! お次の商品は、どんな水着の中身もスッケスケ! 『盗撮用ビデオカメラ99眼レフ』のご紹介でぇーす!」


 私の声に合わせ、コロコロと台車を転がして水着ギャルが現れる。台車の上には、これでもかってぐらいに照明に照らされた商品サギが!!


「ほら、このフォルム~。すばらしいでしょ! 女体を意識した流線型ボディ! ううん、これだけでもうハチキレんばかりの興奮!」


 ハニワみたいな形をしたカメラを手に、私はベタ褒めする。持ちづらいったらないわ。重いし。

 まったく、どこのアホな設計者が造ったのかしら? 私なら絶対に買わない。ゴミだわ、こんなもの。


「試しに、ほら撮ってみましょうか? スッケスケ~」

「キャー! 詐欺田社長のエッチィ!」


 カメラを水着ギャルに向けると、ハラリとブラが外れ、慌てて抑える。

 よーし。ナイスタイミング! 視聴者エロバカはこういうのを必要としてるのよ!

 音響が"ドッ!"という観客の笑い声を流す、ベタだけれど、こういう地味な演出は意外と重要なのよね。


「うっふふ! この99眼レフの凄いところ! それはね、歯ブラシやヘアドライアーもセットになっているところなんですよ!」


 なーんで歯ブラシとヘアドライアーがビデオカメラにくっついてんだよ。意味わかんねーよ。誰得だよ。


「おや、そろそろお値段の方が気になりますー? もちろん気になりますよねぇ?」


 水着ギャルと顔をくっつけてのカメラ目線。よし、良いアングルだ。私!


『気になるー!!』


 ん? ちょっと音響の流れるのが早かったけれど、まあ良しとしましょう。観客のダミー声を入れるのは、間が大事だって教えてんのに。いつまで経っても覚えないんだから。


「その気になるお値段…なんと、たったの190万えぇーん!」

「やっすーい!」


 たけーよ! 馬鹿か! って、こういう振りさせてんの私だけどね。

 水着ギャルの声に合わせた、パチパチという拍手と歓声。これがどれだけ盛り上がっているかで購入するかどうか決まるものよ。わざとらしいぐらいに大ボリュームにするのがポイントね。


「…と、言いたいところなんですけれど。今回、私、ちょっと無理をしちゃいます!」


 迫真の演技! ここで買うかどうか決めかねている視聴者に、提供者が歩み寄っていく私の必殺技よ! 


「メーカーさんに頼みに頼みこんで、なんと、なんと、185万円にぃ!!!」

「ええー!」

「それだけじゃありません! 送料はいつものようにワールドネットが持ち! 今お使いのカメラを下取りで15円で引き取ります!」


 んん〜? 音響! サボってるわね…。ここで"どよめいた声"いれないでどこでいれんのよ!


「いまから、30分だけの特別企画! この詐欺田! この良い商品を届けたい! その一心でご奉仕させていただきます!!」

「もーう! 社長さんのエッチィ!」


 おい! その台詞は間違えてるぞ! ダメね。どんなに可愛くたってアルバイトはアルバイトだわ。時給下げてやろ。


「ということで、あれも、これも、それもつけて、最終お値段価格は…200万円に! 200万円ぽっきりにぃ!!」

 

 特典なんて、抜け落ちたボルトとか、使い古しのポケットテッシュとか、どうせガラクタばっかだぜ。


「やっぱりやすーい!」


 あー、もうその棒読みは耳障りよ!


