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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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優人、悪役令嬢と語らう3

「失礼します……、ともう結構揃っているね」

 優人とコーデリアが教室に入ると、既にほとんどの部の代表者が席に着いていた。

「うん。あとはバレー部と合唱部だけ」

と、入口近くの席に座ったバスケ部の代表者が応える。

 室内の様子を見て優人は内心、しまったと思った。

 この時期は体育祭に向けてあちこちのクラスや部活が教室を借りる。会議の日取りがなかなか決まらなかったので、教室の予約に出遅れて狭い教室しか借りられなかったのだ。このくらいの人数ならなんとか収容できるかと考えていたが、運動部の大柄な生徒などは窮屈そうに席についている。

 優人は申し訳なく思いながら、コーデリアと一緒に黒板前の生徒会用の席に着いた。クリアファイルから休み時間の合間に指摘事項をびっしり書き込んだ資料を取り出す。この場に小蝶がいたらここに書かれた半分くらいは彼女の方で言ってくれるだろうが、今日の同席者はコーデリアだ。一人で完璧にこなさなければならない。

 会議の開始時間まで資料の見直しをしていると、

「失礼します。あれ、ひょっとして私達遅刻した?」

と女子生徒が二人顔を出した。合唱部代表者の鳥井由香とバレー部代表者の巻田真美だ。

 優人は一瞬息を止めて、

「大丈夫。まだ3分前だよ」

と穏やかに応えた。

「良かった~。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど。来賓に山崎まどかが来るのってまじ?」

 由香がその場で立ち止まって優人に尋ねる。

 もう一人の真美の方は優人の席と黒板の狭い隙間を無理に通って、窓際の開いている席へ向かう。

 優人はやや乱暴に椅子を押しのけられた気がした。それを努めて意識しないようにして聞き返す。

「ああ。それが?」

「うっそ、合唱部の有名卒業生の顔で福笑いってのがうちの障害物の第一候補だったのに。山崎まどかの顔を使おうと思ってたのよねー」

 岩光学園は勉学だけでなく部活動にも力を入れている。そのためスポーツや芸術分野で世界的に活躍している有名人を多く輩出していた。山崎まどかもその一人だ。合唱部のOBで、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの歌手だ。

「それは変えた方が無難だね……」

「仕方ない、プランBに変更かぁ」

 言いながら席に向かう由香の背中を目で追うふりをして、優人は自然に既に席に着いている真美の方に視線を移した。

 彼女はむすっとした顔で机の上の資料を眺めている。バレー部らしく背が高いので、ああいう表情をしていると少し恐いようにも見える。彼女はこちらを見ようともしない。

 一週間前、優人は真美に告白された。まさかそんな風な感情を持たれていたとは気づかず、とても驚いた。今は恋愛をする余裕がないからと断ったのだが、それ以来ずっと無視されている。

 告白以前は普通に良好な関係性だった。真美は3組の学級委員を務めるようになってから生徒会長の優人と校内イベントなどで何かと接点を持つようになったのだが、いつも気安く接してくれ協力してくれたように思う。それだけに手のひらを返したような今の態度は、優人としてはつらいものがあった。

(どうしたら良かったのかな……)

 あの言い方が悪かったのか、この振る舞いが良くなかったのか。誰かを傷つけたり、不愉快な思いをさせたりせずに生きるのは、どうしてこうも難しいのだろう。

 そんなことを考えながらも、目の方はきちんと腕時計を見て会議の開始時刻を確認していた。

「それでは全員揃ったようなので、運動部・文化部総合混合障害物競走について会議を始めます」

 それまで背もたれに寄り掛かって雑談に興じていた生徒らが居住まいを正す。

 コーデリアもペンとルーズリーフを出して早速書き始めた。でもさすがに最初の挨拶まで書き取る必要は無いと思うよ、コーデリア。

 彼女の様子を横目でちらりと見て、本題に移ろうとしたそのとき、優人ははたと気がついた。

 手元に置いておいたはずの、会議資料がなくなっている。

 直前までは確かにあったはずだ。あの資料には今日この場で話すべきことを全て書き込んである。それがなくなった。

 本能的に目が行ったのは、真美の姿だった。彼女はじっと机の天板に目を落としている。同時に隣に座る由香の姿も目に入った。彼女はこちらの方をやたらと冷たい目で見ていた。

 それで全てを察した。

 一番最後に教室に入ってきた真美と由香。おそらく真美が優人の席のすぐ側を通るときに資料をかすめ取ったのだろう。

 ちょうどそのタイミングで由香が優人に話しかけてきたのは、彼の注意を逸らすため。

 この二人は1年生の時から仲が良かった。きっと優人が真美を振ったことも由香は聞いていたのだろう。

 だが何のため?

 決まってる。優人を困らせるためだ。そこまで恨まれていたのか。

 優人の背筋を冷たい者が走る。

「ユウト?」

 コーデリアの怪訝そうな声で、優人は我に返った。ここまで考えていた時間は実際にはほんの一瞬のことだった。だが優人にとってはその数十倍にも思える時間だった。

「ああ、ごめん」

 大丈夫。自分で資料に書いたことくらい大体頭に入っている。あれは、そう。お守りのようなものにすぎない。席に並んでいる順に各部の計画を聞いていれば、自然に自分が話すべきことも思い出せるだろう。

 湧き上がる焦燥を完全に無視して、優人が再び口を開いた。

 そのときだった。

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