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十七狂目 『風になったオッサンども』

 超国道をひた走る。

 盗んだバイク…もとい、改造されたオヤジにまたがり私たちは行く。


「…なかなか快適だな」

「え、ええ。そうですね」


 美しいセイカ様とのツーリング。楽しくないわけがない! 

 と言いたい。けれど、私の目の前にあるバイクと、セイカ様の前にあるバイクがそれを許さない。


「なに見とんじゃーい! 見るなら拝観料払わんかーい!!」

「バカヤロー! 見せ物じゃねぇぞ!」


 やめて! 赤信号の度に、通行人に怒鳴り散らすのは!

 っていうか、見られて当然だし! 私だって、車道を走るオッサンがいたら見るし!!

 ああ、恥ずかしい! 恥ずかしくて顔から火が出そう!


「かなり遠くまで来たな。フッ、運転手なしで隣町まで来たのは初めてだ」


 ええ。そうでしょう。私だってオッサンにまたがって町から町まで移動したのは初めてです。


「あ、あの…」

「なんだ?」

「い、いえ、なんでも…」


 ああ、もう。恥ずかしい! セイカ様に恥ずかしくないのかって聞きたいけど、私が口開くと周りの人が見てくるし!

 ほら! すぐ側のトラックの運転手だって、この世の終わりを見るかのような顔しているし!

 ってか、セイカ様。堂々としているし。周囲の視線にさらされても全然へっちゃらだし。私とは精神構造が根本から違うのかも。


「おう?! 腹へったのぉー!」

「そういわればそうだな」

「む? そんな時間か? …なんだ。まだ昼前じゃないか」

「朝御飯あんなに食べてたのに…」


 朝食の豆腐料理はかなりあったはずだ。確かこの二体は残さず平らげてたハズ。

 かなりの距離走ったはずだけど、まだお腹がすくだなんて…


「バカヤロー! 給油だってんだ!!」

「給油!? なんでよ!?」

「山中! 解っておらんな! 俺たちは普通の一般ピーポーとは身体の作りがちがうっちゅうんじゃーい!」

「解ったか! 解ったならさっさとガソリンスタンドだ!! バカヤロー!!」


 うう、まずい。私たちが怒鳴りあってると、周りの視線が余計に集まる…。

 こら、そこのボウヤ。私たちを指さして笑わないで!!


「燃料か…。走らなくなったら困るしな。よし、あそこに見えるセルフスタンドで入れるとしよう」


 セイカ様がコンビニの横にあるスタンドを指さす。


 スタンドの中に入ると、店員さんがギョッとした顔をしたけれど、もう知らない。いちいち気にしてたら身が持たない。


「…レギュラーか?」


 セイカ様が給油機の前で考えこんで、チラッとヤオキチとゴンザレスを見やる。


「ふざけておるわ! ハイオクに決まっとるじゃろうがーい!」

「バカヤロー! そんな安燃料で走れるか!!」


 チッ。クソオッサンどもが! なに調子に乗ってセイカ様に怒鳴ってんのよ…。


「ハイオクか。了承した」


 さすが、テキパキと手続きされている!

 え? セイカ様、持ってるのってブラックカードなの? ウソ。マジで。


「で、どこが給油口なんだ?」


 あ。そういえば…。車とかだとすぐに解るけど。こいつら、どこに入れるっての?


「ここじゃー!!!」

「ッ!?」

「きゃあ!」


 尻を突き出して叫ぶオッサン二人。まさに地獄絵図という意外に他に何か言いようがあるかしら!?

 

「バカヤロー! ちゃんと見ねぇか!!」

「そうじゃぁ! ここが給油口よ!」

「そうか」


 ズボッ! ズボッ!


「アッー!!」

「アッー!!」


 ゲッ。セイカ様、少しの迷いもなくオッサンどものお尻に…。



 ギュッポ! ギュッポ!


「な、なぁんて屈辱だぁ! バカヤロー!!」

「し、しかし、それがいい! 女子高生にこんな仕打ちをされる、この俺! なんて惨めなんじゃーい!」


 何て顔してんのよ! 恥ずかしくて顔を赤くするならまだしも、嬉しそうに笑うな!


「お、お客さん。す、すみませんが…当店はガソリンスタンドなので、そういうプレイは…」

「ん? いや、給油だ。すぐに終わる。問題ない」

「は、はあ…(うあー。モノホンの女王様だ! 俺もされてみてー!)」


 小走りに去っていく店員さん。なんかちょっと内股なのは私の気のせいに違いない。


「…ああ、絶対勘違いされましたよね」

「なにがだ? しかし、まだ満タンにならないのか…すごい量が入るな」


 給油メーターを見ると…100リットル!? 

