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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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千絃、下剋上を目論む4

 考えれば考えるほど、コーデリアという存在は不確かで、得体が知れなかった。

「魔術師っていうのはね、皆、「0から1」を実現しようとしているの。もちろん私も同じ。だからそのヒントになりそうなものは何が何でも手に入れて、自分の研究に活かしたい。私にとってコーデリアは、頭のてっぺんから爪の先まで切って、開いて、覗き込んで、何もかも余すところなく知り尽くしたい……そういう存在なわけよ」

 千絃の声音はどこか恍惚としていた。彼女の目は階下で蜘蛛相手に苦戦しているコーデリアを通して、どこか遠く……宇宙の深淵を覗き込もうとしているように見える。

 静花は今まで彼女のことをちょっと変なおねーさん程度に思っていた。

 だが違うのだ。千絃は魔術師だ。静花とは全く異なる世界を見ており、彼女には理解しがたい倫理観で生きている。

 静花がコーデリアや千絃と過ごした期間はまだほんの数週間と短い。だが彼女らと過ごした日常は他の嫌なことが全て吹っ飛ぶくらい濃密で、はちゃめちゃで、なんとなく楽しくて、静花にとって大切なものとなっていた。

 なのに今、それが崩れようとしている。コーデリアという存在の不確かさ、千絃という魔術師の危険性。静花は湧き上がる不安を振り払うように、千絃に言いつのる。

「そんな……無から有を生み出すなんて、そんなありそうもない、不確かなもののためにコーデリアを襲っているんですか」

「不確かかしら?でも実際にそういう現象は歴史上「あった」のよ」

 千絃が手元の糸巻きを手持ち無沙汰にいじりながら、にやりと笑う。

「聖書読んだことある?神はまさに何もないところから世界を造った。ついでに言えば土をこねて成人男性アダムを造った」

「……あっ」

 創世記。人間の誕生。言われてみれば、神の創世は0から1を造り出すことだ。

 そしてコーデリアが造られた命だというなら、両親なく創造されたアダム、イヴと、やっていることは同じということになる。

「一般人はそりゃ笑うでしょう。魔術師は神様になろうとしてるも同然なんだから」

 皮肉げな言葉とは裏腹に、千弦の眼はとりつかれた者のそれだ。

 ちなみに有から無の方は未だ誰も実現していない。

 神は一度、人間を滅ぼすために大洪水を起こしたが、彼らを押し流すことはできても、その存在そのものを無に帰すことはできなかった。結局ノアの一族が生き残っているのだから。

 つまり1→0を目指すというのは、神様を超えようとしていることを意味している。

 千絃に限らず、魔術師と呼ばれる連中はどうしようもなく傲慢で、強欲で、あるかないかわからぬものを一生追い続ける狂った者達なのだ。

「さあ、今日こそあの女を完全に動けなくして、中身を調べ尽くしてやるわ。そのために巨大蜘蛛をけしかけたのよ」

「コーデリア……」

 渦中のコーデリアはちょうど5体いる蜘蛛の内1体の頭を日傘の先から放出した水で吹っ飛ばしたところだった。

 水に対して耐性を得た蜘蛛だったが、極限まで威力を高めた水流によって打ち落とされる。完全に力押しだ。

 コーデリアは休む間もなく振り返り、背後から襲ってくる蜘蛛に日傘を向けた。先程と同様強力な水砲を撃ち出そうとするが――――、

「……っ」

 出ない。水が撃ち出されない。

 これにはコーデリアも呆然とした。我に返って退避行動を取ろうとするも、もう遅い。

 眼前に迫っていた蜘蛛が、その毛むくじゃらの脚でコーデリアを蹴り払った!

「コーデリア!」

 静花が悲鳴を上げる。

 その一方で千絃が、

「よっしゃ。二つ目の仮説も証明されたわっ」

とガッツポーズした。

「どういうことですか!?どうして……」

「決まってるでしょ。魔力がなくなったのよ」

 何でもないことのように千絃が言う。そういえば彼女は今朝、「コーデリアの天下はこれまで」などと言っていた。

 静花のこめかみを嫌な汗が伝う。

「あの模造生命がどういう魔術によって織り上げられたものかはまだわからない。でも魔術である以上、魔力で動いているのは確か。だったらその魔力を使い果たせば、動かなくなるに決まっているでしょ」

 千絃の言葉に呼応するように、蜘蛛に蹴飛ばされて床に突っ伏していたコーデリアが身を起こそうとして、がくんと再びその場に倒れ込んだ。

「?、?……?」

 コーデリアは地面に横たわったまま混乱した顔をしている。

 立てない、起き上がれない、それどころか腕の一本すら挙げることもできない。投げ出された彼女の身体は、まるで捨てられた人形のようだった。

「おそらくあの女が模造されるとき、実際の模造に必要な魔力だけでなく、一定期間稼働可能なだけの分も充填されたんでしょう。それも使えばなくなるわ。特にコーデリアは見境なく自分の魔術を使っていたからね。減りも早いでしょうよ」

 千絃がコーデリアの浅慮を鼻で笑う。おそらく彼女はコーデリアが必要以上に魔術を使うことを見越して、あえて虐められていたのだろう。

 千絃だけではない。コーデリアは静花に向かってくるライバルを倒すために、惜しむことなく魔術を使ってきた。今日だって小蝶と水力ターボエンジン自転車でデッドヒートを繰り広げていたのだ。当然の結果と言えばそうだった。

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