#7:暗闇
学校を歩くと、同情の視線が多い。
むしろその方が嫌だ。やめてほしい。
そんな偽善の中にいると思うだけで、嫌気が差す。
哀れんだ目で俺を見る、偽善の瞳。
「………」
それはある意味、集団での責め苦だった。
この場にいる事が辛い。
放課後、廊下を歩いていると三嶋が立っていた。もちろん、俺を待っていたようだ。
「マサ」
「……三嶋か」
また何か言われるのか、と思いきや三嶋の顔は暗いものだった。…それはそうだろう。親友が死んでまだ数日しか経っていない。
廊下で突っ立ってしまい、他の人から見れば怪しまれるとは思ったが、俺を呼んだままの三嶋は黙っているばかりだ。
「…何だ? 用が無いなら帰るぞ?」
ザァァァ―――
雨がうっとうしい。何時まで降るのか、それが気がかりだ。
「……前はゴメン。ぶったりして」
「は?」
予想外の言葉に、ついつい間の抜けた声を出してしまった。
「だってあれは……」
「ううん、よく考えてみれば悪い事したって。辛いのはあんたなんだって……」
「………。いや、謝らなくていい。あの時は俺が悪い」
「でも……」
「いいんだって。……もう、やめよう…。早く部活に行けよ」
「……わかった」
そう言って三嶋は去っていった。
いいかげん、悲しむのが嫌になってきた。
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「………」
自分の部屋で、俺はある物に目をやる。奈美と一緒に映った写真だった。…そういえば、写真なんて撮ったっけ。
「……」
眩しいほどの笑顔で、俺に腕を組む奈美。
…でも、その笑顔も“痛い”だけだった。
ガシッ
「くっ………!!」
写真を握り締め、ゴミ箱目掛けて投げようと振りかぶる。
……だが、出来なかった。
「くそっ………くそっ……」
…また、一歩踏み出せない。
…脱け出せない。
ドンッ
「あ、わりぃ…」
学校で、曲がり角で男子にぶつかってしまった。肩だけだったが、そいつは後ろの連れの2人と一緒に俺を取り囲むように立つ。
「お? こいつ、交通事故で死んだ諸橋奈美の男だぜ?」
「へー、こいつが。…なんか暗い野郎だな」
…何だこいつ等。ニヤニヤ俺の方を見て。
「あーあ、こんな野郎が諸橋の彼氏なんてな。絶対俺の方がお似合いだぜ。…俺さ、前からあの女に目をつけててな? いい女だったじゃねぇか」
そいつは俺に言ってきた。…正直、こんな奴らの相手をしている暇は無い。無視して先を歩こうとする。
「おいシカトかよ。何か言い返してみろよ、あぁ?」
「いつまでも死んだ女の事でジメジメしてんじゃねーよ」
頭が悪い。通り過ぎた俺に、罵声を浴びせるが俺は無視する。程度の低い、ガキの罵声。呆れてものも言えない。
「センチになってカッコぶるってか? ホントは彼女ともうヤレない事を後悔してんだろぉ、ヤリ男ぉ!」
……何?
「奈美ちゃーん、何で死んじゃったのー? もうSEXできないじゃーん」
―ヒャッハハハハハハハハ!!
―バーカ、お前面白すぎ!
―ハハハハハハハハハハハ!
「―――――――――――――――――――――――」
「ハァ……ハァ……ハァ…」
「も、もう…許じで……」
気付いたら、男達に殴りかかっていた。最初、1人の鼻っ面にキックを入れ、その後2人にボコられ、もう滅茶苦茶だった。
怒りに任せた俺は、痛いのなんかお構い無しで相手を痛めつけた。殴って、殴って、殴りまくり、今、鼻血を垂れ流し顔を腫らした男が泣きながら俺に請う。マウントポジションを取り
そいつをボコボコにした俺だが、それで止めた。
口を切っていた。鉄の味が口に広がる。こんな喧嘩をするのは初めてだった。
誰でもよかったのかもしれない。
ただ、この憂さを晴らす相手が欲しかった。
爽快感が体中に駆け巡った後―
自分が馬鹿に思えてならなかった…
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あの喧嘩で俺は一週間謹慎処分を食らってしまった。親にはこっぴどく怒られた。だが、俺は後悔はしてなかった。
もうどうでもよかった。
そして、自分が何をやっているのだろうと惨めになった。
どんどん、音を立てて崩れていく。
普通の生活に慣れない。
たった一人、愛する人を失っただけで。
惨めだ。
情けない。
あいつ等の言う通りだ。いつまでも引きずって、ジメジメして……
何なんだ、俺は。もう人生は終わったかのように悲しんで。
頭ではわかっていても、一向にあいつとの残滓が晴れない。
いっそ、あいつとの記憶が無くなってしまえばいいのに。
…それこそ馬鹿だ。
それこそ、最大の苦痛だ。
助けて欲しかった。脱け出したかった。
そう思えば思うほど、情けない自分を呪った。
いくら自虐しても足りなかった。
何をどうすればいいのかわからない。
わからない―――――――
なんか段々ダークな感じになってしまってますね…
これからどうなってしまうのか、ご期待下さい