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十五狂目 『美女とゴリラとクソジジイ』

 ムカつく笑顔でボタンを押すジジイ。

 ハッと、顔を上げて意識を取り戻すゴンザレス。


「うう、俺はいったい…。そうだ。床屋でパンチをあてて、それからの記憶が…」


 床屋って、ジジイの床屋よね。やっぱりあそこで改造されちゃったんだ。ヤオキチみたいに本人の承諾なしで…。

 あれ? でも改造された以前の記憶があるってことは、だいぶ昔の話? ついこの間の記憶とかはどうなったの?

 確か、ゴンザレスはジジイのことを見て知らなかったみたいだし…???


「ぬはッ! と、床屋のジジイ! チェメェ! ピッチピッチのギャルに、俺の頭カットさせるって言ってた話はどーなっとるんじゃーい!?」

「ほえ? ヤオキチにやられたショックで、削除したはずのデータがでてきおったか! チッ。いちいち、うるさいのぅ!」


 なんてこと…。ジジイ、記憶操作までしてやがったのか。だから、最初に出会った時にジジイのこと解らなかったんだ。

 ジジイが、またリモコンを操作する!


「うんももッ! ………ブワハハハハッ! スカートカットは我が悲願!!」


 あ。この極悪面。元のゴンザレスに戻った…。

 なんか解っちゃった。いきなり私のスカートカットとか言い出したのとかって、もしかして…ジジイのせい?

 いや、恐らくとかじゃなくて間違いなさそう。ってか、すべての元凶、やっぱりこのクソジジイじゃんか!!!!!!


「さあ、これでええわーい! 飛べい!」

『よ、よか…った。役目、はた、した…ぜ』


 あ。生きていた。でも、なんか完全燃焼したっぽい万能バエ…。ホント、なんかお疲れさまです。


 尻に搭載されたジェットで、飛び立つゴンザレス! うーん、どう見ても格好よくなーい!


「行くぞ!」


 セイカ様が走り出す!

 ええ、なんか乗る気満々ですかー!?

 

「むう? なんじゃい。これは…」


 ゴンザレスの肩にハンドルが、ふくらはぎにステップが出てくる!

 ヤオキチ号と同じ仕様だ!


「鬼瓦先生! 乗させてもらう!」

「む!? 貴様は、越宮! この神聖なる教師である俺を踏み台にするというか!!! そんなことは言語道断だ!」

「教師は生徒の踏み台となり、その教え子はより高みに飛翔する! それが、指導者の本懐でしょう!!」

「小娘が! 知ったような口を利くな! 俺の半分も生きていないくせに!」

「年月を経たからといって知恵が増すわけではない! 向上心こそが人を高めるのです!」

「否! スカートカットによる辱めこそ、己が立場を明らかにさせ、教師が上に立つことを示すが人生の道理! 正常位と後背位しか俺は認めーん!! 俺が越宮、貴様の上に乗ってくれよう!!!」


 なんか揉めてるみたい。ハンドルをつかもうとするセイカ様に、そうはさせまいと身を捻るゴンザレス。

 なんだかゴリラの話は、卑猥なものにしか思えないけど…。

 

「クッ!! つ、つかんだぞ!!」

「ぬぐッ!?」


 あ、セイカ様の手が…ハンドルをつかんだ!


「離せ! 離さぬか! 離せばわかーる!!」

「離すものか! この越宮 聖華!! 乗馬経験は生まれた年齢と同じ! 私に乗りこなせぬ暴れ馬はいない!」

「俺は馬ではないわ!!」


 うん。どっちかっていうと、"馬"と"鹿"だからね。"鹿"が加わるからね。アンタには。


「あ、もうじれったーい! …ポチッとな!」


 内股でジジイが悶え、またもやスイッチを押す。


「うんももッ!!?」

「よし!」


 一瞬だけゴンザレスの動きが止まり、その隙にセイカ様がひらりとその背に乗る!

 ってか、それあるなら最初から押せよ! なんだ、この一連のやりとり! 必要だったの!?


 セイカ様は華麗だけれど…やっぱり下がゴンザレスだってのがダメだ。

 ナポレオンだって、ゴリラに乗ったら形無しだろう。どんなポーズとったって変に決まっている。

 

「きっさまぁ!! ついに、この教職者の俺の背に!!」

「やったぞ。鬼瓦先生…いや、これからはあえてゴンザレスと呼ばせてもらおう!」

「なにをふざけたことを抜かしておる!! 貴様の通信簿はオール1にしてくれるわ!!」

「フッ。ならば、私はそれに書き加えてすべて5にしてくれよう!」

「なんだとぅ! 許せん! それでは留年させて、チョメチョメできぬではないかァッ! 俺は認めん! 越宮、貴様を認めんぞぉッ!!」


 あれ? まだゴンザレスは納得してないみたい…。

 ジジイが難しい顔をして進み出てくる。


「タメゾウよ。よく自分の心に問うてみるのじゃ。女子高生に乗られるのも悪くはないはずじゃぞ」

「なぁにぃ? そんなはずが…」


 訝しげな顔をするゴンザレス。

 タメゾウって名前だったんだ。鬼瓦 溜蔵…うん。汚い。名は体を表す、ってやつね。


 と、ゴンザレスが目をカッと開いた。


「ば、ばかな! そんなことが…。意外と、良いだと?」


 へ? なに言ってんの?


