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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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千絃、下剋上を目論む5

「無様ね、コーデリア」

「チヅル……」

 優越感たっぷりに見下ろしてくる千絃を、コーデリアは首だけをやっとのことで動かしてきつく睨み付けた。

「魔力を使い切ったあんたなんて、恐るるに足らないわ!蜘蛛たちよ、あの女を潰しなさい。術式さえ残れば何をやったって構わない。動けなくなるまで徹底的に壊すのよっ」

 千絃の号令で残った4匹が一斉にコーデリアを取り囲む。

 コーデリアは起き上がれないながらも、かろうじて動いた左足で日傘を蹴り上げる。

 彼女のキックで飛ばされた日傘は蜘蛛の胴体に当たって鈍い音を立てたが、やはり無傷だった。この程度の攻撃がコーデリアの一部によって強化された使い魔に効くはずがなかった。

 蜘蛛がお返しだと言わんばかりに、コーデリアの足を踏みつける。

「…………っっ」

 コーデリアが声にならない悲鳴を上げる。

 針金のような蜘蛛の足も、これだけのサイズになれば鉄の棒を突き立てられたようなものだった。彼女の白い太ももが裂け、ついに赤い血が流れ落ちる。

 その光景に驚いたのは千絃だった。

「嘘でしょ!?血?あいつ本当に人間の身体だっていうの!?」

 もともと千絃はコーデリアが本当の模造生命だと確信していたわけではない。

 というのも先程も言ったように生命を造り出すなど神の御業であり、魔術師が生きている内にたどり着けるかもわからぬ到達点の一つだからだ。数少ない到達者の話も、ほとんどが眉唾物なのだ。そんなものがそうそう身近にいるはずがない。だから千絃もコーデリアについては見た目の精巧な人形に、それらしい人格を書き込んだ程度のものと考えていた。

 だが違った。血を流した。あれは本物の肉体だ。

 では人間か?だが彼女は魔力を使い切ると動けなくなる。さらにあれだけ強大な水の術式を操ることができるのは、その身が術式そのものと言って良い幻想生物……妖精だからだ。

 だが妖精と違い彼女は実体がある。そう、物理的な攻撃を受けて血を流したから。結局はそこに帰結する。

 元のゲームでは水の妖精という設定だったと言うが、現状では人間でもなければ妖精でもない何か。人間としても不完全だし、妖精としても不完全なのだ。

 一つだけ言えるのは、彼女が何者であったとしても、確かにそれは造り出された生命だということだ。

 千絃の背筋が興奮でぞくぞくする。

「面白い……私が今まで出会った何よりも、本当の模造生命に近い…………ますますあの女を解剖したくなってきたわっ」

 鼻息も荒く階下の様子を見物している千絃に対し、静花は真っ青になって固まっていた。

 どうしよう。このままではコーデリアが巨大蜘蛛の餌食になってしまう。

 どうして私はいつも大事なときに固まってしまって、動くことができないんだろう。言葉の一つも出てこないし、指の一本も動かせない。

 今朝だってそうだ。母や義妹がコーデリアを悪く言ったときに、一言も言い返せなかった。

 でも、少なくとも今は、それでは駄目だ。コーデリアが本当に殺されてしまうかもしれない。私の、大切な、友達が。

 身体はまだ動かせない。でも、目だけはひっきりなしに動いていた。

 千絃は静花の方を見ていない。彼女の手。右手には五つの糸巻きが嵌められている。そこから透明な糸が伸びていることに、静花は初めて気がついた。

糸の先をたどると、コーデリアを取り巻く蜘蛛達の頭部につながっている。

 静花に魔術の知識はない。だからそのひらめきは奇跡のようだった。

 千絃はあの指から伸ばした糸で、蜘蛛を操っているのだ。

 そうとわかると静花は音を立てないよう細心の注意をしながら立ち上がった。両手が縛られた状態で立つのはなかなか骨が折れた。だが何とかやり遂げて、ゆっくりと、だが着実に千絃ににじり寄っていく。

 千絃はまだ気づかない。彼女は手すりに身を乗り出し、コーデリアが蜘蛛達にのしかかられ傷つけられる姿を熱心に見つめている。

 その背中に静花は思い切り、全体重をかけてタックルをかました。

「ぎゃ……っ」

 大きくバランスを崩す千絃。危うく手すりを乗り越えて落ちそうなところをぎりぎりで踏みとどまった。しかしぶつかられたことでうっかり手すりから放してしまった手から、糸巻きがすぽぽぽーんと全てすっぽ抜ける。

 その瞬間、蜘蛛達は動きを止めた。

 だがそれは本当に一瞬のことだった。

「あっ、あ~~~~~~~~っ」

 千絃の叫びと共に、蜘蛛達の目がぎらりと妖しい光を帯びる。その目は2階……千絃と静花の方に向けられている。

「ちょっと何てことしてくれんのよっ」

 今までの余裕っぷりが嘘のように、千絃が静花に怒鳴りつける。

「だ、だって、千絃さんが……」

「あの糸がないと蜘蛛達を抑えられないじゃないっ」

 千絃がそう言うか言わないかの内に、蜘蛛達がコーデリアを放り出して二人の方に迫ってきた。

 どうやらあの糸は蜘蛛を操ると同時に彼らの意志を抑えていたらしい。そしてその抑制が無くなった今、とりあえず目に入ったもの全てをめちゃくちゃにしてやろうという破壊神と化したのであった。

「きゃあ~~~~~~~~っっ!!」

 静花と千絃が悲鳴を上げる中、蜘蛛達は激しく八本脚を動かして2階に乗り上げる。そして鉄棒のような脚を振りかざし、二人のいる廊下を突き崩した。


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