第2話 受注側(なんで反社に依頼するんだ?)作者(なんで反社に依頼してんだろ?)
幻燈区には春が来ない。
何故かこの地区だけ気温の上昇が極端に少ないせいだ。なのでこの街から衣替えの文化は廃れていった。今では皆年中冬服で過ごしている。だが不思議なことに、桜や藤などの植物は咲く。原理はわからない。
喫茶店マヨイガには客が来ない。
どれもこれも三連休のせいだ。連休は一家揃って出掛けることが多い。そのせいで客が一切来ないのだ。畜生。
まあそんなことは少々あるが、一番は立地の問題と思われる。なんせ誰も来ない都心から離れた廃墟に建っているものなので、人は滅多に来ない。なのに最低賃金は守っている。その金は一体何処からきているのだろうか。巷では店長が人身売買をしていると噂が出ている。ソースはわからない。
「結月、そんなところで遊んでないで少しは働いてください」
「えぇー」
「えーじゃない」
結月はソファ席に座ってキーボードをつついていた。今週のブログ当番は彼女である。因みに店にブログがあることをカウンターに立って布巾でマグカップを拭いている店長は知らない。
間抜けな音を発した携帯を見ると、端白からメールが入っていた。
『私達宛に依頼が入ってるヨ!』
画面を眺める目が死んでいる。
「店長すいません。ちょっと外します」
「わかりました。夜道に気をつけて帰ってきてくださいよ?」
「わかってますって」
プラスチックでできたコートを掴み、同じく合成繊維の鞄をとって、結月は店を出た。
「麻薬カルテルの制圧?」
「ああ。
「なんてったって私達にそんな警察紛いの事を」
「さあな。けど警察のお偉いさんからの指名だとよ」
「今なんて?」
「だから、警察のお偉いさんから———」
「逃げるよ」
結月は回れ右をして端白の襟を捕み、後ろ向きに引き摺りながら立ち去ろうとする。
「あら、何処にいくつもり?」
「げ」
「ヒッ」
ギチギチと渋い音を立てて首を回すと、軍服のような制服を着た女性が立っていた。結月よりも小柄で、心なしか彼女に似ているような気がする。
橘京季結月の父の愛人を自称する何かである。
「なんだよあんたかよ」
「あら、私じゃ不満?」
「どちらかというと不満寄り」
「そう。結月はどうしたの?」
「結月なら・・・ありゃ?」
結月は直立したまま口から泡を出していた。
「立ったまま気絶してるわね」
「えっあっちょっ急に倒れるな!」
支えを失った端白は尻餅をついてしまった。
「ちょっと休みましょうか。中に入って」
「そこら辺でいいわ」
「ここですか?」
「置くぜ」
「わかりました」
「「せーの。あっ」」
結月は談話室の硬いソファの上で後頭部と足首を強打しながら目覚めた。
「ここは・・・」
「ムショ」
「まじかよ・・・」
「そんなわけないでしょ」
端白の向かい側から覗き込む女性を見て、夢現な結月は急に現実に引き戻された。
「ひゃあっ」
「では、私はこれで失礼します」
「お疲れ様」
端白は結月の頭頂部に強めのチョップをする。
「・・・おーい結月ー?大丈夫かー?」
へんじがない。ただの しかばねの ようだ。
なんてことを端白が脳内で呟いていると結月は痛い痛いと呟きながら迫り来る端白の手を白羽どりで受け止めた。
「それで?なんで私達にカルテルの制圧なんて事をやらせるんだ?」
「うちの部隊がまだ出来立てでね。隊員は皆学生上がりの新人ばかり、戦闘経験は碌に無いのよ。だから、プロであるあなた達に任せたいのよ。子供を巻き込むのは、こちらとしては少し癪に障るのだけれど・・・」
京季は悔しそうに顔を顰めながら拳を握る。
「警部。車両の手配できました」
「ありがとう。移動するわよ」
「忙しいなあっちこっち」
足がすくんでいる結月を担いで端白は駐車場に向かう。
「教育って言って向かわせることもできたんじゃねーの?」
「あまりにも危険すぎる。麻薬なんて、バックに何かついているなんてのが常識でしょう?」
「もしかしてウチだったりして」
