優人、悪役令嬢と語らう2
「大丈夫だよ。彼女も最近は学園に慣れてきて、おかしなことをやるのも少なくなってきたみたいだし」
「つい昨日、理事長が裏庭の池で大事に育ててる鯉を派手に吹っ飛ばしてなかったか?どうやったのかも何でやったのかもよくわからんが」
友晴がぼやいた。
コーデリアの非常識っぷりは既に学園全体に知られるところとなっている。大らかな友晴は生徒会で身近に接するようになって最初こそ彼女の言動に笑っていた。しかし最近になるとさすがに「これはそろそろ厳しく言わないといけないやつか……?」などと考え始めていた。
それに対し優人は、
「ああ、あれは鯉の滝登りを再現しようとしてたらしいね」
とおかしそうに笑って言う。
――この国では鯉が滝を遡るとドラゴンになるのでしょう?最近相手にするのが手応えのない雑魚……失礼、少々役不足の方ばかりで腕がなまっていまして。ですから本来の技能を取り戻すためにも、ドラゴンとでも戦おうかと……
というのがコーデリアの言である。手っ取り早くドラゴンを確保するために、(魔術で)池に滝を出現させて鯉を逆流させた挙げ句、天高く放り出していたらしい。当然、鯉は竜に進化することもなく瀕死である。
説明を聞いても友晴はあきれ顔だ。
「彼女、どっかの国の英雄でも目指してんのか?」
竜殺しはヨーロッパの英雄が受ける試練の鉄板である。それも難易度MAXの。
「単純に暴れ足りないように見えるけどね」
優人はまだ笑っている。コーデリアの言動は彼にとってはわりとツボらしい。
「大丈夫だよ。理事長には「彼女はまだ日本文化に不慣れだから」って謝ったら許してくれたし」
「お前が謝ったのかよ」
「コーデリアにも東洋のドラゴンは吉兆だから殺しちゃ駄目だよって説明したら納得してくれたから」
「説明すべきところはそこか……?」
友晴はカバンを机に置くと、優人に目を合わせていつになく真剣な顔をした。
「お前がコーデリアのことで怒ったり悩んだりしていないのはわかったけど、それでも彼女は生徒会の戦力としては現状マイナスだ。負担になっているはずなんだ。小蝶じゃないけど無理はするなよ」
優人は驚いた。
基本的に誰に対しても許容量の広い友晴がここまで言うとは。だがすぐにそれだけ彼にはこれまで心配をかけてきてしまったのだと反省する。しっかりしなければ。
安心させるように努めて明るい笑顔を作る。
「ありがとう、でも大丈夫だよ」
「ならいいけどさ……」
友晴が何とも言えない顔をしたところで、始業のチャイムが鳴った。
仕方なく自席に戻る友晴の背中を見ながら、実際ありがたいことだと優人は考えた。
優人は自分が決して完璧ではないことをよくわかっている。それでもこうやって気にかけて、ついてきてくれる友人がいることは本当に幸せなことだった。だからこそ彼らに恥じぬよう、自分は自分の役割をきちんとこなさなければならない。
(……とはいえ、コーデリアはそこまで問題視しなくても良いと思うんだよね)
友晴や小蝶は心配しているようだが、コーデリアはなんだかんだきちんと教えて納得すれば素直に言うことを聞く。むしろ話を聞く耳があるだけ、かわいげがあると優人は思う。今はまだ一般常識が足りてないが、ある程度生徒会活動に慣れれば、あの明るさと行動力で生徒会をかなり良い方向に引っ張ってくれるのではないか。そんな予感がある。
コーデリアの気質のせいだろうか。彼女については不思議と楽観的に考えてしまう優人なのだった。
「「運動部・文化部混合総合障害物競走」っていうのは、岩光学園に設置されている全部で20の部がそれぞれ障害物を用意するんだ。グラウンド全面を使用した大規模なものだし、どの部も毎年かなり趣向を凝らしてくるから盛り上がるよ。それだけに僕ら生徒会が気をつけて全体を監督しないといけないんだけど」
会議のために借りた教室に向かう道すがら、優人はコーデリアにざっくりと本日の会議の主題について説明した。
コーデリアは興味深そうに聞いている。
「今日は各部の代表者が集まって、どういう障害を計画しているか説明する。それで全体を見て障害物の順番を決めたり、バランスを考えて各部の計画を修正するんだ。僕が会議の進行をやるから、コーデリアは書記をよろしく。皆の意見を聞いて気になったことがあれば、遠慮なく聞いて良いから」
「書記ですか……ふむ」
コーデリアが神妙な顔をして頷いた。
「嫌かい?」
「シズカの方が得意ですわね!今からでもシズカと代わって……」
「静花さんには別の仕事を頼んでいるから。というかやっぱり苦手だよね、君。こういう仕事」
静花のいる生徒会室に戻ろうとするコーデリアを優人が苦笑いしながら引き留める。
コーデリアとしては本来、静花と優人の仲を取り持つのが生徒会に入った目的なのだ。だから優人と同じ会議に出席するのは静花であるべきと考えている。決して聞いた内容を黙々と書くという行為があまりにも向いてないからという理由だけではない。
コーデリアはそれ以上逆らうのをやめたが、不服そうに言う。
「小蝶が「書記はわかりやすく要点を書きなさい」と言いますが、その要点が何なのかわかりませんわ」
「わからなかったら全部書くと良いよ。要点は後で僕の方で抜き出すから」
優人はさらっとハードなことを要求する。だが案外、コーデリアはこのくらい体育会系的なやり方の方が向いていると彼は見抜いていた。
「なるほど。私、試されているのですね」
「うん。君ならやってくれると期待している」
「望むところですわ」
案の定、コーデリアはぱっと顔を明るくさせた。やるべきことがはっきりわかれば後は突っ走るだけだ。
その素直さを微笑ましく思いながら、優人は教室の戸を開けた。




