十三狂目 『先制攻撃反撃応酬型自衛主張部隊…長い!』
「ヤオキチ、フンフン♪ あ、い、し、てるぅ~フンフン♪ だぁいじぃーなのぉ♪ シラキのとぉっておきぃ~フンフン♪」
ご機嫌モードで、ノリノリで歌っているジジイ。
尻をフリフリさせているのが、なんともイライラさせる。
あのリモコンの操作を受けているのか、ヤオキチは「バカヤロー」連呼の"通常モード"ではなく、よりロボットっぽい"従順モード"なようだ。
ジジイは意識してかしてないでか、やたらと乳首のあたりをゴシゴシと執拗に擦っている。
相手が人間だったら変態………いや、人間でなくても変態だった。
「おい、じいさん! なんだよ、これ! 中にあったバットやグローブをどうした!?」
「つうかよ、誰に許可もらってこんなとこでオッサンを洗ってるんだよ!?」
「ほえ?」
坊主とロン毛が怒鳴るのに、ジジイはキョトンとしている。
けれど、これが演技なのはもう解ってるし…。
「見りゃ解るじゃろ。ここはワシの臨時整備工場として使うことになったんじゃ」
「は、はぁ!? なに勝手なこと言ってやがる!」
「そうだ! すぐに元に戻せ!」
怒れる二人に、ジジイはビシャーッと持っているホースで水をかける!
「な!?」
「つめて!」
あの、こっちまで容赦なくとんでくるんですけど…。私も濡れたんですけど…。
「うるさーーい! ワシのやることにケチつけんな! お前たちのタマコロ遊びと、このヤオキチのどっちが大事だと思うてるんじゃーい!!?」
いやぁー、二人には普通に部活だと思うんですけど……。
ってか、別に工場作るのに、わざわざ部室を壊す理由もないんじゃ……。
「ヤオキチが! ワシのヤオキチが、ワシの相手せんで、野球ばーっか見おってるから!! 腹いせに、野球部を壊させてもらったんじゃあ!! あ、サッカー部はついでね♪」
「ふ、ふざけんな!」
「なにさっきからワケわからねぇこと言ってんだよ!? マジイカれてるぜ!」
「うるさーーい! お前たちにワシの気持ちが解ってたまるか!」
相変わらず、毎度、毎度、トチ狂ってるとしか言い様がない。
仕方ない。こんな収拾つかない話をしてると、そのうちヤオキチ使って二人をボコボコにしそうだしなぁ。
はあー。関わりたくないけど、私が止めるしか………。
「そこの女じゃ! そこの女がワシにこんなことさせたんじゃー!!」
はあ!?
私を指さして、いきなりそんなことを言うクソジジイ!!
いま、自分が腹いせにって言ったじゃん!
そんなん、いまさらどんなバカでも信じるわけが………。
「ホントか!? 山中!!?」
「天使みたいな顔してんなぁと思ってたのに、心は悪魔か!? 悪魔王かッ!?」
ゲフゲフーン!
やっばりコイツら見た目以上のバカだった!
お前ら野球とサッカーやる資格ねぇよ!
黙って、ひたすら筋トレしてろ! そのまま校庭グルグル回ってろ!
筋肉馬鹿ならぬ、筋肉"だけ"馬鹿が!
「白木博士」
「む!?」
セイカ様の言葉に、ジジイがシリアスな顔つきになる。
チッ。博士だなんて言われたからか………。
「こんな目立つ行動していてはマズいです。昨日、我が越宮家に政府からの指名手配情報が……」
「指名手配じゃと!?」
チラッとジジイがヤオキチを見やるけども…。
いやいや。ふつーにアンタだよ。どう考えても、ヤオキチを操ってるアンタのが危険だよ。
「とにかく、今は身を隠して……」
そうそう。
って、えー!? セイカ様なに言うてんの!?
「あのー、世界平和の為に拘束してもらったほうが…」
「なに? 何を言ってるんだ。山中」
あう! セイカ様に怒られちった……ウフフ、ってちがーう!
このクソジジイ捕まえてくれるってんだから、そのまま引き渡せばいいじゃーん!
「む!?」
「ハッ!?」
なに、この『敵がでました!』みたいな反応…。
いやいや、中2が書いたライトノベルじゃあるまいし…。そんな都合よく……。
「見つけたぞ! 白木!!」
フェンスを飛び越え、やって来るのは、黒ヘルメットに防弾チョッキ、ごっついライフルを構えた人々。
学びの場にそぐわない男たちが次から次へと入ってくる!
ってか、ヤオキチと白木のジジイもそぐわないんだけど…ね。
と、冷静にそんなこと言ってるときじゃなーい!
なんかバタバタ音たてて、ヘリまできたし! あれって、軍用じゃないのー!? なんかミサイルついてるんですけどぉ!!?
「ついに来おったか!」
「クッ! 超日本帝国が誇る"先制攻撃反撃応酬型自衛主張部隊"か! ストライク・アタック・カウンター……略して、"SAC"と呼ばれる精鋭部隊だ!」
えー? かなり色んなとこ略し過ぎのような……。
ってか、セイカ様。なんでそんなの知ってんの!?
あれ? なんか、眼が輝いてるような気がするのは……私の思い過ごし?
「えっと、なんですか、それ?」
「平たく言って、『殴ったけども、先にバカって言ったのそっちだもん! で、殴り返してきたから、また殴っただけだもん! ボク悪くないもん! ……先生、これって正当防衛ですよね? 大物政治家のパパがそう言ってましたよ』という、"先制攻撃しても自衛ですから!"と、そう主張する闇部首相の作り出した武力組織だ!」
長々と説明ありがとうごさいます!
