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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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千絃、下剋上を目論む6

 静花はその瞬間、暴力的な浮遊感に見舞われた。

 巨大蜘蛛が吹き抜けになっている2階の手すりを八本脚の一本で引っかけて、針金を曲げるように捻り落とす。さらに残りの脚をがんがんと突き立て、階上の床を崩していく。それも1匹ではない。生き残った4匹が我先にと静花と千絃の方に向かってきたのだ。

 床が崩れれば、当然上にいる人間達は下に落ちる。

「きゃあ~~~~~~っ」

 二人は梁だの床板だのと一緒に玄関ホールに落下した。

 もう駄目だ、と思ったそのとき、

「シズカっ」

コーデリアの声と共に、身体が何か冷たいものに受け止められた。

 恐る恐る窺うと、水の膜がクッションになって静花を支えていた。

「無事ですか……」

「コーデリア!」

 崩れた2階のほんの手前にいたコーデリアが這うようにして、静花のもとに近づいてきた。魔力を使い切り動けなくなっていたはずだが、静花のピンチに最後の力を振り絞って彼女を助けたのだ。まさに火事場の馬鹿力である。

 向こうの方で「いったぁ~~~~」と声がしたので見てみると、べしゃりと黒いものが落ちていた。千絃である。痛そうだが、すぐに身体を起こしている様子から多分無傷だ。相変わらず頑丈な人である。

「一旦外に逃げるわよっ」

 こうなるとコーデリアと千絃も諍いを起こしている場合ではない。

 蜘蛛達は獲物が1階に落ちたことに気がつくと、Uターンしてわらわらと転がるように降りてくる。

 先に玄関扉に到達した千絃がドアノブを握るが、

「あ、あれ……開かない…………っ」

 戸板をがたがた言わせるばかりで一向に開く様子がない。そこに静花に肩を借りたコーデリアが到着する。

「どういうことです?」

「そういえばコーデリアが中に入ったら逃げられないように、魔術による封印を施したんだったわ……1時間は何をしても開けられないっていう」

 詰問するコーデリアに、千絃がばつが悪そうに答える。

「そんな……」

「この……、愚か者っ」

 青ざめる静花と、極限まで消耗してつい口調が荒くなってしまうコーデリア。彼女らの背後には巨大蜘蛛が迫っている。

「あなたの魔術で壁を破壊できないのですか?」

「そういう術式は手持ちにないのよっ。もっと時間かければ用意できるけど……」

 蜘蛛の影が三人にかかる。不気味な八つの目が光っていた。いよいよ追い詰められた。

「仕方ないですわね……」

 コーデリアが溜め息を一つ。

「一時休戦です、チヅル」

「へ?」

「私に魔力を貸しなさい」

「い、いやよ。そんなことしたらあんた、蜘蛛を倒した後すぐに私に攻撃するでしょ」

 千絃が嫌がるのももっともである。つい先程までコーデリアを散々いたぶっていたのである。魔力を与えたら最後、どんな目に遭わされるかわからない!

「だから取引です。あなたが今後継続して魔力を私に提供してくれるなら、私はあなたを攻撃しない。それにある程度はあなたの研究に協力して差し上げましょう」

「え……それ、本当?」

 千絃が目を見開く。

 静花もこの申し出には驚いた。

「この状況で嘘をついてどうするんですか。私も背に腹は代えられません。魔力がないことには何もできない……シズカを守ることもできません」

「コーデリア……」

 静花は胸が締め付けられる思いがした。コーデリアはこんなにも彼女のことを思ってくれている。

「あなたは使う魔術は貧弱ですが、私一人に魔力を供給しても同時に自分の魔術を使えるくらいには魔力に余裕があるんでしょう?ならば悪い話では無いと思いますが」

「……わかった。あんたの話に乗るわ」

 千絃が手を差し出す。

 コーデリアはその手を迷わず握った。

 その瞬間、合わせられた手を起点にして光と風が巻き起こる。魔術のことがわからない静花にさえ、そこから強力な力があふれ出しているのがわかった。

 コーデリアの全身が青白く発光する。先程まで疲労困憊していたのが嘘のように、生命力であふれている。その神々しい輝きに、蜘蛛達は訳もわからず2、3歩後ずさった。

 コーデリアが右手を上げると、そこに日傘が呼び出される。彼女は優雅にそれを握り眼前の敵に向けた。

 彼女の背後に満天の星のように無数の水球が生み出される。一つ一つが強く輝き、強力な魔力がこもっているのがわかる。

「死になさい」

 彼女の言葉と共に、全弾が打ち出された。

 あっという間に、4匹の蜘蛛は穴だらけになり土煙を立ててホールに崩れ落ちた。同じ水属性の蜘蛛といえど、あまりに巨大な魔力に力負けした格好だ。

 もうもうと立ちこめる土埃がおさまった頃、彼女らが確認すると床には小さな蜘蛛の死骸が転がっていた。やっと千絃が施した魔術が解けたのだ。


 ことが済んで、コーデリアと千絃はあらためて握手を交わした。

「約束ですからね。今後あなたに不要な危害は加えません。ただしあなたの方も研究に必要なときは十分な礼節を持って協力を求めるように」

「約束は守るわ。あんたには常に十分な魔力を提供する。でも少しくらいは私のことも尊重しなさいよね。遅刻寸前で髪をセットしろとか靴を磨けとか言わないように」

 そんな二人を見て、

「なんか大変だったけど……二人が仲良くなったようで良かった!」

雨降って地固まるだね、と静花は手を叩いて喜んだ。

 だが彼女は知らない。一見、殴り合いの末に友情に目覚めた二人だが、

(シズカの恋を叶えるためにこの女は利用できます。まあ、邪魔になったらそこそこ魔力を吸い上げてから殺せば良いですしね)

(よっしゃ、生命線握ったった!これでやりたい放題できるわっ)

などと考えていたことを。

 ふっふっふっふとにこやかに微笑み合うコーデリアと千絃。だが握り合う手は腕相撲でもしているのかと言わんばかりにがっちがちである。

 かくして悪役令嬢と暗黒魔女の共同生活は表面上は仲睦まじく、裏では殺意をしっかり保持したまま続いていくのであった。

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