悪役令嬢、生徒会に乗り込む2
蜜と同じ。誰からも好かれない、いてもいなくても変わらない人間。
それなのに静花は教師が「二人一組になれ」と指示を出すと、一法という決まって組む相手がいた。自分には誰もいないのに。自分はいつだって、誰かがお情けで組んでくれるのを待っているのに。
今日の授業ではさらに「静花と組みたい」と言う女子も現れた。コーデリアという生徒はあっという間に全員の注目をかっ攫った。あんな目立つ子にまで静花は好かれているのだ。
「相変わらず井本さんの周りは面白いなー」
声が聞こえた。憧れの日多木君の声だ。そっと振り返ると彼がおかしそうにくすくす笑っていた。
(前から井本さんのこと、認識してるんだ……)
違うクラスなのに。私と同じくらい地味なのに。
そのことは蜜を常にない怒りへと駆り立てた。気がつけば隣のクラスに乗り込んでいた。コーデリアが静花を日多木君と付き合わせようとしているというのを聞いて、怒りはいよいよ燃え盛った。
日多木君は希望の光なのだ。蜜のように地味で、誰からも空気のように扱われ、味気ない学生生活を送っている人間にとって、夢を与えてくれる存在。間違っても静花のような人間がふれていい人間じゃない。身の程知らずだとわからせてやらなければならない!
で、思うところをぶちまけて冷静になった。己の狂気に恐怖した。今までこんな支離滅裂なこと、したことない。
「帰ろ……」
そうだ。帰ろう。帰って寝て、全て忘れよう。
蜜はよろよろと立ち上がり、家路につく。別に静花もコーデリアも友達じゃないし、彼女らにこのことを言いふらす相手もいなければ、そうするメリットもないだろう。それならば今後はお互い関わらず、それぞれつまらない学生生活が続くだけのことのはずだ。
そう納得した蜜はまだわかっていなかった。コーデリアという女が、このままで済ませるような人間ではなかったということを――――
* * *
一方、静花とコーデリアは嵐のように現れ好きなことを言って去って行った蜜を見送った後、顔を見合わせた。
「な、何だったんだろうね……」
静花は勢いに圧倒されてしまい、笑うしかないといった様子だ。今まで話したことはなかったが、きっと普段は静花と似たような大人しいタイプなのだろう。日多木のことがなければ、もしかすると仲良くなれたかもしれないと残念に思う。
だがコーデリアは違った反応を見せた。
「……ふむ。彼女の言うことにも一理ありますわね」
などと言って腕を組む。
「え?」
「シズカ。あらためて確認しますが、私達の最終目標はシズカとヒタキ何某との婚姻です」「こっ、こここ婚姻っ」
とんでもないフレーズが飛び出してきて、静花はむせそうになる。
「ええ。しかしそこ至るまでの道はあまりに遠い。そして現時点で私達より前を走るライバルは山ほどいます。先程のカワイさんとやらもライバルの一人です。
今日一日シズカと過ごしてわかりましたが、あなたとヒタキとの接点は体育の授業のみ。それも遠目に彼の姿を視認しただけです。これではクラウチングスタートで身を起こしたばかりの状態と言っても過言ではありません。
私達はもっともっと先へ進み、ライバル達を追い越さなければならない……そのことをカワイさんは思い出させてくれました」
コーデリアがしみじみと語る。どうも蜜は彼女にちょっとした感銘を与えたようだ。
「私達がクラウチングスタートでまだ身をかがめている状態だとすれば、ヒタキと同じクラスのカワイさんはクラウチングスタートで一歩踏み出したようなもの。わずかな差ですが、彼女の方がリードしています」
やたらクラウチングスタートという言葉が出てきて、静花は「今日の体育の授業で聞いて気に入ったんだろうな」と察した。
「千里の道も一歩からと言います。私達はまず彼女に勝つことを目標としましょう」
「カワイさんに勝つって……」
静花が首を傾げる。静花の目から見ても、失礼ながら蜜はそれほど日多木と親しいようには見えなかった。そんな彼女に「勝つ」とはどういうことか。
「ヒタキと同じクラスのカワイさんはシズカより彼と同じ空間にいる時間は長いでしょう。ならばこちらは量より質で攻めるのです。短くとも濃厚な時間をヒタキと過ごせば良いのです」
「ど、どういうこと!?」
「この後のケーキの予定は変更です。ついてきなさい、シズカ」
「え、どこ行くの?」
コーデリアがカバンを放り出して教室を出ていく。静花は慌ててその背中を追った。
「決まっています」
コーデリアがくるりと振り返って言う。
「生徒会室です!」




