第一話
冬の冷たい夜空の下、少女は凍えながらヤクを売った。
「ヤクはいりませんか。とびきりブッ飛んだご機嫌なヤクはいりませんか」
少女はヤクを売らないと家に帰してもらえないのだ。
でも、今日はクリスマス。
わざわざ街角でヤクを購入してポリ公のお世話になろうなどという人はいなかった。
「ああ・・・寒い。きっとほかの子供たちは暖炉のある暖かな部屋で、クソみてえな家族に囲まれながら馬鹿みたいにクリスマスを祝っていることだろう。七面鳥の食べかすをこびりつけたゴミみたいな笑顔を浮かべて!なのに、私は夜の街でヤク一つ売れないまま風に吹かれている」
少女は自分のことが可哀想に思えて、近くに置かれていたダンボールの束に火をつけて暖をとった。
「なんで私がこんな寒空の下でヤクを売らなくてはならないのだろう。未成年者が夜中にヤク売るなんて・・・違法、違法、違法、&違法じゃあるまいか」
少女はイラッとした。
「ええい。こうなったら、ちょっと自分でヤクやっちゃおうっと」
少女はやけになって注射器で自分の腕の静脈に違法薬物を投与した。
(おおぅ・・・ジュラ紀の原風景が見えるぅ・・・)
少女はシダ植物に覆われた大地を巨大な恐竜が走り回り、荒々しく火山が噴火してグロテスクな昆虫が飛び交う大昔の地球の映像を虚空に見た。
(アハハ・・・ダメっすよ、トリケラトプスさん・・・ティラノザウルス殺ろうと思ったら正面からだけじゃなくて左右からこう、ほら・・・わかるっしょ。チームプレイって大事よ)
少女は空想の中の恐竜に話しかけた。
だんだん、ヤクの効果が引いてきて、少女は現実世界に引き戻された。
「・・・ああ。トリケラトプスさんは夕食にありつけなかった。私と同じだ」
少女は続けてヤクを静脈に流し込んだ。
(おおッ!気が付けば対フランス包囲網!)
妄想の世界で少女はフランス革命記にナポレオンがイギリス首相ピットによってぶちかまされた超絶嫌がらせの極み、対フランス大同盟を体感していた。
(アンッ!これって軽くモテ期なのかしら!欧州の男子たちが攻めてくる・・・右から左から、上から下から攻めてくる!・・・下から?下から攻めてくるのって、なに?・・・モグラ?ドリモグ?)
少女の思考は混乱した。
そして、少女は歪んだ妄想の終わりを恐るかのように、酩酊する意識の中で続けざまにヤクを注射した。
(ここは・・・?)
少女の意識はまばゆいライトに照らし出されたステージの上にいた。
少女が周りを見回すと、そこには華やかな衣装で着飾った中途半端な可愛さを備えた女の子たちがそれぞれのポジションに陣取り、素人に毛の生えた程度のダンスを踊りながら、会場に流れるインスタントラーメンみたいな曲を口パクで歌っていた。少女はその一員としてそこにいたのだ。
(なんなの、このヘドロみたいな歌は!?)
自分がそのグループの一員であることを認識しつつ、少女はおどろいた。自分の口が毒にも薬にもならない言葉を歌い、マイクはそれを拾わず、スピーカーはお構いなしに録音された彼女たちの過去の声を忠実に再現している、
少女は、自分たちが登っているステージに視線を注ぐオーディエンスたちを見下ろした。
(あああッ!熱にうなされた生ける屍たちが私たちの歌に酔いしれている!)
少女の瞳には、産卵期の蟹の大群のように両手を振り上げたキモオタの群れが映っていた。