一法、悪役令嬢に挑む3
「2組のウンディーネさん、2組のウンディーネさん。至急、職員室まで来てください。至急、職員室まで来てください。良いですね、至急、職員室まで来てください……!」
一法がコーデリアに向かって怒りの反論をしようとしたその時、校内放送が響き渡った。呼ばれた自身の名にコーデリアが首を傾げる。
「あら、何かしら。シズカを待たせているというのに……そんなに大事な用件なのかしら」
無視しては駄目でしょうか、と言うコーデリアに、
「大事な用事なんだろ、3回言ったから」
アンガーマネジメントの6秒を経ていくらか冷静になった一法が素っ気なく返す。
「お前……、今度は何をやったんだ?」
「失礼ですね、私が呼び出されるようなことをしたと?」
「今まさに呼び出されているから聞いてるんだよ」
「……どれのことでしょうか。用務員が水やりに使っていたホースから出る水を朝からずっと流しっぱなしにして、花壇に池をつくったことかしら。生徒玄関の掃除を手っ取り早く済ませようとして、流水(洪水)でロッカーを押し流したことかしら。あ、そういえばゴリラ(体育教師)をプールに流したことも……」
「全部だ全部」
一法はうんざりして手を振り遮った。一週間でどれだけの罪を重ねているんだ、この悪役令嬢は。
「なあ、頼むからもう少し大人しくしててくれ。無理言って転入させた俺の責任問題になる」
「これくらいのことで随分目くじらを立てるのですね。今言ったこと全部やってもチヅルはぴんぴんしてますわよ」
「お前らは一体どういう生活をしているんだ」
と言いながら想像できる気もした。
千絃は魔術オタクであり、その道を究めるために費やす努力は狂気とも言って良い。この世界にコーデリアを存在せしめている魔術の秘密を解き明かすためには、全力で彼女に食い下がっていることだろう。
対するコーデリアも挑んでくる千絃に向かって、暴虐の限りを尽くしているに違いない。
あれ、ということは千絃に引き合わせたことによって、コーデリアの横暴に磨きがかかっている……?
一法は恐くなってそれ以上考えることをやめた。
「というかまず人前で魔術を使うな。そもそも俺達の世界じゃ魔術は隠されているものなんだ。現代の技術が未だ到達できてない現象を引き起こすものだから、慎重に扱う必要がある」
「そんなことをチヅルも言ってましたわね」
「人間はよくわからないものを恐れるから、お前を排斥するかもしれない。あるいは心根の曲がった人間にお前の力が知られると、悪用される可能性もある」
説教モードに入った一法に、コーデリアが口を曲げる。
「私はどちらも恐くないですわ」
「そこに井本が巻き込まれたらどうするんだ」
「……!」
そこでようやくコーデリアの顔にはっとした表情が浮かんだ。
その顔を見て一法は彼女が全くの考え無しではないようだということはわかったので、良い加減解放してやることにした。
「わかったら、とっとと行け。ちゃんと謝って来いよ」
「仕方ないですわね」
コーデリアは溜め息を一つ吐いて、談話室を後にした。その後ろ姿は少しだけ、ほんの少しだけしょんぼりしているようにも見えた。
* * *
コーデリアが職員室に向かうと同時に、一法も教室に戻ることにした。思ったより長く話してしまった。静花が待ちくたびれていることだろう。結局コーデリアの協力を得ることはできなかったが、彼女が教師らの説教から戻ってくるまで静花と一緒に待とうと考えると心が少し慰められた。
一法が人通りの減った廊下を歩いていると、放課後だというのに2組の教室から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
そっと閉められた戸のガラス窓から教室内をうかがう。
一人は不安そうな顔をした静花。そして残りは三人の女子生徒であった。
(あいつらは……)
一人は昼休み中に静花に因縁を付けてきた、1組の赤井杏子だ。他の二人はコーデリア出現の時にいた、杏子を含む三人娘の白田志代と黄島香蓮である。
教室にいるのは彼女らだけで、他のクラスメイトは皆帰ったり、部活へ行ってしまったようだ。
静花は壁際に追い詰められ、涙を浮かべている。それを三人娘が威圧感たっぷりに取り囲んでいた。
(一人じゃ勝てないからって、仲間を連れてきたのか。しかもコーデリアがいない時を狙うなんて、卑怯な奴らだ)
一法は腹を立てて、乱暴に戸を開けて教室に飛び込んだ。
「おい、何をやっているんだ!」