「どしどし、お電話くださーい! おや、もうコールが鳴り響いているようですね!」 


 プロデューサーが指で丸を描く。よーし、どうやら効果あったようね。きっと裏では電話がジャンジャン鳴っているはずよ。


「お急ぎを! お待ちしておりまーす!」


 と、回っている撮影用カメラの赤いランプが消える。撮影が終了した合図だ……。



「…フィー。今日も良い仕事をした」


 笑顔を消す。ずっとカメラ回っていると、顔の筋肉がつるのよね。肩もこるわ。回すとゴリゴリ音してるし…私ももう歳かしらね。 


「はい。お疲れ様でぇす!」

「お疲れ様じゃねーんだよ! このタコ!」


 アルバイト水着ギャルに怒鳴ると、ビクッと震える。


「もっと胸の谷間寄せて、屈んで映れってんでしょ!」

「は、はい…」

「フン! 女優志望だか、演歌歌手志望だか知らないけれど、そんな調子でなれるのはC級のAV女優が関の山よ!」

「アイドル志望です! そ、そんな…私だって一生懸命…」


 あーいやだいやだ! 泣けばいいとでも思ってんのかしら。メソメソしてんじゃないわよ。


「一生懸命だけなんてなんて皆やってるわ! そんな程度の努力じゃ視聴者が番組かえちまうわよ!」

「…グスングスン。す、すみません」

「それと、キャメラマン! なんなの、あのカメラワークはさ! 私が喋ったら、私を! 商品を指したら、商品をアップで撮れって何億回と言ったでしょーが! 途中、ごっちゃになってたわよ! 私がどんだけフォローしたと思ってんのよ!」

「は、はい…」

「腰にファッション雑誌なんて差しちゃって、見た目だけは一流気取ってんじゃないわよ」

「す、すんません!! 以後気をつけます」


 頭にタオルまいた髭男がペコペコと頭を下げる。


「ったく! どいつもこいつも素人気分ねぇー。給料はらわないわよぉ!」


 アシスタントからタオルと飲み物を受け取り、パイプ椅子に座る。固い! お尻が痛いじゃないの!


「ちょっとこんな椅子しかないわけー?」

「え? いや、この番組で紹介された安楽椅子なんですが…」

「こんなのゴミよ! 欠陥商品よ! あんた、うちで何年働いてんのよ! 座っているうちに、座面が抜けるんだから! これで私が怪我したら責任とらせるからね!!」

「え、ええ!? そ、そんな…」

「ちゃんとした椅子をホームセンターで買ってきなさいよ!」

「は、はい!」


 そそくさとアシスタントが駆け出す。


「まったく、気が利かないんだから…。ほんとにどいつもこいつも」


 揉み手をしたプロデューサーが私の方に向かって走ってくる。


「お、お疲れ様ですぅ~。詐欺田社長! 今日もとっても良い感じでしたよぉ」


 パンチパーマにサングラスといった強面のくせに、私には猫撫で声でしきりに頭を下げる。


「あたりまえでしょ! んで、どうなの? 売り上げのほうは?」 

「ええ。もうジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリ! さっきから電話が止まらない状態でして、うへへ!」

