第二話
人助けとはいえ横取りはよくない
(ゲームの世界だとマナー違反として晒されるという強迫観念)
なのでドロップアイテムは3人組の冒険者たちにお渡しして、何の成果も得られずに帰ってきた俺とマリチ
とりあえず戦闘後に彼らと話した内容や街の様子などによりある程度わかってきたことをまとめてみよう
まず一つ目
俺とマリチのような最高ランクのキャラは今のところ他にいなさそう
イメージとしてはソーマファンタジーが始まって初期の世界
冒険者たちの成長や熟練度はまだ初期段階で、それがそのままずっと続いているような印象だ
追加データとして後から増えた装備やクラスは存在すら知られていないかもしれない
一言でいえばレベル上限が50の世界で俺たちだけ120ぐらいある
ゲーマーなら分かると思うがレベル50の冒険者が何百人集まってもレベル120の達人にはかなわない
当たらないしダメージが入らないし範囲攻撃で即殺されるからだ
まあそれは置いといて
次に感じたのは、自分たち以外にも数千人単位で冒険者は存在しているということ
そしてそのほとんどが初心者から中級者までの低レベル帯
そのせいか、未だに倒されたことのないネームドモンスターやシナリオボスが多くいる模様
先ほど秒殺したデューンエンペラーは今のこの世界ではかなり高位のモンスターの扱いで、あの3人組は一攫千金かつランクアップを狙ってチャレンジしにきていたようだ
冒険者のギルドには様々な仕事の依頼が舞い込んでくる
それらをこなしてポイントを積み重ねていくとランクが上がる
仕事の中には国家からの依頼も混ざっている
高位のランクになるにはある程度そういったキークエストをこなす必要があり、強力なネームドモンスター退治の多くは国家治安部隊からの依頼である
そして最後に『マリチ』の存在
俺がこの世界に来なければ一人だけ別次元の強さで存在していたことになる彼女
今まで何をどうやって過ごしていたのだろうか、普通に聞いてみた
「んー。ずっと森の奥にある妖精族の村で静かに暮らしてた」
らしい
冒険に出たこともなく普通に暮らしていたが、俺と出会った瞬間に過去のことを思いだしてすべてのスキルや魔法が使えるようになったし、想像するだけで持っている装備を引き出せるようになったという
まるで俺と同じ状況。まさに表裏一体
俺の中ではずっとプレイしていたもう一人の自分だし、この新しい世界では誰よりも信頼ができる頼れる相棒であることは揺らぎようもない
マリチも俺のことはずっと一緒に冒険してきた仲間だと思っているようだった
そもそもこの世界がいつから存在して彼女がどう生きてきたのかは知る由もないが、この辺は少しずつ解明していけたらいいなと思う
あと、問題が一つ見つかった
マリチが普段過ごしている『精霊の森』の中の小さな家
そこに現れる「現実世界と行き来できる扉」がなくなった
条件はわからないが、在る時と無い時がある
そしてマリチにはその扉は見えないという
まだまだ謎だらけではあるが、いつまで自分がこの力を行使できるのかもわからないし、せっかく自分の好きなゲームの世界に来れているのだからできる限り楽しみたいし、これからも色々調べていきたい
あとはこっちの世界とリアルとの時差
その辺きちんと調べとかないと現実生活に戻った時に社会不適合者になってしまう
永遠にこの世界で生きていけるのであればそれもアリだが、いつどうなるかわからない
とりあえずマリチ家に帰ったら「扉」がなくなっていた
つまり現実世界にしばらく戻れない
ーーーーーー
というわけでしばらくは冒険者稼業にいそしむことにした
冒険者ギルドの本店は現実世界で言うと県庁や市役所のような感じである
支店が町の中にいくつかあり、そちらはホテルのロビーのような感じで飲食店と併設されていたりする
砂漠の皇帝を倒したことをギルドに報告すると、ざわつく店内
店内で食事をしてた冒険者のほぼ全員がこっちに視線を向けている
「ヨーイチさんとマリチさんはまだ未登録だったのですね」
受付のお姉さんは、目の前にいる規格外の新人コンビの働きに目を丸くしつつも
申し訳なさそうにしどろもどろになる
「未登録の方がネームドモンスターを討伐しても討伐報酬はもらえないんです……」
「仕方ないか」
まあ……お金はもらえなくともマリチが持ってるだろうから何とかなるし、いいか
そう思いつつ彼女の方を振り返ると、マリチはこちらには目もくれずズンズンと前に出て背伸びをしながら言った
「今日街にでてきたんだけど、お金は全くないのでさっそく登録してほしいなの」
あ、お金ないんだ。自炊派だったんだ。
確かに庭に畑はあったよ。それで生活してたんだ
彼女のその発言を聞き、急に俺たちの路銀稼ぎは死活問題になった
扉が復活するまで生き延びねばならない
どんなに屈強な冒険者でも腹は減る
「えっと…マリチさんとヨーイチさんはEランクからのスタートになりますが、本当にそちらのモンスターの情報でよろしいのですか?」
苦笑いしながら聞く受付嬢
「まあ、はい…」
まだ目立ちたくはない俺が遠慮がちに言いかけたところに
「望むところなの!」
と、マリチは息巻いてかぶせてくる
次のターゲットは『密林の王』
凶悪な巨大蟹だ
だが少し不穏な気配がする
どうやら砂漠の皇帝を倒したと自称している俺たちのことを疑っている者
未だ撃破報告のほとんどない密林の王にEランクで挑もうとするバカ達の顔を見たい者
その他大勢の冷やかし冒険者連中の視線がこっちに集中している
出現していることが分かっているネームドモンスター退治には確かに多くの見学者が集まってくることがある
目立つという事は人気も出るが敵も増える
あまり好ましいことではないが、路銀はいるし、覚悟を決めるしかないようだ
俺たちは森林地帯へと向かった




