プロローグ
世界の名前はフォゴスジーン、一なる大陸と数多なる島々からなる世界。
神代の時代を遥かなおとぎ話とするには新しく、祖父母の昔語りに聞くには遠すぎる。
そんな精霊の息吹きを残しながらも、次第に人々から魔法が失われていく世界。
フォゴスジーンを作り出した創造神は、今はもういない。
唯一無二の存在を抱いて、虚無の海に溶けてしまった。
神話は語る。
フォゴスジーンの神は造物種たる人の子のひとりを愛し、執着し、そのために世界を壊そうとしたのだと。
今もまだ世界は傾いたまま、少しずつ滅びに向かって崩壊していく。創造神が喪われた以上、もう、滅びを止める術はない。
終わりまでの道行きを緩やかなものにすることだけで精一杯なのだ。
世界に残されたものは、存在することを諦めない限り、世界の存続を望み、力を尽くした。
大地・海・天空を統べる三柱が、世界が虚無に呑み込まれないよう根を張り、網を広げ、¨要¨が杭となり世界を繋ぎ止めた。
神殿が信仰しているのは、この三柱と¨要¨だった。
本来ならば主神となる創造神は、現在では破壊神と同義語であり、滅びの神としての面が色濃く伝えられていた。
民衆が感謝と畏敬の崇拝を捧げる対象として、あまり相応しいとは言えない。
滅びに向かう世界は歪み、大陸の中心から荒野は広がった。 歪みは自然の豊さを奪うだけでなく、生態系の動植物を歪めた。歪んだ命は歪獣と呼ばれ、人々の脅威となった。
歪獣は、歪みから離れることはできないが、歪みは伝染する。
歪みは障気との相性が良く、障気に引きずられて、都市部に歪みが発生することがたびたび起きた。
神殿は、歪みに対してはほぼ何も出来なかったが、障気を祓う術を確立した。
民衆は神殿に対して歪みと歪獣からの庇護を求め、神殿は障気を祓う技術(御札)と術者を提供した。
世界中に広がった神殿はフォゴスジーンの国々に対して、次第に発言力を持つようになり、最大の勢力を持つ組織へと成長した。
舞台はフォゴスジーンの北の大国、フォレスト皇国の片田舎から始まる。
かつては大陸を支配下においた皇国も、今は、国土を最盛期より10分の1に減じていた。
それでも、大陸の三強に入る国力を有しており、神殿に対する影響力も失われていない。
そんな皇国の辺境の町から物語りは始まる。