だけれども、なんか聞けば聞くほどどうしようもなく格好悪い気が……。
そんな武力組織、ホント大丈夫なわけ?
「白木卓郎! ただちにその兵器から離れ、抵抗は止めて投降せよ! 少しでも怪しい素振りをしたら撃つ!」
SACの隊員は、やたらヤオキチを警戒してるようだ。銃口をヤオキチとジジイに交互に向けて怒鳴る。
って、撃つ……マジで? いくら凶悪なジジイだからって、何も殺すことはないんじゃ……。
「側にいる者も、共犯者と見なす! 動いた場合は射殺する! まごうことなく、射殺する!」
へ? 私たちにも、他の隊員が銃を向けてるんだけど……。
いやいや、この格好みりゃわかるでしょ! 単なる学生ですよ! 人畜無害なピーポーですよ!!
「ちょ、ちょっと待ってくだ……」
ズダダダンッ!!
必死で無関係を主張しようとしたのに、私の足元で砂が踊る……。ま、マジ!?
「動くな!」
いやいや、言い訳もさせない気!?
「何か言いたいことがあるのか!?」
喉を鳴らし、コクンと頷く私。
ズダダダン!
また跳ねる砂。いや、足に跳ねて地味に痛いし。
ってか、なんで撃つの!?
「動くんじゃないと言っただろうがぁッ!!」
怒り狂う隊員。
いや、だって、頷いただけで……。
「なんだ、何か言いたいことがあるのか!?」
また撃たれたらたまらない……今回は動かなかった。
「フン! 弁明もなしか! やはり白木の一味だな!」
エエエエエーーーッ!?
「そして、お前たちの後ろの爆発もお前たちか! このテロリストめ!」
はいいいッ!!?
爆発しらんし! 後ろでモクモクいってるの関係ないし!
いや、そこのクソジジイは関係してるだろうけどもさ!
「何か不服な顔してるな。違うのか!?」
「ち、ちが……」
ズダダダン!
「フリーズだってんだろ!! 声を出さす、身動きせず説明してみろぉッ!!」
できるわけねぇーでしょ! どないせーちゅうねん!!!
「返事はなしか! やはりテロリストだったんだな! 皆まとめて捕縛じゃあ!!」
「……ぬう。すまんの。ワシのせいで。まさかお前さんらにも迷惑をかけてしまうとは!! まっこと不本意じゃあ!」
オイオイと泣き出すジジイ!
うそつけ! 白々しいにも程があるわ!
「こうなったら仕方ないわい。ワシの命を……じゃなくて、ヤオキチの命に代えても皆を守らねばなるまい!」
また勝手なことを言って、格好つけて拳を震わすジジイ。
ってか、さっきからこのジジイのがめっちゃ喋って動いてるじゃーん! なんで撃たないの!?
SACの方を見やるために、ちょっと首を動かすと……
ズダダダン!
やっぱり!!
「動くなぁ!!! 日本語通用しとらんのかーい!?」
な、なんで私だけ……。
「ウヒヒ。ナミよ。ワシだけが動いてるおっても撃たれんのにびっくらこいとるな?」
そりゃそうよ!
「そうじゃろう、そうじゃろう」
あれ? なんで、ジジイに私の思ってることが……伝わってる???
「実はな。お前が見とる今のワシは脳内映像なんじゃ。現実のワシはまったーく動いてはおらん。お前ん中に埋め込んだマイクロチップに、ワシの脳味噌チップから、直接交信して音声と映像をやりとりしとるんじゃーい!」
はあ!? はああああッ!?!!?
ってことは、ジジイと私の脳が繋がってるってこと!?
じょ、冗談じゃないわよ! 気持ち悪い!
「安心しろ。負担が大きいでな。こういう非常時にしか使えん!」
安心できるか!
プライベート丸出しじゃないの!
「ま、そんなわけで、こいつら殺っちゃうから♪ ヤオキチを遠隔で飛ばすから、頑張って飛び乗って、あいつらやっけてくれーい!」
ちょ、ちょ、ちょ! 待って!
そんな話きいてない!
いやよ! この人たちと戦ったら私、本当のテロリストに……。
「今言ったわーい。それ、ポチッとな!」
やーめーてー!!
…………………あれ?
ジジイがボタンを押したのにも、ピクリとも動かないヤオキチ。
もしかして、壊れた? よし。本当に壊れた?
「あ! しもうた! いま整備中で、電子制御スターターを外しとるんだった! マニュアル操縦じゃないと動かないんじゃ!」
え? はあ、良かった……と、ホッともしてられない。
なら、このまま捕まっちゃうしかないの!?
「ううーむ。仕方あるまい。こうなれば、ワシが時間を稼ぐ! ナミよ。"別"の還暦型決戦兵器に乗って戦うんじゃ!」
は、はあ!?
別の……って、なによ。
ヤオキチ以外に………。
「ウヒヒ! 還暦型決戦兵器はヤオキチだけじゃないぞーい!! ほれ、行くぞ!!!」
こうして、なんかよく解らないが、ナミと超政府が派遣したSACとの死闘の火ぶたがきって落とされて始まったのであーーーーーーーる!
白木博士の言う別の還暦型決戦兵器とはいかに!?
満を持して、ナミが乗る兵器が火を吹く!?
次回に、あ、つづくぅー!!




