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虚構の聖都市  作者: 秋華
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早朝の聖都市




 まだ朝靄が広がっているような早朝にも関わらず、街はぞろぞろと列を成す人でいっぱいだった。

 男も女も老人も子供も、どんな職業の者達も、目的地は蟻のように狂いもなくたった一か所だ。何万人という人々は、城の様に大きな石造りの建物へと吸い込まれていく。

 やがて、その建物の天辺にある大きな鐘が、重々しい音を街中に響かせ始める。


そう、ここは教会。莫大な人数を収める事が出来るほどの大聖堂である。


 街の人という人達が、毎朝この時間に教会に赴き、自身らが信仰する神にお祈りをする。三十分に亘るお祈りをした後、皆声を張り上げて神の御加護に感謝し、数々の栄誉を称える聖歌を歌うのだ。そして、最後にこの街の最高司祭の演説が繰り広げられるのだ。


「飢えも疫病も災厄もなく、私達は豊かで平和です。この街こそ理想郷、聖都市。神の御加護に感謝し、改めて忠誠を誓います」

 演説はいつもこう終わる。司祭の言葉が締めくくられると、皆一斉にお祈りを唱え、充足感に満ち溢れた顔で各家々や仕事場へと散っていくのだ。


 これがこの街の毎朝の礼拝だった。


 オルガンの重厚なメロディーと、住民達の聖歌斉唱が人気のない街に流れ出す頃、建物に挟まれた暗い路地に、一人ポツンと少年がじっと立ちつくしていた。大きく聳える教会を逸らす事なく見据え、老若男女の大合唱に耳を傾けている。

 真摯に見える姿だったが、彼を真正面から見たならば誰もそんな事は言わなかったであろう。

 目を爛々と光らせ、歯を食いしばった様に引き攣った表情で、彼は拳を震わせていたのだから。

 やがて彼は―――――アルは唾と共に吐き出した。


「何も見ず聞かずのその目も耳も、全部腐り落ちてしまえ!」




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