表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

#7:暗闇


 学校を歩くと、同情の視線が多い。

 むしろその方が嫌だ。やめてほしい。

 そんな偽善の中にいると思うだけで、嫌気が差す。

 哀れんだ目で俺を見る、偽善の瞳。


「………」


 それはある意味、集団での責め苦だった。

 この場にいる事が辛い。




 放課後、廊下を歩いていると三嶋が立っていた。もちろん、俺を待っていたようだ。


「マサ」

「……三嶋か」


 また何か言われるのか、と思いきや三嶋の顔は暗いものだった。…それはそうだろう。親友が死んでまだ数日しか経っていない。


 廊下で突っ立ってしまい、他の人から見れば怪しまれるとは思ったが、俺を呼んだままの三嶋は黙っているばかりだ。


「…何だ? 用が無いなら帰るぞ?」


ザァァァ―――


 雨がうっとうしい。何時まで降るのか、それが気がかりだ。


「……前はゴメン。ぶったりして」

「は?」


 予想外の言葉に、ついつい間の抜けた声を出してしまった。


「だってあれは……」

「ううん、よく考えてみれば悪い事したって。辛いのはあんたなんだって……」

「………。いや、謝らなくていい。あの時は俺が悪い」

「でも……」

「いいんだって。……もう、やめよう…。早く部活に行けよ」

「……わかった」


 そう言って三嶋は去っていった。

 いいかげん、悲しむのが嫌になってきた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「………」


 自分の部屋で、俺はある物に目をやる。奈美と一緒に映った写真だった。…そういえば、写真なんて撮ったっけ。


「……」


 眩しいほどの笑顔で、俺に腕を組む奈美。

 …でも、その笑顔も“痛い”だけだった。


ガシッ


「くっ………!!」


 写真を握り締め、ゴミ箱目掛けて投げようと振りかぶる。


 ……だが、出来なかった。


「くそっ………くそっ……」




 …また、一歩踏み出せない。

 …脱け出せない。





ドンッ


「あ、わりぃ…」


 学校で、曲がり角で男子にぶつかってしまった。肩だけだったが、そいつは後ろの連れの2人と一緒に俺を取り囲むように立つ。


「お? こいつ、交通事故で死んだ諸橋奈美の男だぜ?」

「へー、こいつが。…なんか暗い野郎だな」


 …何だこいつ等。ニヤニヤ俺の方を見て。


「あーあ、こんな野郎が諸橋の彼氏なんてな。絶対俺の方がお似合いだぜ。…俺さ、前からあの女に目をつけててな? いい女だったじゃねぇか」


 そいつは俺に言ってきた。…正直、こんな奴らの相手をしている暇は無い。無視して先を歩こうとする。


「おいシカトかよ。何か言い返してみろよ、あぁ?」

「いつまでも死んだ女の事でジメジメしてんじゃねーよ」


 頭が悪い。通り過ぎた俺に、罵声を浴びせるが俺は無視する。程度の低い、ガキの罵声。呆れてものも言えない。


「センチになってカッコぶるってか? ホントは彼女ともうヤレない事を後悔してんだろぉ、ヤリ男ぉ!」


 ……何?


「奈美ちゃーん、何で死んじゃったのー? もうSEXできないじゃーん」


―ヒャッハハハハハハハハ!!


―バーカ、お前面白すぎ!


―ハハハハハハハハハハハ!


「―――――――――――――――――――――――」








「ハァ……ハァ……ハァ…」

「も、もう…許じで……」


 気付いたら、男達に殴りかかっていた。最初、1人の鼻っ面にキックを入れ、その後2人にボコられ、もう滅茶苦茶だった。


 怒りに任せた俺は、痛いのなんかお構い無しで相手を痛めつけた。殴って、殴って、殴りまくり、今、鼻血を垂れ流し顔を腫らした男が泣きながら俺に請う。マウントポジションを取り

そいつをボコボコにした俺だが、それで止めた。


 口を切っていた。鉄の味が口に広がる。こんな喧嘩をするのは初めてだった。





                     誰でもよかったのかもしれない。

                     

                     ただ、この憂さを晴らす相手が欲しかった。


                     爽快感が体中に駆け巡った後―


                     自分が馬鹿に思えてならなかった…



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 あの喧嘩で俺は一週間謹慎処分を食らってしまった。親にはこっぴどく怒られた。だが、俺は後悔はしてなかった。




                 もうどうでもよかった。




 そして、自分が何をやっているのだろうと惨めになった。


 どんどん、音を立てて崩れていく。


 普通の生活に慣れない。

 たった一人、愛する人を失っただけで。

 惨めだ。

 情けない。


 あいつ等の言う通りだ。いつまでも引きずって、ジメジメして……


 何なんだ、俺は。もう人生は終わったかのように悲しんで。


 頭ではわかっていても、一向にあいつとの残滓が晴れない。


 いっそ、あいつとの記憶が無くなってしまえばいいのに。





                           …それこそ馬鹿だ。



                           それこそ、最大の苦痛だ。



 助けて欲しかった。脱け出したかった。


 そう思えば思うほど、情けない自分を呪った。


 いくら自虐しても足りなかった。


 何をどうすればいいのかわからない。







 わからない―――――――



なんか段々ダークな感じになってしまってますね…

これからどうなってしまうのか、ご期待下さい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