「ふーん。ま、当然ね。…はあ、いつになったら私の後継者が育つのかしら。私が出ないと売れないだなんてホント困った人ばーっか」

「は、はい。仰るとおりで…。詐欺田社長がいらっしゃらなければ会社は成り立ちませんとも!」

「当たり前のことばっか言うんじゃないわよ! 私の会社なんだから当然でしょ!」

「ひぃ! は、はい! まったくもってその通りで…」


 ホント、馬鹿ばーっかり。ちょっと工夫すりゃすぐに売れるようになるのに。考える脳味噌も持ち合わせてないってことよね。


「…あのー」


 ん? プロデューサーがなんかモジモジしてるわ。いつもだったら、私のご機嫌をとったらさっさといなくなるはずなのに。


「なによ? あんたの暑苦しい顔いつまでも見てたい気分じゃないんだけど!」

「は、はい。すみません…。実は、たいへん申し上げにくいことなんですが」

「なによ! デカイ図体してウジウジと! さっさと要点を言いなさいよ! そうやって時間をロスするから売り上げがいつまでたってもあがらないんでしょ!」

「は、はい! 実は、我が社に商品を飛び込みで売り込みにきた者がおりまして…」

「売り込み? フン。どこのメーカーの営業マンよ?」


「いや、その、なんていいますか…。メーカーとかではなくて。個人的な発明を作っているようでして。やはり、追い返した方がよろしいでしょうか?」

「個人的?」

「ワシ!」


 プロデューサーの後ろから、ヒョコッと変なのが飛び出す。

 それは時代遅れなボンバーした白髪頭のジジイだった。


「ちょ、ちょっと! まだ待っていろって…」


 プロデューサーが慌てているが、ジジイは無視して私に近づいてくる。


「ウヒヒ! 来ちゃった♪」


 着ている白衣からして、確かに発明家みたいだけど。背中に古くさい風呂敷なんて背負ってるし、私の感性には耐えられない貧乏丸出しだわ。


「なによ。私が誰だか知ってるの? アポなしにやって来ても…」

「知っちょる知っちょる! あれぢゃろ、ほれ、よくテレビで見ておるわーい!」


 はあー。よくいるのよね。こういう年寄り。暇だからお茶の間で私の姿をずっと見てるうちに、親近感が湧いて友達になったような気になっちゃうって人。

 あんたのことなんて全然知らないしー。あんたの雀の涙ほどの年金なんて興味ないしー。さっさとお帰り願いたいわ。一銭にもならないしー。


「まー、いいわ。発明品みせにきたんですってね? 一目だけよ。ほんの0.5秒だったら見てあげてもいいわ。売れそうになかったら1秒で帰るのね」


 ホントは0.5秒ももったいないくらいだけれども、こういった輩って相手しないと長居するのよねー。そんなのウザいから、適当に見るだけで、適当に帰ってもらいましょ。


「ありがサンキュッキューじゃーい! ほれ、まずは…」


 小汚い風呂敷を広げて、何か引っ張りだしたんですけどー。やめてもらいたいわ。ホント、信じられない。


「パパパパッパパーン! 取り出したるはコレ! トイレ界の新発想! もう座薬とはおさらば! 『スッポン二郎くん』じゃーい!」


 なによ。何を出したかと思えば、どこにでもあるラバーカップじゃない。トイレのつまりを取るガッポンガッポンやる、ゴムが先端についた棒よ。やっぱり自称発明家はダメね。

 それに二郎ってなによ。二郎って。 ハン! 一郎と三郎なんてどうせないんでしょ? そんな感じで、語呂の良さとかで購買者の意表を突いたつもりなんでしょうけど、今どきそんなんはやらないわよ! ネーミングセンスもダッサイったらありゃしないわ。


「一郎と三郎もおるが、この場は優秀な二郎しかもってこんかったわーい!」


 あるんかーい!?

 っと、この私としたところが思わずツッコミを入れそうになったわ!


「んで、おじいちゃん。それをどう使うってのよ? まさかトイレで…」

「そのまさかじゃーい!」

「はい。お帰りよ! そんな世の中にでまわってる商品を通販で売れるわけじゃないの!」


 パンパン! 私は手を叩いて警備員を呼ぶ。

 本当に時間の無駄だったわ。つまみ出してやるんだから!


「まあ、ものは試しじゃ!」


 ズッポン!!


 へ? なんかマヌケな音がしたんですけど…。


「うんごぉ!」

「ちょ! なにやってんのよ!!」


 あのジイサン! 信じられない! 隣にいたプロデューサーのお尻にあのラバーカップを付けたんですけどぉ!?

 そりゃ、プロデューサーはぽっちゃり系で、尻の肉はたっぷりあまりあまるほどだから吸い付きはいいんだろうけれど…ってそんな話じゃないわ!!


「ウヒヒ! まあ、ええから見ておかんか!」


 ギュッポ!


「ひぃ!」


 ギュギュッポ!!


「うへぇい! た、たまらーん!」


 な、なによ…。ジイサンが押し引きする度に、プロデューサーが気持ちよさそうに身悶えてるんですけど。


「ただのラバーカップとばかりに思ったじゃろ? そうじゃろそうじゃろ。ところがどっこい、これはワシの開発した"便秘を強制的に直すラバーカップ"なんじゃーい!」

「便秘を直すって…まさか!」


 さっきまで桃色をしていたディレクターの顔が、途端に土気色を帯びていく。

 嫌な予感を感じ取った私や、周囲のスタッフはサッと身を退く。そりゃ、考えられることは一つしかないでしょ!


「お前さんが極度の便秘だってのは、尻の形を見てピーンときたわい!」

「で、でる…ぐひぃ! さ、3週間ぶりのお通じが……」

「き、汚いわねぇ! さっさとトイレに行きなさいよぉ!」

「は、はい!!」

「そうはいかんぞーい!」

「は、離せ! 離してくれ!!」


 なんでトイレに行かないのかと思えば、ジイサンがディレクターの手をつかんでるし!


