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【一】
「こんなはずじゃあなかった」
巧はたった一枚の千円札を握り締め、呟いた。
では一体どういうつもりだったのかと問われるとそれはそれで答えられないのだが
とにかくもう後戻りはできない。なんてことをしたんだ、俺。
よくみると千円札はその所々が赤く染まっていた。
とにかく、こんなところにいる場合じゃない。
公園のベンチで一人座っていた巧は急に立ち上がり公園を走り去って行った。
隅でひっそりと咲いている紫陽花はまだ薄い空色をしていて、巧の目にそれが映ることは無かった。
季節は六月、梅雨を迎えていた。