悪役令嬢、生徒会に乗り込む4
「私も、生徒会に?」
目を瞬かせるコーデリアに、優人は「うん」と頷く。
「それはまたどうして?」
「去年の秋に現生徒会を立ち上げたわけだけど、未だに生徒会長の僕と副会長、会計、書記の最低限のメンバーしかいなくてね。良い加減人員補充をしなければならないと思っていたんだ」
優人の言葉に、静花は彼が会長を務める生徒会がどうもかなり苦労しているらしいと噂されていたことを思い出した。
生徒会選挙は毎回、秋の文化祭後に行われる。優人は今2年生だから、彼は1年生にして2年生の候補者を上回る票数を獲得して生徒会長の座を獲得したわけである。これは前代未聞のことで、優人の人気の高さと能力の高さが証明されたかたちになった。
それだけに学園内に面白く思わない勢力もいて、ことあるごとに何やら妨害があったと聞く。そのため生徒会役員もなかなか集められなかったらしい。今いる生徒会のメンバーは苦労を共にした精鋭だということだ。
「3年生が3月に卒業してから少しは学園内も風通しが良くなったからね。今なら人員を増やしてもとやかく言う人間はいないだろう。だから今回の申し出はありがたいよ。ただ君は井本さんを推薦してくれたけど、井本さんは少し不安そうだ。それなら一緒に活動に参加する方が彼女も安心できるんじゃないかな」
「なるほど」
とコーデリア。
「賛成、賛成です」
すかさず静花が声を上げる。彼女は今まで役職というものをやったことがない。大人しそうな外見のため、そういう機会からは自然と遠ざけられていたのだ。未知の経験すぎて、自分がちゃんとできるイメージが全く浮かばない。それでもコーデリアがいるなら、まだ少しは安心できる。
「シズカがそう言うなら、私も加入することにしましょう」
静花の様子を見て、コーデリアは承諾した。
(確かに一緒に生徒会に入る方が、すぐ側でシズカがヒタキに近づくのを助けることができますしね)
という考えたからである。
「良かったー。ありがとう」
静花は心からほっとして、隣のコーデリアに抱きつく。コーデリアもまんざらではない様子だ。
彼女らの様子とは裏腹に、
「私は反対ですっ」
と言って接遇スペースにつかつかと歩み寄ってきたのは小蝶だった。
「駄目ですよ、会長。こんないきなり生徒会室に乗り込んでくる自分勝手な女と、それについてきただけのヘタレ三下みたいな女を生徒会に入れるなんて。後々面倒なことになるって決まってます」
「ずいぶんな言い草ね」
「まあ事実……」
むっとした顔をするコーデリアと苦笑いする静花。優人は小蝶の厳しい物言いを気にした風もなかった。
「でも体育祭が近い今、一人でも多くいた方がいいだろう?」
「それはそうですけど、他にもいるでしょう」
「でもせっかく立候補してきてくれているんだ。他の人を見つけるのも大変だし。副会長もまだ休学中だから、青井さん達もすごく忙しいだろう?」
「私はこのくらい大丈夫です」
「でも僕はこれ以上、君達に大変な思いをさせたくないんだよ。生徒会を立ち上げてからずっと苦労をかけてきているからね。少しでも皆の負担を減らしたいんだ」
ソファに座っている優人がいくぶん上目遣いにそんなことを言う。
そこでついに小蝶は折れた。
「~~~~っ。わかりました!」
赤らむ顔を優人からばっと背けて、叩き付けるように言う。
敬愛する生徒会長にそう言われたら、頷くしかないのである。この二人の加入については全く納得していないが、自分が彼女らをきちんと指導していけば良いだけだ。そう小蝶は自分を納得させた。
「あんた達、会長の足を引っ張るようなことをしたらただじゃ置かないわよっ」
小蝶がそう言うと、
「が、頑張ります……っ」
と神妙な顔をして頷く静花と、
「ご心配なく。静花はやればできる子ですわ」
悠然と笑みを浮かべるコーデリア。
小蝶は脱力した。
「どちらかというと井本さんよりあんたよ、あんた……」
そんな彼女らを優人はおかしそうに見ながら、
「じゃあ二人とも、これからよろしくね」
と言って手を差し出したのだった。
* * *
「はぁ……」
翌朝、蜜はとぼとぼと通学路を歩いていた。昨晩は感情のままに静花とコーデリアに突撃してしまったことを結局ベッドの中で何度も思い出しては自己嫌悪に陥り、なかなか寝付けなかった。そのせいで今朝は寝不足気味だ。
空は青く、木々は青々と生い茂っている。通学途中の生徒らが歩きながら昨日のテレビのことを話したり、ホースで植栽に水をやっている用務員のおじさんに挨拶をしたりしている。素晴らしい朝。それなのに蜜の心は重たかった。
生徒玄関の前まで来たとき、どうも妙な雰囲気であることに蜜は気がついた。学校に入っていく生徒らが一瞬不審そうな顔をし、その後何もなかったかのようにそそくさと自分の靴箱の方に向かう。
原因はすぐにわかった。
昇降口のど真ん中。そこにコーデリア・ウンディーネがいる。腕を組み、仁王立ちで。すぐ側に困った顔で彼女の袖を引っ張る静花もいた。
「待ってましたわ、カワイさん!」