「そうじゃろう、そうじゃろう!」

「年端もいかぬ小娘に乗られ、この俺が興奮しておるのか…。なんだこの気持ちは! 女を支配することこそ至上、スカートカットこそ相手を貶めて自ら優位に立つことを雄の欲求だと思い、俺は自分をずっとサディストとばかり思ってきたが…。実はそれは感情を隠す偽りの仮面…本当のところはマゾヒストだったのか!! 信じられん! まだ、俺にこんな可能性が残されていたとは……」


 あのー。なんか気持ち悪い性癖の暴露が始まったんですけど…。誰もそんな自己分析聞きたくないんですけど。


「それに、これだ!」

 

 ゴンザレスがいきなり勢いよく前進したかと思いきや、急停止する!


「きゃあ!」


 ああ、セイカ様が前のめりに!

 んん!? セイカ様の大きな胸が、ゴンザレスの背中に当たって…また、ゴンザレスが目をカッと開き、あ…鼻血でてるし。


「この背に当たる、マシュマロのような二つの柔らか物! なるほど。これは背上位でないと味わえぬ至福であーる!」


 ゴンザレス、マジキモイ。

 ジジイ、なに泣きながら頷いて親指立ててんのよ…。


「な、なんだかよく解らないが…。私の支配下に入ったと思っていいのだな?」

「ブワハハハ。良かろう。この鬼瓦、認めよう。越宮、貴様に従おうではないか」


 えっと、私もよく解らないんだけど…。


「敵はあいつらだな? ならば、俺を使いこなしてみせい!」

「ああ! 行くぞ!」

「むぅうん!! ダブル100kg竹刀!!」


 ゴンザレスが両手にあの鋼鉄製の竹刀を持つ!

 そして、ヘリコプターのように飛びながらSACの中に突っ込んでいった!


「『鬼瓦式性的教育指導アンチティーチャ・ハラスメント!!」」


「うわー!」

「ぐあー!」

「なんじゃこりゃ!」


 バッキ! ベッキ! バッキ! ベッキ! バッキ! ベッキ!

 

 ボッコボコにされる隊員たち。100kgの竹刀によって無惨に凹まされる! ヘルメットかぶってようが関係ない。だって、ヘルメットごと潰してるし!


「す、すごい! すごいぞ! 私にも敵が見える!」

 

 いや、超回転してるんすけど…。

 セイカ様、目回らないんですか!? 敵どころか、私とかの場所も把握できてないんじゃ…。


「あれ…。でも、なんか。ゴンザレス、強くなってない?」

「ほう。ナミよ。さすがじゃな、気づいたか。還暦型決戦兵器は、乗り手とのシンクロによってパワーアップするのじゃ! セイカちゃんとゴンザレスの相性はかなりいい! 趣味・性癖・思考などが同じであれば同じであるほど交渉率が高いのと同じじゃな!! 少ない金額でゴー・トゥ・ホテェールなんじゃーい!」


 えっと、後半、何を言っているか解らないんですけど…。

 セイカ様とゴンザレスが似ているからってこと? 

 いやいや、ありえないですから。性格も見た目も全然違うから! 同じ人類としてですら、いや、むしろ同じ空気を吸ってることすらありえない!!


 …あれ? ちょっと待てよ。


「あー!!」

「なんじゃい? いきなり大声あげるヤツが…」

「ってことは、なによ! 私とヤオキチも相性がいいってこと? あり得ないんですけど!!」


 そうだ。私がヤオキチのパイロートとやらだったら、そういう話になっちまうじゃない!!


「ウヒヒッ」

「ウヒヒじゃなーいッ!!」


 照れたように笑うな! ムカつく!!! ってか、その態度ってことは肯定じゃないのよ!!

 あの頭、あの腹、あの下品さ! どこをとっても私じゃなーい!!


