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#2:雨

 時期は初夏に近づいていた。徐々に気温が上がり、あの梅雨の蒸し暑さが迫ってくる。



ザァ―――



 雨が降っていた。肌がべたつく。その小さな事がウザく感じてしまう。不快な気分だ。奈美が夕陽が嫌いというなら俺は雨の日が嫌いだ。曇り空の外を見ると憂鬱になる。寂しい気分

になる。


(……不愉快だ……早く止めよ…この雨……)



 昼休み、俺が外を睨みつけていると誰かに肩を掴まれた。馴れ馴れしいと思ったが知った顔。

「おいおい、怖い顔してるなマサ」

荒城(あらき)か」


 この学校に入ってからまともに友達と呼べる奴。荒城博仁(あらき ひろひと)


 誰にでも馴れ馴れしい奴で、何処か憎めない。顔は良くないがクラスの人気者であったりする。いわゆるお笑い担当の。


「何だよ、コレと一緒にお昼ご飯じゃねーのか?」


 にやついて小指を立てる荒城。だが荒城の期待通りの結果にはならない。


「俺たち、そういうベタベタなのは嫌いなんだよ。確かにあいつは料理が上手い方だけど、俺の分も作らせるなんて奈美の負担になるじゃないか。そんなの、漫画の世界しかないぜ」

「はぁ、何でお前は……。それは彼女がいる優越感か?」

「別に」


 第一、あいつは違うクラスだし、もし一緒に食べるとしても横から冷やかしされるのは目に見えている。


「じゃあ逆に聞くけど。恋人だから一緒にご飯を食べなきゃならないのか? 馬鹿馬鹿しい。そういうの、何か必死で惨めだ」

「う……そりゃそうだが……」


 大体、こんな事を話すのは正直恥ずかしい。


「しっかし余裕をかましやがって。てめぇなんていつか痛い目にあうぜ、きっと」

「あっそ」


 つまりはこいつは俺の事が羨ましいのだ。……まぁ、恋人がいるっていうのは普通羨ましいもんか。


「マーサ、今日私、委員会で遅くなるから」

「ああ、別にいいさ。そんな毎日必ず一緒に帰らないといけない訳じゃないしな」

「うん。じゃあまた明日」

「おう」


 俺達の関係を知っている奴から見れば、かなり素っ気無いやりとり。

 だが、これが俺達のリズムである。互いに負担をかけない風にする。彼氏彼女が仕事しているのを待つなんて時間の無駄な事はしない。そう決めている。


ザァァァ―――――


 ウザったい。この頃雨が降りっぱなしだ。ジメジメして、かなり不愉快だ。


(くそ……ホントに最近降りすぎ…………ん?)


 道の先、横断歩道なのだが遅い物体が歩いている。一目で老人だという事だわかった。あれじゃあ信号が変わる前に渡りきれないだろう。


「………」


 だが、助ける義理も無いし、俺はそんな立派な人間じゃない。その老婆の横を過ぎていって、横断歩道を渡った。ちらっと後ろを見てみると、重たそうな風呂敷を担ぎながら傘を持つというかなり無理な事をしている。


ザァァァー――――


「………クソッ……だから雨ってのは嫌いなんだ」


 俺はその婆さんに近寄って手を差し出した。周囲の目が気になる……。くそ、恥。


「ん? なんだい?」

「その風呂敷、持ってあげますよ。…ほら、貸して」


 多分、今俺の顔は真っ赤だろう。慣れない事するからだ。婆さんは俺に対して笑顔で背負う風呂敷を下ろす。


「ありがとねぇ、お兄さん」




 そして横断歩道を渡り、婆さんに風呂敷を返した。


「立派だねぇ。こんな事そうそう出来るもんじゃないよ」

「いいんですよ。別に急いでもないし」


 俺はそっぽむいている。良い事をして悪い気はしないけど、やっぱりこういう事は恥ずかしい。


「ホント、ありがとう」

「……」


 御辞儀してきたので、俺も返し、そしてその婆さんと別れた。


「……馬鹿じゃねーの、俺」

「フフフ〜、見たわよ〜」

「!!」


 聞きなれた声。馴れ馴れしい言い方。後ろから聞こえる声は俺を絶望へと駆り立てる。

 1番、見られてはいけない奴に見られてしまった。


「マサって意外と老人愛護なんだ。へー、こりゃ意外」

「う、うるさい。……三嶋…絶対この事は誰にも言うなよいいな?」

「ジュース一本で手を打とうじゃないか」




 三嶋夏樹(みしま なつき)。同じ2年で奈美と仲のいい親友。

 俺の第一印象は「やかましい女」。


 だが、こいつこそ、俺と奈美をくっつけた張本人なのだ。



カンカラカラ


 ゴミ箱に三嶋のシュートが決まった。さすがバスケ部。俺達は自販機の所で雨宿りしてた。



ザァァァ―――



「ホント、よく降るよね。この雨」

「お前部活はどうしたんだよ。大会近いんだろ?」

「今日は他の部が体育館使ってんのよ。それで筋トレだけ」

「なる」


 つまりはサボったって事か。こいつ……エースだからって余裕かましやがって。

 実質、三嶋のいる女子バスケット部は県でも上位にランクされている。それにこいつの実力も監督お墨付き。前に1on1やったけど勝負にならず。


「今日は奈美、委員会だっけ? それにしてもあんた等は冷めてるのか余裕なのか…心配になってくるよ」

「ご心配なく、上手くやってますよ。お前のおかげだ」

「……まったく」


 三嶋は大きく身体を伸ばし、俺を見て苦笑した。


「奈美が羨ましいよ。ったく、紹介したら気がつけばくっついちゃってさ。あーあ、私も彼氏欲しいなー」

「女子には人気あるのにな」

「黙れ!」


 そんな感じで俺達はくだらない事を喋り合って時間を潰した。

 三嶋と喋っている間はウザったい雨も不快に感じられずに済む。



 …でも、こんな所を奈美が見たらあいつはどう思うんだろうか……? それが気になって仕方が無かったのも事実だった。



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