「あの人に限ってそれはないわ」
「そうかなあ」
「それに、後ろについてるのは宗教団体だって聞いたわ」
「宗教ぉ?」
景色が次々と通りすぎていく。
やがて都市部から離れ、廃ビルに車を止めた。
「貴方はここで待ってて」
「承知いたしました」
ビルには鉄と火薬の匂いが染み付いている。
壁の至るところには赤黒いシミがつき、室外機には赤いペンキがこびりついていた。否、ペンキではなく人の血液である。床には肉塊が転がっている。どう見ても人の死体だ。辺りに燻んだ金色の細長い円柱が散乱している。.38口径の薬莢だ。きっとここで戦闘でも起きたのだろう。
「どういうことだ?すでに戦闘の痕があるが・・・」
「さあ。仲間割れかな」
「どちらにしても警戒は怠ってはいけないわ」
「そうですね・・・開けますよ」
結月はライトを腰のポケットにしまい、左手をドアノブに掛け、右手でコートを少し退け、ベルトに通したホルスターの一番上、胡桃の木でできた銃握を握る。
一つ深呼吸をして、ゆっくりと扉を開ける。拳銃を抜き、左手を右手に添える。
軽く室内を見渡し、部屋の中に入ってからもう一度敵影を確認する。
室内には、UZI短機関銃を持った男がいた。
「あ、どうも」
「どうも」
「・・・いい、天気ですね?」
「敵だ!」
「やべ、コミュニケーションミスった」
結月は引き金を引くと、同時に撃鉄が起き、引き切った時には、撃鉄は弾倉に入った薬莢の中心、火薬に点火するための雷管を叩いていた。
銃口から、または弾倉と銃身の間から、凄まじいほどの光と熱、そして、とても人間の鼓膜では防ぎきれそうにない銃声が二回鳴り響く。そして、真っ直ぐ飛んで行った二発の弾丸は、男の手の甲を捉え、UZIのプラスチックで覆われたグリップを破壊し、内部の金属をへこませた。
手によく力が入らず、男はUZIを手放してしまう。それを見て、結月は素早く男の懐に忍び込んだ。
「同業者だろうけど悪いね。こっちも仕事なんだ」
背後に回り込んだ後、腕を後ろに組ませ、両手首に京季から支給された手錠をかける。
「結月、大丈夫・・・そうね。よかった」
「次、いきましょうか」
唖然としている男をよそに、結月達は部屋を出た。
一方その頃
執事の服装をした少年が扉を叩く。
「入っていいよ」
「失礼いたします」
扉を開けた先には若い男が待ち構えていた。どこから見ても高級な机に肘を置き、机に反してホームセンターで買ってきたような安物でキャスター付きの椅子に腰かけている。
外見の年齢は20歳程度だが、実の年齢は37歳だ。少しというかだいぶ若作りしているように思えるが、これがこの男の種族の普通であり、この世界の人間における異常である。男の額には、黒い角が二本生えていた。
「ごめんねいきなり呼び出して」
「いえ、私も暇でしたので」
何故か、昔からこの男の前に立つと動けなくなる。
「そんなに身構えなくて大丈夫だよ」
「旦那様。本日は何用でお呼びでしょうか」
「いや、どうってことはないんだ。
ただ君の顔が見たかっただけ。血が繋がっていないとはいえ、君も私の大切な家族なんだ。定期的に顔を見ないと心配になる」
「・・・申し訳ございません」
「どうして謝るのさ」
男は優しい顔をして呼びかける。
「俺はみんなの元気そうな顔を見れて満足だよ」
少年はいうほど元気そうな顔をしていただろうかと言わんばかりに自分の顔をペタペタと触った。
「あの子はどんな感じ?」
「さほど変化はありません。強いて言えばいくら言っても食事をゼリー飲料で済ませることくらいですかね」
「・・・あいつには少しお灸をすえる必要がありそうだ」
「それでは、私はこれで」
「天音君」
振り返る。
「結月をお願いね」
「お任せください」
不定期のつもりでしたが、できるだけ週一投稿できるように頑張ります。
端白「さんざんさぼってきたし無理じゃないか?」
結月「うるせぇ!逝こう!」
夏日「俺の出番は?」
天音「まあ、ドンマイ」




