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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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一法、悪役令嬢に挑む2

「おい、ちょっと来てくれ」

 本日最後の授業のチャイムが鳴るやいなや、一法は席を立つとコーデリアの前に立った。

「何ですか、私これからシズカと一緒に帰るんですけど」

「いいから来いって。そんなに時間取らせねえよ」

「何なんですか、もう……」

 コーデリアは教科書を鞄にしまう手を止め、静花の方を見る。二人のやりとりを聞いていた静花は、

「うん、教室で待ってるよ」

と応じる。いそいそと鞄からゲーム機を取り出したあたり、まったく気にした様子もない。

「悪いな、ちょっとコーデリアを借りる」

 一法はそう断ると、しぶるコーデリアを引きずって教室を出た。



 コーデリアが連れてこられたのは、前にも入った談話室という名の岩水家専用ラウンジだった。

「授業お疲れ様です、一法様。本日の紅茶は……」

「いや、今日はハーブティーにしてくれ」

 一法はこの部屋の管理人である藤村氏に不機嫌そうに指示すると、テーブルを挟んでコーデリアと相対して座った。

「ハーブティー?珍しいですね」

「カフェインを摂取するより心を落ち着けたくてな」

 景気の悪い溜め息を吐く一法のことはお構いなしに、

「私は紅茶が良いですわ」

とコーデリア。

「は。承知しました」

 藤村は二人に丁寧に頭を下げると、準備のため厨房へと向かった。



「で、私だけ連れてきて一体何ですの?」

 藤村が紅茶とハーブティーを用意する5分ほどの間、一法はずっと挙動不審だった。ソファの上で「あー」とか「うー」とか唸ったり、右に左にクネクネしたり。コーデリアに何か言おうとしてためらったりと、見ていて鬱陶しいことこの上ない。テーブルの上にカップを置かれてようやく覚悟が決まったのか、

「…………一つ、聞きたいんだが」

と切り出した。

「はい」

「あいつ……井本は、その、日多木のことが好きなのか?」

「はい、そうですけど」

「それで日多木に近づくために井本を生徒会に入れた、と」

「ええ。まずは交流を持たないことには始まりませんから」

 淡々と答えるコーデリア。

 それに対し一法は彼女が何か答えるごとに汗がだらだらと落ち、ついには頭を抱えてソファを転げ回り始めた。そしてこぼれ落ちた一言が、

「うわー、まじかー…………」

という言葉だった。

「一体、何なんですか。用が終わったなら、私はもうこれでお暇しますよ」

「待て待て待て」

 一法ががばっと身を起こす。

「その、お前、ここまで話したらわからないか」

「は?何が?」

 怪訝そうな顔。本当に何もわからないといった様子に一法はしびれを切らし、

「あー、もうっ。俺だって井本のことが好きなんだよっ」

と叫んだ。

「はあ、そうですか。それではお互いに頑張りましょうね」

 そう言うと「お茶、ごちそうさまでした」とカップを置いて立ち上がり、本当に部屋を出ていこうとする。

 一法が「だから待てってば」と言って慌てて彼女を引き留める。

「お前な!普通こういう場合、もう少し具体的に俺の話を聞こうとかそういうのは無いのか!?」

 あからさまに迷惑そうな顔をしたコーデリアだったが、仕方なくソファに座り直した。そういえばこの男が今の住まいや学園の転入を世話してくれたのだということを思い出したのである。あまり興味が無かったが、

「……一応、話は聞いておきましょう」

それぐらいの義理はあるだろうと考え、話の続きを促した。

 一法は手近なところにあったクッションを両手で抱きしめ、そこに顎を埋めるようにしてぼそぼそと話し始めた。

「あいつは俺にとって、この学園で唯一の友達なんだよ……」

「わかります。私もシズカは友人でそれ以外はただの知人ですから」

「俺はどうしてもプライドが邪魔して周りに素直な態度が示せなかったり優しい言葉が言えなかったりするんだけど、井本はそれでも許して笑ってくれるんだ……」

「そうですね。シズカは優しいですから」

「俺は井本が他の誰かと付き合って、もう一緒にいられないなんてことになったらどうしたら良いかわからない。人生が灰色になっちまう……」

「ええ。私ももしシズカに出会わなかったらと想像すると、夜も眠れません。シズカのいない人生など考えられません」

「だから頼む、日多木じゃなくて俺の方を井本に推薦してくれ」

「それはお断りします」

「何でだよ!?」

 流れるようにお断りされた。クッションから顔を上げて噛みつく一法に、コーデリアは「良いですか」と言って聞かせる。

「私がそもそも生徒会を訪問したのはシズカの加入を申し出るだけでなく、彼女が好きなヒタキがどういう人物か見極めるためです。そして実際に会ってみてわかりました。顔良し、成績良し、家柄良し。女子生徒から人気があるのも頷けます」

「OLみたいなこと言ってんな……というか顔、成績、家柄って別に会わなくてもわかる情報だろ」

 一法の突っ込みを無視して彼女は続ける。

「私はこの目で見て、ヒタキはシズカの夫にふさわしいと判断しました。この男ならばシズカを幸せにしてくれるでしょう。だから申し訳ないですけど、あなたに協力することはできませんわ」

 ちっとも「申し訳ない」と思っていなさそうな顔のコーデリア。恥を忍んで頼み込んでいるのにこの態度なので、一法もますます腹が立ってくる。

「なっ……、俺だって顔も成績も家柄も良いぞ。何なら家柄なら多分勝ってるぞ」

 かつては藩の貿易を取り仕切った武家の家柄で、今は日本有数の企業グループの経営者一族という超上流階級だが、この流れでそれを言うのはちょっと情けない。

「ほう。ではカズノリ、ちょっと立ってみてください」

「うん?」

 唐突にコーデリアがソファから立ち上がり、向かいの一法にも同じように促す。

 さて、コーデリアの身長は女性にしては高い方の165センチ。対する一法は同い年の男性からしてもまあまあ低い162センチ。向かい合うとコーデリアが少し見下ろす格好になり――――、

ふっと笑った。

「その身長ではね……」

「うるせ――――!男はこれから伸びるんだよっ」

 今度こそ一法はクッションを放り投げてぶち切れた。

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