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十六狂目 『パイカーツーリング』

 このまま眼が覚めなければいいのに…。

 

 誰しもそんな思いを抱きながら、眠る日が一日ぐらいはあることだろう。

 それなのに、私はこのところ、毎日のようにそんな思いを抱いて眼をつむる。

 

 そして朝が来たというのに、私は起きあがれない。

 そう。起きているのにも関わらず、あいかわらずしつこい"悪夢"が続くからだ…。


「ウヒヒッ! 朝じゃよぉー。おきたかーい?」


 バタコーン!


 驚いたことに、"悪夢"は私をわざわざ起こしに来る。

 しかも、裸にエプロンといった最悪の姿で現れる…。


「あれー? ナミよ。まだオネムなのかのうぅ?」


 そうよ!

 オネムなのよ!

 放っておいて!


「ほうかほうか!」


 あれ?

 どうやら諦めてくれたみたい…。

 そうよ。たまの休みぐらい放っておいて。寝かせておいてちょうだい。


「よーし! ワシ決めた! 頭に大砲つけちゃうぞーい♪」

「はい! 起きた! 起きました!!!」

「ほえ?」


 冗談じゃない! 頭に大砲なんてつけられてたまるもんですか!!

 ってか、クソジジイ! すでにドライバーとノコギリ持ってるし! それで私に何するつもりよ?!




「はーい。おみそ汁、冷めちゃうぞーい。座った座った!」


 ジジイに案内されるまま、私はダイニングに向かう。


「山中ッ! キッサマ! 寝間着で寝るとは何事じゃーい!」


 一階の廊下で、聞きなれない声…いや、学校ではよく聞くんだけどね…に驚く。

 少なくとも、休みにまず聞かない、いや聞いてはいけない強烈な精神的ダメージを与えてくる声であることに違いはないわ。


「へぇ? は、ハアアアアアッ!?」


 朝から猛烈な口臭!

 血走った眼のゴリラが迫る!


「寝るときは素っ裸! これ、健康の基本だって保健体育で教えたじゃろうがーい!!」

「はあああああ!? なんで、なんで、ゴンザレスがウチにいんのよぉ!?」


 ジジイの方を向くと、いつものようにキョトンとした顔をする。


「そりゃ決まってるじゃろ! 朝食に招待したんじゃよ!」

「朝食に招待…って、なんでよ!?」

「そりゃ決まってるじゃろ! ワシらの仲間だからじゃよ!」


 仲間…その言葉を聞いて、私を強烈な立ちくらみが襲う。

 しかし、ここで倒れても介抱するのはコイツらだ。ダメだ。倒れられない。


「バカヤロー! 朝っぱらから静かに飯も食えねぇのか!」

「まったくじゃーい! そんなに育てた覚えはなーい!」

「育てられた覚えもないわよ!!」


 ヤオキチとゴンザレスに責められ、こんな最低としか言いようがない朝だ。

 世界広しといえど、こうまで朝起きて最低最悪な経験をしている女子高生もいないことだろう…あ、なんか涙でそ。


 しかも、ジジイがノリノリで持ってくる料理は…また豆腐料理オンリーだし。


「うままままままぁッ!!」

「うままままままぁッ!!」

「うままままままぁッ!!」


 例の如く、食欲の失せる光景に吐き気を覚える。

 しかも何の罰ゲームなのか、プラスしてゴンザレスだ。地獄の三重奏だ。

 学校で見るのですら苦痛なのに、何が悲しくて我が家でこの姿を見なきゃいけないのか。

 しかも、この湯豆腐…なんか、生臭いし。マズイ。


「はー、喰ったのぅ!」


 三人揃ってツマヨウジでシーハーシーハしてる…。

 朝っぱらからキタナイ光景だ。これならば、ゴミステーションで生ゴミをあさっているカラスのほうがまだ可愛い。


 よし。さっさと脱出だ。

 さりげなく、さりげなくと、だわ。


「私、学校行くから…」

「ちょっと待てい! 今日は創立記念日で休みじゃー!」


 ウッ!

 そ、そうか…。ゴンザレス。

 見た目はゴリラだけど教師だった。すっかり忘れてたわ。見た目とのギャップに。

 どう見ても、教師ってより、動物園にいそうなんだもん。


「えっと、その、学校ってのはウソで、実は…ちょっと友達と用事が」

「ウソ…じゃと?」

「ほほー」


 ジジイとヤオキチがジト目で見てくる。

 なによ。なんなのよ。いったい。


「まさか、ワシらと一緒にいるのがイヤで、外でブラブラするということかのぉう?」


 大正解!

