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#5:現実



―愛とは何なのか



 それを考えてしまっては幾ら時間があっても足りないし、答えに行き着く事は無いだろう。それを考えない事が愛なのかもしれない。考えてしまっては余計に頭がパニックしてしまう。



 結局、哲学になってしまって何が何だか訳が分からなくなる。


 こんな事を考えている事自体、わからない。



 [愛] 可愛がって大切にする事、また、その心。愛情。異性

を恋しく思うこと、また、その心。



 と、辞書にはあるが、言葉で表すのは不可能だと思う。

 口で説明できるものではないと思う。

 それが愛であると思うし、何で人を好きになるのかなんて誰にもわからない。

 ただ、わからないこそ、恋は難しく、破局するのだ。それを乗り越え、真に愛し合える事こそが、本当に愛なのかもしれない。



 だけど、1人の人間がいくら言葉で飾ってもそれはただの都合のいい御託にしか聞こえない。


 だからこそ、みんなの価値観は違うのだと俺は思う。


 少なくとも、俺は奈美の事が好きだ。それでいいと思う。


 こんな感情を抱けるのだ。


 何も、怖がる事は無い。










                  そして、時が訪れた。










コツコツコツコツコツ



 俺は足早に病院内を歩く。走らないのは、動揺と恐怖と期待が入り混じった、酷く不安定な精神状態だったからだ。


                   コツコツコツコツコツ



 この足音は不気味だ。この時にそう思った。

 やがて、目的の場所に着いた。

 そこには見覚えのある顔が2つ。奈美の両親だ。前に何度か会った事がある。


ガチャッ


 扉が開き、医師が出てきた。


「先生!」


 両親は駆け寄る。まだ俺の存在には気付いてないようだ。慌てて主治医に問い詰める。主治医はきっぱりとこう答えた。






「残念ですが……娘さんは、亡くなられました」











           亡くなられました









「あああぁぁぁぁぁあああ!!」

「うっ……奈美ぃぃぃいい!!」




                 ザァァァァーーーーー



 雨が降っていた。俺は傘も差さずに着てしまったのでびしょ濡れの状態でここまで来た。その場に立ち尽くし、水滴が水溜りを作ってしまう。


 泣き崩れる奈美の両親。立ち尽くす俺。その場は悲しみに包まれていた。俺は一歩も踏み出せず、一声も出せない。



 ……そして、何よりも酷いのが、目から何も流れなかったと言う事だった。



                      どうして?


 わからない。



「嘘……………………だろ………」






 現実だった。







 それは突然だった。奈美と放課後別れ、俺は部屋でゲームをしてだらだらしていた時だった。奈美の両親から電話がかかり、戦慄が俺を襲った。初めは何の冗談かと笑ってしまった程

だ。だが、事実だ。



 奈美が車に撥ねられた。交通事故。瀕死の重傷。

 それを聞いた頃には足が勝手に俺を走らせていた。傘も差さず、その病院に駆け込んだ。






                    そしてこの結果。





 言葉にすれば簡単だ。




 もちろん、信じられなかった。




 だって、そうだろ? さっきまで話していて、明日また会おうぜと言って別れた奴が撥ねられて死んだんだぜ?


 現実味が帯びてこなかった。何も考えられなかった。

 そして霊安室で、奈美の顔を見て更に現実味がなかった。

 死んでいるというのに、顔は何も傷が無い。無傷だ。

 ただ、後ろの頭蓋骨は割れ、顔から下は酷く、複雑骨折やら何やらで人間の格好ではなかったようだ。一目で絶命している事がわかるくらいだったらしい。撥ねた車はトラックだった。


 簡単な理由だ。居眠り運転。そして不幸にも奈美が撥ねられたのだった。





                 冗談としか思えない。





 俺の中で、何かが音を立てて崩れていくのがわかった。そして俺の心の中に大きな穴が空いた事も、わかった。



 その訳が、愛する恋人を失っても涙一つ流さないからだった。







          これは現実なのか?






 現実だ。日付もちゃんと今日だ。雨も本物。建物も本物。映画の世界ではなく、全てが本物。



 だが、全てが空虚なものに見えた。



 とにかく、終わったのだ。



 俺と奈美の物語は終わったのだ。



 奈美は死んだ。




          いなくなった。



                     奈美は死んだ。















 雨が止まない




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