表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/52

 挿話② 『天災白木博士の生活』

 ワシの一日は、フランスから直輸入した超高級茶葉アールグレイから始まる。

 爽やかな朝日を浴びながら、バッハのゴールドベルグ変奏曲を聴き、心身共に整えるのじゃ…。

 そして、入れ立ての紅茶の芳醇な香りを愉しみつつ、英字新聞に眼を通して、世界の情勢に眼を向ける。


「フム。そろそろ、この車メーカーに投資しても良い頃合いじゃな。CEOが代わり、戦略を見直してから格段にようなった。世界経済の発展には大いに役立つじゃろう」


 ピンポーン!


「うーむ。また南で戦争かのぅ。仕方ないの。和平のために、10億ぐらい融資してやるかな。これで戦争が収まるのなら安いもんじゃわい」


 ピンポーン!


「………さぁて、そろそろワシの兵器たちの整備でもしてやらないとのぅ」


 ピンポーン!


「………フフッ。首相と約束したんじゃ。この国をもう一度再生させるために、ワシの研究は必ず成功させにゃあならん」


 ピンポーン! ピンポーン!!


「うるさーーい!」


 さっきからなんじゃ! ピンポンピンポンやかましいわい!


 ワシはラボを出て、エレベーターを上がり、勢い良く玄関を開いた!


「朝っぱらからなんじゃい!?」

「あ。いらしたんですか! 良かった…」

「なにが良かったじゃい!?」


 ん? 赤い帽子に、赤い制服………そして、怪しげな黒い鞄。

 こやつ、この前にも来たヤツじゃのう!


「まぁーたオマエか!」

「え? あ、はい。また、というか………」


 なに困った顔しとるんじゃ、こやつは!

 ハッ! そうか、そうじゃったんじゃな! ワシには丸わかりじゃーい!


「ズバリ、スパイじゃろ!? ワシの研究盗みにきたか!」

「は? す、スパイス? あ、はい。持って来ました………」

「なにぃ!? やっぱりか!! ゆるせーん!! さっさと出ていかんかーい!!!」

「いやいやいや! ちょっと!」


 ワシはそやつをドーンと突き飛ばすと、バタンと扉を閉めて鍵をかけた。


「あ、開けてくださーい!」


 ドンドンドン!


 カーッ! なんてしつこいヤツじゃ!


「これでもくらえ!」


 ワシは棚にあったボタンを押す。

 なんで棚にボタンがあるかじゃと?

 決まってるだろうが!

 ワシの床屋に、冷やかしに来た馬鹿なヤツに土産をやるためじゃーい!


「わ、わわわ! マネキンの頭から、手榴弾が!!」


 チュボボボーーーン!!!


「まーったく! 朝っぱらからワシに迷惑かけおってからに!」


 ふぃー。これで、ようやくワシの優雅なモーニングが取り戻せるわい。


 ピンピンピンポーン!


 ブチチチチッ!

 今のはワシの頭の血管が切れた音じゃあい!!


 ズダズダズダ! バッダーン!!


「誰じゃあー!?」

「ハァハァ………諦めませんよ。と、届けるでは」

「まぁたオマエかぁ!!!!!」


 ブチチチチッ!

 今のはワシの堪忍袋の尾が切れた音じゃあい!!


「強制送還装置起動じゃー!!」


 ワシは傘立てをグリッと斜め45度に動かす。

 なんでそんなことするかじゃと?

 決まってるだろうが!

 ワシの床屋に、冷やかしに来た馬鹿なヤツをお見送りするためじゃーい!


「え!? 玄関が………な、ななめに!?」


 そうじゃ! 玄関下の石が発射台じゃ! んで、店ん中の椅子が走って玄関に向かい、阿呆面しとるスパイを捕らえて飛び立つ!!

 うちのバーバーチェアは、床屋に来た御客様じっけんだいを拘束するだけじゃない! 時にはこんなこともあろうかと、底に備え付けられたジェットで遥か上空に飛ばすんじゃーい!

 まさに"備えあれば嬉しいな"じゃー!!


「ウヒヒ! ざまあみさらせ!」


 科学の勝利じゃ! ワシの邪魔をするからこんなことになるんじゃあ!!


 グゥウウウ!! お? 今のは違うぞーい。ワシの腹の虫じゃ!


「ウヒー。怒りまくったら腹が減ったのう! よっしゃぁ! ピサでも出前とるかのーう!!」


 よし! 善は急げじゃ! さっそく電話しよ!


 お、さすがワシじゃ! 黒電話機の隣にピザ屋のチラシをちゃーんと置いてあるわーい!

 今日、ワシがピザを食いたいのを察しておったんじゃな! 電話番号にもちゃーんと、見やすいよう赤丸までしてあるわーい!

 さすがワシ、てんさーい!


 ジーコ、ジーコ、ジーコ!




☆☆☆




 白木博士がピザ屋に電話したのと同時刻………

 活き活き山里商店街最寄りのピザ屋にて。


 ピピピと、電話の呼び出し音が響く。が、店員は渋い顔で店長を見やった。


「………店長。来ました」


 表示されている電話番号を確認してそう言うと、店長は深く息を吐いて頷いた。


 ガチャ!

  

「……はい。こちら、ピザ……」

『あ!? ワシ、ワシ! チラシにあるピザLサイズでぜーんぶもってこんかーい!! 30分以内に持ってこないとタダじゃおかんぞう!!!』


 ガッチャーン!!


 店名を名乗ることも許さず、そう一方的にまくしたてられた。

 かなりの大声なので、受話器の側にいない店長の耳にも内容は伝わっていた。


「………これで、今日151回目の電話か」

「ええ。出前に行った、鈴木、佐藤、伊藤、山田………いずれもまだ帰ってきてません。最後に行った岡田も………もう30回目のチャレンジですし。今までの例からすると、再起不能に」

「そうか………。自分で注文したの忘れてしまうんだものな」

「電話はちゃんとかけてこれるんですけどね」

「あのジイさん、ボケてるんだ。どうしようもない」

「………どうせなら、ピザを注文することも忘れてくれればいいのに」


 店長と店員は、暗い顔で肩を落とす。

 ピピピと、再び電話が鳴り、店員が出る。


『まだかー!? はよもってこんかーい!! お前の店、破壊すんぞ! ワシは腹がへってんじゃー!! 飢え死にさせる気かぁ!!?』


 ガッチャーン!


「………無視しちゃダメなんですか?」

「ああ。注文の電話と、その報復だけは、キッチリ覚えてるらしい。それで、この前、寿司屋と蕎麦屋にミサイルが撃ち込まれたんだ」

「………最悪ですね」

「ああ。………………最悪だ」


 ちなみにこの出前は、地元飲食店では"無限朝食エンドレス・クレーム"と恐れられていたのだった………。


 ピピピ………ガチャ!


『ワシじゃぁ! あれ? どこに電話したんだっけか? まあええわーい! なんでもええからもってこーーーい!! もってこんと、ワシから向かうからな! それでオマエをもれなく改造してやるぞい! されたくなきゃはよせーーい!!』


 ガッチャーン!




 完 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