十四狂目 『貧乳好きを私は信じない』
前回までのあらすじ…。
普通の女子高生、山中 南美は、還暦型決戦兵器ヤオキチ号のパイロットだった!
ちょ、ちょっと! それ、以前、見たことあるあらすじだからッ!
ってか、パイロットって認めてないし! なにこれ!!
「ううーむ。仕方あるまい。こうなれば、ワシが時間を稼ぐ! ナミよ。"別"の還暦型決戦兵器に乗って戦うんじゃ!」
は、はあ!?
ああ、そうだったわ。
あまりにクソジジイが放った言葉がひどすぎて…一瞬だけ、意識が過去に飛んでしまっていたみたい。
と、途端に視界に見えていたジジイの姿が二重にぶれる。
どうやら、ジジイか私の脳内交信を止めたようだった……。
ううっ。きっと、頭をイジられた後遺症のせいってこともあるはずだ。ホント、最悪だ。
「ウヒヒ。ワシを、か弱く優しい、ただの才気溢れる、愛玩的老人と見たのが大きな勘違いじゃーい!」
いやいや、思ってませんから……。
おもいっきし、世界最悪のクソジジイですから!
「貴様! さっきから動くなと……」
あ。そうか。いまのはジジイの本体の声! 本当に声だしたり、動いたりしたら………。
銃をガチャリと構える兵士にも関わらず、ジジイは余裕の笑みでズボッとズボンに手を突っ込んだ! ってか、なにやってんのよー!?
「パパパパッパパーン! ワシの"異次元モモヒキ"から取り出したる"機密道具"は、『万能ハエ・タタキ』じゃーい!」
某自称猫型ロボットのようなダミ声で高らかに宣言する。
ってか、こういう道具紹介のパロディー多いわよねぇ。もうマンネリしてるんじゃ……まあ、そんな話はいいか。
ジジイが取り出したのは、小汚いどこにでもある緑色したハエタタキだ。
古くなって黒ずんでいる。ちょっと違う点は、先のメッシュのところに、大きなハエのイラストが描かれてるとこだろう。
うーん。しっかし、このハエのイラスト……なんかヤオキチににてるような。なんかヤオキチがハエのコスプレしたっぽい。
お父さんの所蔵DVDにあった、ハエと人間が合体した映画『ザ・フ○イ』を思い出す。
「万能ハエタタキ…? し、しかし、それでどうするつもりで?」
セイカ様の言う通り、相手は銃を持った軍だ。ハエタタキなんかじゃ……。
「ちっがーう! "万能ハエ"・"タタキ"、じゃ! その発音だと、ハエを叩くことになっちまうだろうが!」
「え? ハエ、タタキ?」
「そうじゃ! ここについた万能ハエが、アイツらを叩くんじゃあー!」
まーた訳のワケの解らないことを叫び、ジジイは突進する!
ホント、わけがわからない。なんなの、あのジジイ。ホントに、マジで!
「イ、イカれてやがるぜ! この老いぼれが! そんなに死にたきゃ、穴の空いた死体にして、群がるハエをそいつで追い払ってやんぜ!!」
ズダダダンッ!
遠慮なしにジジイに射撃が始まった!
「あ、ほーれ!」
『おんどりゃあ!!!』
シュババババッ!!
え? なにこれ!?
なんか、ハエタタキからイラストが飛び出して……銃弾を、まるで甲羅背負った某エロ仙人の如く、受け止めている!!?