「なに考えてるのよ! 私の大事なスタジオで漏らされでもしたらたまらないわ!」

「いやいや、ここからが本当の見せ場なんぢゃよ!」

「はぁ!? 何が見せ場よ! こんなところで誰も脱糞なんてみたかないわよ!」

「も、漏れるぅう~、たのむぅ! トイレに、トイレに!」

「安心せーい! そのためのワシの発明品じゃーい!」


 風呂敷から、また何か引っ張り出してきてるわ…。このジイサン。


「パパパパッパパーン! 取り出したるはコレ! 最先端の携帯便器! もう容量を気にしなくてOK! 使い捨てじゃない! 『亜空間トイレット』じゃーい!」

「う、ううーん。私にはただの野球ボールにしか見えないんだけど…」


 やっぱりどっかボケてんじゃないの?


「ほれ、尻をださんかーい」

「ら、らめぇ! そ、そんなぁ!」


 いい歳したオッサンが気色悪い声だすんじゃないわよ!

 ってか、ジイサンに四つんばいにさせられるオッサンなんて誰得よ!


「菊門めがけて! そーちゃく!!」


 ガッポン!


「あひぃん!」


 へ? ま、まさか…。マジでやったの?

 あの野球ボールみたいなの、本当に手の平ぐらいのサイズがあったのに。それを…ほ、ほんとうに穴に? 

 う! 想像しちゃったわ! 想像しただけで痛くなってきたわ!!


「ウヒヒ! これで万事OKじゃわい! あとは起動ボタンを押せば、排泄物は自動的に亜空間に転送されるって仕組みじゃーい! 別名、"排泄物吸い取り機"とでも呼ぶべきかのぅ!」


 いや、別名いらんわ! そう思ったのは私だけじゃなかったみたいで、聞いていたみんなが同じ顔をしてるわ。


「それ、おデブちゃん! いくぞーい! スッキリしまちょーね!! あ、ポチッと!!」


 ギュボボボボボ~ン!!


 ちょ、ヤバイぐらいの音が響いてるんですけど…大丈夫なのよね?


「いま亜空間と繋がったようじゃわーい!」


「お、おおお! …おお、おお?」


 最初はプルプルと震えていたプロデューサーの顔が、土気色から桃色に戻る。


「す、スゴイですよこれ。なんだ、この幸福感は…」


 見ている側は解らないけれど、どうもスッキリした様子のプロデューサーは感動しているみたいね。


「そうじゃろ。あの排便したときのスッキリ感を何倍にも味わえるんじゃ。なんてったって、大腸の中にある汚物をすべて綺麗にするわけじゃからな。今流行の腸内クリーニングじゃよ!」


 へえ。もしかしたら、ダイエット商品で売れるかもね。またはアイドルに売って、『アイドルはウ○チなんてしません』なんて都市伝説を実現することも…私の中でぼろ儲けの算段が立つわ。


「普通ならそんな素人の商品なんて取り合わないんだけれど…。そうね、企画開発部に話を通すぐらいならしてあげてもいいわよ」


 上から目線は忘れない。というのも、こっちから下手にでて商品が欲しいとなんて思わせないわ。それで、安く発明を買い叩いてやるのよ。


「本当か? 嬉しいぞーい!」


 年甲斐もなくはしゃいでるわ。馬鹿ね。こういう手合いは、自分の発明が誰かに評価されるのが嬉しいだけ。

 残りの短い人生、六畳一間でせっせと何か造っていればいいわ。使えるものは私が安く買ってあげるから。オホホ!!


「ん、んぐぅ!?」

「え、ど、どうしたの!?」


 プロデューサーがお腹を押さえてうずくまる。もしかして、便を取りすぎたとかいうオチじゃ…。


「う、うがあああああッ!!!」


 ジュボボボボボボボボンッ!!!!!


 目の前で信じられないことが起こったわ! プロデューサーが叫んだかと思うと、全身が自分の内側から呑まれるようにして消えてしまったじゃないの!

 そして、最後にあの野球ボールみたいなのが落ちてコロンと転がってて…あの巨体どこへ行ったのよ!?


「フンフフーン♪」


 ジジイ! そっぽを向いて、鼻歌うたいながら、あの野球ボールを後ろへ蹴りやがったわ! 


