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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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千絃、下剋上を目論む2

「チヅル、これは一体どういうことかしら?」

 巨大な蜘蛛がうごめく玄関ホールで、コーデリアは静かに問うた。その声は冷え冷えとしている。

「主人が帰るまでに屋敷を完璧な状態に整えておくことが使用人の勤めのはず。それなのに随分と大きなゴミが転がっているじゃありませんか」

 そう言って本当に汚物を見るような目で蜘蛛を見る。

「あら、ご主人サマは若いのに目が悪くていらっしゃるのね~。私の使い魔がゴミに見えるだなんて」

 対する千絃は不気味なほど機嫌良く、こちらを見下ろしてくる。

 朝、あれだけコーデリアにこてんぱんにされたのにこの余裕は何だろう?と静花は思った。

「使い魔を巨大化させた上、邸内をうろつかせておくなんて。使用人としても失格ですが、魔術師としても半人前ですわね」

「相変わらず口が悪いわね。そちらこそ本当にお嬢様?階級偽証してない?まあ、主人を名乗るのも今日で最後でしょうけど」

 二人とも口元こそ笑みの形をしているが、目が全く笑っていない。一言話す度に空気がどんどん張り詰めていく。

「あら私に逆らう気ですか?その術者によく似て愚鈍そうな使い魔を使って?使用人としての礼儀を根性を一から鍛え直してあげなければならないようですね」

「おあいにく様。日本には下克上の文化があるのよ。今日こそ主人の座から蹴落としてくれるわ……!」

 コーデリアの手元に日傘が現れる。千絃は袖口に隠し持っていた5つの糸巻きを右手に、一つの大きな毛糸玉を左手に構える。

 主人VSメイドの戦いの幕が開けた。

 初めに動いたのは千絃だった。

 彼女は左手の毛糸玉を繰り出す。コーデリアに向かうかと思ったそれは大きく弧を描き、彼女を素通りした。そして後ろにいた静花の腰を両腕ごとぐるぐる巻きにする。

「ええっ!?」

「シズカ!」

 そのまま静花の身体は宙を舞った。一本釣りのごとく千絃に糸が巻き取られ、彼女のいる2階まで引きずり込まれた。

「きゃああああっ」

「はい、人質ゲット-!」

 千絃の高笑いが天井に響く。

 静花は手すりの後ろ側に降りた彼女の足下に転がされた。

 コーデリアの悔しそうな表情を千絃は満足そうに見ながら、

「さあ実験の始まりよ。行きなさい、我が使い魔ども。あの憎たらしいモルモットを動けなくなるまで痛めつけてやりなさいっ」

と高らかに宣言する。

 その言葉と同時に5匹の蜘蛛が一斉にコーデリアに襲いかかった。


 コーデリアが日傘を一閃。寄ってきた蜘蛛がひっくり返る。が、大したダメージではなかったらしく、再び彼女に迫る。決定的な一撃を与えられない。一匹を吹っ飛ばしても、また次が襲いかかってくる。

 蜘蛛なんか放っておいて使い魔の主人である千絃を直接叩きたいところだが、静花を人質に取られているためそれもできない。

 一方で、千絃はコーデリアが蜘蛛と戦う分には特に手出しをする様子がない。彼女はどうやらコーデリアが蜘蛛と戦うところを観察するのがお望みのようだ。

「良いでしょう。こんな虫けら全部潰して、その余裕そうな顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてやりますわ……!」


 千絃は手すりに頬杖をついて、鬼神のごときコーデリアの戦いぶりをにまにまと眺めている。

 静花は起き上がることは許されため、床に座り込んだまま柵越しにコーデリアを心配そうに見つめた。

「そもそもいつ用意したんですか?あんな巨大な蜘蛛。朝はいなかったですよね?」

「言ったでしょ。コーデリアの爪を切ってたんだって」

 人質という立場だが、静花が尋ねると千絃はあっさり答えてくれた。

 ちなみに静花が手縫いの細い糸ではなく太めの毛糸で縛られているのは、そちらの方が痛くないだろうという千絃なりの優しさである。もっと他のかたちで優しさを示してほしい。

「ああ、朝からオープンにストーカーやってたやつですか」

「人を変態みたいに言わないで。生態観察よ。極めて学術的な行為よ。ともかくうまいことコーデリアから取り上げられずに済んだ爪を蜘蛛に食わせたの」

「蜘蛛が?コーデリアの爪を?」

「変な話じゃないわよ。魔女にとって命令をきちんとこなした使い魔に対してご褒美として自分の血を数滴与えるのは珍しいことじゃないわ。それと同じよ」

「なんというか……文化が違いますね…………」

「で、今回はコーデリアの爪を前払いで与えたってわけ。そしたらさすが純血の水の妖精の一部分。一日であの大きさまで成長したってわけよ」

「うわぁ……」

 腕を組んで満足そうに蜘蛛たちを見守る千絃。

 一方で静花の方はただただドン引きしていた。

 蜘蛛に人の爪を食わせるのも、それによって蜘蛛が巨大化して喜ぶのも静花の価値観からはかけ離れている。魔術師達が日陰の者扱いされているのもさもありなんである。

「効果は大きさだけじゃないわ。見なさい」

 千絃が指を差した先で、コーデリアが日傘を蜘蛛の一体に向けていた。日傘の石突きにサッカーボール大の水の固まりが現れる。

「死になさいっ」

 コーデリアの叱声と共に水球が撃ち出された。

 拳銃の弾のごとく撃ち込まれたそれは、蜘蛛の頭部にこそ当たったもののさしたるダメージを与えることもなく弾き飛ばされた。

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