「フッ。知っておるか? ハエさんは、人間なんかよりもその反応速度がダンチなんじゃーい! ワシが改造した上で、ヤオキチの遺伝子を組み込んだ万能バエじゃ! 銃弾なんか赤ん坊のハイハイより遅いわーい!」
『ゼェゼェ……。いや、無理』
なんでヤオキチの遺伝子が必要なんで? とも思ったが、そんなんはどうでもいいわ。
あのー。すみません。その万能バエ、かなり汗かいて青い顔してるんですけどぉ……。
『いや、普通の鉄砲ならいざ知らず……。ライフルはないわ。マジ。勘弁。一秒に何発くんのよ。しかも何人で撃ってんのよ。ありえねぇよ。マジで……もう次は無理』
なんか見た目はヤオキチだけど、性格は繊細っぽい。泣き言いってるし……。
「ほーれ、どんどん撃たんか! 槍でも鉄砲でも、大砲だってええぞ!! こいやー!」
調子に乗ったジジイがハエタタキで、怒り狂ったSACからの銃撃を受け止め続ける……ってか、すでに限界そうなんだけど!
てか、万能ハエがダメになったら、私たちにも流れ弾とんでくんじゃないのよ! そこんところ考えてくれてるんでしょーね!?
「ちょっと、時間を稼ぐんじゃなかったの!?」
「はぁッ!? うるさーい!! 見りゃ解るじゃろが! ワシは忙しいんじゃーい! ほりゃほりゃッ!」
ダメだ。目的を忘れ、ハエタタキを使うのに夢中になっている。
万能バエも大変だ。もちろん自分も壊されたくないだろうから、限界を越えていても銃弾を受け止めなければならない。
ジジイの足下には弾の残骸が山のようになっている。必死な万能バエの努力を物語っている。
いずれにせよ、これじゃやられるのも時間の問題だ。
あえて私から言いたくはないけれど、蜂の巣にされるよりはマシ………背に腹はかえられないってやつ。
「さっき言ってたヤツは! "別"の還暦型決戦兵器だしてよ!」
「別の兵器? まさか、ヤオキチ号以外にもあるのか?」
あれ。なんかセイカ様が食いついてきた…。
「山中。お前がそれを知っているっていうことは…」
「いや、違いますから! ぜんぜん、セイカ様の考えていることと違いますから! そこのジジイに聞いただけであって…」
「しかし、そういう話は今までなかったぞ? まさか、お前は白木博士とコンタクトを…」
マズイマズイ! 絶対勘違いされた!
違います。私、このジジイのことを…まったく知らないわけじゃないですけど、ホント、関わり合いないですから! 巻き込まれただけですから!!
ってか、脳内会話だったなんてどう説明すりゃいいのよ! 勝手に手術されて埋め込まれたなんて…本当の話だけど、誰が信じるってのよ!
「フフッ。そうか、ナミよ。やはり、お前は"乳操者"の宿命からは逃れ得ぬようじゃの。まさか、隠しておったそれに勘づくとは。ワシも見事としか言いようがないわーい! ワシら"干物人"とは違う、いわゆる宇宙世紀が生んだ"新乳人"ってやつかい? あれ、違うのぅ。パイプ……違ったっけ? バイブだっけ? 動くコケシ?」
なに卑猥で、ワケのわからないことを!
あー、もう! なんかジジイのせいで、セイカ様に関係者に見られているじゃない!
それより隠してたってなによ! 隠してたって! さっきまで、私の脳に話してたの自分じゃん! まるで、私が察したかみたいに言うなんて!
さらに、"乳操者"ってなによ! パイロートってそんな風に書くの? まるで私が乳だけの人間みたいじゃんか!
ってか、わざわざカンペまで出して説明することじゃないから!
そうです。このクソジジイめが、ハエタタキで銃弾落とす合間に、どこからか用意したスケッチブックに漢字を書いて説明してたんですわ! いらんから、そういうの!