「ちょっと! ごまかすんじゃないわよ! あのプロデューサーはどこへ行ったの! まさか、死…」

「そんなわけあるかーい! ちょーっと、亜空間に飛ばされただけじゃわい。よくあることじゃ!」

「よくあるわけないわよ! 危険な商品じゃない! こんなの売れるわけないわ!」

「ウヒヒ! 出力がほんのちょびっと強かっただけなんじゃ。便どころか本人まで飛ばされてもうたわ。後で迎えにいくから何の問題もないわい」

「問題おおありよ!」


 後で迎えに行くって…どうやってよ? まあ、プロデューサーの代わりなんて幾らでもいるから人材的にはどうでもいいんだけれど。

 本当にたいしたことないと言わんばかりに、ジジイは風呂敷の中にまた手を突っ込む。いや、あんたはもっと気にすべきだと思うんだけど。


「もう! いい加減に帰ってよ! あんたの作ったものはダメ! 売れないわ!」

「まあまあ、そう言いなさんな。次の発明はスゴイぞぉ~。なんと無限に使えるトイレットペーパー…」

「またトイレ用品!? なんでよ!?」

「ほえ?」


 レパートリー少なすぎ! あんたはトイレ会社の回し者か!!


「なんじゃ。トイレ用品以外がいいのか? なら、部屋の掃除をする機械とかか?」

「電化製品ならなんでもいいってわけでもないけれど。通販でトイレ商品とかはあまりね。食事中の視聴者とかもいるから時間帯を選ぶし…」

「ほうかほうか、なら次のヤツは…」

「ちょっと! まだやるわけ!? 一目だけったじゃないの!」

「これが最後! これが最後じゃ! 頼む! 老いさき短い年寄りの頼みじゃ!」


 涙をちょちょぎらせて頼み込むジジイ。仕方ないわ。あー、もうウザイけど、ここで見ておかないと週一とかで来そうな雰囲気だし。ちゃんとダメ出しして、帰ってもらおう。ストーカーなんかになられたらたまったもんじゃないわ。


「はやくしなさいよ。はあ、ホント、これで最後だからね」

「ありがサンキュッキューじゃーい!」


 ジジイは風呂敷からまたまた取り出す。円盤の形をした、銀色の物体…UFO?


「パパパパッパパーン! 取り出したるはコレ! 最先端の自動掃除機! 名づけて『ボンバ37ー564号』じゃーい!」

「自動掃除機~?」


 なによ。何を出すかと思えばよくあるアレじゃない。勝手に家の掃除をしてくれるってヤツじゃないの。


「どう見てもただのロボット掃除機だけれど。何か特別な機能でもあるっての?」

「あるぞーい。遠隔映像を飛ばせるので、外出時も家の様子がわかったりできるしな! あとペットの餌やりとかの機能も付属付きじゃーい!」

「なによ、そんなの今の掃除機にはみんな付いているわよ。珍しくもなんともないわ」

「ほえ? あとは、コーナーとかも綺麗にできるしの。ほれ、部屋の角は埃がたまるじゃろ? コイツは隙間にまでブラシを…」

「あーはいはい。それも今の最先端掃除機にはみーんなついているの。凄いヤツは段差だって乗り降りしちゃうんだから」


 はい。これでお終いね。さすがのジジイもしょげた顔をしているわ。


「頼む。コイツは凄いんじゃ! 綺麗に掃除してくれるんじゃ! 稼動しているところだけでも見てやってくれい!」

「ちょ、ちょっと近寄らないでよ。ってか、私のスカーフ引っ張らないでちょーだい! わ、解ったわよ! 少しだけよ。少しだけ動いているの見たら諦めて帰りなさいよ!」


 ジジイはコクコクと頷く。ってか、私も甘いわね。ホント。


「なら、動かすぞーい! 皆の集、ちぃと離れてな!」


 なんで掃除機を動かすのにそんなに離れなければならないのよ。


「ほーい! いっくぞーい!!」


 ピカッ!!


 あ、なんか地面に置いたUFOが光って……



 チュボーーーーーーン!!!!!!!!




