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最終話

(なんたること・・・蟹たちを海に帰さねば!)

 少女の思考は幻覚の中で次のステージに到達した。

そして少女は現実の世界でそれを実行しようとしたのだ。

少女は大通りに出て、道行く人たちに向かって、

「こんな所にいてはだめ!早く海に帰るのです!さもなければ、お前たちは干からびて死んでしまうでしょう。たとえ干からびなかったとしても、やっぱり海のものが陸で長期滞在するってことは何かしらの不都合が出るのではないかしら?それがお前たちに分かっているのかしら!?」

大声で叫ぶと、気付にもう一発ヤクを打った。

通りにいた人たちがビックリして立ち止まり少女を見つめる。

人々の視線を受けて、少女は激った。

「お前ら海に帰らねえと、マジでぶっ殺すぞ!」

少女は拳を振り上げ、そこらへんにいたOLを殴った。

「ひいッ!何よこの子!?」

OLが悲鳴を上げる。

「黙れ!甲殻類に何が分かる!甲殻類に何が分かるか私には分からないことが甲殻類に何が分かる!」

少女は白目を剥いて歯を食いしばり、

「私は私が思ってるほどバカじゃないはずだしッ!だからといってお前たちが思っているほど賢くも無いんだからッ!」

さらにもう一発イった。

そこへ、少女が騒いでいるとの通報を受けた警察官がわらわらとやって来て少女に事情聴取した。

「ねえ君。ヤクやってんの?」

「やってません。私も色々至らない点があったことは認めますが、ヤクだけはやってません」

「じゃあこの注射器なに?」

「何と聞かれましても・・・やっぱあれなんじゃないですか?ほら、今日ってクリスマスでしょ?サンタさんからの素敵な贈り物」

「へえ。じゃあこの白い粉も、君の腕の注射痕もサンタさんからの贈り物なの?」

「えへへ。そういうことになりますかねぇ・・・メリークリスマス!」

少女は照れたように笑った。

「君のような未成年者にこんなことは言いたくないけど・・・ちょっと署まで来い」

警察官が少女を署まで連行しようとしたとき、ガチのサンタクロースが街にやって来た。

「やあ、良い子のみんな!今年は素敵なお薬をみんなにプレゼントだ。これを静脈に流し込むとちょっと普通じゃ体験できない快楽が君たちの体を蝕むぞォ!」

サンタクロースは背負っていた大きな袋から注射器と白い粉薬を取り出し、人々に配り始めた。

サンタクロースはヤクセットを警察官たちにもプレゼントした。

少女を捕まえようとしていた警察官は、手渡れた素敵なプレゼントを見て、

「・・・まあ、こういう事ならしょうがない。お嬢さん、メリークリスマス」

と自分にヤクを打った。

少女は、警察官も街ゆく人々も、さっき勢いで殴ったOLもみんながヤクを打つミラクルシチュエーションを目の当たりにしてちょっと感動した。

(でも、これじゃ私のヤクが売れないじゃん・・・稼ぎがない・・・ご飯食べれない・・・)

少女が途方に暮れていると、違法薬物によっていい感じにトリップしたサンタクロースが陽気に声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、ワシ、腹減ったからトナカイ焼いて食おうと思うけど、一緒にどうじゃ!?」

少女は「うん!私も食べたい!」と元気に答えた。

しかし、トナカイは強かった。

サンタクロースと少女は、トナカイの激しい抵抗により重傷を負い、近くの大学病院に搬送された。

担当した医師はクリスマスの夜に、トナカイの角による刺し傷と臼歯による噛み傷を全身に作った二人の患者を不審に思った。

「ねえ、何があったらこんな怪我するの?」

「トナカイに襲われました」

少女は正直に答えた。

「・・・君、ヤクでもやってんの?」

先生が怪訝に聞き返すと、サンタクロースが慌てて

「先生、ヤクじゃなくてトナカイです!」

と口をはさんだ。

「うーん・・・僕、草食動物に詳しくないんだよね」

先生が何気なく行った言葉に少女はハッとした。

(それって・・・自分は肉食だから、私を食べちゃう的なコト!?未成年者の患者である私を、治療と称したお医者さんごっこの延長線上にある行き過ぎたイタズラの果てのガンダーラで開いたのは悟りじゃなくて・・・私の心とからだ?)

少女は言われてもいないのにお腹を出して

「先生、聞いて・・・私のポンポンの音を聞いて!まだ、誰にも聞かせたこと無いんだゾ・・・」

(最近の患者はめんどくせえ)

先生はちょっとイラっとしながら少女のお腹の音を聞いた。

「・・・グーグー鳴ってるけど、お腹すいてるの?」

「すいてます。トナカイを狩って食べようと思ったら、トナカイが無双して私とサンタクロースがこの有様です」

少女と先生の会話にサンタクロースがまた割り込んできた。

「そうなのですじゃ、先生。あいつら、日頃の恩も忘れてワシを噛み殺そうとしたのです」

「もうその話はいいの、終わったの、ジジイ!・・・そんなことより先生、キッスして」

少女が目を閉じた。

「キッスはしねえけど、怪我の治療と点滴はしておくから」

「あん、先生ったら。恥ずかしがり屋さんなのね。私、さっき先生にポンポンを聞かれて以来、先生の子供を妊娠しているのよ」

少女の発言に先生は驚いた。

「マジで?」

「マジで。先生の聴診器がお腹に触れたとき、人生初の懐妊しました」

先生は自分の手を見つめて、

「ゴッドハンド・・・」

とつぶやいた。

先生の腕にも、痣があったのだ。


おわり

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