と、ツッコミどころが多すぎて…つ、疲れる。
「ま、そこまで言うなら仕方あるまい! 見せてやろう! 我らの第二の戦力を!!」
例によって、ボタンを押すジジイ。
次の瞬間、テニス部の扉がボーンッ! と派手に飛んで壊れた。
そうか…。無事だったの外面だけで、中はすでにジジイの魔の手が及んでいたのか。この分だと、ラクビー部の中も改造してあるな。うん。
大きく開けた穴から、何者かがマジックハンドみたいなのに掴まれて外に出てきた。ほら、よくあるでしょ。ゲームセンターの景品キーホルダーみたい。
でも、先に付いていたのは、ぬいぐるみストラップとか可愛らしいものでは決してなかった…。
「こ、これは!?」
「まさか…鬼瓦先生!?」
驚きの声が上がるのも当然だった。
出てきたのは、この前にヤオキチにやられた(決して私じゃない!)、あのゴンザレスだったのだから!
でも、ゴンザレス…なんか、放心している。明日に向かうボクサーみたいに真っ白に燃え尽きた風だった。
「修理は完全じゃわい! 調整も済んどる! ヤオキチが整備中の今、こいつに乗るしかないのじゃ! ナミよ!」
「絶対にイヤ!!」
ホント、無理です。ごめんなさい。
ヤオキチも厳しいけど、あのゴンザレスのパンチパーマを目の前で見るなんて…テカテカしてるし、ゴキ○リみたいだし、タバコ臭いし、ホント無理。ありえない!
「わがまま言うんじゃなぁーい! お前が乗らねば、誰がやる!? 誰がこのゴンザレスに乗ってやるんじゃーい?!」
「少なくとも私じゃなーーい!!」
「このままじゃ、ワシらは全滅じゃぁ! ゴンザレス号も、お前の乳に合わせて調整しておる! お前にしか乗れーん!」
「なんで私の乳に調整するのよぉッ!? なにを、どうやって、どうしてオッパイなのよ!? もっと他にやりようあるでしょーが!!」
「うるさーい! お前のデカ乳による前傾姿勢こそが…ってこの前、ちゃんと説明したじゃろうが!」
「そんなん言われても納得できるわけないでしょーが!」
戦場となったど真ん中で、怒鳴り合う私とジジイに、さしものSACの唖然としていた。
イヤだイヤだイヤだ! 単なるセクハラロボットじゃん!
ってか、無人でも戦えるのに、どーして操縦者が必要なのよ!? そこの無駄、意味わかんないし!!
「ちょっと、待って下さい。乳、と言いましたか? …そ、それはつまり、胸……の、その、大きさ……によって、還暦型決戦兵器に乗れるかが決まるのですか?」
あれ、セイカ様?
いやいや、ここはスルーするところですよ!
真面目に聞いていると、頭おかしくなりますって。腐りますって!
「む? そうじゃ。だから、以前に言ったじゃろう。お前さんはヤオキチに乗れんかった理由がこれじゃ!」
「そうですか…。なら、鬼瓦先生…いいや、ゴンザレス号でしたら? もしかして、私にも……」
チラッと、切なげに自分の胸を見るセイカ様。
ブシュッ! いや、はい。そのカットイン。頂きました。視覚野に記憶保存させました。ごちしょうさまでしゅぅ~。
いやいや、違う! 違う!
え? なに、この展開……。
「ん? うーむ。お前さんもそれなりに乳はありそうじゃが、いくつじゃ?」
「えっと、一応、E……ですか」
坊主とロン毛が鼻血を出して倒れた。
あ。存在感ないけど…ちゃんといましたよ。ただ、展開に思考がついていなかったみたいで石みたいに固まってたんですよねー。
でも、セイカ様、Eかー。
はわわわ、スタイルもいいし、その上で胸も大きいなんて完璧すぎる! ビーナスだよ! ホント! マジで!
「Eか! ほう! ちなみにナミよ! お前はいくつじゃぁッ!?」
なんで私に振る!? なんで私に聞く!?
言いたくないのに…。でも、セイカ様見てるし。なんか答えなきゃいけない雰囲気。
「えー、あー…その、E寄りの…D…ってところで」
「うそこけ! Fじゃな! 確かG寄りのFじゃったな! まごうことなき、エッフじゃぁああーーーッ!」
おい、知ってたのかよ! ってか、拡声器で話すな! それ、どこから出したのよ!