 いや、車とかよく知らないけどさ! この数字が異常だってことぐらい解る! 

 こんなオヤジの身体のどこに100リットルものガソリンが入るってのよ!


「高燃費高排出が俺たちの存在意義だ。バカヤロー!」

「とどのつまりエコなんてクソ喰らえってことだな! 喰いたいものを喰いたいように喰い、出したい物を出したいときに出すんじゃぁ!」

「意味わかんないわよ! どんだけ世の中に迷惑かければ気がすむのよ!」


 ガチョン!


「む? 終えたな…」


 ズッポンッ! ズッポンッ!


「あおーッ!」

「あおーッ!」


 悶絶してピクピクするオッサンども…ああ、今ならあの汚いお尻を蹴っ飛ばしても私が正義だと言い張れるんじゃないかしら。


「さて、では行くとするか。えーと、確か…」

「スルベです! スルーベックスの略です!」

「そうか。まだ距離はあるのか?」

「いえ、駅前の方にもありますからもうすぐですよー」


 気を取り直そう。スルベについたら、このオッサンどもは駐車場に置いておけばいいし。文句は絶対に言わせないし。


「うーむ。どうも走れそうにねぇぞ」

「へ? だって、いま給油したばかり…」

「…腹が減った」

「はーぁ!? どういうことよ! さっき朝ごはん食べてたばかりだって…」

「高燃費高排出が俺たちの存在意義だって言ったばかりだろ! バカヤローが!」


 グッ! なによ! なんなのよ! いい加減にしなさいよ!


「まあ、本人たちが走れないと言ってるならば仕方あるまい。この近くにレストランか何かは…」

「レストランですか。ファミレスがあったような…」

「ファミレス? なんだそれは?」

「え? えっと、ファミリーレストランの略で…」

「ふむ。知らぬ店だな。三つ星レストランなら、私も大抵の店を知っているつもりだったが。まだまだということだな」

「み、三つ星!?」


 なんだろう。微妙に話がかみ合ってないような気がする…。


「なんでもいい。腹に入ればな!」

「お。目の前に飯処があるではないか! あそこでいいわーい!」


 道路を挟んだ向かい側に、確かにお店がある。

 たぶん、マークとか、ショーガラスに張ったメニュー写真からしてハンバーガショップだろうけど…。

 なんだろ、チェーン店じゃないのかな? 見た覚えがないマークだな。


「あそこで食事ができるのか? 倉庫じゃないのか?」

「そ、倉庫って…確かにあんまり綺麗そうなお店じゃないですけど。それはあんまりじゃ」

「いや、さっきから…車が回っているじゃないか。配送の車が出入りしているんじゃないのか?」

「え? もしかして、ドライブスルーのこと言ってるんですか…?」

「ドライブスルー?」


 う? そうか…。セイカ様、そういうの知らないんだ。そりゃそっか。御嬢様だし。


「えーっと、もしああいう店がキライだったら別のところでも…」

「ん? キライもなにも…知らないことが多くてな」

「まあ、そうですね。クソジジイとか、還暦型決戦兵器とか、クソジジイとか、還暦型決戦兵器とか、クソジジイとか、還暦型決戦兵器とか…この世で一番知らなくていいものですしね」

「山中と一緒にいると多くを知れていい。ありがとう」


 きゅん! そ、そのいきなりの笑顔は凶器ですぅ!


「そのハンバーガーというのも初めてでな。色々と教えてくれ」

「はい! 喜んで! 手取り足取りなんなりとー!」


 うふふ! 完璧超人だとばかり思っていたセイカ様に頼りにされているなんて! ウレシイ! 


「バカヤロー! 何やってんだ! さっさとこっちゃこい!」

「こっちは腹が減って死にそうだっちゅうちょろうがーい!」


 あ。もう二体は店の前に行ってるし…。

 勝手に行動するな! 目立つんだから!

 めっちゃくちゃ子供が側で見てるじゃない! あ、お母さんが手を繋いで走って逃げてった…ですよねー。

 


「では、私たちも行くか」

「はい。そうですね」


 こうして、私たちはハンバーガーショップへと足を向けたのだった…。



 そのハンバーガショップで巻き起こる大惨事もまだ知らずに………



 はぁ!? なによ! その大惨事って!


 

 次回、『悲劇のバンバーガ』につづーーーーく!!



 聞け! このクソナレーション!!!

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