 ってか、それ言ったら絶対に良からぬ事を企むであろうからあえて口にしない。


「どーれ」


 ん? ゴンザレスが胸元から手帳を取り出して、指をペロペロしながらめくり出す。キタナイ。


「おーや? おかしいのぅー? 山中。貴様の友達は、一人は超新宿へ買い物。一人は親戚の葬式に、もう一人は通院の予定だのぉ? おかしい。おかしいぞ。一人も貴様と遊ぶ友達はおらんというちゅうことじゃーい!」


 もしかして、クラスメイト全員の予定を調べあげてるとか?

 こ、このストーカー教師め!


「ナミよぉ! もしかして、まさか、ひょっとして、ワシらをウザイとか思ってるんであるまいなぁ?!」

「こんの馬鹿女がぁッ! バカヤロー!!」

「そこんところどうなってるんだちゅうーんじゃーい!?」


 ジジイとオッサン二人に詰め寄られ、私はダラダラと冷や汗を流す。

 ぴ、ピンチだ。どうやって切り抜けよう…。


 ピンポーン!


 インターホンがなった! なんて素晴らしいタイミング!!


「あ。お客さんだ! 行かないと!」

「こら、待て! 話はまだ終わってねぇぞ、バカヤロー!!」


 私はそそくさと、玄関に向かう。


「はーい。どなたぁ? おまわりさんとかだったらウレシイなー!」


 そうだ。そうしたら、間違いなくあの不法侵入者三名を捕まえてもらうんだ♪


 ガチャリ。

 何の用心もせずに扉を開けると、そこに立っていたのは…


「あ。い、いきなりすまないな。山中。朝早くに…。実は、ちょっと近くまで来たんで…寄ってみたんだが」


 え?

 ええええええー!?


「セ、セセセセセセセ…」

「セイウチ?」


 ジジイ!!


「セイカ様!?」

「ああ。迷惑だったかな?」

「迷惑だなんてとんでもない!」

「アウチ!」


 ジジイを蹴り上げ、私は外に出てバタンと扉を閉じる!

 

 目の前には、私服のセイカ様が!

 いやー、眼福、眼福!!

 薄い赤色をしたジャケットとパンツ。

 ちょっと派手だけれども、セイカ様だからこそ似合う!

 大人っぽーい! ステキー!


「きょ、今日はどうされて?」

「ああ。話があってな」

「お話! まあ、ステキ! なら、こんなムサ苦しい(ジジイ・オッサン三人もいるからね)ところじゃなくて、お洒落な"スルベ"とかでどうでしょ?!」

「ん? スルベ…?」

「ええ。コーヒーショップです! 私、すぐ着替えてきますから! ぜったい、ぜったい、この扉は…」

「ウヒヒ! そりゃええのぉ!」

「白木博士!?」


 な、なに?! おかしい…玄関は私が抑えてたはずなのに!?

 ってか、そうか。居間の縁側からも外にでられるわけよね。普通に考えれば解る事じゃない。


「白木博士がなぜ山中の家に? …そうか、やはり山中は」

「いや、誤解です! ただ居座られてるんですぅ!!」

「何を言っておるんじゃーい。ちゃんと山中家家長のOKサインはもろうておるぞーい!」


 ジジイ! 何を!

 って、それ…お父さんの直筆と押印のなされた承諾書!?

 いつの間にそんなのを…。ってか、お父さん! 何やってくれてんのよ!! 


「山中! お前はつけ狙われている白木博士をかくまっていたんだな! 偉いぞ!」


 ああーん! なんか、知らないけど、セイカ様にほめられちった…デヘヘヘ。

 ハッ! いかん! いかんぞよ! ナミ! 私はこんなジジイかくまってないし!!


「そうじゃそうじゃ。出かけるにはコイツらも必要じゃろ! カムヒーア! ヤオキチ! タメゾウ!」


 プシューッと、入れ歯をカタカタさせながら口笛を吹く真似をするジジイ。

 できないなら、最初から格好つけんなよ!


