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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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優人、悪役令嬢と語らう4

 巻田真美は恋をした。

 相手は1年生の時から有名だった日多木優人だ。そのときはクラスも違い、話すきっかけもなくて遠くから見ているだけしかできなかった。

 転機が訪れたのは2年生で同じクラスになったとき。少しでも話す機会が欲しくて、面倒なのを承知で学級委員に立候補した。

 自分は人より容姿が優れている自覚があったし、プロポーションも良い。教室ではいつも華やかな友人達に囲まれている。バレー部では1年の時からレギュラーで、先輩からも後輩からも人望が厚い。学園中の人気者である優人と十分釣り合う人間であると自負していた。

 実際、何かと用事にかこつけて優人に話しかけると、彼はいつもにこやかに応じてくれた。わからないことを聞けば、嫌な顔一つせず丁寧に教えてくれた。いつも二人でいるときは楽しい時間が流れていた。

 彼もきっと同じ気持ちだと思っていた。

 だから振られたときは本当に信じられなかった。


――ごめん……巻田さんのことを好きになれないとか、そういうのじゃないんだ。ただ、今は恋愛を考える余裕がなくて。だからこれからも良い友人でいてくれると嬉しい。


 ひどく申し訳なさそうな顔で、優人は言った。

 十中八九、勝利を確信していた中での急転直下。

 すぐさま湧き上がったのは死ぬほど「恥ずかしい」という気持ちだった。自分だけが勘違いして恥ずかしい。私だけが浮かれていて恥ずかしい。傍目には私の姿がどれだけ愚かに見えていたんだろう。

 よくも私に恥をかかせてくれたな。

 そのとき愛情ははっきりと憎しみへと反転した。

 あんなに大好きだった人の顔を見るのも嫌になった。私が恥ずかしい思いをしたのと同じくらい、あの人も苦しめば良いのだと思った。

 真美は学級委員として一緒に仕事をする中で、優人がかなりこまかくメモを取るタイプだということを知った。いつも完璧に準備して会議や発表に臨むのだ。

 親友の由香に、優人に話しかけて意識を逸らしてくれるよう頼むと、彼女は快く応じてくれた。前から恋愛相談に乗ってくれていた彼女は、優人の仕打ちに一緒になって怒ってくれていたのだ。

 教室の前方に立つ優人が、資料がなくなったと気がついたときの顔は見物だった。ほんの一瞬のこわばった表情。おそらく真美と由香の他は誰も気がついていない。

 そう思うと、何とも言えない優越感が真美の心を満たした――――…………


* * *


 何とか心を落ち着け、優人が口を開いたそのとき。


ざぁ――――――――――――――――――――――――っっ


と、突然の大雨が教室内に降り注いだ。

「えっ、えっ、何!?」

「雨?雨漏り?」

「雨漏りってレベルじゃないだろ、これ。風呂とか洗濯機が爆発したのか!?」

「いやあっ、びしょびしょじゃないっ」

 一斉に阿鼻叫喚の図となる。

 全員が全員、濡れ鼠だ。人間もずぶ濡れだが、机も、椅子も、床も、机に置かれた資料も、何もかもずぶ濡れになっている。

 そんな中、同じように水に濡れながらも顔色一つ変えていないコーデリアが、

「失礼しました。私がスプリンクラーを誤作動させてしまったようですわ」

と淡々と言った。

「えっ、ウンディーネさんが……?」

「どうしてこんなことを……?」

などと何人かの生徒が申し訳程度に言ったが、心の中ではその場にいる全員が「やっぱりお前か!!??」と叫んでいた。コーデリアが転入して以来、大体、問題が起こると原因は彼女であることがほとんどだったからだ。

「すみません。同居人に仕掛けようとしていた『イヤ~な虫をまるごと抹殺!燻煙式殺虫剤キルスモーク37564号』をうっかり焚いてしまいまして」

 コーデリアの手元で、毒々しい紫色のパッケージをまとった筒型の殺虫剤からモクモクと煙が吹き出している。側面には「クモ、ムカデ、アリ、ハチ、ガ、その他ゆかいな仲間たち。み~んなまとめてKILL☆KILL☆」という煽り文句が踊っている。

 どうやら殺虫剤の煙に火災報知器が反応し、連動してスプリンクラーが作動してしまったということのようだ。

「何で今、殺虫剤!?」

「消しゴムを取ろうとしたら間違えてレバーを押してしまいました」

「というか同居人に仕掛けるって!?」

「同居人は蜘蛛女なんです」

「わけわかんねー!悪役令嬢かお前はっ」

「よくご存じで」

 生徒らの矢継ぎ早のツッコミにしれっと応じるコーデリア。そして、

「このままここにいても濡れるだけですよ。体育祭も近いことですし、風邪を引かないよう早く着替えて乾かした方が良いのでは」

ともっともなことを言う。

 他の生徒らもいい加減濡れた制服が気持ち悪いので、

「それもそうだな……事務室にはウンディーネさんの方から報告してくれよ」

「会議の前に掃除だな、こりゃ……」

「あ~ん、着替えとか持ってきてないのに。体操服を着るしかないかな~?」

「保健室なら下着貸してくれるんじゃない?」

などとぶつくさ言いながら、わらわらと教室を出ていった。

 彼らがいなくなると同時に室内に降っていた雨は収まった。

 あとには濡れ鼠のコーデリアと優人だけが残された。


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