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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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18/27

悪役令嬢、生徒会に乗り込む5

「待ってましたわ、カワイさん!」

 蜜の姿が目に入るやいなや、コーデリアは声を上げた。

 一気に周囲の生徒らの視線が蜜に集中する。

「なっ……な、なななな何!?」

 人生で初めてと言っても良いくらいの視線を集めて、蜜は顔から血の気が引く。

「何って……あなたではありませんか、昨日私達に勝負を持ちかけたのは」

「勝負?」

「ええ。あなたがシズカはヒタキにふさわしくない。同じクラスである自分の方がヒタキの妻にふさわしいと……」

「そんなこといつ言った!?」

 何を言っているんだ、この女は。

 確かに自分はうっかり「静花は日多木君と恋人になんかなれないんだから諦めろ」と言ったが、勝負を持ちかけた覚えはない。ましてや自分の方が日多木君の妻にふさわしいなどと言うわけがない。

 蜜は目の前にいるのが宇宙人ではないかという疑念に駆られたが、惜しい。彼女は異世界人である。

「コーデリア、一旦場所を変えよう?ここは目立ちすぎるから空き教室にでも」

 静花がコーデリアの右腕を引っ張る。これ以上爆弾発言を重ねる前にこの場を離れさせようとするが、彼女にその意図は伝わらない。

「そんなに長くかかりませんわ。シズカはまだヒタキを巡る戦いで負けてはいない。私達がどんな勝利の鍵を手に入れたのかを伝えるだけ……」

「いいから行くわよっ。こんな人に見られている中でよくそんなデリケートな話ができるわね!?」

 蜜がコーデリアの左腕を掴む。

 二人がかりで羽交い締めにされて、コーデリアはようやく周囲からひどく注目されていることに気がついたようだった。

「ふむ……皆さん、随分と暇ですのね」

 そう言って、人差し指を用務員のホースに向けてちょいと曲げる。するとホースから植栽に注がれている水は大きく蛇行して、太陽を背にして飛沫を奔らせる。

「わぁ……虹!」

 生徒玄関前に七色の橋が架かる。生徒らの意識がそちらに逸れている内に、静花と蜜はコーデリアをがっちり捕らえて構内に駆け込んだのだった。


 

 結局三人が身を隠したのは、いつもの美術室だった。生徒玄関から走ったことでぜぇぜぇ言っている静花と蜜の息が整ったところを見計らって、コーデリアは声も高らかに発言した。

「シズカは生徒会に入りましたわ!」

「……は?」

 蜜はぽかんとした。脇から静花が「私だけじゃないよ。コーデリアもだよ」と付け加える。

「これでシズカは一歩ヒタキに近づきました。同じクラスであるあなたと並んだわけです。勝負はこれからですよ!今日はそのことを伝えるためにあなたを待っていたんです」

「……あんた達、私が昨日言ったことで生徒会に入ることを決めたの?」

「ええ。あなたの言うことはもっともでしたから。今のままではシズカはヒタキの心を手に入れられない。まずは少しでもヒタキに近づくために何らかの手段をとらなければなりません。だから生徒会に加入したのです」

 蜜は心底驚いた。

 この二人は本当に蜜が放った一言だけで、生徒会に加入したのだ。

 今まで蜜の言葉が誰かに届いたことなどほとんどない。クラスの中で声を上げても、ごく自然に聞き流されてしまう。それなのに彼女らは蜜の言葉で、蜜の行動で、方向性を決めたと言うのだ。打てば響くにもほどがある。そのことは蜜の胸をやたら熱くさせ、わけのわからない震えが走った。

 言いようのない気持ちに戸惑い、

「でも加入したばかりなんでしょ。でも私は今年どころか去年も日多木君と同じクラスだったんだから。まだまだ私の方が先を走っているわよ」

 反射的に言い返す。だがコーデリアも負けてはいない。

「おや、それは聞き捨てなりませんね。良いでしょう。今から華麗なる加速を見せて追い抜いて差し上げましょう」

「ふんっ、言ってなさい。絶対負けないんだから」

 そう言うと、蜜はくるりと二人に背を向けて美術室を出る。

 唇がむずむずする。

 何だろうこれ、と蜜は考えた。私は笑いたいのかな?わからないけど、今は絶対に変な顔をしている。

 彼女は二人におかしな顔を見られる前にさっさと立ち去ることにした。

 その背中にコーデリアが声を掛ける。

「カワイさん」

「何?」

「私はシズカに協力して、彼女がヒタキの恋人になるため戦います。人間は一人より二人の方が強いから。でもあなたはたった一人で私達に立ち向かってきた。それも一つの強さです。だから今度あなたと戦うときは、全力でもって相手しましょう」

「望むところよ」

 立ち止まって、背を向けたまま応える。認められた、などと思ったのは秘密だ。

「あの、河井さん」

 追いかけるように声を上げたのは静花だった。

「私も……決めたから。河井さんがああいう風に言わなかったら、私が生徒会に入るなんて考えもしなかったから……だから、その、気合いを入れてくれてありがとう!」

 ついに蜜は振り返った。

「そんなことにお礼言うなんて、変な奴ね」

 もう笑っちゃうのは止められなかった。

 きっと静花とは友達になれそうもないだろう。だけど、今なら少しは彼女を認められる気がした。



 ちなみに蜜は生徒玄関での一件以来、「あのコーデリア・ウンディーネに自分から絡んでいったとんでもない女」として一目置かれるようになった。それくらいのことで大げさだなと思ったものの、正直に言えば気分が良い。

 蜜は前よりもクラスで少しだけ「見える」人間になった。

 でも今となってはそんなことどうでも良い。あの二人のライバルとしてふさわしくあるためにはどうするべきか。蜜はそんなことにばかり日夜、考えを巡らせているのだった。

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