星の屑たち
ベランダで空を眺める。体がきんっと冷えた。
冬は好きだ。空気に余計なものが一切無く澄んでいて、
空が吸い込まれるほどに綺麗で、そこに絶対の安心を感じていた。
最近、夜になる度に同じようなことを考える。
きっと、あまりにも空が綺麗だから。
すこまれそうな冬の空。
「陽奈、」
「……翔汰。」
いつの間にか、隣の家のベランダに幼馴染がいた。
「お前、寒くねーの?」
「厚着してなくもなくないから大丈夫。」
「どっちなんだよ。」
翔汰の家はすぐ真横にあって、ベランダも少し伸ばせば手が届くほどに近い。
「久しぶりだね、ここで顔合わせるの。」
「ああ…。小学校くらいまで、ベランダ使って家行き来してたっけな。」
「そうそう。スリルあっておもしろかった~。すぐ見つかって怒られたけど。」
ずいぶんと懐かしい話な気がするけど、そんなに昔のことじゃない。
めまぐるしくまわる毎日のせいだろう。
私たちを急かして、立ち止まることを許さない時間に嫌気がさした。
はぁ、と両手に息を吹きかけると「やっぱり寒いんじゃねーか」なんて視線を感じた。
ごまかすように言葉を次ぐ。
「空、綺麗でしょ。」
「……なんだよ、いきなり、」
「いや、私がここにいる理由がこれだから。」
「……ふぅん。」
翔汰が夜空を見上げる。
その姿を見てピンときた。
「あ、」
「なに?」
「…ううん、」
気づいた。
夜空は似てるんだ、翔汰に。だから、
自分でもなんともいえない理由に頬が緩んだ。へへっと笑う。
「私、夜空好きだなぁ。」
自分の中では大告白だったりする。
「ん…俺は晴れた空がいい。」
もちろんそんなこと気づかない翔汰から、先程思っていたことと、
真反対ともとれる答えが返ってきて意外だった。
「へぇ、なんで?」
「……お前っぽいから。」
夜空を見上げながら、さり気ない風に言う。
胸がぎゅっとなった。
ふいに視界がぼやける。この鼻の奥がツンとなる感じ、久しぶりだ。
手が暖かく包まれた。
「……手あったかいじゃん。カイロあんの?」
「心があったかいからだよ。」
「それ逆だって、たぶん。」
翔汰の手は私より大きい。
「…俺、この国出るからさ。」
「知ってるだろ、親が離婚すんの。」
「それで、父さんについてく事になったから。」
今夜は風がない。無音だ。
家の近くには大きな木がある。いつもカサカサと揺れていた。
今はそれが、ない。きこえないだけかもしれない。
初めて、風のない夜を不気味だと感じた。
握られた手にしずくが落ちる。一度流れたら、もうとまらない。
想いがあふれる。
「待ってる。」
ずっと心に秘めていた。
けど、お互いにわかってた。
口に出さないだけで、誰よりもわかり合えていた。
それでいいと思えてた。
「待ってるよ、何年でも、」
「……、」
「親思いの翔汰を知ってるから止めはしない。」
「……。」
「なんと、なく分かってた、から…、」
声が震える。伝えたいのに震えが邪魔をする。
、
「でも、私に相談なしで行っちゃうんだもん。私だって、勝手に、待つ。」
「……どのくらいに戻れるか分からない。」
「いいよ、」
「電話代だってかかるから、そうしょっちゅうは掛けられない。」
「……うん。」
分かってる、大丈夫。
ふっと、翔汰が笑う。
「ひどい顔、」
「う、うるさいなぁ…!」
言い返すと、しばしの沈黙が流れた。
静かになるとさっき自分が涙を見せてしまったことが恥ずかしくなってくる。
「……。」
でも、会いたいときに会えないは、つらい。
今日何度目かの空を見上げた。
「……ほんと、きれい。」
「……だな。ここから見る空って、特別な気がする。向こうって星見えるんかな。」
「どーだろうねー。」
どうなんだろう。私にも、翔汰にも、わからない。
「まぁここは見えるから。しかも絶景っ!」
手を離してばんざいのポーズをとった。
星をつかまえる。
「じゃあ、楽しみにしとくか。帰ってくるのを。」
「うん。」
あの星たちを、宇宙の屑だなんていえない。
もしそうならば、私は……私たちは星の屑だ。
そう言ったら、「星の屑の意味ってそうゆうのなの?」と聞かれた。
そんなこと、知らない。
「うう~寒いね。」
「戻るか、」
「うん。」
手を振ってそれぞれの部屋に入る。
明日もここに来てみよう。
おわり