#1:放課後の屋上
虎井政吉、高校2年生。彼女もち。
彼女は諸橋奈美、同じく高校2年生。
お互いマイペースで、恋愛とは程遠い2人ではあったが、一緒にいる時は楽しかった。それが恋だというのに気付いたのもかなり経った後だった。それで告白の言葉もあれ。
「なに考えてる?」
「あぁ、俺とお前が付き合い始めるまでの事」
「のろけだよ」
「そうだな」
放課後、学校の屋上。心地よい風を身体一杯に受けながら隣で同じく俺と夕焼けの町並みを見つめる愛しい人。
「私、夕陽って嫌い」
「嘘、マジで?」
「なんかさ、寂しい気持ちになるの。夕陽は夜になる。つまりは一日の終わりの始まりでしょ? 小さい時とかみんなと遊んでいて、夕陽が出れば終わりじゃない。楽しい時間の終わりの時」
「詩人だな、奈美は」
本人の言う通り、彼女の横顔は何とも悲しい表情だった。
馬鹿な事を言えば、このまま消えてしまうように、儚い…。
「よく別れのシーンとか、夕陽の下じゃん」
「……」
何を言いたいのか、分かってしまった。
つまりは、こいつも俺と同じ事を考えていたと言う事だ。
「あっ」
「……」
「ちょ、ちょっと…何? いきなり…」
俺は奈美を抱きしめた。奈美も俺と同じように、怖いのだ。
「……そんな事ねぇよ」
「…そう、だよね。私、すごく好きだよ、マーサの事」
「俺だってそうさ。じゃなかったらどうして付き合う」
奈美は俺の胸に顔をうずめた。微かに震えている。
何故、こんな風に考えてしまうのか。
「お前も怖いのか? 幸せなのが」
「そんな事……ある訳無いじゃない……。今、楽しくてしょうがないよ。マーサと馬鹿やって、今の生活のちょっとした事でも楽しく思える…」
「……ああ、俺もそうだ」
頭を撫でる。誰かがいつここに来るかも分からないが、そんな事はどうだっていい。
「人って弱いね。一つになったと思えば、片方が無くなるのが怖くなっちゃう。そんな事、考えすぎだって自分に言い聞かせてるのに…モテない人達に失礼だよね…」
「こんな捻くれた事考えちまう風に育った自分が嫌になるよ。要するにこの気持ちに自信の無い臆病者って訳だ」
自嘲してしまう。
だけどそれは違う。それは違う……
「それなら、逆らってやればいい。俺、お前と離れるなんて微塵も思ってねーから」
「……カッコいい」
その日の夕陽は良かった、とその後の喫茶店での奈美の言葉。