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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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悪役令嬢、自転車で爆走する7

 小蝶は軽やかに自転車を走らせていた。先程までのコーデリアとの騒動が嘘のように、スムーズに目的地に向かっている。この調子ならあと3分もすればゴールにたどり着くだろうと少しほっとした、その時。

「コチョウ、待ちなさ~~~~い」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 ぎょっとして振り返ると思った通り、20メートルほど後方にぜぇぜぇと言いながら賢明にペダルを漕ぐ静花と、お嬢さんよろしく横座りをしたコーデリアが見えた。

「な……っ」

 まさかここまで追いかけてくるとは。

 ほぼ勝ちを確信していた小蝶は緩んだ気を引き締め、再びペダルを漕ぐ足を速める。

 だがどういうわけか自転車を漕いでいるのは気力体力共に化け物みたいなコーデリアの方ではなく、体育の成績が平均以下の静花の方である。しかも二人分の体重があの自転車にはかかっている。やっぱり恐れることはないか……ともう一度振り返って様子を窺うと、予想以上に彼女らの自転車は背後に迫っていた。

「えっ、何で!?」

 人間が普通に自転車を漕いで出せる速度ではない。

 小蝶はざっと青ざめた。

 もちろんからくりはある。静花らの乗る自転車の後部から水がジェットのように噴射しており、その勢いで押し出されるようにして走っているのだ。コーデリアの魔術で生み出された水をエネルギーとして、自転車はがたがた揺れながらも凄まじい速度で小蝶との距離を縮める。まるで暴れるホースのよう。静花は必死でハンドルを握っているが、自転車に放り出されそうだ。

「そんな自転車ある!?」

「電動自転車です!」

 引きつった顔で答える静花。

 ついに彼女らの乗った自転車が小蝶のそれに並ぶ。

「く……っ」

 小蝶とてここまで来て負けるわけにはいかない。もう一段とギアを上げて最終コースを走る。強烈な遠心力を感じながら、車道から目的地の敷地へと最小限のカーブで曲がりこむ。

 ちょうど入ってきた自動車の背後につく形で自動式の門をくぐると、インターホン越しに「え……っ」と驚きの声が漏れたが、彼女らの誰一人としてそれを気にすることはなかった。

 そのまま正面玄関へと続く私道を爆走する。玄関前に到達するとコーデリアは自転車から飛び降り、小蝶は自転車を乗り捨てた(静花は自転車にまたがって勢いのまま外壁に突っ込んだ)。

 二人はポーチの1ミリも違わず並んで階段を駆け上がると、ほぼ同時にチャイムを押した。

「どちらさ、」「「岩光学園生徒会です!!」」

 邸宅内からの微妙な沈黙数秒の後、玄関扉が開かれた。

「…………お前ら何やってんの?」

 扉を開けたのは一法だった。

「あら、カズノリ。どうしてここに?」

「え?岩水……君?」

 これにはコーデリアも驚いた。

 小蝶も今まで一法と話したことはなかったが、学園創立者一族の息子だということで顔くらいは知っている。

「どうしても何も、ここ、俺の家だが」

「「…………はぁ!?」」

 二人は顎が外れそうになった。必死になって招待状を届けたのがまさかの同級生の家だとは。

「い、岩水君……」

「うわっ、井本もいたのか。っていうかお前、大丈夫か」

 コーデリアらの背後からふらふらになりながら寄ってきた静花に一法はびっくりする。

 疲労困憊している上、屋敷の壁に激突して額から血が出ていた。

 一法は慌てて玄関ホールから心配げにこちらを見ていた使用人に救急箱を持ってくるよう指示した。

「うん、何とか……それより、体育祭の招待状を持ってきたんだけど」

「あ、そうだった。これ」

 静花の言葉で、小蝶が慌てて制服のポケットから招待状を取り出し、一法に手渡した。

「体育祭の招待状?……って、締め切り明日じゃん。仕方ねぇな、ほらよ」

 招待状の文面を斜め読みした一法は、すぐに出席に丸を付けて小蝶に返してくれた。

「両親には言っとくから。まあ招待状がなくても普通に行くだろうけど」

「あ、ありがとう……」

 小蝶が礼を言う。これといった謝罪をする必要もなくあっさりと任務を達成してしまい、拍子抜けした。

 対する一法は何とも言えない表情で三人を見回した。

「お前らわざわざこれを届けるためだけにうちに来たのか?学校で渡してくれれば、その場で書いて渡したのに」

「いやもうまったくその通りで……」

 一法の言葉に、生徒会役員女子一同は深く深く頷いた。

 静花の手当が済むと、コーデリアらは揃って一法宅を辞去した。三人ともボロボロだった。あんなに争い合っていたコーデリアと小蝶も、今や話す気力もなく並んで歩いている。

 学園へと戻る道すがら小蝶が、

「そういえば友晴のやつ、ミスは多いんだけど致命的なことはやらないタイプだったわね……」

と独り言のようにぼやいた。

 彼女がハンドルを引いている、酷使して使い物にならなくなった自転車ががたがたと音を立てた。


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