うう、セイカ様より胸ででしゃばってすみません。牛みたいですみません…。生まれてきてごめんなさい。
「Fか…。しかもG寄りとは。それで私には乗りこなせないわけか。足りないんですね。乳が……」
あー、なんだろう。私、なんもしてないはずなのに罪悪感が…。
「うむ。いや、だが、そうとも言えんぞい!」
「え?」
「ヤオキチ号は、遠距離を主体とした万能型なんじゃ。メインウェポンである主砲の反動を抑えるための、前傾重心としてナミのデカパイが必要なわけじゃな。だから、お前さんが操縦するのは確かに無理じゃろう。しかし、対してこのゴンザレス号は、超近距離戦型として作ってあーーる!!」
「つまり…」
「ウム! 多少のオッパイ誤差であれば乗れるんじゃ! Eあれば、ゴンザレスの性能を充分に活かせるわーい!」
ニカッと笑うクソジジイに、セイカ様の目に光が宿る。
ええええええ!? なにこれ、なにこの展開! 聞いてないんですけどぉ!!
「ってか…セイカ様。マジで!? マジでゴンザレスに乗るんですか!? や、止めたほうがいいですよ!」
「止めるな。山中。これは私の決断だ」
「いや、そんな…。だって、アレ、ですよ」
私はチラッと、ゴンザレスを見やる。
見ただけで吐き気を誘う。さんざん浴びせさせられ続けた口臭を思い出す。
付け加え、最悪セクハラ教師だ。あんなのに乗るなんて、私だったら一生どころか永遠にごめんだ!
「な、なんで…そこまでして…」
「ああ。決まっているだろう。山中ばかりに負担をかけさせられんからな!」
お優しいお言葉! とろけてしまいそう!
ああ、しかし…還暦型決戦兵器に乗ることで、セイカ様が汚れてしまうような…。ゴンザレスに乗っているセイカ様なんて…見たくない!
でも、待てよ。美女と野獣って言葉もあるし…美女とゴリラ。
うん、なんだろ。セイカ様の美しさが際立つような気がしなくもないような…。ギャップ萌えってやつかしら?
いや、でも、あのゴンザレスにセイカ様が乗るなんてやっぱり………。
「調整は遠隔でできる! セイカちゃんと言ったな!? 準備は良いか!?」
「無論です!! いつでも!!」
ああ、私が思案している間に、セイカ様は颯爽と歩み出しているし!
ジジイはニッと笑い、懐からリモコンを取り出そうとする。
「させるかぁ!」
あ。こっちも忘れてました。
SACの皆さん、私たちがこんな暢気なやりとりをしている間も発砲してたんですけどね…。
ええ、例の万能バエを酷使してたわけで…。どんな状況下であるか、言葉では説明しきれないほど万能バエは憔悴しているし。あれ、もう死んでるんじゃない?
「うるさーい! ワシの邪魔すんな!!」
ジジイは、謎のリモコンをヤオキチに向けて押す。すると、ヤオキチの頭がグリンと動き、キャノン砲が火を噴いた!
チュボボボーン!! ドッゴーン!!!
「うぐわあー!」
「う、動いた! こいつ、動いたぞ!」
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化したグラウンドだ。
おい。さっき、整備中で遠隔操作できないって言ったばかりだろうが!
また自作自演か! 私をゴンザレスに乗せるための演技か!
そんな私の怒りの視線も何のその、素知らぬ顔でゴンザレスに指示を出す!
「行け! ワシの二号さーん! ゴンザレス号、発進!!」
こうして、ついに、万を侍して動き出すゴンザレス号!
はたしてセイカはゴンザレスを乗りこなせることができるのだろうか!?
そして、ナミとヤオキチは!? 白木博士は!?
彼らは、無事にSACの猛攻を止めることが可能なのであろうか!?
そんなこんなで、次回につづーーく!!




