十一狂目 『URUSAI!』
あのまま家に戻り、両親の顔を見ずに部屋に戻って爆睡した…。
もう、何もかもがどうでもいい気分だったのだ。
そして朝起きて、まだ悪夢は続いているのだと気づく。
両親の部屋の扉に、貼り付けられた紙。
『ナミちゃんへ。お父さんとお母さんは世界10周旅行に行ってきまーす。白木博士の言うことよく聞いておりこうさんにするのよ。お土産はインドゾウかジャイアントパンダにします(笑)』
なによ。これ…。
お父さんもお母さんも私を放って世界旅行? なんの冗談よ!
怒りのあまり、ドスドスッと大きな音を立てて階段を降りてしまった。
「お父さん、お母さん。あの貼り紙、冗談よね?」
台所に入りながら言う。
そう。お母さんは台所でいつものように朝食を作って…。
「おきたかーい? はーい。おみそ汁、冷めちゃうぞーい。座った座った!」
悪夢の元凶がそこにいた。
誰が得するんだっていう裸エプロンのクソジジイだ。
背中に、もろ湿布を張ってるし…。ってか、"介"の字張りかーい!
クソジジイは鼻歌しつつ、みそ汁を私の茶碗に注いでいる。
そして、お父さんがいつも座る位置に着座しているもう一体。
還暦型決戦兵器ヤオキチだ。食い入るように朝のスポーツニュースを見ている。
「バカヤロー! また、『魚人ズ』が負けたのか! 『半人ズ』如きに!」
「はいはーい。野球のニュースはこれぐらいにしてじゃあ、朝ごはん食べようぞーい♪」
朝食って、納豆、豆腐のみの味噌汁、湯豆腐、やっこ、がんも、豆乳………なんで大豆食品オンリーなの?
「うままままままぁッ!!」
「うままままままぁッ!!」
ガツガツと物凄い勢いで平らげてく二人。
ああ、朝から、最悪だ。正直、食欲も失せる光景だ。
「なんなのよ! なんでウチでアンタらご飯食べてんのよ!?」
「もう! ナミったら。ユーアールユーエスエーアイじゃよ!」
「え? ユー……URUSA………ちょっと! なによ、"うるさい"って!」
「ウヒヒ、不思議じゃろ? ユーアルユーエスエーアイって早口で言うと、なんか『うるさーい』って聞こえるんじゃよ!」
「ユーアルユーエスエーアイ! ユーアルユーエスエーアイ! お、マジだ」
「じゃろ? ユーアルユーエスエーアイ! ユーアルユーエスエーアイ!」
朝っぱらから、大声で連呼しだすジジイとオヤジ。
「うるさー…」
「うるさーい!!!」「やかましゃー!!!」
怒鳴ろうとしたのに、かぶせられた……な、なんなのよ!
「朝からキンキンとうるせぇ! 黙って食え、バカヤロー!!」
「まったくじゃ! 近頃の若い者は……」
え? なんで、私、責められてる系?
ってか、アンタらが騒いでたんじゃん!
「いいから黙って食え!」
ヤオキチに睨まれ、食べる食事は美味しくはなかった………ってか、豆腐料理のほとんどがマズかった。
朝食を終え、制服に着替えて玄関に降りると、ジジイが石をカツンカツンと叩き合わせる。
これって、旅の無事を祈る昔の習慣じゃなかったっけ………。あの、私、学校に行くだけなんですけど。
「………家、改造とかしないでよ」
「だいじょーぶい!」
ニカッと笑うジジイ。ホント、殴りたい。
その後ろでは、ヤオキチが大音量でブーーーッ!! って、オナラしてた。
………ってか、なんで、サイボーグなのにそんな無駄な機能あんのよ。ってか、なんでそもそもガッツリ普通に飯とか食ってたのよ。
お父さんの持ってたDVDで観た古いロボコ○プだって、ベビーフードみたいなの食べてるだけだったじゃん。なんとかならなかったのそこらへん?
あ。ヤバい。なんか、普通にヤオキチがサイボーグだって認めてきてるし……私、かなり洗脳されてるのかしら?
「あと、私の部屋入ったら……本気で怒るからね」
「だいじょーぶい!」
「いちいちうるせぇ! バカヤロー!!!」
もう私はこの二匹の魔物を追い出すことを諦めたのだった。
後ろ髪を引かれつつも、私は学校へと向かった……………。
☆オヤジ・ジジイ語録その⑥☆
『うるさーい』
作中で、白木博士がよく使用する魔法言語である。
主に、テレビのボリュームは最大音量で聞いている老齢者に対し、「ボリューム下げて!」と、つい耳元で大声をだした時、「うるさーーい!!」と怒り狂われるといった例が多く発生している。
注意した方は、テレビの方がうるさいと不満に感じることが多い。
だが、老齢者は、「いちいち注意すんじゃねぇ」という意味で使っている。
声がうるさいのか、注意が嫌なのか、見極めることが生死を分かつ。
また、ときたま、いきなり老人に「うるさい!」と言われるが…。私、何も言ってないんだけど…ってなこともある。アレってなんなんだろう? とっても不思議です。




