一法、悪役令嬢に挑む6
「で、何だよ。話って」
コーデリアと一法はひとまず隣の教室に移動した。こちらも既に生徒は皆いなくなっており、静かなものだ。これ以上長く静花を待たせるわけにもいかないので、二人は座席に座ることもなく、教室の真ん中で少し距離を置いて対峙した。
「先程、あの三人娘とやり合っているのを見ましたわ」
「お前、見てたのかよ。じゃあとっとと助けに入れよ」
一法が苦虫を噛み潰したような顔をした。
もとはといえば生徒会に静花を入れたのはコーデリアなのだ。あの三人娘は静花よりよほどコーデリアの方を喧嘩の相手に定めるべきである。まあ、コーデリアが恐かったんだろうけど。
「話が盛り上がっているようだったので、間に入るのを遠慮したんです」
しれっと言う彼女を、
(絶対に嘘だな)
と一法はジト目で睨んだ。
コーデリアはそれを無視して、本題に入った。
「始めに言っておきますが、私はあなたのシズカに対する恋に協力するつもりはありません」
「それはさっき聞いたぞ」
「ええ。でもあなたの恋を邪魔するつもりもありません」
「どういう意味だ?」
一法が怪訝そうな顔をする。
「私自身は現時点で、シズカが幸せになるためにふさわしい相手はヒタキと考えています。その考えは変わりません。でも先程、あなたがシズカのために殴られたところを見ました」
その言葉に一法はそっぽを向いた。無意識に腫れた頬をさすりながらぼそぼそと言う。
「……別に。その方が手っ取り早かったってだけだ」
一法の様子をおかしそうに見ながら、コーデリアは続ける。
「あなたは口でシズカのことを好きだと言うだけではなく、実際にシズカのために行動した。私はそれを評価しているのです。例え好意のある相手であっても、誰かのために傷つくのは決して簡単なことではないですから」
「……」
「つまり私の中であなたの位置が、先頭を走るヒタキに5センチは近づいたということですよ」
「たったの5センチかよ」
一法ががくりと肩を落とした。コーデリアが珍しく彼を認めるようなことを言うものだから期待してしまったのに、これである。
「ええ。そうやってもしあなたが少しずつ距離を縮めていって、いずれヒタキを追い抜いたのなら、その時は私があなたを止めることはありませんわ」
「……」
「せいぜい己を磨くことですね。シズカにふさわしい男になるために。私はこれまで通りヒタキとシズカの仲を取り持つことに専念するだけですから」
コーデリアは言いたいことだけ言うと、「さあシズカのもとに戻りましょう」とさっさと教室を出ていこうとする。
まったく、偉そうに。あまりの不遜さに、一法は思わず笑いがこぼれた。さすが悪役令嬢とかいう奴だ。
「良いだろう、やってやる」
コーデリアの背中に向かって言い放つ。
彼女は教室と廊下の境目で足を止め、振り返った。
「お前がとんちんかんなことをやっている間に、爆速で追い抜いてやるよ」
別に自信があるわけじゃない。日多木は学園一人気のある男だ。未だ静花くらいしか友達のいない、人付き合いの下手な自分が敵うような相手じゃない。
それでもここでこの勝負に乗らないのは、恋どころか人生の敗北だと思える。
ここで諦めてしまうような自分なんて、一法自身がきっと許せない。日多木が強すぎるとかコーデリアの非協力だとかそんな理由で諦められるほど、一法の静花への気持ちは安いものではないのだ。
「望むところですわ。あなたの成長を楽しみしています。精神や能力だけでなく、身長も」
コーデリアが不敵に、だがどこか満足げに微笑む。
「……お前は本当にいちいち余計だな!」
一法はお約束のように吠えて、彼女の後を追った。