「ぜんぜん似てないじゃないのよ! バカヤロー!!」

「ウヒヒ。やっぱ、怒っている時はヤオキチそっくりじゃのー」


「ブワハハ!! どうじゃい! 敵を全滅させたぞ!!」


 ゴンザレスの笑い声が響きわたる。


 私たちがそんなやりとりをやっているうちに、セイカ様たちは敵を全部やっつけてしまったらしい。


 SACの皆さんが、山のように積み上げられてピラミッドみたいになっている。


「白木博士!」


 セイカ様がジャンプし、ジジイの前に華麗に着地した。

 う、美しい…。審査員がいたら全員10点満に違いない。

 ただ、目の前のがジジイじゃなきゃ良かったのに。むしろ私であったら良かったのに。


「ゴンザレスは素晴らしいです! 高揚する一体感! 痺れるような快感! 普通では味わえない経験をさせてもらいました。そして、このような芸術品を作り出した白木博士はもっと素晴らしい!」


 顔を赤くして言うセイカ様。

 いや、色っぽいんだけど…色々とヤバいことを仰っている。

 どうしちゃったの? あんな、恥ずかしい兵器に乗っておかしくなっちゃったとか?


「うむ。どうやら、初体験は最高だったようじゃのぅ。ウヒヒッ」

「はい! それはもちろん!」

「そりゃ良かったわーい」

「乗って確信を得ました。これが、私の生きる道なのだと!」


 いやいやいやいや!! やーめーてー!!

 ど、どうしちゃったのセイカ様? おかしいって、セイカ様!!


「ううーむ。そこまで言われちゃしょうがないのぅ。ナミのサブとして使おうと考えていたゴンザレスじゃが…。どうやら、セイカちゃんをパイロートにした方がええみたいじゃのう」


 ジジイの言葉に、セイカ様がビクッと身体を震わせ、ツーッと涙を流す。

 す、すみません。いま泣くところありました? ああ、そうか。そうですよね。きっと、ゴンザレスのパイロートになるのがイヤで…


「ありがたき幸せ」


 ジジイの手の甲に恭しくキスしてみせるセイカ様。

 やーーーめーーーてぇ!!


「せ、セイカ様…考え直した…ほうが…」

「よし。これでようやくお前の横に立つことができたぞ。山中」


 ドッキーン! よ、横って…。もしかして…。

 私の脳裏に、ヴァージンロードを、セイカ様にお姫様抱っこされて連れられ行く姿が浮かび上がる。

 うわー。マジ。これ、うひー。鼻血もんですわ!!


「山中。ともに、腐りきった超政府と戦おうではないか!」

「は、はいぃ…。へ? 超政府…って、え?」


 ついメロメロになって返事をしてしまったけど、ど、どういうこと?


「見たか! ワシらの邪魔をすると、ワシのとこのナミとセイカが、ヤオキチに代わっておしおきじゃーい!」


 そんな意味不明なことを叫び、ジジイがSACに向かって投石を始める。


「ぐ、クソッ…。て、テロリストは、白木他2名の女子高生と、還暦型決戦兵器2台を所有している模様……」


 石がガツン、ガツンとヘルメットに当たりながらも、無線機でそんな連絡を入れる隊員。

 女子高生2名って、私とセイカ様!? 冗談じゃない! 誰がテロリストよ!!!


「ふぃー。じゃ、これからもよろしく頼むぞーい」

「はい!」

「いやーーーー!!」


 私の叫びは、グラウンドの中心で大きく響いたのであった………。




☆☆☆




 蒼欄学園の側にある、とある和菓子工場。

 その煙突の上に立ち、二人の人物がジッとグラウンドの方を見やっていた。

 若い女の方が、スッと双眼鏡を降ろして眼鏡に付け変える。

 闇部総理の美人秘書、浦河だった。


「…お嬢様。SACは敗北したようですが」


 燕尾服をまとった背の高い老人が言う。


「想定内です。白木博士が作り出した還暦型決戦兵器、あの連中程度で拿捕できたら苦労はしませんね」

「ハ。では、わたくしめが…」


 そう言って、老人は五指をピンと延ばす。メタリックな指が太陽光を反射させた。


「…いいえ。"千羽センバ"が出るにはまだ早いわ」

「ハッ。申し訳御座いません…。差し出がましい真似を致しました」


 老人は指の力を抜き、ペコリと頭を下げてみせる。


「フフフッ。楽しみね。私の"シンシーズ"と、白木博士の兵器のどちらが上か…。とってもいい機会よ。ぜひ楽しみましょう」


 浦河はそういって、高らかに笑い始めた。


「クォラー! 誰じゃあ、うちの煙突でバカ笑いしていやがるヤツは!!!」


 バターン! と、和菓子工場の扉が開き、目を血走らせた店主が出てきて怒鳴る!


「クォラー! 失敗した人面饅頭食わせるぞ! 降りてこりゃあぁぁぁ!!」


 怒り狂い、手に持った人の顔を模した饅頭で威嚇する!


「フフフフフ!」

「ハハハハハ!」

「クォラー! なーに笑ってるんだチェメェら!!!」


 夕日の中、浦河と千羽の笑い声。そして、店主の怒りの声が木霊したのであーった!!!

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