☆☆☆




 シラキ、シラキ、シーラキ♪


 シラキ、シラキ、シーラキ♪



 軽快な男女混声のBGMと共に、昭和感が丸出しのバラエティ番組で使われたことがあるようなスタジオが現れる。



 ワールド・ネーット、シーラーキ♪


 

 その音声と共に、『ワールドネット・シラキ』という手書きの丸ゴシック体が画面の中央に現れる。

 そして、蝶ネクタイの白木博士が横走り…俗に言う○ちゃん走り(手を下にダランと下げて、左右に大きく振って走る走法)で、電飾のついた白い階段を斜めに降りてくる。その反対側からは、同じような走りで昔のデパートの店員のような格好をした若い女性がやってくる。あの『ワールドネット・サギタ』で出てきたアイドル志望の水着ギャルだった。

 真ん中で合流すると、二人して大きくお辞儀をした。まるで漫才師の登場のような演出だ。


「はーい! ワシの名は?」

『タクロウ・シラキ!!』


 合成音声を音響が流す。タイミングはバッチリであった。白木博士はウヒヒッと笑い、女性はパチパチと拍手してみせる。


「本日もやってきたぞーい。ワシの発明品を買えるチャーンス!」

「あーはいはい! 私、先週買った白木博士の発明品『ボンバ37ー564号』使ってるんですよー!」

「ほほーう、メグミちゃーん。それはマジでか! 嬉しいのぅ! 使い心地はどうじゃーい?」

「カエデでーす♪ もう本当に最高! すっごーく、部屋が綺麗になるの! もーう手ばなせなーい♪」

「そうじゃろうそうじゃろう♪ 処理に困ったゴミなどを、一気に“爆破”して跡形もなく消し飛ばす優れた掃除機じゃからのぉ!」

「ウフフ! これでムカつく上司や、うるさい小姑も、一気に爆破処理しちゃってくれたらなー♪」

「そーら、いかんよぉ! そんな危険な発明じゃないわーい♪ タエコちゃーん!」

「カエデでーす♪」


 “ドッ!”という笑い声の音響が入る。


「さーて、本日買える発明は…」


 白木博士がニヤッと笑うと、カエデが一歩横にずれる。奥から、タキシードに身を包んだ元プロデューサーが台車を運んできた。

 ジャラララーなどという音と共に、太陽を模した形の紅白の舞台装置が明滅する。LEDを使っていないあたり、作り手の妙な拘りがそこにはあった。

 台車の上には白い布がかぶさっており、かなりの大きさであることがわかる。白木博士より頭一つ分ぐらいは大きい。


「なーんと、一家に一台は必須のアレが、通販で買える時代がキター!」

「ええー、なんですかー? 白木博士の発明品なら気になっちゃう~♪」


 胸の谷間を寄せ、カエデが身悶えする。キャメラマンはちゃんとカエデの顔と胸が映るようにアップにした。


「それはのぉ~」


 パパパパッパパーン! という音と共に、元プロデューサーが白い布をめくる。

 そこには、全身が黄金の金属板で覆われた、詐欺田 騙之助がいた。頭に二本のアンテナが付いており、某昭和のヒーロー大使を思わせる改造が施されていた。


「な、なーんと、還暦型決戦兵器が買えちゃうんじゃ!! 今ならばお値段は…………」


 番組は、白木博士の思惑通りにまだまだ続いていく…………。



 余談だが、この通販だけで最終的に売れた還暦型決戦兵器は数百体とも数千体とも言われている。

 人々はあっという間に『ワールドネット・サギタ』の存在を忘れ、「え? 元から『ワールドネット・シラキ』だったでしょ」と視聴者たちは後に語っていたという。

 引き続いていた当時のスタッフたちも口をつぐみ、急に番組内容や司会者が変わった件についての理由は闇の中へ葬られてしまったのだった。

 また、人身売買に当たるのではないかと言う倫理委員会の声もあがったのだが、なぜか白木博士の訪問以来、抗議の声がまるっきり潜まり、「ベツニイインジャナイデスカー」としか委員長が喋れなくなったという噂もあったのだが、その真偽のほどは定かではない。翌週には、委員長に似た姿の還暦型決戦兵器が番組にでていたとの話もある。



 こうして、ナミたちの心配とは別にして、還暦型決戦兵器は世にますますと広まりつつあったのであーーーった!

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