「気安く呼ぶんじゃねぇ! バカヤロー!」

「なんじゃーい! ご指名とチェンジしていいのはこっちじゃぁ!」

「ゴンザレス!? …それに、ヤオキチ!?」


 さすがに驚いた顔のセイカ様。

 ええ、私が逆の立場でも驚きます。

 飯粒を顔につけたオッサン二人が、同時に玄関から顔を出せば…。


「てか、もうヤメ! 私とセイカ様はでかけるから! 三人で仲良くゴハンたべてて!」


 そうだ。せっかくセイカ様が来てくれたんだから、脱出の機会を逃すわけにはいかない!!


「いかんぞ、ナミ! 外は危険が待っておる! なにせ、超政府を敵に回しちまったんだからのぅ! 女二人で出掛けさせられるわけあるかーい!」

「ふざけんな! 誰のせいで敵に回してしまったのよ! 元はと言えば、アンタのせいじゃん!!」

「そうじゃ! だからこそ、この二体を貸してやると言っておるんじゃーい!」

「二体を? つまり、またゴンザレスに乗れると…」


 ちょっと感動した様子のセイカ様。

 いえ、おかしいですって!


「いらない! 絶対に!」

「いらないとはなんだ! バカヤロー! 俺に散々救われただろうが!」

「キッサマー! チェンジしていいのはこっちちゅうちゃろうがーい!」

「救われてないし! なによ、さっきからチェンジって!」


 私と、不快指数200%の二体が面と向かっていがみあう!


「いや、待て…。山中。博士の言うことももっともだ」

「ええ!?」

「私たちは戦う術がない。またSACのような敵に出会ったらどうしようもない」


 う、ううん。た、確かに…。そういわれればそうだ。

 相手は銃をもっているし、なんか学生である私たちにも問答無用で発砲するイカれ集団だったし…。


「そうじゃろ、そうじゃろ。ありがたく、乗ってツーリングにいってらっしゃーい!」

「え? ジジイは付いてこないの?」

「ワシがそんな暇人に見えるか! 忙しいんじゃ!!」


 いや、チョー暇人に見えるんですけど。

 暇だから、還暦型決戦兵器だなんて馬鹿なこと思いついたんでしょうに。

 まあ、ジジイがいないなら………少なくとも私のストレスは軽減されるわけで。

 いや、無理か。この二体でももてあましそうだわ…。それも、余裕で。


「こう見えても、この二体! 時速としては300kmは軽いからのぉ! ウヒヒ。並のパイカーには乗りこなせんのじゃ!」


 時速300kmって…おかしいでしょ。新幹線並じゃないの。


「バイクですか…。年齢的に、原付の免許は持っているのですが。さすがに単車の免許となると」


 ええ!?

 セイカ様、原付バイク乗れるの! スゴイ! カッコイイ!

 私も後ろに…って、原付じゃ二人乗りはダメだっけ。


「ウヒヒ。こんなこともあろうかと、こんなものを用意しているワシ! エライ!」


 ジジイが白衣から、小さなカードを二枚とって掲げる。


「…え? 親父取り扱い…」

「免許証…はぁぁ!?」


 『親父取り扱い免許証』…ってなによ! コレ!

 まるで免許証のように、私とセイカ様のフルネームどころか、生年月日と本人写真までついてるんですけど!!

 個人情報流用しまくりでしょ! ってか、本人の承諾なしに勝手にそんなもん作るな!!


「これで公道走ってもバッチグー!」

「バッチグーなわけないでしょ! 捕まるって! これ、免許偽造じゃん! 正式な許可もらってないんでしょ!!」

「ああ。それに、この服では…」


 この服では…って、自分の服を見やっているセイカ様。


「え? もしかして…」

「ああ。バイク並みのスピードがでるなら、ちゃんとしたバイカースーツを着用するべきじゃないか。安全の面も考えて…」

「い、いや! 違いますって! 安全とか、それ以前に、"コレ"に乗るんですよ!?」

「なにがコレだ! バカヤロー!」

「神聖な教師に向かってなんだぁ、山中ぁッ!!」


 怒り狂う二体を無視して、私はセイカ様の手を握る。

 なんとか眼をさまさせなければ…きっと、度重なるジジイの影響でおかしくなっているに違いない!


「"ぱいかーすーつ"とな! だいじょーぶい! ワシ、ちゃんと用意してるしぃ!」


 いや、さっきからジジイ。パイカーって言ってるから。バイカーだからね。それとも、わざとか!?

