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#4:愛


 俺の家は両親との3人家族。住宅街に佇む一軒家だ。親の帰ってくる時間はいつも7時位と遅い。



「おじゃましまーす」


 実は奈美が俺の家に来るのは初めてだった。


 情けない。まだ心臓がどきどきしている。彼女を家に連れてくるだけで……。もう互いに知り合った仲だというのに。


「着替えは?」

「あ、大丈夫。体操着があるから」


 丁度よく、乾燥機があったのでそれを使ってもらう。俺は一足先に部屋に入っている。


「ハァ……。こんな事するなんてな。奈美も奈美だ。何も疑いも無く来るなんて……」


 俺は少し後悔していた。このような行為に出た俺にもだがあからさま過ぎる。

 事実、奈美のあんな姿に欲情してしまった。中学生じゃあるまいし……。


 それに怖い。見境無くなってしまう事を。愛情と肉欲はかけ離れた所にある。お互いを求める事を愛と囲ってしまう奴らもいるとは思う。だけどそれは都合のいい言葉だ。ただ身体を欲しているだけ。俺はそんな考えが嫌いだった。


 彼女だと言っても、好きにして言い訳は無い。最終的にはそういう事に辿り付くとは思うが、俺は奈美を抱きたい為に好きになった訳じゃない。



 …じゃあ、何で好きになった?



 それはあいつといると安心するからだ。異性で一緒にいて…一緒にいたいと思う相手。


(ダメだ…今日の俺はどうかしてる。イカれちまってる)


 思いっきり頬を叩いた後、誰かが部屋をノックする。




ドクン




 だから、俺はウブなガキかっつの。


「いいぞ、入ってきても」


ガチャ


 体操着姿の奈美が入ってくる。Tシャツに半ズボン。奈美は俺の部屋を見渡し、隣に座ってくる。


「これがマーサの部屋ね。…どこにエロ本が隠されているのかな〜?」

「勝手に人の部屋を捜索するな。お前だって探されたら嫌だろ?」

「まぁね。…でもちょっと散らかってるね、部屋」

「ゴミ一つ落ちてない綺麗な部屋だと思ったか?」

「あり得ない」

「だろ」


 納得する奈美。ちょっとめんどくさがりな俺はあまり部屋を片付けない。まぁ、ほどほどに掃除はするけど。






 沈黙が訪れる。何となく気まずい。



「ねぇ、服を乾かす為だけに呼んだ訳じゃないでしょ?」

「!」


 聞かれたくない事を遂に聞いてきた。言わなくてもあっちもわかっているとは思うが、俺に言わせようとしている。


「………すまん。ちょっと下心があった」

「そんな事わかってるよ。ただ服を乾かすだけで彼女を家に呼んだりしないもんね、普通」


 何か怒られてるような気がする。だが、奈美は笑っていた。


 奈美の手が俺の手に触れる。柔らかな手の感触が伝わる。


「でも、マーサが積極的に来るなんて意外」

「俺も驚いてるよ。自分の馬鹿さ加減に」


 穴があるなら入りたいくらいだ。


「……………してもいいよ」

「!」


 予想はしていたが、驚きの一言。奈美を見ると少し頬を赤くしている。期待と不安に入り混じった顔。


「…………」


 俺は奈美の肩に触れようとして………止めた。


「……どうして?」

「…俺は……お前を抱く為に呼んだ訳じゃ……」

「…無理しなくていいよ。別に私は嫌じゃないよ?」

「確かに、お前の気持ちを考えたりしてはいるけど……。でもよ…」




「―――――」

「んっ!?」




 柔らかい唇を押し付けられる。そのまま俺はベッドに倒され、奈美は俺にキスをする。


「……変だよ、マーサ。……私を避けようとしている」

「そうじゃないんだって」


 唇を離し、俺達は起き上がった。奈美は悲しい顔で俺を見ている。


「だったら何? ……私、ちょっと期待してた……」

「じゃあ俺はお前の気持ちを聞かないで無理矢理するべきか!? そうじゃないだろう?」

「……」


 と、そこで言い留まった。ついつい大声を上げて怒鳴ってしまった。俺は俯いて自分の身体を抱いた。


「………怖いんだよ、そういうのが。…お前の身体に拠り所を求めてしまって、抜け出せなくなってしまうかも知れないんじゃないかって」

「そんな……。それ、つまりは私の事が嫌いって言ってるようなもんじゃない」

「抱くのは簡単さ。ただ、そればっかでお前を何で好きになったのかを忘れるのが怖いんだと…思う。俺、自分に嘘を言ってる。本当はお前を抱きたいのにさ……。ただ、甘い汁の味を知ってしまったら、中毒のように、また求めてしまう。俺はそれが嫌なんだ…」

「………」


 自分で何を言ってるのかわからなくなってきた。自分を矛盾してるのは確かだ。


「身体を求めなきゃいけない愛なんて……それは愛じゃなくて肉欲だ。……俺は、本気でお前の事が好きだからこそこんな事言うのかも知れない。自分の考えを自分で壊す気がして……」

「………もういいよ。そこまで難しく考えなくてもいいよ。……私だって、本当にマーサの事が好きよ。…確かに、好きだからって、絶対、身体を求めるなきゃいけないなんておかしいよね」

「奈美……」


 奈美が自嘲しているように見えた。


「…マーサがそんな風に考えていたなんて。……私、そこまで貴方の事を想ってなかったかも……。…ゴメン」

「謝るなよ。……やっぱり、詭弁かな」


 奈美は首を横に振る。


「ううん。…それでいいんだと思う。少なくとも、私は賛成」


 そう言って、奈美は俺の胸に顔をうずめた。俺は溜息吐いて形のいい頭を撫でてやる。


「でも、抱く時は抱いてやるから覚悟しとけよ」

「……バーカ。……好きだよ」




 そして俺達は、唇を重ねあった。長く、深く――――




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