 また白衣の中をまさぐるジジイ。アンタは、本当に四次元ポケットでも持ってるんかいとツッコミたいのを我慢する。

 で、どう考えても物理的に入るわけがない、バイクスーツ二着を取り出し掲げて、ニカッとご満悦の顔。


「すばらしい。なら、さっそく着替えるとしよう。山中」

「え!? わ、私もですかぁ!?」


 セイカ様に背中を押され、断れずに進み出てしまう私であった………。




<お着替えタイム>




「なによコレー!」


 着替えた私たちを見て、二体の還暦型決戦兵器がブーッ! と勢いよく鼻血を流す!

 それもそうだ。高級皮のツナギであるのは普通だが、サイズが一回り小さいのだ!


「クッ。少しきついな…。胸の部分が閉まらない!」


 私もセイカ様も、上までジッパーを閉じようとするのだけれど、途中までしか…しまらないし!

 ああ、セイカ様! 白い肌が、谷間が……って、私もそうだし! 

 こっち見るな、オッサンとジジイ!


「すんばらしい! パイカー女子といえば、お色気じゃろ! パッツンパッツンこそ男のロマンじゃよ!」


 ジジイの説明に、嬉しそうな顔でヤオキチとゴンザレスが親指を立てる。

 後で絶対にぶっ飛ばす! グーだ、コノヤロー!

 で、でも、今はジッパーを固定するので手がふさがってる…。


「着替えましょう! セイカ様! ジジイ、元の服返して!」


 セイカ様はスタイルがいいから良いけど…そりゃ、鼻血ものだから、私も我慢してるけど!

 でも、並ぶと私がスゴイ惨めだ。お尻とかのラインくっきりでてるし、実は短足だってのがバレるし。


「返してって言われても、洗濯に入れちゃったもーん」

「"もーん"じゃない! いいわよ! 別の着替えにするから!」

「ウヒヒ、そう言うても、他の服もみんな洗濯しちまったわーい!」


 クソジジイ!

 やっぱり、私たちにこの格好させるためにえげつないことをやってのけたか!

 おのれ、服を持っていくのを不審に思うべきだったわ…。


「…多少キツイが、私は別にこれでも構わないぞ」


「ええ?!」


 堂々とした姿のセイカ様。

 や、やっぱり自分に自信がある人は違う…。

 うう、だって、だって、モデルさんみたいに良いスタイルなんだもの! そりゃ、問題ないわよ。

 でも、私なんて、なんかとっても隣にいるとミジメで…。


「ふむ。山中。お前も似合ってると思うけどな」


 ズッキューン!

 セイカ様が私を、私を見ている…観察している、検閲されている、点検されているぅ!


「そうじゃそうじゃ。デートなんじゃからバシッと決めんとな!」


 デート!?

 あ、そうだ…。よく考えれば、これってセイカ様とのデートじゃない!!


「ああ。とりあえず、その辺を軽く回るとしようか。山中」


「は、はぁい~」


 とろけそうになりつつ、私は返事をする。

 ああ、いけないわ、ナミ。こんなに流されるようじゃ…。でも、でも、セイカ様の初デートだなんて。

 うう、いくらこんなヘンテコなオヤジに乗らなくてはいけないとはいえ、それ以上の魅力がある誘いだわ。断れるわけないじゃない。


「はよ! はよせい! こんなところでウダウダやっとらんと、はよ乗れ!」


 痺れを切らしたジジイが、ドンドンッと私たち二人の背中を押し、ヤオキチとゴンザレスに乗せようとする。


「わ、わかったわよ! だから、押さないでよ!」


 私たちはそれぞれ二体の還暦型決戦兵器に乗り込む。

 乗り込むっていうとカッコよく聞こえるけど、ただオヤジの背中に乗るだけだから…。


「とりあえず、いってらっしゃーいじゃーい!」


 ジジイは黄色いハンカチを、我が家のポストに括り付けようと悪戦苦闘している。

 それって見たことあるぞ。ってか、ポストじゃなかっただろうよ。ってか、時代が違うだろうよ!


 こうして、私とセイカ様は大通りへと向かってゆっくりと出発したのだった………。

 



 この先に、さらなる苦難が待っているとは知らずに………。




 って、苦難ってなによ! まだこれ以上なにがあるってのよ!




 さぁて、待望の次回につづーーーーく!!!



 なによ、このナレーション! 人の話を聞け!!!

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